新武将の野望in恋姫†無双 ROTA NOVA   作:しゃちょうmk-ll

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注・この話には作者のガバガバ設定&考察が登場します

どうぞ生暖かい目でご覧ください


第五話 利益率は春慶塗が一番いい

 夕暮れの襄陽の市場をその日の夕飯の材料を買った呂範が疲れた顔で歩いている。

 タケマサと出会い、ここ襄陽で薬師を始めてそれなりに時間がたった。住民たちからも薬師のお嬢ちゃんと言われ親しまれている。今日の買い出しでも魚屋のおっちゃんからおまけをしてもらった。

 

「う~、忙しいっす~。師匠本体は最近帰ってこないし分身さんまで借り出していったい何やってるんっすか・・・」

 

 華佗たちの訪問からしばらくの後、荊州全体に広がっていた疫病にも終息の気配が見られ始めた。診療所に来る患者は徐々に減り始め薬の売れ行きも徐々に落ち着きだしたが、依然と比べてというだけで安価とは言えない値段だがそこそこの売り上げを保っている。

 

 しかし呂範にとっては相変わらず激務の日々だ。タケマサの分身が1体減り2体減り、残りの一体も診療を行う昼間だけ顔を出し夜間の製薬作業は呂範1人で行うことなった上、算術修行がてらに会計作業も任されるようになり呂範の仕事は減るどころか逆に増え続けている。

 

「確かに儲かってるには儲かってるっすけどなんか想像してたのと違うっす。なんかもっとこぉ優雅な生活ができると思ってたっす・・・」

 

 金は入るが使う時間がない、仕事に悩殺され給料だけがたまっていく・・・などという仕事に疲れたOLのような雰囲気を醸し出している。

 とぼとぼと歩き診療所に帰ってきた呂範、分身すらおらずより物悲しく思いってしまい気分が落ち込む。

 そのまま買ってきた袋を床に置き、板間に寝転がり薄暗くなった天井をぼんやりと見つめる

 

「はぁ~家に帰っても一人、なんだか妙に寂しっす・・・あたしはこのまま働きずめで孤独に年老いていくんすかねぇ~」

 

「何を年寄り臭いこと言ってる、それに下手に結婚などしても良いことなどないぞ」

 

 にゅっ、とどこからともやってきたタケマサが呂範の顔を見下ろした。

 

「のわぁっ!分身さんこっち来てたんすか!」

 

「いや己れは本体だ。直接顔を合わすには久しぶりだな呂範」

 

「え、本体っすか!?珍しいっすね、あと師匠結婚してたんすか!?」

 

 タケマサという男は見る人によっては若者にも壮年にも見える不思議な外見をしている。

 いや外見のみならず呂範にとっては過去も能力も思考も謎な男であるが底が知れないという事だけははっきりしている。

 

「昔な。ただ結婚初夜に会話したきり3年ぐらい口きかなかったら飯に毒を盛られた。以来結婚に夢を見るのはやめた。」

 

「いやそれは当たり前っすよ・・・なにやってんすか、酷すぎっす」

 

 宿屋の看板娘だろうがお見合い結婚だろうが囚われの姫だろうが放置していては夫婦関係はしっかり冷え込む。そこらへんは妙にリアル

 

「それで、珍しく戻って来たっすけどどうしたんですか?またなんか新しい製薬法の指南っすか?」

 

「ああ、準備ができたのでな。そろそろ襄陽を立とうと思っている、お前はどうする子衡?」

 

「え、どうするって・・・」

 

「医術に関して現時点で教えられることは教えた。疫病も治まりはじめてもうお前ひとりでも診療所を回せるだろう。襄陽で薬師として生活することもできるがどうする?」

 

 呂範の知る限りタケマサという男は医術のみならず腕も立ち弁舌にたけ怪しげな術を使い、おまけに妙に行動力もある。そんな男がおとなしく1か所にとどまっているわけもない。

 詳しくは知らないが分身まで出して忙しく動き回っていたのもその準備とやらだったのだろう。ただでさえ想像を超えてくる男だ、どうせまた碌でもないことに違いない。

 呂範の脳裏にはタケマサと出会い過ごした日々が浮かび上がる・・・おかしい、医術やら算術やらの修行風景しか思い出せない。

 

 

 このまま分かれて襄陽で薬師を続けるというのもありだ・・・

 

 

 だがしかし

 

「あたしは師匠についっていくっす!」

 

「ほう、別にわざわざついてこなくてもここで薬師として十分に食っていけると思うが?」

 

「だってついていった方が面白そうっす!」

 

 なによりこの新武将という男がなすことに興味があった。

 

 

 

 この不穏な時代、新武将という天下の傑物とも悪逆非道の逆賊とも知れぬ男が歩む道は波乱に満ち、刺激的な旅路となるに違いない。

その活劇を特等席から見物し、時に壇上に上がりともに舞うことは天下に二つとない最高の娯楽といえる。

 

「物好きめ」

 

「師匠にだけは言われたくないっす」

 

 お互いにしばらく見つめあう。視線が交差し無言の時間が続く・・・が、同時にふき出した。

 

「はははは、ならば今後ともよろしく頼むぞ、陽花」

 

「っ!?・・・・・・はいっす!」

 

「お前に己れの真名を預けておこう、タケマサという。これからは好きに呼ぶといい」

 

「はいっす!好きに呼ばしていただくっす師匠!」

 

「さぁまた明日から診察と修行三昧の日々だ、今日はしっかり寝ておけ」

 

「はいっす! ってええぇまた修行っすかぁ!?」

 

「学ぶべきことはまだまだある。己れについてくると決めたのだ、安心しろ容赦はせん」

 

「勘弁してほしいっすぅぅぅぅ~~~!!」

 

 少女の叫びが襄陽の夜に消えていった

 

 

 呂範がタケマサについていくと決めた日から旅立ちの準備は始まった、というほど大層なものはなくすでに呂範の意思確認のみといった段階だった。

 もし呂範が襄陽に残るといえば商人に診療所の管理や材料の仕入れなど後見を任せ、タケマサに同行する場合は取引は終了という手はずになっていたのだ。

 

 商人としても大口の取引先であり声望もあるタケマサを引き留めようとは思ったが、十分すぎるほどに利益は出ているし無理に引き留めてまた漢女でもけしかけられたらたまらん、ということで素直に旅立ちに協力することとなった。

 時を同じくして華佗一行も襄陽を離れるということでしばらく旅の道ずれとなる。いろんな意味で道連れである、別に華佗に他意はない

 

 出発の日、呂範と華佗たちは襄陽の広場に集まりタケマサを待っていた。

 

「華佗さんたちはこれからどこに向かわれるんすか?」

 

「特に決めてはいないよ、病魔に苦しむ人々がいる限り俺はどこへだって行くさ。けど河北の方で病気が流行り出したって噂を聞いたからまずそこに向かってみるよ」

 

「ダ~リンが行くならアタシは例え火の中水の中(ryダーリンの寝室のベッドの中!どこへだってついていくわぁん」

 

「惚れ込んだオノコの為なら地獄に落ちることもいとわん、それが漢女というものじゃ」

 

 一度ロックオンすれば地獄の底まで追ってくるということであろうか、視覚的にはすでに地獄の1丁目あたりだが

 

「それであのステキなオノコ、将殿はどこにいるのじゃ?」

 

「港に用事があるって言って先に出てからそれっきりっす。いったい何やってんすかね?」

 

 タケマサを待っている間に襄陽での思い出話やこれからの行先などを話あって時間をつぶしていた。しかしだんだん会話の方向性がおかしくなっていく

 

「そ・れ・で!子衡ちゃぁ~ん? 彼とは何か素敵なイベントはなかったの?」

 

「え、どういう意味っすか?」

 

「将殿と何かToLoveる的なことはなかったかと聞いておるのじゃ!あのようなイイオノコと一つ屋根の下に暮らしておったのじゃろう」ズイ

 

「着替え中にお部屋に入っちゃたりとかぁ~、脱衣所で鉢合わせとかぁ~、朝起こしに行ったら肌蹴てあらわになった胸元にトキめいたりとかぁ~ん」ズズイ

 

「そういう漢女心をくすぐるようなス・テ・キなエピソードはないのかと聞いておるんじゃ!」ズズズズイ

 

「いや、あの・・・顔近いっす・・・。というかなんであたしがする側?普通逆じゃないっすか?」

 

 微かな疑問を抱きつつ襄陽での生活を思い出す、あの真名を預かった夜のことが一瞬頭に浮かび目じりが下がるが次々とあふれてくる修行の日々に苦虫を噛み潰したような形相になってゆく。

 

「・・・・・・ひたすら修行と仕事漬けの日々っす。夜中の作業が終わったら泥のように寝て、朝早くに叩き起こされる生活をしてました・・・」

 

そういって肩を落とした。呂範の背負う影の深さに漢女達もそれ以上の追及をやめる

 

「(・・・この様子だとホントに何もなかったみたいねぇ~ん)」

 

「(甘いぞ貂蝉、彼女の目尻が少し下がったのを見逃したな。じゃが今はこれ以上の詮索は無理じゃな)」

 

「モウイヤッス、シショウカンベンシテクダサイ、ネムイッスツライッスシンドイッス、ヒッモウイッカイハジメカラハイヤッス・・・」

 

 碌な技能を持っていない一般的な武将はひたすら長期修行で叩き上げるしかないのだ。

 そしてそのうち島津か大友、武田あたりが滅びて家臣が充実し、結局一度も戦に出ることなくひたすら治安口上、破壊、軍資金調達あたりをやり続けることになる。

 

 呂範が闇サイドから浮かび上がってきた頃、ようやく広場にタケマサが姿を現した。

 

「遅れてすまない、ようやく準備ができたのでな」

 

「あっ師匠遅かったっすね」

 

「そうよ!こんな可憐でか弱い漢女を待たせるなんて!あたしは深く傷ついたわぁ~ん。しっかり慰めてくれないと許してあげなんだから////」

 

「くぅ~貂蝉貴様抜け目のない奴め、すかさずお強請りとは・・・」

 

「随分遅かったじゃないか、用事とやらは済んだのかい?」

 

「ああ、済んだというか今からが本番というか。見せたいものがあるから港まで一緒に来てくれないか」

 

 遅刻の詫びもそこそこに一行を港へと案内するタケマサ。漢女二人は意図的に視界に入れず無視した

 襄陽の港は北門を出てすぐのところにある。広場からまっすぐ北に伸びる道を歩いていくと北門付近にいく人々が多いことに気が付く

 

「師匠、北門に行く人が多いみたいっすけど珍しい品を乗せた交易船でも来てるんですか?」

 

「ふふふふ、それは見てのお楽しみだ・・・」

 

 タケマサはほくそ笑むだけで答えようとはしない。まるで落とし穴にはめるために必死にニヤケ顔を抑えながら誘導する悪ガキのようにも見える。

 こうなったら埒が明かないということを知っている呂範はそれ以上聞くことはなく黙って港まで歩いていく。

 

 

 

 北門を通り過ぎ港に入ったところでタケマサの見せたいものとやらは一目でわかった。

 それは埠頭に停泊している一隻の船だ。

 

 

 

 中国の伝統的な船といえばジャンク船であり、これは竜骨を持たず平らな船底をしていることから喫水の低い河や近海での航行に適している。

 また帆の横方向に竹などによって芯を入れ帆の変形を抑え、向かい風での切り上りに適した特殊な帆を持っていることなどが特徴である。

 

 これらは主に宋の時代に発展し、明の時代には外洋交易のためにキールを持つものや、同年代の西洋のキャラック、ガレオンといった船よりも操作性に優れたものもあらわれた。

 特に明の永楽帝に仕えた鄭和の航海は有名で、彼の指揮した船団の中で最大の船は宝船と呼ばれ『明史』によれば長さ44丈(約137m)幅18丈(約56m)重量8000tマスト9本という嘘くさいほどの巨艦を用いたといわれている。

 

 

 とはいえ後漢の時代ではまだ帆走術や天文学を基礎とする測量術なども発達しておらず大陸沿岸や大河での運用が想定され、帆走よりもオールを用いた漕走が主であった。

 後漢の時代、海戦で主に用いられた楼船の全長はおよそ20mほどで、帆があるものは一枚の大きな四角形のジャンク帆であったと考えられている。

 

 

 

 そんな時代情勢はいざ知らず、その船は船体長約55m、幅約10m、3本のマストを持つというこの時代ではなかなかお目にかかれないような大型船である。

  また帆は一番前のフォアマストに3段の横帆、2番目3番目のメイン、ミズンマストにはガフセイルと呼ばれる縦帆が取り付けられており、フォアマストから船首に向けて斜めに張られたロープにはステイセイルと呼ばれる縦帆が張られている。これは一般的にバーケンティンと呼ばれる帆装である。

 

 ちなみにこの帆装形式は18世後半から19世紀初頭に用いられたもので明らかに時代に合っていない。なぜ戦国時代の人間がそんなことを知っていたのか、その理由はタケマサが商人をやっていた世界線にある。

 

 

 戦国時代、それは日本が中国のみでなく東南アジアや遠くヨーロッパ諸国と本格的に交流を持ち始めた時期であり商人だったタケマサは日本国内でだけでなく海外との交易で利益を上げようと試み、海賊衆の力を借りて海外へ行くことがあった。

 海外との交易は莫大な富をもたらした、しかしそんな海外交易にもただ一つの欠点がある、非常に時間がかかることだ。

 当たり前といっては当たり前だが大きな利益を上げるルソン島マニラとの交易は往復3か月の長旅で途中嵐やら海賊やら危険も大きい。

 

 そんなところでビードロを買って来いとしつこく催促してくる男に対して、てめぇが行けよと思ったことがある商人の方々も多いのではないかと思われる。

 あまりにしつこさに渋々二度目のルソンへの取引に向かっている最中、自分の乗っている船とはけた違いの速さで海を行く船にすれ違ったのだ。

 

 その時に決意したのだ、何としてでもあの船のような優れた造船術、測量術、航行術を手に入れなければと。

 

 そうしてタケマサは堺の町の南蛮商館の主人に師事させてほしいと頼み込み、一騎打ちの末何とか生き残りこれらの知識・技術を得るに至ったのだ。

 詳しい話は割愛するが、ただ教師役だった科学至上主義者のフランス人が、あれ?この年代だと~~やら、まぁ2世紀なんて誤差誤差~~~などと言っていたのが気になるところであった。

 

 

 そんな時代錯誤の船を前にして呂範たちは言葉もなくじっと船を見つめている。。

 

「ふふふ、もっとしっかり驚いてくれなくてはつまらんだろ。何しろこの船は全財産の3/5をつぎ込み建造したのだからな」

 

 なぜだろう、急に出落ち臭が漂ってきた。

 

「・・・って師匠!さっき全財産の3/5って言いませんでした!?」

 

「ああ、そうだ。ちなみに残りの2/5は積み荷台と人件費、水食糧その他もろもろに消えたぞ」

 

「」

 

 この男、弟子が必死こいて稼いだ金を勝手につぎ込んでこの船を建造したのだ。

 

「ちょちょちょっとぉぉぉ!もしあたしが襄陽に残るって言ってたらどうしてたんすか!?あたし取り分ほぼ無しっすよね!?」

 

「ああ、だから一緒に来てくれると言ってくれて本当に安心したぞ、陽花」

 

「」

 

 弟子やめたい&真名返してほしい・・・、そう切実に思う呂範であった(3日ぶり16回目)




???「え、オレら出番なしかよ」
???「説明が長すぎて次回に持ち越しのようですね、作者のやる気が続けばですが・・・」

Wikiと大航海時代4を頼りに書きました。

突っ込み大歓迎ですが、よろしければオブラートで3重ぐらいに包んでからお願いいたします。

感想よろしくお願いします!

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