生命をやり直す為に   作:望夢

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生命をやり直す為に8

 

 ライフルを撃って、スフィンクス型A型種の注意をこちらに向ける。

 

 コアを搭載していないわたしのベイバロンじゃ、フェストゥム2体を相手に戦うのは少し大変だけれど。

 

「時間を稼ぐくらいなら、出来る」

 

 ホーミングレーザー発振器から、次々とレーザーが飛び出していく。

 

 それでもレーザーはフェストゥムの身体を貫く事は出来ず、動きを鈍らせる程度しか出来ない。

 

 フェストゥムの体表を貫くにはパワーが足りていないから仕方がない。

 

 それでも動きを鈍らせて、本命のライフルから撃ち出した弾丸がスフィンクス型A型種の胸を貫いた。

 

「ひとつ。次は……」

 

 射撃の瞬間に、1体のスフィンクス型に集中していたから、もう1体のスフィンクス型を見失ってしまった。

 

 あなたは、そこにいますか――

 

「後ろ!?」

 

 背後を振り向けば、スフィンクス型がベイバロンに取り付いてきた。

 

 あなたは、そこにいますか――

 

「っ、……わたしに、触らないで!」

 

 スフィンクス型を振りほどいて、ライフルを向けた時、スフィンクス型の背中が漆黒に輝きを放つのを見た。

 

「うっ、ぐうぅぅぅ!!」

 

 咄嗟に後ろに下がったものの、ライフルとライフルを握っていた右腕をワームスフィアに巻き込まれて持っていかれてしまった。

 

 右腕が捻れて引き千切られる痛みは、歯を喰い縛っても声は漏れてしまう。

 

 ホーミングレーザーを撃ってスフィンクス型と距離を取る為に下がっても、スフィンクス型は構わずにわたしに向かってくる。

 

「くっ」

 

 予備兵装のハンドガンをホーミングレーザー発振器の冷却時間の合間に撃つ。でも所詮は予備兵装。グレンデル型くらいなら倒すのに問題はなくても、目の前のスフィンクス型に効いている様子は見えない。 

 

 このまま時間は稼げても、スフィンクス型に対する決定的な打撃力を持つライフルは失ってしまった。

 

「どうすれば」

 

 カチンッと悲しい音が鳴るハンドガンをフェストゥムに向けて投げつけるも、それは意味もなく海に落ちる。

 

 ライフルにハンドガンも失って、始末書を書かされるだろう事を考えて憂鬱になる。後でまたミツヒロに書いてもらおう。

 

 優しいお兄ちゃんのミツヒロは、わたしが苦手な書類を頼めば代わりにやってくれる。

 

 そろそろ書類の書き方も覚えろって言いながらも渋々書いてくれる。

 

 兄妹だから、ミツヒロはわたしにとっても優しくしてくれる。

 

「こんな時、ミツヒロなら…」

 

 いつも見てきた兄なら、片腕が無いくらいで諦めたりはしない。でも武器がないとどうしようもない。

 

「なに? 助けてくれるの?」

 

 わたしが助けた黒いノートゥング・モデル。膝にはⅩⅠの文字。十一番機(マークエルフ)だ。

 

 マークエルフはレールガンでスフィンクス型の背中を撃って、それを何事かと振り向いたスフィンクス型に、わたしがホーミングレーザーを撃ち込む。

 

 頭上を飛び回る大型戦闘機がミサイルを撃ちながら何かを投下した。

 

 それを受け取ったマークエルフ。伸縮していた刀身が展開し、レーザー刃が出力する。

 

 ミサイルの直撃で発生した爆煙の中を突っ切って、マークエルフが降り下ろしたロングソードがスフィンクス型の上半身を斜めに切断する。

 

 その切断された上半身の胸に向けてホーミングレーザーを集中して撃ち込めば、ダメージを受けて力が弱まっていたスフィンクス型の体表を撃ち抜いて、コアを破壊できた証に、スフィンクス型はワームスフィアを発生させて無へと消えた。

 

 敵がすべて倒されたとわかると、どっと疲れが押し寄せる。

 

 戦いが終わったのに緊張感を抜けられないのは、わたし達人類軍が、島のノートゥング・モデルを受け取りに来たという目的を達成していないからだろう。

 

「帰還命令?」

 

 戦闘空域の遥か上空を旋回待機している輸送シャトルからデータ通信で命令が下された。

 

 統合参謀本部から父であるミツヒロ・バートランド博士からの命令。この場に居るヘスター事務総長が政治方面に強い人なら、父は軍政方面に強い人で、人類軍は実質この二人が取り仕切っている。

 

 そんな父からの命令、そしてわたしたちは参謀本部直属ではあるけど、実質、父の直轄技術試験部隊の側面が強い。だから父の名前のある命令はなによりも優先する絶対事項である。って、ミツヒロが言ってた。

 

 既にフェストゥムの気配はない。

 

 シャトルに降下する様に命令を出す。その合間にミツヒロのベイバロンに通信を入れるけれど、応答はなかった。

 

「ミツヒロ……」

 

 心配ではあるけれど、機体の故障かもしれない。ミツヒロの存在が消えた感覚はないから、生きているのはわかる。

 

 わたしも島に上陸したいけれど、父からの命令は守らないとならない。

 

 降下して来たシャトルの格納庫へと飛び入り、機体を固定する。

 

 いつもならそこにあるミツヒロのベイバロンの姿がないだけで胸がざわつく。

 

 無事なら早く帰ってきて欲しい。そう思いながら、わたしはコックピットの中で意識を落とした。

 

 

  


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