記憶喪失の神様   作:桜朔@朱樺

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少女たち

・・・・・・びっくりした。何がなんだかわからん。俺はどうしたんだ??

 

凄まじい衝撃のあと、地面にめり込んでいた。―――いや、普通に考えて落ちてたんだよ。何で気付かないんだ俺?

結構な深さだな。どれくらいの高さから落ちてたんだ?

 

ここから出ようと這い上がり、地上にでると―――少女と目が合った。これでもかと目を見開かれていて、自分の間抜けな姿に恥ずかしくなる。

ああ、人型の穴が出来てる。マンガでしかみない表現だよ。ある意味すごい。なんて考えていたら後ろからトスッと軽い衝撃を感じた。

 

「誰か知らんが、目撃者も始末するよう言われているのでな」

 

後ろから聞こえた声に振り向くと騎士がいた。フルフェイスだから目ぐらいしかわからない。が、俺が振り返ったらその目がこれでもかと見開かれ。

 

「うわああああああぁぁああぁああっっ!!!!」

「きゃ——っ?!」

 

いきなり野太い声で絶叫されたものだから高めの声が出てしまった。恥ずかしい。なんて恥ずかしがっている暇はなく。騎士が剣を振りかぶってきた!!うわっ殺される!?

 

「<心臓掌握(グラスプ・ハート)!!>」

ドグシャァ!!

 

思わず得意魔法を使ってしまった。騎士はそのまま糸の切れた人形のように倒れた。これって正当防衛でいいよね?あのままだったら確実に斬られてたし!―――過剰防衛ではないことを祈りたい。

 

「あわ、あわわわわっ」

 

やばい!仲間がいた!!他の仲間を呼ばれてもやっかいだし、ちょっと弱い魔法で動けなくしとこう!!

 

「<龍雷(ドラゴン・ライトニング)>」

「ウヒャアァァァ―――!!!!」

ドチャッ!

 

弱っ?! え? 嘘だろ?第五位階の魔法だぞ!?まじかよ完全に過剰防衛じゃん!!ええー・・・どうしよう。

 

二つの死体を前に途方に暮れたが、背後の少女二人を思いだし振り返った。

 

あー、怯えてるなぁ。人死んでるもんなー。

 

「・・・一つ聞きたい。お前たちは罪人か?」

「ひっ!」

 

一歩踏み出したら少女の顔がヒキツり、わずかな水音が―――。うん、俺は何も見てないよ~。

 

「もう一度聞く、お前たちは罪人だから騎士達に襲われたのか」

「ち、ちがっ、違います」

「そうか」

 

あ~よかった。向こうが悪いなら弁論の余地ありだな!そう言えば村が襲われていたよな。一応助けた方が良いかな?

 

―――中位アンデッド作成 死の騎士(デス・ナイト)―――

 

助けに行くにも盾役が必要だし―――って、うぇ?!死体に乗り移った!?こんなの初めてだな―――。

 

死の騎士(デス・ナイト)よ。この村を襲う騎士達を―――倒せ」

ヴオォォォォォォオオォッッ

 

うわっ、勝手に走り出しちゃったぞ!なんか変だなぁ、まあ、命令したの俺だけどさ。一人で行けるんならまあ良いか。

 

もう一度少女達に向き直るとカタカタ震えている。しかし、その右手と背中には深い傷を負っていてとても痛そうだ。

 

「これを飲め」

 

下級治療薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)でいくらかは回復するだろう。数だけは山ほどあるし、なんて思ってたら揉め始めたぞ?飲む飲まないって・・・、おっさんだからダメなのか?怪しいおっさんが差し出したものは飲めないのか??

 

「別に変なものじゃないぞ?普通の回復ポーションだぞ」

 

早く飲めと急かすとようやく受け取り一気に飲み干した。そして、傷が見る間に消えていったことに「嘘」と目をまん丸にする。そんなに信用無いのかとため息がでた。別に良いさ若い子に邪険にされたって悲しくないさ。

 

「とりあえず、他の騎士がこないとも限らないしな」

 

防御の魔法をかけて、マジックアイテムも渡しておけば大丈夫だろう。村に向かって歩き出したら少女から声をかけられた。

 

「あ、あの!助けていただきありがとうございます!!」

「ありがとうございます!!」

「―――気にすることはない」

「も、もしよろしければ、お父さんとお母さんを助けてください」

「・・・出来るだけのことはする」

 

とは言っても、上から見た限り何人かの村人は殺されていた。その中にいないことを祈ろう。

 

 

 

 

悲鳴が聞こえる。村人の悲鳴ではないだろうと動けなくなった見張りの騎士を引きずりながら広場らしき場所に向かう。さっき角笛の音も聞こえたし、死の騎士(デス・ナイト)はうまくやっているのだろう。

 

案の定広場に着くと死の騎士(デス・ナイト)にぶっ飛ばされる騎士が見えた。あちこちに転がる騎士達の腕が変な方に曲がっているのが心配だが、殺していないようで安心した。これ以上の殺人は言い訳できない。

 

「そこまでだ死の騎士(デス・ナイト)

 

素直におとなしくなる死の騎士(デス・ナイト)を横目に未だ立っている騎士めがけて引きずってきた仲間を放り投げる。これも殺してはいない。麻痺状態にしているだけだ。

 

「さてと、まだ抵抗する―――」

 

問いかける前に剣を放り投げる様に、かなり疲れていると見えた。そして断頭台の前にいる罪人のような目を向けられる。神に祈る声も聞こえるが、神に祈るくらいならこんなことしなきゃいいのにと呆れてしまう。

 

「お前たちの上司に伝えろ。この辺で騒ぎを起こすなと」

 

死の騎士(デス・ナイト)に威嚇させて凄めばコクコクと首が取れるんじゃないかと思うほど頷き、負傷者を抱えて逃げていった。

あ、犯人拘束しとけば良かったか?まあ、後の祭りか―――。

 

村人に振り返る。少女たちの親がここにいればいいが、―――そう言えば名前を聞いてないから探しようがないぞ。

 

「エ、死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)

 

ん?死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)

振り返るがそこにいるのは死の騎士(デス・ナイト)しかいない。

 

「こいつは死の騎士(デス・ナイト)だぞ?死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)はアンデッドの魔法詠唱者だし、似てもにつかないぞ」

 

どうやったら間違えるんだと思っていたら、村人の目が丸くなる。そして代表らしき男が怯えながら口にした。

 

「あ、あなたは死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)ではない、のですか?」

「―――はぁ?」

 

死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)って・・・、確かに俺は骨と皮ばっかりのガリガリのオッサンだけど、アンデッドに間違えられるほど貧相か?

 

そう思って顔に触れたとき、カツンと、肉と肉が接触したには固い音が響いた。あれ?と思い、自分の手を見下ろすと―――骨。

ローブを捲ってみる・・・骨だ。襟を引っ張る、骨。バッと振り返れば死の騎士(デス・ナイト)が剣を鏡代わりに立てていてくれた。

そこに映し出されたのは―――、やっぱり骨だった。

 

「ほねえええぇぇぇぇええええぇぇっっっっ?!!!」

 

俺はアンデッドでした。そりゃ皆怯えるよね!!

 

 

 


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