生命をやり直す為に   作:望夢

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生命をやり直す為に

 

 あなたは、そこにいますか――

 

 その言葉は、人類がこの広大な宇宙に存在するだろう隣人に向けた言葉だった。

 

 あなたは、そこにいますか――

 

 だがその言葉を受け取った隣人は、人類に友好的な種族ではなかった。

 

『フィックス中隊がやられた! クソッ、前線を突破されるぞ!』

 

『後方の第四師団にバックアップを要請しろ! ベロア中隊はフィックス中隊の穴を塞げ!!』

 

『クソぉぉぉ!! 地球はっ、地球は俺たち人間様のもんだああああ!!!!』

 

『いやあああ!!!! クレアぁぁぁーーっ!!』

 

 通信機から聞こえる怒号、怨嗟、悲鳴――。

 

 あなたは、そこにいますか――

 

 皆が必死に戦っていた。己の存在を賭け金に、誰かの存在を守る為、人類の存在できる場所を守る為に。

 

 あなたは、そこにいますか――

 

 その問いかけに答えるのは死を意味すると言われている。

 

 敵は此方の思考を読み、存在を同化してしまう恐ろしい敵だと父から教わった。

 

 父――バートランド。

 

 父は人類の中でも優れた男だった。そして、敵に人生を狂わされた悲しい人でもあった。

 

 おれをモルモットの様に扱う父。でもその父の実験が、この混迷の戦場で生きる力をおれに与えてくれた。

 

 あなたは、()()にいますか――

 

 その問いは、空虚なおれにそこに居るのかと問い掛けてくる。

 

「ああ、居るさ。おれは今、()()に居る!」

 

 空虚な存在。

 

 ただでさえおれは作られた存在だ。その作られた存在に本来あるべきではない魂を宿してしまった歪な自分。

 

 誰でもない存在。どうして自分は此処に居るのかを絶えず考え続けている自分は、この世界に根を降ろしているわけじゃないない。だからおれは自分が何処に居るかわからないんだ。

 

 でも、他の人達はそうじゃない。

 

 この世界で生きているんだ。今を生きるために、明日を迎える為に。これからもずっと存在していくために。

 

「お前たちとはまだ分かり合えない」

 

 ルガーランスを構え、おれは駆け出す。

 

 敵に対抗する為に作られた力。

 

 体感思考操縦式有人兵器――ファフナー。

 

 高機動格闘戦型ファフナー・ベイバロンモデル。

 

 蒼と白に彩られたパーソナルカラーの機体は、いくつもの敵を葬ってきたエースの証だ。

 

 蒼い空、その美しい空に浮かぶ雲もイメージして決めた色だ。だって雲は、いつもそこには居ない。でも何処かには存在している。

 

 そんな虚ろな存在を自分に重ねていた。

 

 いや、虚ろでありたいだけなんだろう。確固たる存在を持ったとき、自分が消えてしまうのではないかという恐さから逃れたいだけなのかもしれない。

 

 だからおれは敵を倒す。自分が、自分であることの存在を実感する為に。

 

 他の何者でもない。敵を滅ぼし、味方を勝利へと導いているのは自分なのだと。自分自身の証明を探す為に戦い続けている。

 

「その時が来るまで、生きてやるさ。だから今は、お前の存在を踏み台にして生き残ってやる」

 

 個々ではなく、まだ全体で個である今のフェストゥムたちには何を説いた所で意味はない。

 

 自分に出来ることはその時が来るまで生き残る事だ。

 

 ルガーランスをスフィンクス型の胸に突き刺し、刃を展開して剥き出しになるコアに向かって電磁加速された弾丸を放つ。

 

 コアを破壊されて存在を保てなくなったスフィンクス型はワームに呑み込まれて消える。

 

「ひとつ!」

 

 スラスターを全開にして、半壊して身動きの出来ないグノーシスモデルを襲おうとするスフィンクス型を、横から袈裟斬りに切り裂きつつ横を通り抜ける。

 

「ふたつ!」

 

 今度はまた別のグノーシスモデルに迫るスフィンクス型C型種に対して攻撃する為にジャンプする。

 

 それを見たスフィンクス型C型種は指を鋭く針の様に変化させながら此方を突き刺そうと指を伸ばしていく。

 

「甘いっ」

 

 伸びてきた鋭い指を新たに装備したロングソードとルガーランスの二刀流ですべて切り落とす。

 

「みっつ!」 

 

 そのままフリーフォールでスフィンクス型C型種の胴体に取り付いて、人形の胸にルガーランスを突き立て、ロングソードで横凪ぎに胴体を切断する。

 

 そのまま突き刺したルガーランスを引き抜きつつ離脱し、展開した刃の間から電磁加速された弾丸を放ち、切断した胴体のコアを撃ち抜く。

 

 消滅したスフィンクス型C型種の影から、黒い一筋の閃光が、ベイバロン(おれ)を貫こうと迫り来る。

 

 両肩と、増設した両腰のブースター・ユニットを使って、その射線から退避し、その砲撃の主に向かって突貫する。

 

 遠距離攻撃型のスフィンクス型D型種だが、砲撃にはインターバルがあり、その時間の間に――

 

「よっつ!」

 

 ルガーランスを突き刺し、もがき暴れるスフィンクス型D型種に、ロングソードも突き刺してコアを刺し貫く。

 

 瞬く間に四体のフェストゥムを葬る。

 

『す、すげぇ……。あっという間に四体も倒しやがった』

 

『アンサラー、蒼い閃光、死告鳥――ジョナサン・バートランドか……』

 

『…わた、し、生きて、……る?』

 

『いくらベイバロンったって、あんな動きが出来るものなのか…?』

 

 無線機を通じて味方の声が聞こえてくる。

 

 それは称賛であり、畏れであり、困惑であり、しかしそれでも味方が一人でも多く生きていることを喜ぼう。

 

 一体でも多く敵を倒すことも戦場でなら大事なことだろう。だが、一人でも多く味方を生き延びさせることも大事だ。

 

 アザゼル型も、ディアブロ型も居なければ、今更普通のスフィンクス型に遅れを取る様な事もない。

 

 おれの名はジョナサン・ミツヒロ・バートランド――。

 

 人類軍の兵士で、ファフナーのパイロット。

 

 自分探しの為に戦場を渡り歩く流浪者だ。

 

 

 

  


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