この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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第六話

俺たちがギルド内に戻ると、酒場の方はアクアが宴会芸を披露して賑わっていたが

戻ってきた俺たちに気が付き、アクアたちが寄ってくる

 

「ちょっとどこ行ってたのよ。って、その人どうしたの?」

 

アクアは俺とカズマの後ろで泣いているクリスについて聞いてきた

 

俺が説明しようとすると、先にダクネスが口を開いた

 

「クリスはカズマに盗賊のスキルを教える際に、パンツを剥がれた上に有り金の半分を毟り取られ、落ち込んでいるだけだ」

 

「おい、何口走ってんだ!!」

 

……間違っては無いんだよな

カズマはパンツの値段くらい自分でつけろと脅したのだ

 

「パンツ返すだけじゃダメだって

 じゃあいくらでも払うからパンツ返してって頼んだら

 『自分のパンツの値段は自分で決めろ』って!」

 

「待てよ!おい待て!…間違ってないけど、ちょっと待て!!」

 

この時点でアクアとめぐみんの顔がかなり引きつった感じになっている

クリスはカズマの静止を無視し、泣きながら話を続ける

 

「さもないと、もれなくこのパンツは、我が家の家宝として奉られる事になるって!!」

 

「ちょっ!なんかすでに、周りの女性冒険者達の目まで冷たいものになってるから!

 本当に待てって!」

 

「ツバサさんが説得してくれたおかげで半値で済んだけど、もう少しで全財産毟り取られるところだったよっ!!」

 

「本当に待って!調子に乗ってすみませんでした!もう勘弁してください!」

 

パンツを素直に返さなかった仕打ちで、散々いじり倒された挙句

女性冒険者からは軽蔑の眼差しを、男性冒険者からは(ある意味)勇者扱いされるとは

カズマも災難だったな、まぁ自業自得だから文句は言えないだろうがな

 

「ところでカズマは、無事に盗賊スキルを覚えられたのですか?」

 

クリスによる大ダメージを食らったカズマに、めぐみんが問いかけた

 

「ふふ、まあ見てろよ?行くぜ、スティールっ!」

 

カズマはめぐみんの問いに対し右手を突き出してスキルを発動させる

 

その直後、めぐみんの顔が紅潮し始め、顔を伏せてしまった

 

まさかと思いカズマの方を見ると、案の定その手には黒い逆三角形の物体が存在した

 

「……なんですか?レベル上がってステータス上がったから、冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?」

 

なぜランダムのハズの窃盗スキルで、ピンポイントでパンツを取れるんだ

これはもう変態の称号は待ったなしだな

 

慌ててめぐみんにパンツを返しているが、ギルド内にいる女性陣からの視線が更に冷たいものになっている

 

ついでに言ってしまえば、ダクネスが興奮気味にめぐみんを庇い、自分をパーティに入れてくれと、どさくさ紛れに言っていたが

 

「いらない」

 

と、カズマがあきれ顔で即答すると、ダクネスは身を悶えさせていた

これはもうアレだ、真正のドMだな…

 

「ねぇカズマ、この人、昨日言ってた私とめぐみんがお風呂に言ってる間に面接に来たって人?」

 

カズマは無言でうなずき、立ち話と言うのもアレだからと、酒場の方へ向かっていった

 

俺はカズマのパーティとは関係ないので、とりあえずクエストでも受けようかとクエストボードの方へと向かった

 

そして俺がどのクエストを受けるか悩んでいる中、それは突然起こった

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急正門に集まってください!繰り返します、冒険者の各員は、至急正門に集まってください!』

 

大音量で流れるアナウンスを聞いて、ギルド内に居た冒険者たちが次々と正門に向かいだす

俺もその冒険者達に交じって正門へと向かった

 

「ツバサ!」

 

正門に到着して少したってからカズマ達も到着した

 

「一体何が来るんだ!?」

 

「俺も知らねぇよ、緊急クエストなんて初めてだからな」

 

「皆は私が守る」

 

今までのダクネスからは想像もできない真面目な顔でそう言ってきた

 

「カズマも私から離れないで」

 

……これはマジなヤツかもしれないな、気合い入れないと

 

「緊急クエストってモンスターの襲撃なのか!?」

 

カズマもダクネスの真面目具合にただ事ではないと感じたのか、緊張が走っている

 

「あ、言ってなかったっけ。キャベツよキャベツ」

 

が、その雰囲気をアクアの一言がぶち壊してくれた

 

「「は?キャベツ?」」

 

アクアの言葉に戸惑っていると、周囲の冒険者達が一斉に叫んだ

 

『収穫だー!!!』

 

「マヨネーズ持ってこーい!」

 

なんか俺とカズマ以外ものすごいノリノリなんだけど

 

…キャベツの収穫って何?

 

謎のノリに付いて行けない中、遠くの方を見てみると緑色の大群が近づいてきていた

 

「な、なんだアレ…」

 

アクアの説明をまとめると

 

この世界のキャベツは飛ぶ

味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかとばかりに街や草原を疾走する

キャベツは大陸を渡り海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取る

それならば、一玉でも多く捕まえておいしく食べてあげようって事だった

 

今現在俺の目の前では多くの冒険者達がキャベツを次々攻撃して捕獲?している

 

「えっと、じゃあ俺も参加してみるか。一玉一万エリスらしいし、他の冒険者よりも多く捕まえれば一攫千金のチャンスだしな」

 

そう考えればやる気は出てきた

RPGゲームで言うところのボーナスステージみたいなものだろう

 

序盤のボーナスはヌルゲーの原因にもなるが、ここはゲーム世界じゃなく現実だ

金が入るのなら全力で挑むのみ!

 

俺はキャベツの大群の中へと向かって走り出し、テン・コマンドメンツを構える

 

「行くぜ音速の剣!シルファリオンっ!!」

 

俺は剣を音速の形態へ変化させ次々とキャベツを打ち落としていく

斬ってもいいが、値段が下がられても困る

 

「ハアァァァ!!」

 

俺の後方からダクネスも突っ込んできた

が、ダクネスの剣が全く当たっていないのは気のせいだろうか…

 

カズマには悪いが、カズマのパーティに入らなくてよかったと思う

こんなに使えない奴らばかりのパーティなんて御免だ

足を引っ張られて、ロクなクエストに行けなくなる

 

ウィズの店に居候させてもらっている俺は、クエストの報酬の一部をウィズの借金の一部に勝手に当てさせてもらっている

初めは断られたが、居候代として、強引に受け取ってもらっている

 

「ぐわっ!」

「がふっ!」

 

周りの冒険者がキャベツに吹き飛ばされ始めた

 

心なしか、キャベツの数が増えた気がする

 

「危ないっ!」

 

ダクネスがキャベツにやられ倒れてしまった冒険者を庇い始めた

だがキャベツはそんな事はお構いなしに、次々とダクネスに襲い掛かる

 

キャベツの攻撃にダクネスの鎧は徐々に失われていく

そんな光景を他の冒険者達は心配そうに見ていたが、俺とカズマだけは例外で

ダクネスが喜んでいる事に気が付いている

 

なぜ喜んでいるのかは考えたくないが容易に想像がつく……

 

そんな中、冒険者達に紛れて一人の少女が杖を構え詠唱しだした

 

「っておい、あれってまさか」

 

俺は嫌な予感がし、念のため千里眼スキルを使いその人物を確認する

 

「……やっぱめぐみんだよな、ってことはここに居たら危険だ!」

 

俺がいるのはキャベツ大群のど真ん中

因みにダクネス達が近くにいる

 

つまりこの状況下で爆裂魔法を撃たれたら、俺もダクネスも、庇われている冒険者共々

爆裂魔法の餌食になってしまう

 

「おいダクネス!めぐみんが爆裂魔法を撃つ体制に入った!今すぐ離脱しろ!」

 

「なにっ!?この状況で爆裂魔法に巻き込まれるなんて、どんなご褒美だ!!」

 

折角人が忠告してやったのにご褒美扱いかよ!どこまで変態なんだ、見たことねぇぞ!

 

えぇいもう知るか、俺は逃げる!

 

シルファリオンの特徴を利用し、キャベツを薙ぎ払いながら爆裂魔法の範囲外へと離脱する

直後背後で凄まじい爆音が鳴り響き、後ろを見ると巨大なクレーターが出来上がっていた

 

……ダクネスはともかく、爆裂魔法に巻き込まれた冒険者さん、ご愁傷様です

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

緊急クエスト終了後、冒険者達はギルドの酒場で大量のキャベツ料理を振る舞われていた

 

「納得いかねぇ、何故たかがキャベツの野菜炒めがこんなに美味いんだ」

 

俺の隣でカズマが愚痴をこぼした

 

「知るかよ、自分で収穫したからじゃないのか?てかなんで俺はお前らのパーティと飯食ってんだよ」

 

最近こんなことが多くなってきた感じがする

 

「あなた、さすがクルセイダーね。あの鉄壁の守りはさすがのキャベツ達も攻めあぐねていたわ」

 

「いや、私などただ固いだけの女だ。誰かの壁になって守る事しか取り柄が無い。」

 

「アクアの花鳥風月も見事な物でした。冒険者の皆さんの士気を高めつつ、収穫したキャベツの鮮度を冷水で保つとは」

 

そういやアクアがちょくちょく、キャベツの檻の方に行ってたりしたな

 

「まぁね。皆を癒すアークプリーストとしては当然よね」

 

「めぐみんの魔法も凄まじかったぞ。キャベツの群れを一撃で吹き飛ばしていたではないか」

 

「ふふん、紅魔の血の力思い知りましたか」

 

「ああ、あんな火力の直撃食らったことはない」

 

「忠告してやったのにその場にとどまったからな」

 

「それにしてもツバサ、その不思議な剣はどこで手に入れたんだ?」

 

やっぱダクネスもコイツが気になるか

 

「この剣はこの街の鍛冶屋に造ってもらったものだよ」

 

「なに!?この街にはそんな不思議な剣が造れる職人がいるのか!!」

 

しまった勘違いさせてしまった

 

「こいつはただの鉄の剣だよ。形態変化したのは、ここに嵌め込まれてる宝石の力だ。

 この街に来る前にとある人に貰ったんだよ」

 

「前は爆発する剣を使っていましたが、今回はどんな剣に変化したんですか?」

 

めぐみんも興味津々に聞いてくる

爆発の剣を使わなければ機嫌はいいのか

 

「今回使ったのは音速の剣、一撃の威力はないが高速で攻撃する事ができるようになるんだ」

 

『おぉ~』

 

ホントにみんな興味津々だな

 

「ツバサもすごかったけど、カズマも中々のものだったわよ」

 

「確かに、潜伏スキルで気配を消して、背後からスティールで強襲する

 その姿はまるで鮮やかな暗殺者のごとしでした」

 

話はカズマの方に移る

確かにあの動きは中々真似できるものではなかったな

 

まぁ、俺もカズマを真似して相当な数のキャベツを収穫したんだがな

 

「カズマ、私から『華麗なるキャベツ泥棒』の称号を授けてあげるわ」

 

「やかましいわ!ああもう!どうしてこうなった!」

 

カズマは頭を抱え、テーブルに突っ伏した

 

「では改めて、名はダクネス。一応両手剣を使ってはいるが、戦力は期待しないでくれ。なにせ、不器用過ぎて攻撃がほとんど当たらん

 だが、壁になるのは大得意だ!」

 

「ウチのパーティもなかなか豪華な顔触れになってきたじゃない

 アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみん。そして、クルセイダーのダクネス

 五人中三人が上級職なんてパーティ、そうそう無いわよ」

 

「おい、ちょっと待て

 前にも言ったが、俺はパーティを組む気なんてない。勝手に入れるんじゃねぇ」

 

「なによ、このパーティのどこに不満があるっていうのよ!」

 

不満しかないんだが……

 

「とにかく、時々はパーティに加わって手助けはしてやるが、メインで組む気はない

 じゃあまたな」

 

俺は強引に話を切り上げ、魔道具店へと帰る

 

「ただいまウィズ」

 

「あ、お帰りなさいツバサさん」

 

ウィズは店の掃除をしていたようだ

 

「あのツバサさん」

 

俺が部屋に戻ろうとすると、ウィズに呼び止められた

 

「なんだ?店の手伝いならまたしばらく入れるぞ」

 

「それはとても助かるんですが、ちょっと別の要件がありまして」

 

ウィズが俺に店の手伝い以外の頼み事なんて珍しいな

まさか金を貸してくれとかじゃないよな

俺があれこれ監s………管理し始めてから赤字は減ったと思うが

まぁ偶に、とんでもない物を大量発注して、赤字になることもあるが

 

「今度一緒に、街の外れにある墓地まで付いて来て欲しいのですが」

 

「墓地に?」

 

なんだってそんなところに用が、家族の墓参りとかか?

でもなんで俺と

 

「出かける時にまた声をかけますから」

 

「ああ、分かった。俺はいつでも構わないぞ」

 

この時は軽い気持ちで了承したが、あんな衝撃的な出来事が待っているとは思わなかった


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