生命をやり直す為に   作:望夢

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生命をやり直す為に4

 

 蒼い空。下は青い海。上下の地平の境は無く、重力がなければどちらが上か下かさえわからないだろう世界の中に存在する異色の金色の体躯を持つ敵に向かってルガーランスの切っ先を向ける。

 

 展開した刀身に紫電が奔る。

 

 トリガーを引けば、電磁加速された弾丸がスフィンクス型に向かって放たれる。

 

 スフィンクス型の足元の海に弾丸が着弾し、巨大な水飛沫を上げる。

 

 攻撃された事に気付いたスフィンクス型が此方を見上げてくる。それで良い。艦隊の近くで戦ってしまうと無駄な被害を出す可能性もある。

 

 背中を通り過ぎる幾つもの赤い閃光が、スフィンクス型に突き刺さり後退させる。マナのベイバロンが放った試作型のホーミングレーザー発振器から放たれたの攻撃だろう。

 

 おれがパイロットとしての実験体なら、差し詰めマナは機体関連技術の試験運用をしている。

 

 それはそう遠くない未来に生まれる救世主を造る為に必要なものだった。

 

「おおおおぉぉっ!!」

 

 体勢を崩したスフィンクス型を下敷きにして海面に激突する。激しい揺れがコックピットを揺らし、衝撃のエネルギーが痛みとなって全身を駆け抜ける。

 

『無茶苦茶だよ……』

 

 通信ウィンドウからマナの飽きれ声が聞こえてくる。しかしスフィンクス型を艦隊から完全に此方へ意識を向けさせるにはこれくらいが良い。

 

「噂は本当だったか」

 

 海の中に押し倒しても結晶化せずにいるスフィンクス型を見て呟く。

 

 ここ数ヵ月、世界各地で確認されている事例。

 

 30年以上も海に入れなかったフェストゥムが、海の中から発見されたという事実。

 

 プレアデス型も数例だが確認され、今まで安全な海中から戦闘を支援してきた潜水艦にも被害が出始めていた。

 

 最近は内陸部での戦闘ばかりで、海に面した戦場に出られなかった為、自身の目で確認するのが遅れてしまっていたが、改めて今までのセオリーが通じなくなる相手を厄介に思う。

 

 海の中も安全ではなくなり、遂に人類に逃げ場はなくなったと言われたようなものだ。

 

 しかしまだ海に入れる様になったという変化をその程度かと思えてしまう自分の感性はマヒしているのだろう。

 

 人類の兵器、ライフルや巡航ミサイル等を使うエウロス型や、核爆発を学習して己の技とするロードランナー、海そのものに変化したウォーカーを識っているからだろう。

 

 あなたは、そこにいますか――

 

「ああ。居るさ。おれはここにいるぞ!」

 

 最早何度目の問答だろうか。その問いに答えることで自分が今ここにいる理由を知ろうとしていた。

 

 スフィンクス型がおれを同化しようと頭部を展開するが、それは敵を目の前にして大口を開ける愚行であると彼等にはわからないだろう。

 

 ルガーランスでは近すぎて一撃で致命傷とはいかない。ロングソードもまた同じだ。しかしそれならば3本目の剣を抜く迄だ。

 

 ルガーランスやロングソードの半分以下、ルガーランスを切り詰めて剣にした武器――ガンドレイクを抜き、スフィンクス型の頭部に向かって突き刺す。

 

 ルガーランスと同じく刀身を展開し、広げた傷口の奥に見えるコアに向かって電磁加速された弾丸を撃ち放つ。

 

『ミツヒロ!』

 

 マナの声が聞こえる。フェストゥムが最後に見せる悪足掻き。自身を中心に展開するワームスフィア。

 

 ワームスフィアはゼロ次元に向かって物体を捻じ切り消滅させる。

 

 それに呑み込まれたらどの様な存在でも消滅する運命にある。

 

「心配するな」

 

 ワームスフィアの漆黒が晴れると、蒼い空が見える。

 

「おれはここにいる」

 

 コアを搭載し、対フェストゥム機構を備えているおれのベイバロンならば、この程度のワーム現象は耐えてみせる。 

 

『……バカ。心配させないで』

 

「……すまない」

 

 声も容姿も似ているから、真矢に叱られたかの様で少し滅入る。それでもマナはマナで、おれの妹だ。

 

 大丈夫だとわかっていても、実際に見せたのは初めてだった。それを心配させてしまった妹に言わなかったおれも悪かった。

 

 フェストゥムへの復讐しかない父のバートランドや、まだ会ったことのない真矢でもない。

 

 マナは、『おれ』だけの妹として、家族として共に存在している。

 

 おれの存在を見ていてくれるマナを大切に想いたいから、配慮が足りなかったことを悪く思って謝罪する。

 

 スフィンクス型を倒しはしたが、おれたちが緊張感を解す事はない。まだ感じているからだ。フェストゥムの存在を。

 

「わかるか? マナ」

 

『ハッキリとはわからない。でもまだ居る』

 

 マナと互いに感じる感覚を共有し、敵の存在が退いていない事を確認する。

 

『熱源? ミツヒロ、あれ!』

 

「あれは……」

 

 空の遥か彼方上空。大気圏外から落ちてくるフェストゥムを見つける。

 

 スフィンクス型のC型種。宇宙での活動能力に優れている種だ。と言っても、大気圏内でも充分な戦闘能力を持っている。

 

「くっ」 

 

『ミツヒロ!?』

 

「マナは残って艦隊を守ってくれ。おれはDアイランドの支援に向かう!」

 

 宇宙から落ちてくるスフィンクス型。C型種はA型種と比べて数段上の戦闘能力を有している。

 

 Dアイランド――竜宮島の現有戦力が何れ程あるかわからないが、ファフナーは一機でも多くて困る事はないはずだ。

 

 真壁、あなたが最後におれの心を救ってくれた。その恩をおれは返したい。

 

 

 

  


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