ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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十一話『vsカイリュー 決戦』

 

 

 鍾乳洞の天上がワタルによって破壊され、戦いの舞台は外へと移行した。

 その戦いの舞台に身を置くのは四天王のワタル、ミュウツーをパートナーとするカツラ、そしてイエローとクリア。

 ワタルはプテラに乗り、カツラとイエローはミュウツーの念動バリアの様な球体の中に浮かび、クリアはエースの背に乗った形で睨み合う。

 

「カツラさん!? ってそのポケモンは!」

「下がっていろクリア、まずは私が戦う!」

 

 カツラの連れているミュウツーに驚きを隠せない様子のクリアだったが、いきなりクリアの乗るエースの高度がガクンと下がった。

 何事かと構えたクリアだったが、それはミュウツーが念力でクリア達を動かしたのが原因だったらしい、ミュウツーの傍までクリアとエースは移動させられ、声の届く範囲まで来てからカツラが言う。

 

「戦うって、なら全員で一緒にやった方が良くないですかカツラさん!?」

「あぁそうだ私達全員で戦う……が、まず第一撃で万が一全員がやられないという保障も無い、だからまずは私が戦うのを見ているんだ!」

「……分かりました」

 

 カツラの言い分にも一理ある、そう理解してクリアはエースを一旦ボールへと納めた。

 納めて、ミュウツーの念動バリアの中へとクリアも入っていき、カツラを真ん中に右にイエロー、左にクリアというポジショニングでミュウツーを囲む。

 

「ふん、話は済んだか? なら行くぞ!ハクリュー!」

 

 そのやり取りの間、ワタルは一切攻撃して来なかった。

 それが正々堂々と戦おうという姿勢なのか、それとも単にカツラ達を見下しているだけなのか分からないが。

 そしてワタルは次に繰り出すはハクリュー、それも二体だ。

 恐らくその中の一体はクリアのヤドンさんにクチバで倒された個体なのだろう、うち一体のハクリューはクリアに対して威嚇してる様にも見える。

 

「風を、雷雲を呼べ! "こうそくいどう"!」

 

 ワタルが指示を出した瞬間、二体のハクリューは同時に動く。

 直後荒れ狂う暴風と(いかずち)がカツラ達を襲った。

 念動バリアの中で直接的な被害は無いが、辺りに渦巻く嵐と雷の攻撃の強さは見ただけでも分かる、その威力に念動バリア全体がグラつく。

 

 元々ハクリューには気象を操作する能力(ちから)があった。

 が、ワタルのハクリューの場合その能力を最大限まで引き出し、またその風や雷と一体となる事でその威力を増大させているのだ。

 

「……ッチ、これじゃあ埒が明かない! カツラさん!」

「分かっている、ミュウツー"バリア"を解くぞ、次は我々の攻撃の番だ!」

 

 いつまでも念動バリアの中にいても悪戯に時間と体力を削るだけだ。

 だからこそ、カツラとミュウツーはあえて念動バリア(それ)を解く、瞬間凄まじい程の突風に身をさらされ痛めつけられるが、

 

「"サイコウェーブ"!」

 

 ミュウツーを中心として竜巻が発生した。

 エスパータイプのミュウツーがその念力で発生させた竜巻、それでハクリュー達の気象攻撃に対抗しようというのだ。

 

「ふん、良い技だ、それで中央部まで引きずり込んで一気に叩こうというのだろうが……」

 

 ワタルの言った通り、ハクリュー達は為す術も無くミュウツーへと引き寄せられていく、が、

 

「構わん! 此方にとってはむしろ攻撃のチャンスだ!」

 

 それすら逆に攻撃のチャンスに変えて、ワタルのハクリュー二体はお互いにまるでウロボロスの様な輪になって竜巻の中でも風と雷の攻撃を仕掛けてくる。

 もしもこれが、ミュウツー一体だけだったならば問題無いのだろうが、そこにいるのはミュウツーと、数人の人間達。

 ミュウツーは耐えれてもトレーナーには別問題だ、仕方なし一旦距離を取るミュウツー。

 

「カツラさん! 俺達は一旦離れましょう、そうすればミュウツーの負担も減ります!」

「……ふふ、それが出来れば苦労はしないのだがね」

「え?」

 

 次の瞬間、ワタルのプテラがミュウツーを襲う。

 その鋭い羽と、ミュウツーが念動力で作り出した"スプーン"の交差する音、金属音の様な音が響いた。

 

 そんな中、クリアとイエローはカツラから聞かされる。

 カツラとミュウツーの関係、互いの身体に埋め込まれた互いの細胞、そしてそれ故の制限時間(タイムリミット)

 三分、それがカツラとミュウツーに課せられたハンデだった。

 

「クリア、イエロー君!」

 

 だがそんなハンデを背負っているとはいえ、今共に戦っているのは"あの"ミュウツーなのだ。

 桁外れの実力を持った伝説級のポケモン。

 

「奴が勝利を確信している今こそがチャンスだ、狙うは奴の……ボールの開閉スイッチ!……だからイエロー君はプテラの相手を、クリアは二匹のハクリューの相手を頼む」

 

 そう言ってカツラはワタルにプテラの相手を、そしてクリアに二匹のハクリューの相手を頼むと言って、ミュウツーへと向き直る。

 

「ピカ!」

「ヤドンさん! ねぎま!」

 

 イエローの指示でピカがプテラへと向かい、プテラもその迎撃に追われて一瞬ミュウツーから気を逸らす。

 そしてクリアの出したヤドンさんとねぎまの二体はハクリューへ、当然二体のハクリューも一瞬気を逸らして。

 

「今だ!」

 

 カツラの号令と共にミュウツーの"スプーン"の先が"フォーク"の様になり、ワタルへと向かった。

 そしてピンポイントでワタルの腰のボールへと伸びて、パキンッ!という音が木霊し、破壊された三つのボールがワタルの腰から地面へと落ちる。

 そのボールの壊れようからして、しばらくは使い物にならないだろう。

 

 それを見て勝利を確信して、カツラとミュウツーは体勢を崩す。

 

「カツラさん!」

「ミュウツー!」

 

 クリアとイエローがカツラとミュウツーへと駆け寄る。

 

「カツラさん……は気を失ってるみたいだな」

「ミュウツーもさっきの戦いでかなり体力を消耗したみたいだよ」

 

 カツラ達の状態を見てクリアとイエローは互いに報告し合い、そしてワタルの方を見た。

 そしてイエローの眼にあったのは確信、ミュウツーとの戦いで疲弊したワタルのポケモン達、と壊されこの戦いには参加出来ないであろう残りのワタルのメンバー、その事実に対する勝利の確信。

 逆にクリアには一つの疑問があった。

 

(やけに……あっさり過ぎる、奴は四天王のワタルなんだぞ? それがこうも簡単にやられるものなのか?)

 

 肩透かしというか、決着があまりにも簡単に行き過ぎて現実味が無いのだ。

 だからこそクリアは倒れたワタルに警戒の色を示して、そしてそのクリアの予想は当たっていた。

 

「フフ……フフフ、フハハハハハハ!」

 

 高笑いと共に起き上がるワタル。

 同時に顔を強張らせるイエローに、緩めかけてた気を一気に締めなおすクリア。

 

「ボールを壊して安心したか、確かに残りHPが少ないプテラとハクリューだけでは俺の敗北は確実だろう……だが」

 

 言ってパチンとワタルが指を鳴らす。

 それを合図に地に落ちた三つのボールにその刃を突き立てるプテラ、音を立ててボールは完全に粉砕されるが、その中にポケモンなんて無く、転がるのは唯のカラのハイパーボールが三つのみ。

 

「中身が空……そ、そんな!」

「ダミーか」

 

 そう、クリアの呟く通りワタルが腰に下げていたボールは偽物だった。

 今の様な攻撃に対する対抗策、四天王ワタルからしてみれば当たり前の対策だった。

 

「フハハハ! 今更驚いてももう遅いぞ! お前達がボールに閉じ込めようとした竜達は……ここだ!」

 

 瞬間、地響きと地震がクリアとイエローを襲う。

 そして地面の下から二体のポケモンが現れる。

 カイリューとギャラドス、イエロー達を鍾乳洞から外へと押し上げた張本人達で、一目でその力量の高さが伺える程のポケモン達。

 

 そして、

 

白竜(ハクリュー)海竜(カイリュー)凶竜(ギャラドス)翼竜(プテラ)、そして火竜(リザードン)!……これが四天王ワタルの(ドラゴン)軍団だ! さぁどう戦うイエロー、クリア!?」

 

 もう一匹、空から一匹のリザードンが降りてくる。

 六匹の竜達、四天王ワタルのチームが全員集合した姿、その圧巻とも言える風景に流石のイエローとクリアも息を飲んだ。

 そんな中、一人、一体だけミュウツーだけが動き、

 

「いいのか? ご主人様は? お前が一人で戦ったらカツラの体は耐えられないそうだろ!?」

 

 生み出した"スプーン"でワタルを攻撃しようとするが、ワタルの言葉にミュウツーは動きを止める。

 少し離れた所で、カツラの苦しそうなうめき声が聞こえ、そしてミュウツーは一瞬躊躇して、自らマスターボールの中へと戻った。

 そしてミュウツーの戻ったボールはまるで意思でも持ってるかの様に、イエローの元へ向かい。

 

「ミュウツー……カツラさんを、これ以上傷つける訳にはいかないと言うんだね?」

 

 イエローの問いかけにボールの中のミュウツーは一度だけ頷く。

 それでイエローの決意は固まったらしい、挑む様な視線を上げ、ワタルを見据える。

 

「ま、それもそうか……カツラさんもミュウツーも十分やってくれたし、俺達だって別に弱い訳じゃないんだ、イエロー」

「うん、クリア!」

 

 クリアとイエローは肩を並べてワタルを見る。

 

「さっきは少し圧倒されたがまぁ、ドラゴンと言っても所詮はポケモンなんだ! ポケモンバトルで勝てない道理は存在しない!」

 

 ワタルを指差しクリアは宣言する。

 それはワタルに言った言葉でもあり、イエローに言った言葉でもあり、そしてクリア自身に言い聞かせた言葉でもあった。

 ワタルの竜軍団の力は一目で見てとれる、が、それでも数の上ではまだ此方が有利、クリアはそう考えていたのだ。

 二体一、イエロー&クリアvsワタルの竜軍団。

 

「ふ、クリアよ、オレもお前にクチバの時の借りを返さなければと思っていた所だ、むしろ逃げる事なんて許さんぞ!」

 

 そう言ったワタルは二体のハクリューとプテラを自身の寄せて、その手を翳した。

 その行動にハッとするイエローだがもう遅い、見る見るうちにプテラとハクリューの三体は体力を回復していき、ほぼ全快となってクリア達を見る。

 

「その能力(ちから)……やっぱりワタルはトキワの……!」

「っか! それがどうしたよイエロー、それを言うならこっちにはお前がいるじゃねぇか!」

 

 ワタルの能力をその目でしっかりと見て予想を確信に変えるイエロー。

 同じトキワの出身で同じ能力を持って、だけど思想は全くの正反対の二人。

 いや思想だけで無く、トレーナーとしての腕前もイエローとワタルにはまだまだ差はある。

 だけどそんな絶望的な状況でも、クリアは笑ってみせた。

 

「ほらイエロー、ワタルが何やら移動してやがるぜ! 俺達も追おう!」

「……うん、そうだねクリア」

 

 走るクリアとイエロー、続くねぎまとピカ。ちなみにヤドンさんは相変わらずのマイペースなのでクリアが一旦ボールに戻した。

 

「……ありがとうクリア」

 

 ワタルと自身の力量差を見せ付けられて、少しだけ不安になったイエローだったが、そんな不安はクリアの言葉で吹き飛んだ。

 何故だかクリアの言った言葉はイエローの中の奥底まで響き渡って、そしてイエローを安心させるのだ。

 それが何故だかは分からないがイエローにも分からないが、クリアと一緒だと例え相手が四天王の将でも何故だか勝てる気がしてくる。

 不思議な安心感をクリアはイエローに与えてくれている。

 

 そんな彼の背中にポツリとイエローは呟く。勿論彼には聞こえない声量で。

 

 

 

「追い詰めたぜワタル!」

「追い詰めた? 誘い出されておいて何を言っている!」

 

 島中央の火口付近まで来て、ようやくワタルはその進みを止める。

 

「ギャラドスとカイリューが地下に潜り地殻を刺激してくれてたお陰で、今にもこの火山は噴火せんという状態だ、このワタルとの最終決戦の場には相応しい場所だろう?」

 

 煮え滾るマグマの上に、カイリューに乗って飛ぶワタルは地を走ったクリアとイエローに向けて言う。

 言って、一気にワタルは自身の全戦力を解放する。

 

「我が(ドラゴン)軍団の前にひれ伏すがいい!カイリュー! ギャラドス! ハクリュー! プテラ! リザードン!」

 

 六匹の竜がクリアとイエローを囲む。

 クリアとイエローは互いに背を預け、正面の三匹に向いて、そんな状況でなお、クリアは笑う。

 

「……ドラゴン軍団? 悪いがワタル、火竜を使うのはお前だけじゃねーんだぞ!?」

 

 笑ってクリアも自身のポケモン達を出した。

 

「エース!」

 

 その内の一体、黒い火竜(エース)に叫ぶクリア、それだけでクリアの意思は伝わったらしくエースはワタルのリザードン目掛け突撃していき、

 

「ふん、黒い火竜(リザードン)か! 面白い!」

 

 その勝負にワタルも応じた。

 二体の火竜は互いに一メートルの距離まで詰め寄って、一気に上空へと浮き上がる。

 

「エース!」

「リザードン!」

 

 その様子を見て、クリアとワタルは同時に叫んだ。

 

「「"かえんほうしゃ"!」」

 

 二体の火竜の"かえんほうしゃ"がぶつかり合う。

 炎がうねり、着弾し、押しつ押されの攻防、どうやら技の威力は互角らしい。

 "かえんほうしゃ"を打ち終え、二体の火竜は次はスピードに乗って風を切る。

 橙と黒の火竜が夜空に舞った。

 

「っふ、やはり面白いなクリア! オレのリザードンとここまで渡り合えずリザードンは初めてだ!」

「っは! ならよほど狭い世界にいたらしいな!」

「ほざけ! カイリュー! "かいりき"!」

 

 次はワタルが先手を取る。

 ワタルのカイリューがその巨体に任せ腕を振り上げて、

 

「レヴィ! "バリアー"だ!」

 

 クリアとイエロー達に振り下ろそうとした瞬間、見えない壁がカイリューとクリア達の間に立ちはだかった。

 そしてその"バリアー"を生み出すのはクリアのドククラゲ、レヴィ。

 カイリューは何度も何度も叩き壊そうと"バリアー"を殴るが、その壁は全く壊れる気配が無い。

 

「カイリュー"はかいこうせん"!」

 

 見かねたワタルがカイリューに指示を出して、

 

「レヴィ! ならこっちは"いかり"だ!」

 

 クリアもレヴィに指示を出す。

 直後、カイリューの"はかいこうせん"がレヴィに直撃する。

 

「な、何してるのクリア!?」

 

 その行動にイエローが驚くのも無理は無い。

 クリアはワタルのカイリューの"はかいこうせん"、言わば敵の最大攻撃とも言える攻撃に対して回避行動も防御行動も指示しなかったのだ。

 大抵のポケモンなら、今の一撃で沈むのは必死だろう――大抵のポケモンならば。

 

「……っな!?」

「驚く程の事じゃ無い」

 

 驚くワタルにクリアが何でも無い事の様に言う。

 だがワタルが驚くのも無理は無い、"はかいこうせん"の直撃を受け、発生した煙が晴れたそこには、まるで食らって等いないかの様なレヴィの姿があったのだ。

 直後にレヴィの"いかり"がカイリューに反撃する。

 それも攻撃を受けた直後の、"いかり"のボルテージが上がった状態のがだ、その触手の一本がカイリューに直撃し、カイリューを少しだけ吹き飛ばす。

 尤もカイリューもそれで大したダメージ、という訳でも無いのだが。

 

「悪いがうちのレヴィのタフさは半端じゃ無いぜ? ちょっとやそっとの攻撃じゃあ倒れないぞ」

「……なるほど、その生傷の多さも伊達じゃないという訳だな」

 

 クリアとワタルの言葉が交差して、海竜(カイリュー)海魔(レヴィ)の二体もまた二体の火竜達の様に互いの戦いを始める。

 時折トレーナーの指示もあるが、ほとんどは独断での戦闘だ。

 そしてそれを可能にしているのが、二匹の純粋な実力と、ポケモンがトレーナーを、またトレーナーもポケモンを信頼しているという証、それが無ければ手元から離してポケモンの判断のみで戦わせるなんて所業が簡単に出来るはずが無いのだ。

 

「……フフ、流石に強いなクリアよ」

「ったり前だ、あの二体はうちの"エース達"だからな」

 

 かつてヤドンさんをナンバースリーと言ったクリアがこと戦闘に置いて尤も信頼する二体。

 攻撃のエースと防御のレヴィ、それが二体の特徴だった。

 どこまでも攻撃力に特化したエースは風を切り、ワタルのリザードンに猛攻を仕掛け、どこまでも防御に特化したレヴィはカイリューの攻撃に余裕の表情を見せ、そして反撃によるダメージを確実に着実にワタルのカイリューへと与える。

 

「フハハハハハハ!! 面白い! ならばあの二体はあいつらに任せよう!」

 

 高笑いをして、ワタルは次に二体のハクリューを前へと出した。

 それに応じる形で、クリアもさっきの二体、ヤドンさんとねぎまを前へ出す。

 

 上空では二体の黒と橙の火竜が飛び、地上では海竜と海魔が泥沼の持久戦を繰り広げる。

 そしてまた、次はヤドンさんとハクリューの因縁の戦いが三度起ころうとしていた。

 

 




ワタルの手持ちにリザードンを勝手に追加、すいませんただリザードン対決をしたかっただけです。
予定では次かその次位でイエロー編は終了予定、そしてジョウト編に入ります。

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