記憶喪失の神様   作:桜朔@朱樺

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不思議なアンデッド

村を救ったのはアンデッドだった。いったいどういう意図が有ったのかはわからないが、余計な刺激を与えて機嫌を損ねるわけにはいかないと、皆緊張の面もちで見ていた。

 

しかし、なぜか自分がアンデッドであることに驚き、ワタワタと動いていたかと思えばすぐにピタリと止まり冷静を取り戻す。

 

「あ、あなた、―――様はいったい何者ですか?」

「何者?・・・そうだ俺は何者なんだ?ここはどこだ?俺は誰なんだ??」

 

村長の問いかけにまたもやブツブツと呟き、落ちつきなく歩き回る。しかし、それもまた短い時間で終わり、足を止めると村長に振り返った。

 

「・・・すまない、ここに来るまでの記憶がない。だがあなた方に危害を加える気は無いことは信じて欲しい」

 

―――信じるほかないだろう。それ以外を選択して相手を怒らせたらどんな恐ろしい仕打ちがあるかわからないのだから。今は従順に従うしかない。

 

 

周囲の者と顔を見合わせていると、アンデッドが魔法を使う。何をされるのかと身を固くすると、ドーム型の光に包まれた。守りの魔法だとアンデッドは言った。

 

「まだ敵が潜んでいないとも限らないから念のために、な」

 

そう言って来た道を戻ろうとするアンデッドにどうしたのだと勇気を持って問いかけた。

 

「森で少女二人を助けた。迎えに行ってくる。ああ、死の騎士(デス・ナイト)は村人を守れ」

 

しばらくすると本当に少女二人を連れて戻ってきた。

 

「エンリ!ネム!」

 

村の人間はほぼ顔見知りだ。つれられて来た少女たちが誰かなどすぐにわかった。彼女らは飛び込むように広場に駆けて来て、キョロキョロとあたりを見渡していた。誰を捜しているかなど一目瞭然で、すぐに顔を暗くする。

 

そんな自分たちを後目に、アンデッドは何かを黒い騎士に指示すると、死の騎士(デス・ナイト)と呼ばれたアンデッドは村へと歩いていった。そしてその手に村人の遺体を持って戻ってきたときはいったい何が始まるのだと、村人は全員顔を青くした。

一人一人、丁寧に地面に並べていき、アンデッドが遺体をのぞき込む。その家族が悲鳴を上げるが、周りの人間が口を塞ぐ。機嫌を損ねたら自分たちもあの中に入ることになるかもしれないと恐怖した。が、アンデッドは恐怖で見開かれた目に手を置いて閉じさせて胸の上で手を組ませるだけで後は何もしなかった。

 

それがどういう意味を持つのか、理解するのに時間がかかった。アンデッド―――いや、彼は村人の遺体を丁寧に広場に集めて置いているのだ。

そして、中には僅かばかり息のある者がいて、彼は惜しげもなく水薬(ポーション)を取り出すと見も知らない村人に振りかけた。

見る見るうちに傷が治り、意識を取り戻した男は―――。

 

「ぎゃああぁぁぁっっ!!」

 

骸骨の顔を見たとたん悲鳴を上げて顔面を殴り付けていた。それに慌てた村人が一斉に駆けだして男を取り押さえる。なんてことをするのだ!!

 

「お、お前はっ!!」

「すみませんすみませんごめんなさい許してください」

 

必死に謝る村人に、彼は困ったように笑った。

 

「そうだった。いや、仕方がないことだし、そこまで元気なら大丈夫だろう」

 

この顔じゃしょうがないと笑うと、赤い水薬(ポーション)を何本も出すと村人に手渡した。

 

「息がある者が居たらかけてくれ。また殴られたらたまらんからな」

 

高価な水薬(ポーション)を無造作に渡す彼に驚き、そしてただの村人に使ってくれと笑う。その姿に徐々に嫌悪感が薄れていき、少しずつ感謝の言葉が上がっていった。

 

「お父さんっ!!」

 

新しく運ばれてきたのはエンリ達の父親だった。すでに事切れていて水薬(ポーション)は無意味だった。

父親に縋って泣く姉妹に、どう声をかけるべきか迷っていたら彼が骨だけの手をソッと頭に乗せた。

 

「・・・助けられなくてすまない」

 

そう声をかける彼にエンリは泣きながらも感謝した。

 

そのあとも、彼らは村のために働いてくれた。埋葬を手伝い村の修繕をしてくれたりと、もはや彼らを恐れる者は居なかった。

 

一段落した頃、改めて礼を言うために村長の家に彼を招き入れた。

そして様々な話をして、彼は記憶喪失と言う物らしい。この村に来る前の記憶を一切失い。何処から来たのか、自分が誰なのかさえわからないと言った。自身がアンデッドであると言う自覚も薄く、出された白湯を飲もうとしてすべて床にこぼしてしまうと言うちょっとした事件も起きた。

 

持っていた金貨から何処の国の者かわかるかもしれないと思ったが、あまりにも立派で分厚い金貨に目を丸くしてしまった。だいたい自分たちはあまりこの村から出ないのだから他国の金貨を見せられてもわからないじゃないかと頭を抱えた。

 

「とりあえず、王国の通貨ではないですね」

「・・・そうすると、帝国か法国の生まれの可能性があるか―――。失敗したな、自国の兵士を殺したかもしれないな」

 

ぽつりとつぶやいた言葉に村長夫妻は震えた。それに気づいたのか慌てて訂正した。

 

「とはいえ、罪もない村を襲ったのが自分の国の兵だったとしても助けましたよ」

 

その言葉にほっとした。自国に責められてこの村を差し出されたらどうしようかと思った。

結局は何もわからないままだと天井を仰いでいるとけたたましいノックの音が響いた。

 

「そ、村長!」

「何だ騒々しい」

 

 

「戦士風の集団が村に向かってきています!!」

 

 

 

 


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