記憶喪失の神様   作:桜朔@朱樺

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友よ!

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剣が重いと、たっちは悪魔が去った空を見上げながらそう思った。

超位魔法の発動を確認したウルベルトはそのあとすぐに撤退した。たっちだけの相手ならまだしも、超位魔法に課金アイテムを保有している者との敵対は不利だ。魔法に遅れをとる事はないが装備アイテムが乏しいし、まさかとは思うがワールドアイテムを保有している可能性もあると早々に意識を切り替え、たっちに別れを告げると空に溶けていった。

 

・・・たっちはウルベルトを追いかけなかった。胸に大きな風穴を空けられた気がして動けなかったのだ。王国民の救助に向かうべきだと頭では解っていても、剣が、足が鉛のように重くて動けないとただ空を眺めていた。

 

「たっちさん!」

 

不意に呼ばれて振り返った先にいたのは漆黒の鎧をまとった冒険者モモンだ。どうやら、クライム達から話を聞いて援護に来てくれたらしい。

 

「主犯は逃げましたか」

 

たっちの様子を見てそう判断したモモンだったが、こちらを振り向いたまま動かないたっちの様子に首を傾げた。

 

「どうしました?どこか怪我でも・・・」

 

しかし、問いに答えることなくたっちはモモンの肩に頭を乗せる。突然のことに驚いた様子だったが、何となく落ち込んでいる雰囲気になにも言わずにただじっと立ち尽くしてくれた。

 

客観的に見たら異様な光景だろうなと思う。しかし、彼は自分を拒絶せず、何も聞かずにただそばに居てくれた。その空気が、なんだか懐かしく感じてしまい甘えてしまう。

 

「・・・・・・すみません、もう少しこのままでお願いします」

 

余りに小さい声は、普通の人間だったら聞き逃していただろう。しかし、モモンには聞こえたらしく、苦笑いを漏らす空気を感じた。

 

「―――もし、肩を貸す以外に出来ることがあったら何でも言ってくださいね」

 

その声が、あまりにも彼と共通の友人であるあの人と重なり、たっちは思わずその顔をのぞき込んでしまった。広間でみたフルフェイスに隠された顔は確かにあの人に似ていたと思い出す。

けれど、あの人ではない。彼は魔法詠唱者であったし、それに顔を合わせたときに何の反応も無かった。

 

―――もしかしたら、この人は別世界の彼だろうか?SF小説の読みすぎだと言われるだろうが、しかし、確かに異世界が存在したのだからそんなファンタジーだってあり得なくはない。

 

「モモンさん、私と友人になってくれませんか?」

「へ?は、はぁ・・・」

 

ここに来てからずっと孤独だった。

ガゼフにはよくしてもらっていたけれど、どこか壁を作ってしまっていたのは異世界の人間だから自分とは違うと心の隅で区別してしまっていたのだ。ウルベルトの言葉に納得してしまい愕然としてしまう。

自分は異形種だからと遠慮しているつもりが、彼らは別の生物だと無意識のうちに差別していたのだ。それに気付かされてしまった。

 

それではだめなのだ。彼らに壁を作ったままでは私はいつか心まで異形になるだろうと、たっちは決意する。

 

手を握られて戸惑っているモモンに願う。ガゼフには迷惑をかけすぎていて、今更友人になってくれなどと言えない。

しかし、モモンとならいい友人関係を築けるだろうとたっちは思うし、純粋に彼と友達になりたかった。このまま縁が切れるのもイヤだった、―――モモンの雰囲気が昔を思い出させてくれて、あの頃の自分に戻れるような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「それで、たっち殿と友人になったのですかゴウン殿」

「まあ、そうですね」

 

ガゼフの館に招かれたアインズは、少し困ったように頬骨を掻いていた。

 

「どうも私はたっちさんの昔の友人に似ているらしくて、それで友達になりたいと言われたんです」

「彼はあまり他人に心を開かなかったから少し心配していたんだが・・・」

 

いい傾向だとガゼフは頷く、ちなみに話題のたっちは日課の自主的パトロールに出かけ、ブレインはラナーに呼ばれて王宮に出向いている。そのためアインズは気兼ねなく骸骨の姿を見せられる。

 

「と言うことは、その姿はたっち殿はすでに知っているのですか?」

「そのことなんですが―――」

 

アインズは申し訳なさそうにガゼフを見上げた。

 

「私の正体を彼に黙ってていただけないだろうか?」

「? なぜだ?別にゴウン殿がアンデッドでも彼は気にしないと思うが」

「いえ、多分ですけど、たっちさんは人間と友情を結びたいと思うんです。それなのに、実は私アンデッドなんですーなんて言ったらがっかりすると言うか―――」

 

アインズの言葉に、ガゼフはたっちが元人間だという話を思い出した。そしておそらくだが、今の異形の姿を受け入れてくれるはずがないと心を閉ざしていた。そんな状態で初めて、人間だと思っているモモンに対して友人になりたいと言っているのだ。その心情に水を差すだろうことにガゼフは納得した。

 

「―――せめてもっと人間の友人が増えてから正体を明かそうと思うんです」

「そうですな・・・」

 

確かにその方がいいとガゼフが頷き、そう言えばと思い出す。

 

「陽光聖典の者達には―――」

「思い出させないでください」

 

今もっとも頭が痛い問題にアインズは突っ伏してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

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闇である。まるで泥の中のような闇のなか、呼ばれたような気がしてニグンは闇の中で目を開いた。あの方が呼んでいる。

闇の中に神の姿が見える。その背には無数の光の翼が―――。

 

 

 

カッ!!

「うひょぁっ?!」

 

死んだニグンを生き返らせるために"蘇生の短杖"を使ったアインズは、勢いよく目をかっぴらいて生き返ったニグンにビビって変な悲鳴を上げた。

びっくりした!心臓止まるかと思った!心臓無いけど!!

 

「も、問題ないか?」

 

目をこれでもかと開いてアインズを凝視したまま動かないニグンに心配になる。そして背後では五体投地している隊員達。問題ないなら今すぐ逃げたい。

 

超位魔法をぶちかました後、一撃で死ななかった悪魔も当然居たので、魔法三重化に<魔法の矢>をこれでもかと詰め込んで、残りの悪魔に放ってやった。単純に魔法の矢は相手を追尾するので弱った悪魔には十分効くと選んだのだが―――、無数の殺到する光の矢に陽光聖典達にはアインズの背中に光の翼が生えて悪魔を滅ぼしたように見えたらしい。

涙を流して跪いてしまった。使う魔法の選択を誤ったと気がついてももう遅い。死んでしまったニグンを生き返らせてさっさと逃げようと<蘇生の短杖>を使ったのだが―――。

 

「―――ス」

「す?」

「スルシャーナさまああぁぁああぁぁああっっ!!!!」

「ほぎゃああっぁああっっ??!!」

 

目をかっぴらいたニグンが凄まじい腹筋力で起きあがった。もはやアインズに場を取り繕う余裕はない。立ち上がったかと思えばすぐさま跪き、イっちゃった目でアインズを見上げている。息が荒いのは生き返ってすぐだからだろう!そうであってくれ!!

 

「おおおっ!!この目で神の御技を見られただけでなく、この愚かな僕の為に御慈悲を頂けるとは!!このニグン!!一生を!いや来世!いいやこの魂がすり切れ滅びようともすべてを御身に捧げますううぅぅぅうううっっ!!」

「お、おち、落ち着け!まず落ち着け!!そんなに興奮するな!!」

 

生き返ってすぐの混乱で、ニグンの理性は遙か彼方に飛んでイっているようだ。跪いたり立ち上がったり落ち着き無く繰り返し、神を賛辞するよくわからない羅列を延々と述べ続けている。息継ぎしているのか心配になるし、何より血走っている目が怖い。

矢継ぎ早にアインズをほめたたえていたと思ったら―――

 

ブチィッ!!

 

―――なんか切れた音がしてニグンが鼻血を吹いてぶっ倒れた。病み上がりに興奮するから血管が切れたようだ。隊員たちが慌てて助け起こしているが、本人の幸せそうなニヤケ顔にアインズは早々に逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「本当は神様じゃないってバレた後が怖い・・・・・・」

「・・・・・・たしかに、あの狂信ぷりは私も些かビビりました」

 

彼らが城に戻ってきたとき、部隊全員が恍惚の表情でぼんやりしていた。ラキュースがあの後どうなったのかと聞くと、ニグンが凄まじくだらしない顔になって不気味に笑うのでなにも聞けなかった。―――代わりにモモンが無事悪魔を掃討した事を報告してくれたからよかったが。

そして救出部隊にいた神官は仲間からなにを聞いたのか・・・、地団駄を踏んで悔しがっていた。

 

「たっち殿のおかげで救出部隊も無事、捕らわれていた民を救い出すことが出来た。・・・しかし、いまだ行方不明者は多い」

 

悪魔に連れて行かれた者は多い。救出されはしたが家族を失い、兵に当たり散らす者も少なくない。心優しい少年兵が目に見えて傷ついて居たのをガゼフは痛ましげに見た。

 

「貴族も何人か消えていたんですよね?」

「ええ、ゴウン殿達がお探しの貴族も行方不明者のリストに有りました」

 

王都に来る目的であった貴族も依頼の品を渡す前に悪魔に襲撃されたらしい。依頼主になんと言えばいいのか・・・、アインズはため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、モモンら漆黒の剣とたっち・みーがこの事件の功労者として、王の御前にてお言葉を賜ることになった。

たっち・みーは異形種であるし、モモン達も王都の冒険者ほど働いた気がしない。アダマンタイト級冒険者を差し置いてと思い辞退したのだが、どうしてもと言われて仕方なく出席した。

 

冒険者達の代表として"魔封じの水晶"を持っていたモモンをとの話だったが、リーダーはペテルだからと言ったら漆黒の剣全員で王の御前に出る羽目になって、緊張でガチガチになったペテル達に恨めしそうに睨まれた。

たっちに関してはやはり正体を貴族連中に知られると厄介なので、人間に化けて受けていた。もちろん制限時間内に謁見を終わらせるようにはしていたのでこれはモモンも助かった。幻術をかけているとはいえ、なにがきっかけでバレるか解らない。

 

褒賞として、漆黒の剣には王から短剣と"魔封じの水晶"の対価としての少なくない白金貨を、たっちは王都での今までの活動も認められ、こちらは白銀の全身鎧と王都での住居を与えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「しかし、今回は王も珍しく強気だったな」

「そうなのか?」

 

謁見が終わり城の廊下を歩いていたガゼフがぽつりと呟き、隣にいたブレインが不思議そうに振り向く。

 

「今回の謁見は貴族達大半から反対意見が出ていたんだ。王国民が国のために戦うのは当たり前、冒険者は金のために戦っただけだと言っていた」

 

普段の王なら、貴族達を刺激しないように謁見を取りやめて褒賞だけを与えるぐらいにしただろうが、それを押し切ったのだ。貴族達の不満の声は大きい。

 

「はぁん?自分たちはさっさと逃げ出した癖にな」

「自分の領地を守る義務が有るから帰還しただけだと言っている。しかも、王の領地は王が守るのが当たり前だと言ってきた」

「・・・・・・お前等も大変だな」

 

哀れそうな目で見てはいるが、ブレインだってこれから人事では無くなるのだ。なんたって、ラナー王女付きになったのだから。

 

「俺は気楽にやらせてもらう。うるさく言うならさっさとやめてやるさ」

 

権力や金に興味はないブレインらしい言葉に、ガゼフは苦笑いをこぼしながらもその自由さに少しうらやましいと感じた。

自分は王のために尽くす。それに後悔はないが、雁字搦めになって動けなくなる事がある。王と国民の為に戦いたいのに、王と国民を守るために戦えない。貴族達を敵に回せばこの王国は真っ二つに割れて滅びる。

ガゼフは動けず涙を飲んだことは何度だってある。

 

しかし、そんなつらさは微塵も見せずにブレインに笑ってみせる。

 

「だからと言って無駄に喧嘩を売るんじゃないぞ」

 

先輩としての忠告をしてやればブレインは気のない返事を返すだけだった。

 

「―――きっとこれから王国も変わる。いや、変わらねばならないんだ」

 

今回の事件で、数多くの犠牲者を出し問題点が浮上した。これを教訓とし、変わらねばならない。それを解っていたから、王はこの謁見を強く押し進めたのだとガゼフは思う。

 

―――しかし、ガゼフの胸中に一滴のシミがあった。先ほど王が別人のように見えたのだ。きっと決意を新たにした王の強い意志がそう感じさせたのだと思うのだが・・・、ガゼフは不安を払拭するように頭を振るとブレインとともに廊下を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

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ちなみに、本当の一番の功労者である陽光聖典達に関しては、貴族達が強く反対するため何もない。元々王国に害を及ぼした特殊部隊なので、こちらは強く押し進める必要もなかったので、ガゼフから王の感謝の言葉が贈られるのみだった。少しばかり申し訳なさもガゼフにはあったのだが・・・

 

「別に貴様等から見返りなどこれっぽっちも求めていない。―――それに我らはすでに神から祝福を頂いているのだ!!余計な事で我らの幸福の余韻を汚してくれるな!」

 

おお神よ!とそれぞれがうっとりと祈りを捧げているので「―――すまん、じゃましたな」とガゼフとブレインはそそくさとその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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モモン達、漆黒の剣が王都を去る日が来た。多くの冒険者やレェブン候が見送りに来ていたが、さすがに王族の見送りは無かった。貴族連中をあまり煽ったら逆にモモン達に迷惑がかかるからだ。

 

結局はアイテムの力だと謙遜しても、モモン達の功績はすばらしいものだと王都の冒険者組合が漆黒の剣を昇格させ、新たなアダマンタイト級冒険者が生まれた。エ・ランテルの組合にはすでに連絡済みだ。

新たなアダマンタイト冒険者とつながりを持ちたい、あやかりたいと多くの冒険者が見送りにやってきたのだ。

 

「みなさんのお力を借りて成れたようなものなので、むしろ恐縮しています」

 

そんな風に言えば、多くの冒険者から好感を持たれまた王都に来たときは奢ってやるなどと肩を叩かれた。

―――あと、ペテルから漆黒の剣のリーダー変更の相談を持ち込まれたが全力で拒否した。自分は人間じゃないからと言うのもあるが、なぜか解らないが責任者はもうやりたくないと魂が叫んでいた。

 

「寂しいですね・・・、また遊びにいらしてください」

 

そう言って手を差し出してきたたっちは王から賜った全身鎧を来ていた。銀色の鎧に赤マントという派手な出で立ちだが、どうしてだかこの人にはしっくりくるとモモンは思う。周りの冒険者達はまさかこの鎧を着ているのが蟲人だとは思ってもみないだろう。

わざわざ見送りに来てくれたのは嬉しいが、ツアレの件があって少々気まずい。

 

 

 

 

 

ニニャの姉ツアレははじめ、たっちの元に残るといったのだが本人が拒否。家族の元にいた方が幸せに成れるからと言い聞かせ、ツアレをモモン達に託した。

ツアレが、たっちを愛しているのだと告白したが、それは勘違いですとすっぱりと否定し、そして私はあなたを愛せないとまで言ったのだ。

 

ツアレが泣き崩れてしまい大変だった。諦めさせるためとはいえ、もう少しソフトに言えないのかと思ったが、「私、既婚者なので」と言われてしまった。―――ああ、それはわずかな希望も持たせちゃいけないな。うん。

 

しかし、見送りは遠慮して欲しかった。馬車にツアレがニニャとともにいるのだ、気まずいだろ。デリカシー無いなこの人!

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼の薔薇のメンバーとも別れの挨拶をした。寂しいのか、イビルアイがなかなか言葉を出せずにモジモジとしていたので、目線を合わせる意味で膝をついてその小さな手を握った。

 

「また会いましょう」

 

小さな子供にするように頭を撫でてやろうと思ったのだが、脱兎の勢いで逃げられてしまって伸ばした手が無意味になってしまった。

―――さすがに子供扱いを怒ったのだろうか?リーダーのラキュースに謝罪したが笑って気にするなと言われた。

 

 

こうして、たくさんの人に見送られてモモン達は王都を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうでしたか、大変でしたね」

 

エ・ランテルに戻ると、雇い主であるデミウルゴスがモモン達を待っていた。本来なら成功報酬を渡すためであるが、届け先が悪魔の襲撃で行方不明で任務失敗の報告を本人にする羽目となった。

 

しかし、デミウルゴスは気にすることもなく、漆黒の剣がアダマンタイトに昇格したことを素直に祝ってくれた。

 

「取引先は残念ですが、物騒な世の中ですからね」

 

代金はすでにもらっていたし、品物もこうして還ってきてこちらに損は全くない。だから依頼を失敗されても特に怒る理由はない。

むしろ大事件に巻き込まれて大変でしたねと、漆黒の剣を労るくらいである。

 

では報酬をと、デミウルゴスが使用人から金貨の入った袋を受け取るのを見て、漆黒の剣は慌てて辞退する。結局は依頼を失敗したのに報酬を受け取るわけにはいかない。しかし、デミウルゴスはそれでは私の気が済みませんのでと、強引に渡されてしまった。

 

「まあ、昇格祝いと思ってください」

 

にっこり笑うデミウルゴスにペテルは恐縮しながら、仕方なく受け取った。

 

「では、預かってました品物です」

 

モモンが懐から出した包みを受け取り、中を確認すると「確かに」とデミウルゴスはテーブルの上に無造作に置いた。

依頼の品を勝手に開くことはないので、ここで初めて運んでいた品物を目にした。それは小さな木箱で、おそらく魔法がかかっていると思われた。

 

「これってどんな品物なんですか?」

「ルクルットっ!」

 

不作法にも依頼の品の詳細を聞くルクルットにニニャが脇を肘で突いて黙らせる。依頼内容にも品物の詳細は極秘と書いてあったのにだ。

しかし、依頼主は気にした風もなく教えてくれた。

 

「ああ、これは通信魔法を無効化させるアイテムですよ」

 

秘密の相談とかで<伝言(メッセージ)>などで外部と連絡を取られたくない時に使いたいとのことで、あまり使い勝手が良くないアイテムに買い手が付いたのだ。本当にただ<伝言(メッセージ)>などの魔法を遮断するだけだし、常に発動状態なので何でそんな物作った?!という謎のマジックアイテムだ。

中身が極秘というのも、秘密裏に設置する予定だったからだが、その相手が居なくなったのでもはや秘密にする必要はない。

 

「使用方法が限定されるアイテムだったので売れてほっとしたんですがねぇ」

 

デミウルゴスの言葉に「ああ、だからモモンさんに伝言(メッセージ)が繋がらなかったのか」と王都での戦闘中の異常に納得した。

陽光聖典達が悪魔を追いつめたようなのに、なぜかモモンに連絡がないと漆黒の剣達は首を傾げたのだ。何か問題があったのかもと、モモンが慌てて現場に向かわなかったら大惨事だった。

 

まあ、何とかなったから良かったとホッとしていたら、―――モモンが慌てたように立ち上がり、断りは入れたが返事も聞かずに退室してしまった。

何事かとルクルットが追いかけるが、走らないのが不思議なくらい焦っているのが見えた。

 

「ど、どうしたよモモンさん」

 

ルクルットが走って追いついた頃にはモモンも止まっていた。何事か見上げるとモモンは鎧を消してアインズになった。

ギョッとして慌てて周りを確認したが、どうやら人の死角になる場所に駆け込んだらしいと理解して肩の力を抜いた。

 

「―――<伝言(メッセージ)>が届かないとか聞いてない!!」

「お、おおう。落ち着きなよモモンさん、王都では危なかったけど大事には・・・」

 

宥めようとしたルクルットはふと、なにか、大事なことを見落としている気がした。アインズがイライラしたように<伝言(メッセージ)>を発動した。いったい誰に―――などとのんきに考えるほどルクルットもバカではない。

 

「ゴブリンメイジ!聞こえるか?!」

<ああ!ゴウンの旦那!!ようやく連絡が付いた!!>

 

カルネ村が何かあったら伝言(メッセージ)を送るよう言っていたゴブリンメイジに繋ぐと、聞き捨てならない言葉を聞いた。

何度か<伝言(メッセージ)>を送ったような様子にアインズはイヤな予感がバリバリだ!!

 

「そちらに何か問題あったか!?」

<ええ、まあ。でも解決しましたんでもう大丈夫ですよ>

 

その言葉にほっとした。まあ、アインズが出張らなければならない案件などそうそうないのだ。多少の問題なら彼らでも解決可能である。

しかし、何があったのだろう?

 

<トロールの奴らが攻めてきて、村の一部が壊れましたがちゃんと撃退しましたんで>

 

アインズは膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「目的は果たせなかったが、まあ王国中枢の掌握は出来たな」

 

座り心地の良いソファに身を沈めて、ウルベルトは天井を見上げた。

悪魔は人間をいたぶることを愉悦と感じる生き物だ。なので人間狩りをしたいから王国の人間を浚ってくると皇帝ジルクニフに言ってあるが、実際はただ一人を浚うための計画だった。

 

冒険者モモン

 

ウルベルトは彼を浚ってそれを元に友人を作り出そうと考えた。しかし、彼だけを浚えば後々面倒だろう。

ジルクニフ、彼はウルベルトの弱みを常に探っている。何とかしてウルベルトを殺したいと思っているだろう。

・・・別にウルベルトはそのことでジルを怒るつもりはない。悪魔の自分を恐れるのは当然であるし、こっちはこっちで利用しかしないつもりで上位者としての余裕をみせている。

しかし、だからといって弱みを握られていい気分にはならない。だからモモンに執着していることをあまりジルに知られたくなかった。

 

「ジルは王国と戦争しているのでしょう?だったらついでに戦力をそいで上げますよ」

 

あくまで気まぐれを装いつつ王都の襲撃を計画し、モモンを王都におびき寄せたのだ。エ・ランテルにしなかったのはジルに疑われないためにあえて避けた。

 

伝言(メッセージ)>を使えないようにし、なおかついつでも居場所が判るようにアイテムを持たせた。届け先に指定した貴族も名前だけ借りただけで、実際は何の取引もしていない。王都の多くの行方不明者に紛れるように浚う計画をしていたのだが・・・、思いがけないことが立て続けに起こったため中止せざるをえなかった。

 

たっち・みーとの再会

超位魔法の使い手の出現

そしておそらく課金アイテムを持っていることから装備も少なくとも神器級の一つや二つつけているだろう。

無理に敵対すればこちらが不利なのは明確、計画を変更する事にした。

今までの即物的な考えを反省し、情報を収集する事にした。自分より強い者の存在や、アイテムの存在を調べ上げ、取り込めそうなら取り込み自身の強化を狙う。そうして、安全を確保してから気兼ねなく遊べばいい。たっちもその頃には人間を見限っているだろう。

 

「王国全体の掌握も時間の問題だな、八本指の頭のすげ替えも終わっているし、俺に逆らう奴は殺せばいい。―――問題は頭がいい奴らだな。アイツ等も出来れば使いたいんだよな。・・・やっぱ人質とるのが一番かな?」

 

帝国もいつ裏切るか判らない。だから王国を乗っ取ることにした。

悪魔にありがちの王様に成り代わって国を征服すれば情報も収集しやすいし、モモンやたっちの居場所も把握しやすい。

 

「とりあえず絶対王政にしなきゃな。逆らう貴族は八本指に始末させればいいとして、・・・ザナック、レェブン、あとラナーかな?第一王子はまあ脳筋だからどうとでもなるし、アイツ等さえ押さえれば大丈夫だろう」

 

よっこいせとおっさんくさく立ち上がると、これからの計画に頭を悩ませる。

 

「こういうとき、頭いい奴らの助言が欲しいよなぁ。・・・たっちもいたし、他の奴らも来てないかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、王国は凄まじい勢いで改革がなされた。

王に逆らう貴族は尽く粛正され、反旗を翻した貴族は逆賊として王国軍に蹂躙され、鳴りを潜めてしまった。

貴族の率いた兵の大半は領主に不満を持つ農民のため、尽く王国側に寝返ってしまう。褒賞も何もなく、ただ自分のために死ねと言われれば離反するのは当たり前である。そこらへんはレェブン候の間者がそそのかしたのも効果が出ていた。

 

新しい領主はウルベルトが媒体を使って召喚した悪魔達が就任した。頭はよろしくないが、反旗を翻すようなことはないので安心である。

 

王様に成り代わったウルベルトは悪の王様らしく、国民に重税を敷くことにする。生かさず殺さずのギリギリのラインを見極めて、国民達を苦しめた―――つもりでいた。

 

「領主が変わってから税が軽くなったねぇ」

「ああ、王様はすばらしい方だ」

 

最近の領民はもっぱらそんな会話をしている。それはなぜかと言えば、今までの領主は領民を人だとは思っておらず、搾り取れるだけ搾り取ることしか考えていないバカだった。払えないなら死ね。とか普通にいうバカだった。黄金の卵を生む鶏を殺すようなバカより、死なないよう最低限のラインを作った王様扮するウルベルトは領民にはいい支配者だ。

 

悪魔の新領主も主人に隠れて賄賂を受け取るようなことはしない。

人間の領主は国に報告しているより多くの税を穫って、懐にため込んでいたのだ。なので、前よりずっと軽い税金に虐げられていた領民達は涙を流して感謝していた。―――それを悪魔領主達は涙を流して苦しんでいると勘違いし主人に報告していた。

 

逆に王国領は前より重い税に不満顔だが、周辺の領民達の現状を見れば仕方がないかと納得するしかない。むしろ、貴族の反発が無くなって王国内の環境が急速に整っていくのだ。資金が足りないくらいだろうと心配になる。

それでも酒の席では税が重いとグチをこぼすが、うちの母ちゃん口うるさくて程度の軽口である。・・・それを影で聞いていたシャドウデーモンが、主人の圧制で人間どもは苦しんでいるようですと報告する。

 

「ふふふ、我ながらあくどい王様じゃないか」

 

部下の報告にご満悦な悪魔。

 

 

 

―――王国は平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 




時に人間は悪魔より非道だったりする。ゆえに悪魔のほうがマシだったという事態もある。

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