記憶喪失の神様   作:桜朔@朱樺

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スライム討伐

 

 

 

 

 

 

スライム討伐の依頼が来た。なんでも数々の冒険者が討伐に乗り出すも悉く返り討ちに会うので、さすがに討伐対象のランクを上げたらしい。

特に急ぎでもないが、上位種スライムを放っておくのもどうかと思い、スライム討伐の依頼を受けた漆黒の剣は、スライムの出現場所に到着した。

 

「では私をおとりにスライムをおびき出しましょう」

 

今のところ人的被害は出ていないが、スライムの酸はかなり強力だ。防御が薄いと全身がただれてしまうので、全身鎧のモモンが一番適任である。

とりあえず、ほてほてと周囲を歩き回るが特に襲ってくる様子はないので無差別に旅人を襲っているわけではないらしい。

やっぱりじめぇっとした場所に潜んでいるのかなと、石の裏をひっくり返して覗いたり、藪の中を覗いたりして探す。しかし、ふと顔を上げると風通しのいい木陰に、なにやら草のドームが出来ていた。自然に出来た物ではなく、なにかしらの手を加えられているのは明らかだっだ。子供が作った秘密基地のような場所をのぞき込むと、それほど広くはない室内には家具のような不格好な固まりや枯れ草のベッドがあった。何とも人間くさい住処だなぁと覗いていたら、・・・目があった。

 

「オロロロロロ~~~~~ンッッッ!!!」

「キャーッ!!」

 

思いのほか近くにいて威嚇らしき声を上げるスライムにびっくりして、モモンは高い声を上げてしまった。恥ずかしい、不幸中の幸いは"漆黒の剣"が離れていて声が聞こえていないことだろう。

 

「ごほっごほっ!ん、お"お"っし!!」

 

誤魔化すように野太い声を上げて距離を取ると剣を構える。隠れていた"漆黒の剣"も酸軽減の盾を持ってモモンの後ろに立つ。と、住処からスライムがヌッタリと出てきた。―――なんというか、くたびれたサラリーマンのように見えるのは気のせいだろうか?

チラッとモモン達を見上げると深くため息を付いた。と、思ったら潰れたような体を持ち上げて立ち上がると、まるでパンプアップのように肉体が盛り上がりモモンを見下げるような巨体となった。

 

「オ"オ"オ"オオオオッッッッッツ!!!」

 

ペテル達はその巨体に腰が引けたがモモンは動揺しない。スライムはただモモン達を見つめるだけで特に攻撃はせずに威嚇だけしている。そのことにモモンは首を倒してスライムを見上げた。

 

(もしかして、攻撃しない限りは攻撃してこないのかな?)

 

どうしようか、モモンは悩んだ。考えてみれば人に危害を加えていない相手を殺すのも気が引ける。

モモンは見上げるほど巨大になったスライムを前にして、剣を地面に捨てた。"漆黒の剣"が驚いているが手を振って大丈夫だと示した。

 

「―――此方の言葉は解るだろうか?平和的に解決したいと思っているのだが」

 

モモンの言葉にスライムは威嚇の声をやめしばらく無言でいると、見上げるほどだった体がシュルシュルと縮み、モモンと同じくらいの大きさとなった。

話をするなら相手と同じ目線で、社会人の常識である。常識的なスライムは懐疑的な目をしながらも口を開く。意外と流暢にしゃべれるようだ。

 

「平和的に解決してもらえるのなら放って置いて欲しいのだけれど」

「貴方は有名になりすぎだから少し難しいかと」

「・・・・・・だよな~」

 

ベシャリと地面に潰れるスライムはとてもお疲れのようだ。ためしに何故人間を襲っているのか聞いてみた。

 

「そりゃ自分の身を護るためだよ。最初はただのスライムと侮っておもしろ半分に攻撃してくるから頭来てね。高そうな剣をダメにしてやったんだ」

 

どこかのバカ貴族だったんだろうな。ベソかいて喚いていたよ。そんで討伐隊を連れて戻ってきたんだけど、装備一式全部溶かしてやったらしっぽを巻いて逃げていったんだ。その後は冒険者がひっきりなしにやってくるようになっちゃって・・・、あんまり人を攻撃したくないから高価な武器や防具を目の前で溶かして戦意喪失させて追い払ってたんだよ。

 

「―――でも、そろそろ静かに暮らしたいんだよねぇ」

 

ため息を付くスライムに、モモンは同情する。どう考えてもこのスライムは悪くない。話を聞いていた"漆黒の剣"も眉をしかめている。「これだから豚は」と不穏な声が聞こえた気がしたが空耳だろう。うん。

 

 

 

****

 

 

 

 

モモンはスライムをトブの大森林に放すことにした。ここなら人間は近寄らないし、危険なモンスターもいない。・・・ハムスケには襲わないよう言っておこう。

組合にはスライムは別の土地に移動したらしいと報告したので、スライム討伐の依頼も暫くすれば破棄されるだろう。

 

「わざわざこんなところまで連れてきて貰って、なんとお礼を言えばいいか・・・」

「いえいえ、けど本当に森でいいんですか?よければ村に住むことも出来ますが」

「そこまでは甘えられませんし、それに静かな場所でゆっくりと寝たいんですよ」

 

眠そうにみえる顔だと思ったら本当に眠かったらしい。ユラユラと左右に揺れている姿は残業、徹夜続きのくたびれたサラリーマンと重なる。なんだかモモンの胸にくる姿だ。すごく労りたい欲求が出て来て、マッサージでもして上げたい気分になるが、どこが筋肉なのか判別できず諦める。

 

「ああ、そうだ。自己紹介してませんでした。私ヘロヘロといいます」

「モモンです。何か困ったら森の南にあるカルネ村まで訪ねてくださいね」

「モモンさんは優しいですね。じゃあいつかお礼をしに伺います」

 

ペコリと頭を下げたヘロヘロは体を引きずるようにフラフラと森の中に消えていった。

 

「すいません、無駄骨になってしまって・・・」

「いいんですよ。スライムさんだってそんな悪い人じゃなかったんですから」

「ウム、モンスターだからと無闇に討伐するものではないと勉強になったのである」

「というか、悪いのはバカな豚ですから。モモンさんやスライムさんは全然悪くありませんよ」

 

ちょくちょくニニャが黒い気がするが、なんなんだろう?

 

「そーなると、ローレライって奴もそんなに悪い奴じゃないのかもな。こっちも人に危害を与えてないわけだし」

「いや、どう聞いても追いはぎですけど・・・。こっちは情報がほとんどないので依頼が来たとしても気は進まないんですよね」

 

軽く見て痛い目には会いたくないと言えば、"漆黒の剣"は苦笑いする。

 

「モモンさん程の人に痛い目を合わせる奴なんていないと思いますけどね」

「わかりませんよ?天使系のモンスターかもしれませんし」

「天使が追いはぎってシュールだけどな」

 

まあ、モモンが嫌がるのなら強く言うつもりはない"漆黒の剣"はじゃあしばらくは依頼なしでゆっくりしましょうと、エ・ランテルへの帰路についた。


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