この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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第二十四話

「『メルフォース』!」

 

俺はTCM第6の剣を使い、複数のリザードランナーを吹き飛ばした

 

「今だゆんゆん!」

 

「了解です!『エナジー・イグニッション』!」

 

吹き飛ばされ倒れ込んだリザードランナーの体が発火し、青白い業火に包まれ消滅した

 

「こんだけ数が多いと辛いな」

 

「姫様ランナーだけ倒せたらいいんですけど」

 

俺とゆんゆんはリザードランナーの群れを見る

 

他のリザードランナーがやられたというのに、まるで気にせず

王様ランナーになる為に、頑張って走っていた

 

「まったく、カズマ達のせいで姫様ランナーの討伐が難しくなったじゃねぇか」

 

今回の標的である姫様ランナーを狙うには、王様が不在になり凶暴化したリザードランナーが邪魔で、先にオスのリザードランナーをどうにかするしかない

 

「ゆんゆんの魔法で一掃できないか?」

 

「流石にあの速度で動いてる敵を一掃するのは難しいです。下手をしたら他のリザードランナーの怒りを買いますよ」

 

それはそれで困るな、さっきのカズマの様になるのか

 

さっきカズマが狙撃スキルを使って王様を打ち抜いたところ、リザードランナー達はより凶暴になってしまったのだ

 

今はカズマ達のところで暴走してるから、こっちに被害は無いが

下手をすると俺とゆんゆんが危なくなるのか

 

「――狙撃ッ!!」

 

俺とゆんゆんがどう攻略するか考えていると

凶暴化したリザードランナーから逃げる為に木の上にいたカズマが、2回目の狙撃を行い

姫様ランナーの眉間を打ち抜いて、今度こそとどめを刺した

 

「おおっ!やったなカズマ!」

 

と、そう思ったのもつかの間

 

木の上にいたカズマを蹴り落そうと、姫様がジャンプしたところを打ち落としたため

姫様の体が、そのままの勢いで木の幹に激突し

 

その振動でカズマがバランスを崩し落下した

 

「「あっ」」

 

その光景を見た俺とゆんゆんの口から自然と声がこぼれた

 

落下したカズマは、リーザードランナーの上に落ちたと思ったが

リザードランナーの群れの中から、ゴキン!という嫌な音が聞こえてきた

 

あ、リザードランナー達が避けたんだな

 

俺は冷静にカズマが首の骨を折って死んだ事を予想し

 

めぐみんの叫び声が聞こえてきて、予想は確信に変わった

 

「よし、カズマはアクアが蘇生するだろうから、俺達は帰るか」

 

「ええっ!?良いんですか!?」

 

俺の言葉を聞いたゆんゆんが驚きの声を上げ

 

「さぁ、姫様倒したからクエスト完了だー。さっさと帰ろう」

 

俺はカズマの蘇生を見届けずに帰った

 

因みに冒頭でメルフォースを使っていたことから分かる通り、俺のレベルは25を超え

現在は28まで上がっている

 

もう少しでアラシが使っていたグラビティコアが使えるようになる

 

重力の剣が使えるようになるのは良いが、アレがどんな効果を持つ剣だったのか

未だに思い出せないでいる

 

『汝の記憶の欠落について聞きたい事があればいつでも相談に来るがよい』

 

バニルは確かにそう言っていた

記憶の欠落、これは確実にレイヴの事だろう

 

見通す悪魔恐るべしってか?

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

リザードランナー討伐から数日後

 

「ツバサ!一緒に温泉旅行に行かないか?」

 

「温泉旅行?」

 

突然カズマに温泉に誘われた

 

これが日本ならまず間違いなく飛びついた話題だが、家にはアクアが引いてくれた温泉がある(浄化されなくて本当に助かった…

 

まぁそれとは別に、この世界で突然誘われると警戒の方が先に出てきてしまう

 

「温泉旅行ってどこに行くんだよ」

 

「確かアルカンレティアって言ったかな?」

 

「アルカンレティア!?」

 

庭でめぐみんと一緒に、戯れるレウスとちょむすけを眺めていたゆんゆんが都市名を聞いた瞬間、声を上げた

 

「知ってるのか?」

 

「は、はい……」

 

弱々しい返事が返って来たな

何か嫌な事でもあったのかもしれない

 

「しかし温泉か…」

 

正直なとこ、かなり気になっている

 

いや、気になっているというよりも行きたい!

湯に浸かりながら酒を飲みたい!

 

「よし、折角だから行こうか」

 

こうして俺とゆんゆんも温泉旅行に行くことが決まった

 

そしてその夜、ゆんゆんに以前アルカンレティアに行った際の話を聞いて

少し行く気を無くしたが、アクシズ教に注意しておけばどうにかなるだろう結論に至った

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

翌日、ガタゴトとアルカンレティア行きの馬車に揺られ、随分と時間が過ぎた

街から離れるのはこれが2度目になるが、馬車の移動にはなれそうにもない

 

見慣れない景色を見ながら、俺は微睡の中にいた

 

眠らないようどうにか耐え、馬車の中を見渡す

 

馬車の中にいるのは俺とゆんゆんと他の冒険者と旅行者がいる

各々好きなように過ごしているが、冒険者だけは何が起きてもいいようにと警戒を解いていない

 

ゆんゆんはレウスと遊んでいるから警戒そのものをしてなさそうだな

 

俺は分かってはいるんだが、こうも暇だと警戒の方に集中も出来ない

 

これは旅行者に頼んで馬車を代わってもらえばよかったな

 

今カズマ達が乗っている馬車は一つ前だ

窓から確認すると、荷台の方にアクアが乗っている

 

「キュキュイ」

 

暇していた俺の袖を引っ張って来た

 

「ん、どうした?」

 

「一緒に遊びたいみたいですね」

 

「キュル!」

 

「遊ぶって言ったってなぁ」

 

この狭い馬車の中で何をして遊べというのか

 

「全く呑気なもんだな」

 

正面に座っていた冒険者が突然声を上げた

 

「いつ人に牙をむくか分からないワイバーンを、ケージにも入れずに連れまわすなんて正気とは思えない」

 

「好きなように言えばいいさ。ただしコイツに手を出すようなら、無事でいられると思うなよ?」

 

軽い権勢をしただけで冒険者は黙り込んでしまった

 

おそらく口論になって争いになるのを避けたのだろう

他の旅行者もいる事だしな、賢い判断だ

 

その後、ゆんゆんと一緒にレウスの相手や旅行者との会話を楽しんでいたが

窓の外に、こちらに向かってくる土煙を見つけた

 

「おい、アレなんか近づいてきてないか?」

 

俺の言葉に、冒険者とゆんゆんが窓の外を見る

 

「アレは『走り鷹鳶』ですね」

 

なんだそのダジャレみたいな名前……

一体誰が付けたんだよ

 

リザードランナー同様に、今が繁殖期だという走り鷹鳶は

硬度の高いものを探して回り、それに自ら突っ込みギリギリで躱す習性を持つとの事らしいが

 

御者に話を聞く限り、アダマンタイトみたいに凄まじい硬度を誇る鉱石が無い限り

馬車に向かって来るなんてありえない事だと言った

 

………固いものか

 

俺は一つ前の馬車を凝視した

 

確かデュラハンに斬られても平気な奴がいたな……

 

そんな事を考えていると、突然馬車が止まり

前の馬車からカズマが飛び出すのが見えた

 

「冒険者の先生方!お願いします!」

 

御者の誰かの合図で、俺の目の前に座っていた冒険者が武器を手に飛び出した

 

俺も戦闘に参加しようかと思ったが、これはカズマの仲間が招いたことなので

今回ばかりは観戦させてもらう事にした

 

「あの、ツバサさん。私達は行かなくていいんですか?」

 

全く動こうとしない俺を見て疑問に思ったのか、ゆんゆんがそう言って来た

 

「どうせあの走り鷹鳶って奴はダクネス狙いだろうから。ここはカズマがどうにかするだろ」

 

「どうにかするって言ったって……あ、馬車が動き出しましたね」

 

カズマの乗っている馬車が、何故かバインドを食らったダクネスを引きずりながら走り出した

 

「おいおっさん、あの馬車はどこに向かう気なんだ?あの方向には何がある」

 

「いや、どこに行くのか俺には分からねぇが。あの方向は確か、雨宿りに使う洞窟があった筈だ」

 

チキンレースを好む走り鷹鳶と今回の標的であるダクネス、それに洞窟か

 

「……流石カズマだ、面白い事を考えるな。おっさん、俺達も走り鷹鳶の後を追ってあの馬車を追ってくれ」

 

「え!?いや、それは構わんが、なんでそんなに楽しそうなんだ?」

 

どうも無意識の内に、この状況を楽しんでいたようだ

今後は注意しないとな

 

「ピィーヒョロロロローッ!」

 

最後尾を走っていた走り鷹鳶が甲高い鳴き声を上げながら目の前を通過していった

 

なるほど、それで鳶か

さっきから疑問だった謎が解けてスッキリした

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

走り鷹鳶の討伐後、日も暮れてきたと言う事で野営する事となった

 

俺は少し離れたところにいるが、カズマ達は走り鷹鳶撃退で活躍した為、歓待されていた

 

「ツバサさんはカズマさん達のところに行かないんですか?」

 

「俺はああいうのが苦手だから良いんだよ」

 

ゆんゆんが俺の分の食事を持って来てくれた

 

で、何故かそのまま、俺の隣に座って食事しだした

 

「別にゆんゆんも此処で食べなくて良いんだぞ?」

 

「向こうにいても、誰も話し掛けてくれなさそうなので…」

 

「………」

 

なんかスマン

ゆんゆんが人見知りでボッチだと言う事をすっかり忘れてた

 

結局ゆんゆんは俺の傍から離れず、寝るまで色々な話に付き合わされた

 

そして深夜

 

敵感知スキルの反応で目が覚めた

 

火山地帯から戻る時に野営していた時の経験で、野営時には敵感知スキルを発動させている

まぁ眠りは浅くなるが、死なないよりはましだろう

 

……数が多いな

 

何かの群れがここに向かっている

 

「おいカズマ、起きろ」

 

「ん?なんだよツバサ」

 

「みんなを起こすぞ。何かの群れが近づいて来てる」

 

俺の言葉を聞き、カズマも敵感知スキルを使ったのだろう

軽く驚きの声を上げた

 

そして俺とカズマで皆を起こし、何が近くにいるのか確認するために

松明をバリケード状に並べられた馬車の向こう側を照らすと

 

ところどころ腐って肉が崩れ落ちている、メジャーアンデッドモンスターのゾンビだった

 

「「「なああああああーっ!」」」

 

暗闇の中、明りに照らされたゾンビはかなりのインパクトを持っており、それを見た全員が悲鳴を上げた

 

カズマは大急ぎでアクアを探し出すが

 

「わあああああーっ!何事!?なんで私、目が覚めたらアンデッドにたかられてるの!?カズマさーん!カズマさーん!!」

 

カズマが見つけて起こすよりも先に、馬車を背もたれにして寝ていたアクアが悲鳴を上げた

 

あぁ、なるほど

今回はアクアが原因だったか

 

俺はアンデッドにたかられているアクアを見て、今の状況の原因を理解した

 

「私の寝込みを襲うなんて、やってくれるわねアンデッド!迷える魂達よ、眠りなさい!『ターンアンデッド』ー!」

 

アクアが叫び、広い範囲に暖かな白い光が広がるのと同時に

 

「ウィズ、そこを動くなよ!『ルーンセイブ』!!」

 

俺はウィズを庇う様に前に立つと、アクアの魔法がウィズに及ばないようルーンセイブを使って魔法を斬り裂いた

 

そう時間も掛からずアンデッドの浄化が終わったらしく、アクアの魔法はすぐに解けた

 

「ありがとうございますツバサさん」

 

「お礼は良いって、ウィズ」

 

俺は商隊の人がカズマに頭を下げているのを横目で見つつ、寝床に戻った

 

明日には目的地であるアルカンレティアに到着するそうだ

 

この疲れも、のんびり温泉に浸かって癒したいものだ…




アニメオリジナルの仲良くなれる水晶の話もこの作品にいれようか検討中です

てか、『ライト・オブ・セイバー』だけじゃなくて『エナジー・イグニッション』もアニメで見たかった

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