ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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今回は凄く書きにくかった…。


二十話『vsイノムー “声”』

 

 

「……ここか、焼けた塔ってのは」

 

 階にして一階半程度、それより上層部は黒く荒れ果てた――そんな塔の前に、クリアは一人呟く。

 彼がエンジュに到着して間も無く、一定感覚で頭に直接呼びかけられる様な感覚に痺れを切らして彼はこの場所を訪れていた。

 とある伝説の語り継がれる場所、昔電子機器から取得した情報とこのエンジュにて人づてに聞いた情報とを照らし合わせ、その内容をクリアは無意識に頭の中で反復する。

 

 焼けた塔の伝説、それはこの街エンジュシティに伝わる伝説。

 昔この塔が大火事に見舞われた時、その際に犠牲となってしまった三匹のポケモン達がいた――。

 そんな時、虹色に輝くポケモンが空から舞い降り、そしてその三匹のポケモン達は後に"エンテイ"、"ライコウ"、そして"スイクン"と呼ばれる伝説のポケモンとなって蘇った――伝説ではそう伝えられている。

 

(虹色に輝くポケモンってのは十中八九ホウオウで、俺を助けたのもその虹色に輝くポケモン(ホウオウ)、そして"やけたとう"……となると)

 

 目の前に重々しく建った焼けた塔。

 古びて風化していくだけの建物、万人の眼にはそれは唯の廃材の山、それも何も知らない子供が遊び場にでもしそうな危険な建造物の塊。

 だがクリアの眼にはそうは見えなかった。

 焼け落ちた今でもその風格は変わらない、むしろ現存するスズの塔と何ら変わらない――不思議と彼にはそう思えてくる。

 

(って事はこの声はまさか伝説の三匹か?……ホウオウとの関係性から何らかの"糸"が繋がっているとでも?)

 

 その見えない糸を手繰り寄せてみても、到底暗闇の中の真実には到達する事が出来ない。

 ならば逆に、寄せてダメなら自らその足を踏み入れるしか無いのだ。

 自分の命を救ったポケモンへの手がかり、そのチャンスが今まさにクリアの目の前に転がっているのかもしれないのだ、躊躇する理由等どこにも存在しない。

 

「まぁあれこれ思ってても仕方無い、まずは入って確かめ……」

 

 呟き、クリアがその焼け古びた塔へ足を踏み入れるべく、石造りの階段を上ろうとした――時だった。

 その瞬間、恐ろしい程の轟音、耳を疑うかの如き地鳴りと地割れが彼の身を襲ったのは。

 

「ッ! ん、だ!? こ……!」

 

 言葉が上手く出てこない。

 足場が不安定に振動し、直後に足元の地面が割れる。

 

「ッ!?」

 

 気づいた時にはもう遅かった。

 重力に引っ張られ、深い闇の底へとクリアはその身を落としていて、

 

「ッ! レヴィ!」

 

 底に激突すれば唯では済まない、だがそれで終わるクリアでも無い。

 クリアは腰のボールからレヴィのボールを取り出し即座にレヴィを外に出す。

 出した瞬間レヴィも状況、そしてクリアの考えを理解したらしくすぐさま"バリアー"を全方位へ球体状に張った。

 

「な、ナイスレヴィ……ってか今のは流石に俺も焦ったぞ」

 

 親指を立てて賞賛するクリアにレヴィは一本の触手を挙げて答えた。

 今の状況、一瞬でも判断を誤ればその一瞬が命取りともなりえる状況で、クリアは瞬間的に空を飛べるエースでは無く"バリアー"を張れるレヴィを出していた。

 では何故クリアはエースでは無くレヴィを選んだのか、その答えは今のクリアの状況にある。

 強固な"バリアー"に守られながらクリアとレヴィは落ちていく、そしてその"バリアー"に降りかかるは無数の瓦礫や岩、その落下物等も計算に入れて、クリアはレヴィを選択していたのだ。

 

 そしてすぐに彼等は底へとたどり着いた。

 転がり落ちるボールの様に、"バリアー"の中で奈落の底へと落ちていくクリアはレヴィの無数の触手をクッションにし、バリアの中で衝撃に耐える。

 たったの約数秒間、転がり落ちたクリアとレヴィは次第にその動きを鈍化していき、そして遂には静止する。

 

「……よ、ようやく止まったか……?」

 

 粉塵が舞う薄暗闇の中、周囲に一定以上の広さを確認したクリアは"バリアー"を解いて再度地に足をつける。

 

「うぅ気分悪い、俺回る系のアトラクションですら駄目だってのに……」

 

 そろそろ目が慣れてきた頃、顔色を悪くしながらクリアは周囲を見渡す。

 天上、外から入る僅かな光源の下、辺りにあるのは先程クリアと一緒に落ちて来た瓦礫ばかりである。

 どうやらそこは焼けた塔の地下にあたる部分らしい、壁や床の端々に僅かながら木材が使われているのが分かる。

 その事を確認したクリアは少しだけ口元に手を当てて、

 

「……"やけたとう"の地下、ってなるとゲームじゃ……うん、ついでに探してみようか」

 

 そう呟き、今しがた地盤沈下に被災したばかりの彼は意気揚々と、暗闇の中を進んでいく。

 ――伝説の三匹を目指して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、エンジュシティ"スズのとう"では――、

 

「シルバー!? どうしてお前がここに!」

「ッチ、またお前か」

 

 二人の少年達が偶然の再会を果たし相対していた。

 ワカバタウン、ウツギ研究所から始まったこの二人の少年、ゴールドとシルバーの運命は本当に、それはもう雁字搦めに絡まってしまってるらしい。

 "マダツボミのとう"、リングマの山と行く先々で出会い、そして対立して来た二人の少年達だったが、この"スズのとう"でも二人の少年は三度にらみ合っていた。

 

「その子をどうするつもりだ!」

「別に何もしない、偶然見かけたから助けただけだ、文句があるならお前が持っとけ」

「うわっ!? お前いきなりっ!?」

 

 そう言ってシルバーがゴールドに預けたのは一人の女の子。

 ミカンという名の、近頃ゴールドがお世話になった育てや夫婦に頼まれ彼が探していた女の子で、数ヶ月前クリアのP、エースとジム戦を繰り広げた女の子だったりする。

 災害に巻き込まれ、意識を失っている彼女をゴールドに預け、一人単独行動を開始するシルバー。

 シルバーの行動に僅かながらの不信感を抱きながらも、そこは今にも崩れ倒れそうな塔の中だ、彼は急いで脱出を試みるが、

 

「わあぁぁっ!? 土砂がこんな所まで!」

 

 塔の扉を突き破りながら、大自然の驚異が少年達へと迫る。

 

「何をしている! その子だけでも外へ出せ!」

 

 土砂が被り、閉ざされていく出口を前にシルバーが叫んだ。

 直後、先程からミカンの傍にずっといた彼女のデンリュウに彼女を託すゴールド。

 今にも完全に閉じきってしまいそうな出口目掛けてデンリュウは走り、そして間一髪の所で、

 

「やった!」

 

 歓喜の声を出すゴールド。

 デンリュウが出口を潜った直後、土石が外へと繋がる唯一の穴へと降り注ぎ、完全に中と外の世界を遮断した。

 これで彼女は助かったが、今度は少年達の番だ。

 先の地盤沈下の影響で、今も尚地の中に沈み続ける塔の中、少年達は今度は自分自身が助かる為に行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、見つけれ無かったなぁ」

 

 奇跡的に無事だった一階へと上る階段を見つけ、クリアは肩を落として呟いた。

 この階段を見つけるついでに、もしかしたらいるかもしれないスイクン、ライコウ、エンテイの三匹を探していたクリアだったが、目的の三匹は見つけられず、見つける前に階段を見つけてしまっていた。

 ――いや元々助かる為の地上への出口が最優先事項だったはずなのだが、いつの間にか目的の優先順位が入れ替わってしまっていたらしい。

 それ程までにクリアには、伝説の三匹に会いたい理由があった。

 そしてそれは、先日の"声"の件とは全く関係の無い話で。

 

「……ん?」

 

 見つけれ無かったものは仕方が無い。

 そう気持ちを切り替えて彼が階段を上りきった丁度その時だった、やけに鮮明な"声"が彼の頭の中に響いたのである。

 

「……すぐ傍、岩……なんのこっちゃ」

 

 頭の中で響く声に頭を悩ませるクリア。

 これがもし唯の彼の勘違いだったなら、多分二重人格の疑いすら持たれるだろう。

 だが今回のこの現象は、実際に彼へと発せられていたメッセージだった。

 

 "声"に導かれるままに、クリアは一個の岩の前へと足を運ぶ。

 

 それは何の変哲も無い唯の岩だった。

 特別な素材で作られてる物でも無ければ、特別な場所に置かれてる物でも無い。

 正真正銘ただの岩、しかしクリアの頭の中では、しきりにその岩に触れる様、彼に語りかけてきていた。

 

「……そ、触ればいいのな? この岩に?」

 

 そう返答したクリアに再び頭の中では肯定の返事が。

 その返事を聞いたクリアは、薄っすらと微笑を浮かべて、そして飛び込む様に岩の中へと入り込む。

 

 妙な空間だった。

 というかそれ以外にその空間を言い表す言葉が無い、前後上下左右、目に映る全ての景色が同じ、自身が何処にいるのかすら確かめる術が無い。

 そんな場所に飛び込んだクリアは、地面、では無い何かに着地してすぐに気づいた。

 ――自分を取り囲む三つの薄い鏡の様な物体、薄い氷壁。

 

 そしてクリアがその存在に気づいた瞬間、氷壁は突如として音を立て割れ、そして三体のポケモン達がクリアの前に現れる。

 

 

「……なんだ、そんな所にいたのか」

 

 

 割れた氷壁の中から現れた三匹のポケモン達は見定める様にクリアを見つめ、クリアもまた三匹の姿をマジマジと見つめる。

 スイクン、ライコウ、エンテイ、この場所に着てからずっと探していた三匹の伝説のポケモンを目の前にして、クリアは驚く程落ち着いていた。

 今クリアが目にしているのは伝説のポケモンだ、普通ならその力強さ、気高さ、美しさに目位奪われても良い様な状況なのだが、今のクリアの中にそんな感情は一切存在しなかった。

 

『まずは礼を言うぞ、お陰でここから出る事が出来た』

 

 そう語りかけてきた一匹の伝説のポケモン、スイクンにクリアは笑顔で答える。

 何故だか知らないが――いや心当たりはクリアにもある、目の前の会ったばかりの三匹がどうしても他人に思えない様な気分になる。

 そんな彼の心境を知ってかしらずか、神妙な面持ちでエンテイが言う。

 

『ところでお主、一体何者だ? 何故だか我々はお主と自由に意思疎通が行え、かつ……』

『今尚、妙な感覚に陥っている』

 

 エンテイの言葉をライコウが続ける形で三匹のポケモン達はクリアへと問う。

 実際にはその口から言葉を発してる訳では無く、三匹の心の声がクリアに語りかけてる形なのだが、当のクリアはそんな術等当然持ち合わせていないので自分の口を開いて、

 

「それは多分、俺もお前達と同じ、ホウオウに蘇生させられたからなんだと思うぜ?」

 

 いつもの調子で言ったクリアに、三匹三様、それぞれ驚きの表情を浮かべる。

 それからクリアは駆け足で自身の体験を三匹へと伝えた。

 

「うん、そう……それで一度死んだんだけど、いつの間にかホウオウに助けて貰ってて、ホウオウ自身はさっさとどっかへ飛んでっちまってんだよねぇ、だから会って礼の一つでも言いたい訳よ」

 

 似た境遇同士、話が合うのか一人の人間と三匹の伝説のポケモン達は短い間だったが確かに語り合っていた。

 それは傍から見ればきっと異様な光景、ポケモントレーナーが捕獲する素振りを一切見せず、嬉々として自分語りし、その話に伝説のポケモン達が耳を傾けるというもの。

 

「へぇ、で、お前等はホウオウに恩義を感じて仕えてて、それで……」

 

 その一瞬、クリアの周囲の空気が変わる。

 人の良い笑みを崩し、鋭い眼光で空を睨む。

 

「そのホウオウを操っていた"仮面の男"にこの場所に封印されたと、ね……うん、いいよ、俺もホウオウには少なからず恩は感じているし、その男の事出来る限り調べてみるよ」

 

 三匹から伝えられた情報をクリアは頭の中で整理しながら言った。

 "仮面の男"、その素性を一切の謎に包まれた男。

 そして伝説のポケモンホウオウを自らの手足とし悪事に加担させる程の実力を持ち、彼の目の前にいる三匹のポケモンをこんな場所に封印した人物。

 そんな男が今尚活動を続けていると、目の前の三匹はクリアへと話した。

 巨悪を退く、その為には力が必要だ、優秀なトレーナーの力が必要だと、そう付け加えて。

 

 そして、三匹のポケモンの話を聞いたクリアは、

 

「そうか…じゃあとりあえず、まずはこんな場所からとっととおさらばしようぜ!」

 

 立ち上がり言ったクリアの言葉に、三匹のポケモン達は頷いて答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「総員戦闘態勢!」

 

 カラカラ、スリープ、レディアン、キュウコン、無数のポケモン達がゴールドを襲う。

 

「っく……オイ、シルバーこのままじゃ狙い撃ちだぜ! くそっ、ざっと三十人はいやがるな、こいつらこれだけの戦力集めて一体何するつもりなんだ?」

「もうすでに事は起こっている……エンジュ壊滅はこいつら、R(ロケット)団残党の仕業なんだよ」

「なんだって!?」

 

 何とか敵ポケモンの攻撃を避けたゴールドだったが、直後シルバーの言葉に驚きの声を上げる。

 それもそうだろう、今目の前で突然襲ってきた集団が、エンジュシティをここまで壊滅的な物にした張本人達だとあっさりと告げられたのだから。

 そしてそんなシルバーの言葉を、当の本人達は肯定し、

 

「ほう、そこまで知ってるか……しかもその赤い髪、ワカバタウンで我々の邪魔をしたというのはお前だな? 油断ならんガキだ、今ここで始末してやる!」

 

 そして無数のポケモン達を使ってシルバーに襲い掛かる。

 シルバーもそこそこ腕に自身を持つトレーナーなのだが、如何せん多勢に無勢、物量的に圧倒的にシルバーが不利だ。

 そんな中、シルバーに攻撃を仕掛けたポケモン達に、逆に攻撃の火の粉が降りかかる。

 

「ワカバタウンと言えば俺とシルバーの戦いに割って入って来た奴がいたんじゃないかと思っていたが、あれはお前等の事だったのか!……今回の事といい許させねぇ! 助太刀するぜシルバー!」

「余計な世話だ、大人しくしていろ!」

「っな、何ぃ!? 人がせっかく……」

「えぇい! 余裕でいられるのも今のうちだぞガキ共! 二人まとめて片付けてやる!」

 

 シルバーへと襲い掛かった無数のポケモン達を振り払うゴールド、それで一時手を組むかと思われた二人だったが、やはり相性は最悪らしい。

 コンビネーションという言葉が全く見られない二人に対し、ロケット団、それも服装から見て幹部と思われる男がそう言って指をパチンと鳴らした。

 直後、先程の地盤沈下を連想させる様な地鳴りが辺りに鳴り響きそして、

 

「こいつはっ!?」

「出たな、こいつが地盤沈下の正体が!」

 

 一匹の巨大なイノムーが二人の少年の前に現れる。

 

「こ、こいつが地盤沈下を引き起こした正体だってのか!?」

「そうだ! "こおり"と"じめん"の二つのタイプを持つポケモンイノムー……しかもこれ程広範囲に地盤を崩す力、予想はしていたがそれ以上だ!」

 

 イノムーの追撃から逃げる二人、そして後を追うイノムー。

 その巨体を生かした攻撃と、巨体だが素早い動き、そしてシルバーの言葉通りエンジュの街を壊滅させたこのイノムーだ、一撃でも貰えば一溜まりも無いだろう。

 

 しかしながら、ゴールドもシルバーも走りながらイノムーの攻略法をそれぞれ組み立てていた。

 シルバーも腕の立つトレーナーだが、それを言うならゴールドも同じである。

 バトルこそ得意、とまではいかないが、それを補う発想力と機転の良さがゴールドにはある。

 

 高笑いするロケット団の男を尻目に、イノムー攻略も時間の問題かと二人が思ったその時だった。

 

「……テイ、"だいもんじ"!」

 

 遠くからそんな"声"が耳に届いた、そう二人の少年が思った瞬間にはもう、

 

「っ、イノムー!?」

 

 件のイノムーは戦闘不能に追い込まれていた。

 そして一人の少年と三匹のポケモンがその場へと姿を現す。

 

 

 

「っ、何が起こっ……何、だと!?」

 

 彼がああも豪語していたイノムーがあっさりと撃破され、苛立ちを隠しきれない様子のロケット団幹部カーツは攻撃が飛んできた方向へと視線を向け絶句した。

 そこにいたのは一人の少年と、三匹のポケモン。

 だがそれはただの少年と、ただのポケモンでは無かったのだ。

 

「なぁスイクン、お前が言ってた"近くに感じる悪"ってのは、あのロケット団残党共で良かったんだよな?」

 

 三匹のポケモン達はいずれも伝説のポケモンと呼ばれる、だが今は封印されているはずのポケモン達だった。

 その事をボス"仮面の男"から聞いていた彼は、その姿を見て絶句したのだが、同時に一緒にいる人間の方にもまた、彼は驚きを隠せないでいたのだ。

 

 クリア、そう名乗る少年は彼のボス"仮面の男"の傍に最近居付いた少年だったのだ。

 その少年が、今伝説のポケモン達を引き連れてカーツの前に姿を現している。

 しかも、だ――よくよく見るとその少年の手の中には二枚の羽が握られているのだ。

 

「……にしても、なぁんでこんな二枚の羽で、あぁもあっさり封印が解けたりするのかねぇ」

 

 そんな事を呟く少年の事等、今のカーツには見えていない。

 彼の視線はしっかりと彼が持つ二枚の羽"にじいろのはね"と"ぎんいろのはね"に釘付けになっている。

 カントーでの旅の際偶然クリアが拾った二枚の羽、それはクリア自身すらもその存在を忘れかけていた代物で、リュックの中にずっと入れっぱなしになっていたものなのだが、そんな事は当然カーツの知る所では無い。

 

「……撤退だ」

 

 言葉を失うカーツに、もう一人の幹部シャムが言う。

 

「あの"羽"の事……何としても新首領様に報告しなければならないはずだ」

 

 悔しそうな顔でクリアを睨むカーツだが、しかしシャムの言い分には一理ある。

 彼等のボスの目的遂行の為、そのクリアが持つ二枚の羽は絶対必要なモノであって、また同時に、その二枚の羽を別の誰かが所持しているという状況は彼等のボスにとって非常に芳しくない。

 仮面の男が確実に目的を遂行する為に、クリアが持つ二枚の羽は絶対に奪取、もしくは破棄しなければならない代物なのだ。

 

「だから俺は、あのガキはさっさと始末しておけばいいと……!」

「今更言っても仕方無いだろう、退くぞ」

 

 少し前、ジムに居付いた少年を排除しようとして仮面の男自身に止められた時の事を思い出して呟くカーツだったが、今思い出した所で最早結果は変わらない。

 過去に戻る事なんて、彼等には到底出来る事では無いのだから。

 

 

 

「あ、オイ待てコラお前等!」

「まぁ落ち着けよゴールド、深呼吸どう?」

「……なんでアンタがこんな所にいて、そんな知らないポケモン達といるかなんて今はどうでもいいッスけど、なんでアンタはあいつら追わねぇんだよ! 攻撃したって事はあいつ等の敵って事なんだろ!?」

 

 スイクンに跨りのんびりとした口調で言うクリアに、突っかかる様に言うゴールドだが、肝心のクリアからは覇気が全く感じられない。

 完全に戦闘意欲ゼロ状態である、もう今日は戦わないぞ、的な意気込みすら今にも聞こえてきそうな程である。

 

「敵だよ、間違いなく……だけどああいう奴等は多分、戦闘よりも逃走の方が長けてると思うからな、馬鹿正直に追っても意味がねーと思うんだよ」

「だからって、アンタはちょっと悠長に構えすぎじゃねーのか!?」

「分かってる分かってる、だから落ち着けっての、別に追ってないなんて言ってねーだろ?」

「……一匹消えてるな」

 

 その時、それまで口を噤んでいたシルバーが呟いた。

 同時にゴールドは周囲を見渡し、確かにシルバーの言葉通り三匹のうち一匹、黄色いポケモンがいなくなってる事を確認する。

 

「今は偵察に行って貰ってるよ……で、ゴールドは知ってるけどそっちのお前は初だよな、俺はクリア、お前さんの名は?」

「……シルバーだ、アンタの事は少しだけ知ってる、ヒワダの井戸で見たからな」

「"シルバー"……"銀"ね……って井戸って事はまさか」

「あぁ、お前とロケット団の戦闘を俺は近くで見ていたからな」

 

 そう言うシルバーが、本当は件の井戸でのロケット団を駆逐する予定だったという事を、彼はあえて言わないでいた。言う必要も無いからだ。

 

「井戸? 一体何の話をしてんだよシルバー?」

「お前には関係無い話だ」

「なんだとこいつ!」

「すげぇなお前等、あっという間にバトルの流れになってるぞ?」

 

 クリアが言う通り、ゴールドとシルバーは本当にその場でバトルを始めてしまった。

 クリアの登場で強敵だと思っていたイノムーをあっさり倒し、そしてゴールドもシルバーも手持ちはほとんど体力は減っていない状態だったのだ。

 そして何やら二人はポケモン交換をやった後、楽しそうにクリアを無視して、というより今は相手の事しか見えていないらしい。

 

「いっけーウーたろう! お前が信じる俺を信じろ!」

「どこの兄貴だよ、ったく、こっちの図鑑所有者は……」

 

 傍から見ても本当に楽しそうにバトルをする二人の少年、ジョウト地方図鑑所有者の二人に、クリアはため息一つに呟いた。

 今この時、二人の少年に声を掛けるのは無粋というものだろう、最初こそクリアには二人の少年達は犬猿の仲の様に見えたが、こうして見ていると唯の負けず嫌いのライバル同士にしか見えない。

 そんな二人の勝負を止める気になど、クリアには更々なれないのだ。

 

 

 

「……む、なんだエンテイもう行くのか、あぁ……まぁ頑張れよ、応援してる」

 

 適当にクリアは言って、次の瞬間にはエンテイは走り去っていく。

 そして数分経たないうちにライコウから思念話がクリアへと飛んで来る、どうやらロケット団には逃げられたらしく、足も掴めなかったらしい。

 そしてライコウもまた、エンテイ同様トレーナー探しの旅へと出るとクリアへと伝わる。

 

「……そうだな、お前もそろそろ行くのかスイクン?」

 

 次々と旅立っていく伝説の三匹達。

 そして最後の一匹にそう尋ねるクリアに、尋ねられたスイクンもまた肯定の返事を返した。

 

「そ、なら最後に一個だけ頼みごと……」

 

 頼みごと、と言われどんな言葉が飛んで来るとスイクンは予想したのだろうか。

 これまで彼等を捕獲しようとしなかったクリアだ、そんな彼がわざわざ頼みごとと、エンテイとライコウがいなくなった後に言った言葉だ。

 更にスイクンも他二匹同様、優秀なトレーナー探しの旅を始めるつもりであり、クリアもそれを知っている。

 そしてスイクンも多少は、クリアの事を認めていた、自分と自由に意思疎通が出来、更に彼が持つバッジの数もその実力の高さを表している。

 

「……ちょっと背中に乗っけて走ってくれよ! 昔からの夢なんだよね!」

 

 そんな期待の眼差しを向けたスイクンに掛けられた言葉は、それはそれは子供染みた無邪気な望みだったのである。

 

 




なんで書きにくいのか考えてみた結果、今回全く女の子が出ていない事に気づいた。
ミカンちゃん気失ってるし、シャムさんぶっちゃけ女の(子)って年じゃ(ry

そろそろ結晶の子が出る頃かなぁ。


追記:イノムー訂正。きっと疲れてたんだと思います…。

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