はぁ久々だなぁ。
「なぁイエロー、所でそのクリア君ってのはどんな奴なんだ?」
もう日が落ちた頃、コガネシティのとあるファミレス。
一人の中年の男性と、一見まだ幼い少年っぽいが、だが紛れも無く件の少年と同年代の少女の二人が箸を突いていた。
イエローと釣り人のヒデノリ、一年前の四天王事件の際に活躍したトレーナーとその叔父だ。
彼等は今、その四天王事件の際、垣間見えた巨大鳥ポケモンの調査にこのジョウト地方に来ていたが、その中の一人――イエローにはまたもう一つの目的があった。
「クリアは、えーと……何と言うか滅茶苦茶な人です」
ヒデノリの問いかけに必死に考えて出したイエローの結論はそれは凄く曖昧なものだった。
そう、イエローの目的は一つは巨大鳥ポケモン――ルギア――の調査、そしてもう一つは一年前に別れたきりの友人、クリアとの再会だった。
一年前、ワタルとの決戦後気絶していたイエローをブルーに預け姿を消したクリア、そのクリアの足取りが一年経った今、ようやく掴めたのである。
レッドのジムリーダー認定試験の日、偶然ラジオから流れ出たクリアの声、そしてジョウトについて立ち寄った彼女達に告げたオーキド博士の証言。
コガネを去った後、エンジュの方角へ向かったと聞いたイエロー達は、ならば自分達もとエンジュへと歩を進めていたのである。
「滅茶苦茶って、もうちょっと具体的に言うとどんな感じなんだよ?」
そんな件の少年の事がヒデノリも気になるのだろう。
自分が今成行きとはいえ捜索してる相手で、姪っ子のイエローが気にしてる相手だ、気になるのも仕方無い。
更に言えば今回の巨大鳥ポケモンの調査、実力あるトレーナーの助けも必要と考えていた彼はイエローと一緒に、あわよくばクリアにも手伝って貰えないかとも思っていたのだ。
「具体的……具体的には、野生ポケモンに好かれやすい人かなぁ、ゲットしなくてもある程度は言う事聞いて貰えたり」
「ほうほう、それはそれはスゲェ特技だな」
「はい、後は……無茶ばかりしてる人です!」
そこでイエローの声色が変わる。
先程までの丁寧な口調の中に、僅かながら怒りの色が見え隠れする。
「無茶って、でもそれは仕方無い事なんじゃないのか? レッド君だってそうだし、そのクリア君ってのも男の子なんだろ?」
「レッドさんはまだ安心出来る位強いし、何より無事を確認出来るからいいんですけど……」
四天王事件以来、レッドはどこかに出かけたとしても、定期的に頼りは寄越す様になっていた。
それもそうだ、今まで散々迷惑と心配をかけていたのだから、そういう習慣がついてもおかしくない。
そしてイエローは一呼吸置いて、
「でもクリアは一年ですよ一年! この一年ボクがどれだけ心配したかクリアは分かってないんですよ!」
そんな思いのたけをイエローは叔父のヒデノリにぶちまける、相手をさせられるヒデノリとしては良い迷惑である。
だがそんな事等お構いなしにイエローは続ける、彼女の頭の麦藁帽が僅かに揺れて。
「クリアってばカンナ戦の時はお腹に穴空けちゃうし、タマムシで別れた時は一回死んじゃってるし、ワタルと戦ってる時だってマグマに落ちちゃうし!」
「なぁイエロー一つ質問していいか?……そのクリア君って本当に人間なのか?」
ヒデノリの疑問も当然である。
何気に話すイエローだが、その内容はかなりぶっ飛んだもので、今の様な無茶ばかりする人間それがクリアだ、その様子を一番近くで見続けてきた彼の事を彼女がひどく心配するのもまた頷ける。
それからもクリアの事を怒りながら、だけど少しだけ楽しそうに話すイエローの様子にヒデノリは苦笑を交えつつ、
「わ、分かったからイエロー、なら早くそのクリア君を見つけないとな! また無茶しないうちに……うん?」
憤るイエローをなだめていると、彼のポケギアに着信が入る。
そして彼はポケギアのボタンを押し、通話相手へと確認を取った。
『おぉ繋がったわい! オーキドじゃが、そちらは釣り人のヒデノリ君のポケギアで良かったかの?』
「オ、オーキド博士!?……って事はイエローですか? イエローなら今近くにいますけど」
『すまんすまんヒデノリ君、ちとイエローに替わってもらえないかの?』
言われた通り、ヒデノリはポケギアをイエローへと渡す。
ジョウトの来て以降、ヨシノで一度オーキド博士の第二研究所を訪れて依頼、もし何かオーキド博士がイエローに用がある時は、ポケギアを持たないイエローの代わりに、まずはヒデノリのポケギアへと通信が入る様になっていた。
そしてイエローにポケギアを渡したとしても、会話はしっかりとヒデノリに耳に届く、だから彼はその会話に聞き耳を立てつつ、オーダーしたスープを飲もうとしたが、
『実はさっきクリアと話したんじゃがな』
「っ、もしかしてクリアに会ったんですかオーキド博士!?」
「イエローイエロー! 少し静かに!」
イエローの声はファミレス内に響き渡り、周囲の客や店員が彼女へと注目する。
そして思わず声を荒らげてしまい、顔を赤らめながら少しだけ肩身を狭くしたイエローにヒデノリが注意して、どうぞ、とオーキド博士にイエローは話の続きを要求する。
『い、いや直接会っては無いんじゃが、今先まであやつはアサギにいたようじゃが……もう移動してしまったらしい』
「うぅ……クリアってばまた行方をくらましたんですね」
『まぁ用事があるとかで暫くジョウトにいると言ってたからな……それとイエローよ、クリアから伝言があるのじゃが……』
「伝言?……クリアからボクにですか?」
「まぁ伝言というより、君等にこう言う様に頼まれているのじゃが……」
意外な声を出すイエローだが、確かにそれは意外な事だった。
一年も行方を晦ませた少年なのだ、イエローがクリアに伝えたい事はあっても、クリアからイエローへ伝えたい事があったとは考えられなかったのだ。
イエローはずっとトキワシティにいた、そしてクリアもイエローがトキワの出身だという事は知っている。
会おうと思えばいつでも会えたし、話そうと思えばいつでも話せた――ただ彼にその意思が無かった、イエローはずっとそう思って、少しだけ寂しい思いをしていたりするのだが、
「な、なんでしょうかオーキド博士、クリアからボクにって!」
それは予想外のサプライズである、さらにイエローからオーキド博士にクリアと合流出来る様に彼に頼んでみる様にとも言っていたから、きっとその返しの返事だろう。
――そう予想していたイエローだったが、アサギでのクリアの言葉を聞いているオーキド博士は凄く言いづらそうにしながら、しかし言う。
『それがのう……"帰れ"だそうじゃ』
「……え?」
一瞬、イエローはオーキド博士が何を言っているのか分からなかった。
この一年ずっと心配して来た相手、一年前の四天王事件、レッドが行方不明になった直後のクリアの失踪だったのだ、心配するなという方が無理な相談だ。
レッドやグリーン、ブルーだって少なからずクリアの事は心配していたし、彼に最も近いイエローの気苦労は彼らの比じゃない。
だけどラジオから流れる彼の声を聞いて、楽しそうに女の子と話すクリアの声に若干の憤りもあったが、それでも心の底では安心して、そして嬉しかったのだ。
またクリアと会える事が、そんな彼と再会する事が楽しみで、楽しみに今回の調査に来ていたイエローだったのだが、しかしクリアの一言は冷徹なものだった、そんな彼女を突き放す様な返答をクリアはオーキド博士にしていたのである。
『まぁ正確には"帰してください"と頼まれていたんじゃが……』
「……」
『……イエロー?』
「っぐす……ぇぐ……はい……」
「イエロー!?」
ポケギア越しのオーキド博士には分からなかった事だが、傍で見ているヒデノリはすぐに異変に気づいた。
麦藁帽を深めに被って必死に悟られない様にしているが、その下からは啜り無くイエローの声が聞こえ、突然の事にヒデノリもただうろたえる事しか出来ない。
「お、おいイエロー何泣いてんだよ! ほら、いいからハンカチ! とりあえず泣き止め、な?」
「……ぐす……はい」
ポケギア片手に、ヒデノリから渡されたハンカチで涙で濡れた顔を拭うイエロー。
そんな彼女に、ヒデノリは心配そうな表情を浮かべて、
「大丈夫かイエロー? どうしちまったんだよ一体、そんなにクリア君ってのに帰れって言われたのが堪えたのか?」
「……はい、ボク一年前の四天王事件の時は一時別れた時以外はずっとクリアと一緒にいたけど……だけど本当は嫌われてるんじゃないかって……」
「なっ! そ、そんな訳無いじゃねぇか!」
「で、でも! ずっとボクがいるトキワシティに来てくれなかったし、連絡だって一度も来た事無いし……それに今日は"帰れ"って多分ボクの事が嫌いだからっ……!」
「……そんな事!」
『そんな事は無いぞイエロー!』
何かを言いかけたヒデノリよりも先に、ポケギアからオーキド博士の声が聞こえてきた。
どうやらずっと通話中で彼女の言葉もオーキド博士には聞こえていたらしく、イエローの言葉をオーキド博士はまずは真っ向から否定する。
そんなオーキド博士の態度に、新たな涙の線をまた一つ頬につけたイエローは目を丸くしてオーキド博士の言葉へと耳を傾ける。
『奴は、クリアはきっと君の身を案じて、だから君をカントーへと帰したいんじゃろう』
「……どういう事ですか、オーキド博士?」
『うむ、実は今ジョウトでは各所で不穏な動きが続いておる』
それからオーキド博士は話した。
ワカバ、ヒワダ、エンジュ、そして怒りの湖と、立て続けに各所にてロケット団残党と思われる黒服の集団の活動が目撃されている事。
そしてウバメの森でゴールドが相対した人物"仮面の男"、もしかしたら何処かのジムの"ジムリーダー"かもしれないその男を、伝説の三匹やクリアが追っているという事。
『しかもその"仮面の男"と怒りの湖で再度相対したとゴールドという新たな図鑑所有者から連絡があったきり、それからプッツリと連絡が切れてしまったとウツギ君からも報告があったのじゃ!』
「……じゃあ、まさかクリアは……」
『うむ、恐らく君を巻き込みたくない一心でそんな心無い事を……』
「また危ない事を一人でしようとしてるんですね!?」
『うむ……うむ?』
いつの間にか声色が変わっていたイエローにようやく気づいたオーキド博士だが、時は既に遅し。
「おじさん! 今すぐエンジュへ向かいましょう! もしかしたらクリアと鉢合わせ出来るかも!」
「お、おいイエロー、流石にもうこんな時間だし明日の朝からでも遅くは無いぞ!?」
「で、でも……」
興奮した様に言うイエローだが、彼女の叔父が言う様にもう日が沈んで大分経つ。
今からエンジュに向かうとなると、夜闇に紛れた野生ポケモンやトレーナーの襲撃等のリスクがついてくる事になるのだ。
その事を踏まえて、出発は明日の朝、というのが本来の理想系である。
イエローもその事は重々承知――しているのだが、彼女にとって大切な人間の一人が今にも無茶をしそうな勢いがあるのだ――一年前のレッドの時の様に、要するに黙っていられないのである。
『ふむ、確かに今日はもう遅いから止めた方がいいじゃろうな』
「ほらな、オーキド博士もこう言ってるし!」
ポケギアからのオーキド博士の同調の声にヒデノリは焦りながらイエローに言う。
立場は彼女の叔父だが、バトルの腕前で言うなら彼はイエローに遥かに劣る、もしここでイエローが我儘を言い出したら彼にそれを止める力等無い。
尤もイエローがそんな我儘を言った事等数える程度しか無く、それも彼女自身のマイペースに翻弄される形で危険も無いものだったが。
「……分かりました、ごめんなさい無理言って……」
そう言ったイエローだが、酷く落ち込んでいるのがヒデノリの眼にも見て取れた。
一年前は一緒に戦った戦友にして、ずっと彼女が心配して来た少年――その少年に心配されてる、とはいえ逆にいえばそれは彼女の事をクリアが信頼していないという裏返しとも取れる。
そして今イエローに出来る事は限られ、あまつさえ今からクリアを追う事すら出来ない、その事実に彼女が肩を落としてしまうのも仕方が無いのかもしれない。
そんな彼女にどう声を掛けたらいいかと、再びヒデノリが思考の海へとダイブしかけるが、
『クリアの助けになりたいか? イエロー?』
「……オーキド博士」
『ワシはクリアから君の事を帰す様に言われたが、それでワシはイエスとは言っておらん、それにどうするかは結局は君が決める事じゃ』
「……ボクは……クリアの力になりたい! クリアが困った時、傍でクリアの事を助けてあげたいんです!」
まるで試されるかの様なオーキド博士の問いに、イエローは自信を持って答えた。
というより元から彼女はそのつもりだったのだ、オーキド博士から話を聞いた先程から、
(ボクは貴方の力になりたいから、貴方が巨大な悪に立ち向かうというのならその時は、皆を守る"貴方を守る"……!)
一年前のスオウ島でクリアが言った台詞をそのまま流用した様な誓い。
その時はイエローが傷ついていく皆を守る為に立ち上がりワタルと対決し、そしてクリアもまたあの時はそんなイエローを守る為にワタルへと立ち向かっていった。
だが今度はその逆だ。
今はクリアが皆を守る為に"巨大な悪"に立ち向かおうとしている――だから今度は、そんなクリアを守る為にイエローが立ち上がるのだ。
『分かった、それだけの決意があるのなら問題無いじゃろう……イエローよ、ならばクリス君と合流するのじゃ!』
「クリスさん、と言うと捕獲の専門家って博士が言ってた……?」
『そうじゃ、クリス君は今伝説の三匹のうちの一匹、スイクンを狙ってる様じゃし、何よりその捕獲の技術は必ず君の役にも立つじゃろう!』
もしも、もしもだ。
クリスが伝説のポケモンを捕獲し、その伝説のポケモン達と一緒にイエローがクリアの下に助力に向かえば、それはクリアにとっても大きな戦力となるだろう。
それは同時にイエローの目的とも一致する、クリアを助け、守るというイエローの目的と。
そしてイエローが向かえば多少はクリスの捕獲の手伝いも出来るはず――つまり双方にとってもメリットのある話という訳である。
「……分かりました、明日には出発してそのクリスさんという人を探してみます!」
『うむ、頼んだぞイエロー!』
「はい!」
力強い返事の後、ポケギアの通話終了の操作を行うイエロー。
そしてヒデノリの方を見たイエローに、先程までの面影はとうに無かった。
今まであったのはずっとクリアの事を心配して、そして彼の言葉に不安がってた姿だった――が今では、まるで一年前の四天王事件の頃の表情へと戻っていた。
明確な目的が、それも心の底から思える目的を持った彼女の変化、それは再度彼女の心を奮い立たせる。
「っへ! 内容なら聞いてたぜイエロー! そうと決まれば俺もそれ相応の準備って奴をしとかないとな!」
「っ! ありがとうおじさん!」
「良いって事よ、可愛い姪っ子の頼みだ……ただしそのクリアってガキには一発鉄拳制裁が必要みたいだがな」
「……おじさん何か言った?」
最後の方はイエローには聞こえない様にわざと言ったヒデノリである。
彼も彼とて胸中は穏やかでは無いのだ、形はどうあれ姪っ子を泣かせた男――それがクリア、彼の脳内データには既にそう
というか元からクリアに対してヒデノリには良い印象が無いのだ。
散々イエローに心配かけた挙句、どこぞの少女と楽しくラジオ出演し、そして今回の言伝、更にその経歴は謎だらけという怪しさマックスの少年、良い印象が無いのも当然と言えば当然か。
自分のあずかり知らぬ所でまた一つ恨みの種が根付いてしまったが、勿論クリアにそれを知る術は無い。
「なんや向こうの方うるさいなぁ」
「そうねぇ……あ、アカネちゃん料理来たわよ」
「お、ホンマかクルミちゃん!いやーウチもうお腹と背中がくっ付きそうな勢いやわー! ほんなら、いっただきまーす!」
そしてイエロー達とは正反対、店の端と端の丁度分かれた配置で座っていた少女達にイエローが気づく事は無いし、また逆も然りだ。
「……チョウジに戻って来たはいいものの」
コガネでイエローがファミレスでそんな決意を果たしていた頃、当のクリア本人は路地裏に身を隠していた。
身を隠し、その場所からとある商店へと視線を向ける。
「ここ、だな」
そこにいたのはカントークチバジムのジムリーダーマチスだった。
軍人らしい設定の迷彩服に身を包んだ彼は、明らかに何か調べ物をしてると言いたげに店内を物色している。
そしてその様子をクリアは隠れて見ているのだが、彼がマチスを見つけたのは全くの偶然だった。
(……カントージムリーダーがこんな所に一体何の用があって……いや考えてても仕方が無いか)
そう判断し、彼はその身を晒して堂々とした足取りで商店へと向かう。
元々チョウジジムに直で帰るつもりだったクリアだが、その際にエースと共に怪しげな飛行物体を見つけたのが最初だった。
それは複数のレアコイルが作った、言うならば電気のポッド、それで宙に足場を作り飛行しているマチスを発見し、ここまで尾行していたというのが事の全てである。
「っよう兄さん、何か探しもんかい?」
そして何故カントージムリーダーの彼がこんな場所にいるのか、ここで何をするつもりなのか。
マチスが元ロケット団という事を知らないクリアがそう気さくに話しかけ、
「……あ?」
そしてマチスのライチュウが商店の床を崩し地下内部の秘密施設を見つけるのは、ほぼ同タイミングだった。
うわあぁ(ry
……う(ry
――やっと、やっとまともにイエローが書けた!本当はもっと短くまとめるつもりだったけど話の大部分をイエローが占める結果になった!しかも短時間で書けた!イエロー書けるとなった瞬間これだよ!