暗黒大陸が第二の故郷です   作:赤誠

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基本的に書きたいところから書いてる人間なので、このままだと順番通りにあげられるのはいつになるのやら…と思ったためハンター試験編も並行して書き進めていくことにしました。
順番通り読みたい方は、過去編が完結するのを待ってからハンター試験編も読んでください。

過去編を途中まで読んでいてハンター試験編も今すぐ読みたいという人は、以下のポイントさえ押さえていただければほとんど問題なく読めるはずなので、目を通しておいてください。

•この話は主人公が念能力で暗黒大陸から脱出することに成功した後のこと。

•主人公は元の世界の記憶を結構忘れている。

•ドン=フリークスとの別れ際に餞別をもらった。


この話では主人公がほんの少し念能力使ってますけど、ハンター試験編ではほとんど使わない予定なので念能力については適当に流しておいてください。そのうち過去編で念能力の内容とか修得過程についても描写していけたらな、と思っております。

それでは長々と大変失礼致しました。


ハンター試験編
ハンター試験開始【※前書き必読※】


暗黒大陸を出てから驚いたことといえば、人間ってそんな頻繁に死ぬものじゃないんだなってことだった。

暗黒大陸で生活していた頃と今の死亡率を比較してみると圧倒的に違う。暗黒大陸では念能力を鍛えた後で計算しても2週間に1回は死んでいたのに対し、暗黒大陸脱出してからは、何と!一度も死んでない!!何これ最高!死なないって素晴らしい!

あとは、全体的な規模の違いにも大きな差を感じた。暗黒大陸に生息する生物は植物でも動物でも大きいものが多かった。そのため、色々な意味で常に頭上を気にしてなければいけなかったのが、ここではその必要がない。うん、これも素晴らしい!

あとは食べ物だろうか。コンビニのチキンがあまりにも美味しすぎてつい涙ぐんでしまったのは、不可抗力だと思う。

ドンさんがいる間は、彼が食用可能な生物を狩ってきてくれたおかげで何とかなっていた。味付けなんてあってないようなまさに男の料理だったけど、一応食べれたから。しかし、ドンさんがいなくなってからの私の食生活は悲惨だった。私ごときの実力じゃあの凶暴な生物達に打ち勝てないというか打ち勝とうという気が滅多に起きない。その結果引き起こされたのが深刻なタンパク質不足である。一応自生していた豆のようなものを食べたりしてタンパク質を補おうとはしたのだが、所詮気休め程度にしかならなかった。念能力の影響で私の体の時間経過は常人より異常に遅いとはいえ、徐々に筋肉の衰えを感じていた。

だからコンビニでチキンを食べた時の感動といったらなかったのだ。熱せられたその身は柔らかく、噛めば噛むほどに肉汁が溢れ出す。こんな美味しい肉を食べれたのはいつぶりだろうか。

道端でチキン食べながら泣いている私のことを不思議そうに通行人達は見ていたけど、形振り構わず食べ続けた。

 

 

 

余談だが、別れ際にドンさんからもらった餞別の袋を開けてみると、中身は葉っぱと草と石と米と液体だった。もしかしてゴミを押し付けられたのかと疑うラインナップだったけど、さすがに捨てるのは忍びないのでとりあえず部屋に飾っている。

そのまま飾ると本当にただのゴミにしか見えないので、葉っぱは額縁に入れたり、米や液体はちょっとオシャレな瓶に入れたりしてみた。

その結果できあがったのは――なんということでしょう、匠もびっくりするほどのオシャレな空間でした。素人知識同然でここまでオシャレ空間を作り出してしまうとは…やはり私は天才だったのかもしれない。少し自分の才能が恐ろしい。

 

ただ、自然の摂理に従ったのか知らないけど草は普通に枯れた。これに関しては最早ゴミ以外の何者でもないと思い、普通に捨てた。

 

 

 

暗黒大陸から解放されて調子に乗っていた私は、何を思ったか護衛の仕事に就くことを決めた。確か「せっかくだし、念能力者にしかできないような仕事をやろう」って感じに軽い考えで応募した気がする。しかし、結局護衛の仕事をやっていた期間は一ヶ月程度で、今はもうやっていない。主にある人物のおかげで色々と痛い目を見たため、もう念能力者が集まりそうな場所には行く気分になれなかった。詳しく語りたい内容でもないので、この時起こった出来事については割愛する。

 

やはり普通のバイトが一番だ。そう思い直して、いざ飲食店のバイトを申し込もうとしたら、住民票が必要だと言われて、思考が停止した。

じゅ、住民票…?あの護衛の仕事ではそんなもの必要なかったけど、あれって若干アウトローな仕事だったからいらなかったのかな…?

私が固まったことに気付いた店主が「身分証を見せてくれるだけでも構わない」と言ってくれたが、当然そんなものもない。私は体調が悪くなったことにして、その場を後にした。

身分証がない状態では、これからもアウトローな仕事にしか就くことができないということは、つまりこのままじゃあ、私は普通のバイトに就くことは不可能……?

思わず血の気がさーっとひいていく感覚を体験した。

 

その後必死の思いで身分証を作成する方法を探ったが、元からこの世界にいたわけでもない人間が身分証を作るとなると、法に触れる恐れがあるようだった。

しかし、調べていくうちに身分証と同等に扱われるものがあることを知った。

――ハンターライセンスだ。

 

 

 

 

 

普通のバイトをするためにハンター試験を受けるという未だかつてない矛盾を感じながらも、私は試験会場に立っていた。受験理由聞かれたらどう答えればいいんだ、これ。一応面接マニュアル本もってきたけど、参考になるのだろうか。とりあえず3回は読み直したけど。

思ったよりも早く着きすぎてしまったみたいなので、私は隅っこで楽な姿勢でいることにした。

会場に着いた時に、豆のような頭をした人物からもらった「33」と書かれたナンバープレートで手遊びしながら、これからのことに思いを馳せる。

この試験に合格すれば、ファミレスのバイトやコンビニバイトも夢じゃない。それどころかあらゆるバイトが選り取り見取りなはず。

絶対に合格したい。そのためにも、気を引き締めて臨まないといけないな。

 

 

 

 

 

 

暇だ。凄く暇だ。まだ試験は始まらないのだろうか。暇を潰すにも、話し相手もいないし、大して面白い物も持ってきていない。

仕方ない。もう飽きるほど読んではいるけど、もう一度面接マニュアル本でも読んで時間を潰すか。そう思いたち、鞄の中を探すが見当たらない。

え、嘘。さっきまで絶対にあったのに。

しかし鞄を逆さにしても、マニュアル本はどこにもなかった。途方に暮れていると、ざわりと空気の流れが変わるのを感じるとともに粘着質な声が耳を侵した。

 

「お探し物はこれかな?」

 

私の目の前に現われたのは、まるでピエロのような格好をした男だった。トランプのマークをモチーフにした服装に加えて、星と涙の形を模したフェイスペイントまで施されている。

何というか…普通ではない。

格好もだが、醸し出す雰囲気が常人のそれではない。纏をしていることから念能力者であることは確かだが、彼の異様さはそれだけではない気がした。もっと内から滲み出る狂気のような……そんな何か。それが彼の本質であるかのように感じられる。三日月のように細められた目が、私を舐めるようにねっとりと見つめている。あまり気分の良いものではない。

 

しかし、よく見ると彼の手には私の面接マニュアル本が握られていた。もしかして拾ってくれたんだろうか。雰囲気からしてヤバい人かと思ったけど、実は良い人なのかもしれない。

 

「それ、もしかして拾ってくださったんですか?」

「うん、お返しするよ♦︎」

「ありがとうございます」

 

本当にただ落とし物を渡しにきてくれただけらしい。少し警戒してしまったことを心苦しく思う。人は見た目で判断してはいけないな。今度から肝に銘じよう。

 

そのまま何事もなく本が手渡しされる。そんな誰もが想像しうる簡単な流れ作業だけで終わるはずだった。

しかし、差し出された本に手を触れたその瞬間。

 

――私は無意識に『隔離』を行っていた。

 

間を置かずして面接マニュアル本が見るも無残に切断される。切り落とされたページは、ばさばさと音を立てて床へと舞い落ちた。

徐々に周囲が喧噪に包まれる。たまたま今のを見ていた人達がいたのだろう。衆人環視の的になりながらも、眼前の男は微塵も怯む様子を見せない。

 

「うん、良い反応だ♠︎」

 

――前言撤回。

やっぱり得てして人は見た目どおりのようだ。

 

眼前の男は笑みを深くしていた。私はそれを冷めた目で見つめながら距離をとる。

彼の様子を見るに、私の判断は間違っていなかったようだ。

 

何があったのか説明すると、この男はあろうことか私の本にオーラをくっつけていたのだ。『隠』で巧妙に隠していたあたり、悪意しか感じられない。一瞬触れた感触がまるでガムのようで思わず鳥肌がたった。今の感触からして、変化系の能力者の可能性が高い。

 

さて、どうするべきか。この突然の襲撃者への対応を考えあぐねる。今ここでこの男と殺り合うのは得策ではない。こんな衆人環視の状態で手の内を晒すなんて愚の骨頂だ。

しかし、今ここでこの不穏分子をリタイアさせておけばハンター試験合格率は確実に高くなる。

どちらをとってもそれ相応のリスクが生じる。難しい選択だ。

 

しかし、私のその刹那の思考はすぐに水泡に帰した。

 

「うん…美味しそうだ、やっぱりキミとは後でじっくりヤりあいたいな❤︎」

 

またね、と軽く手を振ってピエロはにこやかにその場から立ち去って行ったのだ。そのあまりにも予想外な展開に、思わず拍子抜けした。

 

ピエロが立ち去ると、先程までのざわめきもまるで嘘だったかのように鳴りを潜めていった。

 

しかし一人残された私は、未だに今起こった事態を素直に受け入れられず釈然としない思いでいた。

 

何だったんだ、あのピエロは。

こんなところで念能力を使うだなんて何を考えているんだ。そして何故私に絡んできた。後でじっくりなんちゃらとか言っていたけど、まさか今後も接触を図ってきたりするのだろうか。本気でやめてほしい。

この試験に受かると受からないとで私の今後の身の振り方が大分変わってくるんだから、邪魔をしないでほしい。問題を起こすなら自分一人でやってくれ。こっちは死活問題なんだ。

そして何故試験官とか試験監督的な人はあれを放任しているんだ。あんなのがハンターになったら世も末だぞ。あれは梃入れしてでも受からせてはいけない人種だ。ていうか私が試験官だったら確実にあいつは落とす。たとえ職権濫用だと言われても何が何でも落とす。

恐らく今後もあのピエロは私だけでなく他の受験者にとっても障害にしかならないだろう。

 

できることならあまり関わり合いになりたくないが…

 

――消すなら早めがいい。

 

何か上手い妨害方法はないだろうか。できれば、変に目をつけられたり恨まれたりしない方法で。

 

「さっきは災難だったな」

 

私の邪な思考を遮るかのように四角い鼻が特徴的な小太りの中年男性が話しかけてきた。その口振りから察するに、先程のやり取りを見ていたのだろう。

 

「俺はトンパってんだ。こいつはお近付きの印だ」

 

そう言って差し出されたのは缶ジュースだった。私は両手で受け取って、不自然でない程度に顔の近くに近付けた。微かにだが、果汁や甘味料の匂い以外の何かを感じる。これでも長い間暗黒大陸で過ごしていくうちに、ある程度は匂いを嗅ぐだけでそれが食べられるものかどうか判断できるようにはなっていた。

毒とまではいかないが、何かしら混ぜられていることは確かだ。この特異な匂いからすると、瀉下作用のあるものの可能性が高い。

 

――なるほど、こういう妨害方法もあるのか。参考になるな。

 

「ありがとうございます。あの、トンパさんでしたっけ?」

「おう!」

「このジュース、まだ沢山持ってらっしゃるんですか?」

「ああ。一応持ってるが…」

「本当ですか!」

 

私は缶ジュースを両手で挟みながら大袈裟に喜んでみせた。

 

「それなら、あのピエロさんにも渡してあげてください」

「…え」

「あ、もしかしてもう渡してましたか?」

「い、いや。渡してはいないが…」

「ピエロさん、さっき喉が渇いたって言ってましたよ。ぜひ渡してあげてください」

 

私が思いついた妨害方法は、自分の手は汚さずにトンパを利用して妨害する方法だった。上手くいけばあのピエロを体調不良で棄権させられるし、私には何の被害もない。まさに万々歳だ。

 

一応下衆いことをしている自覚はあるが、まあ、自覚があるだけまだマシだろう。

 

「いや、それはちょっと…」

「え、どうしてでしょう?」

 

私は白々しくも不思議そうな顔をしてみせる。そんな私を見てトンパは、表情筋を引きつらせていた。

 

「あ、あんなヤバい奴に近寄れるわけないだろ!あんただってヒソカのヤバさをさっき目の当たりにしただろう?!あんた、自分の本をアイツに切り刻まれてたじゃないか!」

 

私の本を切り刻んだのは私自身だけど、なるほど、確かに周りの人から見ればあのピエロがやったようにしか見えないか。これは嬉しい誤算だ。

 

「きっとピエロさん、喉が渇いて気が立っていたんですよ」

「あんた正気か?!」

 

さすがに、これは無理があったか。上手くいけば純粋な少女からの幼気なお願いとして受け入れてくれるかと思ったけど、仕方がない。

 

「トンパさん、どうしてそんなにピエロさんに意地悪するんですか…?」

「い、いや、だから」

「ピエロさんが怖いから…?」

「あ、ああ」

「本当にそれだけですか?他にも何か…渡せない理由があるんじゃないですか?」

「…え」

 

トンパの表情が固まった。

心当たりがあるからこそそんな顔ができる。この人もまだまだ詰めが甘いな。私の前で、そんな顔してみせてはいけないのに。

これはちょっとした意趣返しだ。せいぜい私が()()()()()()()()()()()()今の台詞を言ったのかどうか悩めばいい。

私は笑顔でおどけてみせた。

 

「えへへ、なんちゃって。ピエロさん、ちょっと変わってるから怖いですもんね!」

「あ、…ああ」

 

私の態度の変化を見て、トンパの強張りも解ける。しかし、その声はまだ少しだけ掠れていた。

 

「それじゃあ、お互いに頑張りましょうね?トンパさん」

 

同じ志を持つ者(妨害仲間)として、ね。

 

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに、かなり時間が経過していたようだ。最初に比べると人が増えている。

念のため、ざっと辺りを見渡して念能力者の有無を確かめる。

 

…この様子だと念能力を使った妨害は無しだ。

 

ざっと見たところ、受験生の中で念を使えるのはあのピエロ――確かヒソカと言ったか――と釘が全身に刺さっているどう見てもヤバそうな男と私だけだ。念を使おうものなら、消去法ですぐに私がやったとバレてしまう。

そうなると、かなり方法は限られてくるな。罠を作ろうにも、あまり大規模なものは作る時間も資材も無い。

今のところ使えそうな妨害アイテムは、トンパからもらったこのジュースぐらいか。さっきはトンパを利用してヒソカにこれを飲ませようとしたけど、今となって冷静に考えてみるとアイツには効かない気がしてきた。

何たってあの風体だ。相当の修羅場を潜ってきていると見て間違いない。生半可な毒薬を使っても多分死なないだろう。いや、別に殺したいわけじゃないけど。

 

この試験、なかなか頭を使うことになりそうだ。

 

 

 

 

ジリリリリリリリ、というけたたましい音が、試験官の登場を知らせる。くるんと曲がった口髭に、洗練されたスーツに身を包んだその男は、どこか英国紳士を思わせた。

 

一応 数分前から彼の存在には気付いていた。隠し通路のようなところを通ってきていたから、受験生ではないのだろうと踏んでいたが、やはりその予想は正しかったようだ。

 

その男は、なおも鳴り続けていたベルを止めると、私達へ向かって口を開いた。

 

「ただ今をもって受付時間を終了いたします」

 

その落ち着いた声音は、優しい印象よりも、どこか厳かな印象を与えた。その証拠に、この時声を発する者は誰一人としていなかった。

 

 

「では これよりハンター試験を開始いたします」

 

 

男の声は、しん、と静まり返った会場中に響き渡った。

 




主人公はちょっとクズなぐらいが書いてて楽しいですね

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