この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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第二十三話

「おぉ、ここは間違いなく俺の住んでた街だっ!!」

 

俺は今、日本へ帰ってきている

 

「なんだよツバサ、俺達同じ街に住んでたのかよ」

 

「そう言えばお互い、どこに住んでたとか話さなかったしな」

 

俺達は懐かしむように笑い合う

 

因みにアクア・めぐみん・ダクネス・ゆんゆんもいる

レウスは可哀想だが留守番だ

 

飛竜だしな、日本に連れてきたらどんな危険な事が起こるか分からない

 

「ツバサさん!アレなんですか!?」

 

何か珍しいものでも見つけたのか、ゆんゆんが俺の袖を引っ張りながら指さした

 

その先にあったものは、今の時代じゃもうほとんど目にする事がなくなった電話ボックスだった

 

「透明の箱の中で人が緑の箱に何か話してますけど」

 

「アレは電話って言って、遠くの人と話ができるんだよ。ただし、相手側も電話を持ってることが条件だがな」

 

「遠くの人と会話ができる何て便利なアイテムですね。私も欲しいなぁ」

 

めぐみんと何時でも会話出来たらなとでも思っているのだろう

 

俺は隣で珍しいものを見てはしゃいでいるゆんゆんと、目を離した瞬間にどこへ行ってしまうか分からないカズマのパーティメンバーを見ながら

日本へ帰ってくる事となった発端を思い出していた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「異世界へ行けるアイテム?」

 

「うむ!またもうちのポンコツ店主が妙な物を仕入れてしまってな。こうして我輩が自ら売り込みに出向いて来たという訳だ」

 

朝早くにバニルが俺の家に訪ねてきたかと思ったら、商品の売り込みとはな

まぁ話を聞くために家に上げた俺もどうかと思うが…

 

「異世界ねぇ」

 

俺はちゃぶ台の上に置かれた小さな箱を凝視した

 

「あまり興味なさげな反応だな」

 

ニヤニヤと俺の様子を見ているコイツは、俺やカズマが異世界から来たって事に気が付いてるに違いない

 

「異世界って言ったってどこに行くんだよ。行き先も分からないのに乗り気になれるかって」

 

「普通は異世界に行けるというだけで、男は興奮すると思うのだが」

 

確かに普通はそうだろうな

だが、俺は転移者なんだ。ここが異世界なんだよ

 

「俺は普通じゃないからな。……ところで、行先の名前だけは分かると言ったな」

 

「ん?異世界に興味が無いわけではないのだな。確か『ニホン』とか言ったか?」

 

「買った!」

 

「………まいどあり!」

 

俺の即答に若干困惑したバニルだったが、すぐに親指を立て購入が確定した

 

バニルが帰った後、俺はちゃぶ台の上に置かれた異世界旅行ができるという不思議な箱の説明書を読んでいた

すると後ろから――

 

「ツバサさん、その箱は何ですか?」

 

ゆんゆんが話しかけてきた

 

「ウィズ魔道具店の商品で異世界に行けるらしい」

 

「異世界に行けるんですか!?あ、でも、ちゃんと帰って来れるんですか?」

 

異世界に興味があるのか、若干興奮気味な反応を見せた

だが、安全性が気になる様でちょっと不安げだ

 

「異世界に行けるのは12時間だけでちゃんと帰って来れるらしいぞ。ただ、異世界での記憶はなくなるらしいけどな」

 

「え……。それって異世界に行く意味ないんじゃ」

 

「だろうな。でも向こうの物も持って帰れるそうだから、行ったっていう証拠は出来るな」

 

「でも記憶が無いんじゃ…」

 

異世界に行きたそうだな…

連れて行ってもいいけど記憶がなくなるんじゃ

 

「…………あ、記憶は無くなるかもしれないけど、記録だけなら持って帰る事が出来るぞ」

 

「え?」

 

俺は何の事かさっぱりわからずポカンとしているゆんゆんを他所に

日本から持って帰りたい物のリストを作り、大急ぎでカズマの元へ向かった

 

「日本に行ける!?」

 

「ああ、12時間だけだけどな」

 

「いや、十分だ!俺は日本でどうしてもやらなくちゃならない事があるんだ!!」

 

日本行きにカズマは物凄く乗り気だった

やらなくちゃならない事については触れないでおこう、人それぞれやりたい事とかあるからな

 

「ニホンって聞いたことが無い地名ですね」

 

「ああ、私も効いたことが無いな。他国の地名か?」

 

日本と言う言葉を聞いたことが無いめぐみんとダクネスは首をかしげていた

まぁ分からなくて当然だし、分からなくていい事だから詳しく教えないでおこう

 

「なあツバサ、行くのは三時くらいでいいか?12時間しか日本へ行けないのならそれくらいの時間が良い、ちょっと実家に用があるからさ」

 

「ん?実家に行くのか。そうだな、一回きりかもしれないから、実家へ行くのは深夜が良いだろうな

 どうせ時間になったら強制的に戻ることになるんだ、もしバレても幻覚でも見たかと思わせられるか」

 

その後異世界行きの準備を終え、カズマ達一行は俺の家へと来た

 

「じゃあ準備は良いか?」

 

俺はレウスを自室に入れ、念のために最近覚えた『ロック』という魔法を使い、扉が開かないようにした

可哀想だが、流石に飛竜を日本へ連れて行くわけにはいかないからな

 

「ああ、皆準備できてるぞ」

 

その言葉を聞いて、俺はゆっくりと箱の蓋を開けた

 

そんなこんなで冒頭に戻るわけだが

 

正直カズマとゆんゆんはともかく、他3人を連れて来たことを非常に後悔している

 

ゆんゆん以上にはしゃぎ、大声でアレは何だ!モンスターだ!とか叫ぶし

一緒にいる方が恥ずかしいぞ…

 

「お前らもうちょっと静かにしろよ!!」

 

カズマも大変だな…

 

俺達は自分の用事もあるが、ここは皆に楽しんでもらう事にした

 

という訳で、皆を連れて秋葉原へとやって来た

 

因みに俺は移動途中に金を下ろしたり、デジカメなどを買っておいた

 

俺がゆんゆんに言った記録とは写真の事だ

本当はビデオでも撮りたかったが、向こうには映像を流す装置とか無いし、ビデオカメラのバッテリーがなくなったら永久的に見れなくなるからな

 

その点写真ならいつでも見られるし、日本の事を知っている俺やカズマが解説してやれば、記憶を無くしても楽しめるだろう

 

ただ、記憶を無くしたと言う事に落胆するような気がするけどな……

 

まぁ何も無いよりは全然マシだろう

 

俺はカメラを使い、ゲーセンではしゃぎまくるカズマ達を写真に収めていく

 

UFOキャッチャーで苦戦する様子やカズマの格ゲーなど

撮れるものは片っ端から撮って回った

 

しばらく写真を撮っていると、ゆんゆんが俺のところへやって来た

 

「つ、ツバサさん!アレを一緒にやってもらえませんかっ!!」

 

ゆんゆんが頬を染めながら指さしたもの、それはプリクラ機だった

 

「……………え?マジで?」

 

こくっとうなずくゆんゆん

 

えぇ~マジでかぁ

 

「俺とじゃなくてめぐみんと一緒に撮ったらどうだ?」

 

「…めぐみんとはもう撮りました」

 

………逃げ場がなくなった

 

俺は他のメンバーの様子をうかがう

 

カズマは相変わらず格ゲーに夢中だし、アクアとダクネスは二人でFPSの協力プレイを楽しんでいる

既に一緒に撮ったというめぐみんは疲れたのか、カズマの横で格ゲーを眺めている

 

完全に逃げ場がないな

 

ゆんゆんは今もなお、頬を染めたままコチラをジッと見ている

 

「……分かったよ、一緒に撮ればいいんだな」

 

「はいっ!」

 

まさか二人で取る事になるとはな

 

ゆんゆんは特に装飾などの設定はせず、そのままプリントして

嬉しそうに腰のポーチへとしまった

 

しかし、随分簡単に順応したなゆんゆんは

他のメンバーは未だにあたふたしているというのに

 

「ツバサさん?」

 

「え?」

 

「なんだか心ここにあらずって感じでしたよ」

 

「いや、ゆんゆんがこの世界に簡単になれたなって思ってさ、アイツらはまだあたふたしてるのに」

 

「わ、私もまだ分からない事だらけですよ!」

 

ゆんゆんは慌てて手を横に振り、めぐみん達のところへ戻って行った

 

丁度いいタイミングだと思い、俺はカズマに買い出しに出ると伝え、ゲーセンから出た

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「あ、ツバサー!」

 

今の時刻は午後19時前、俺はゲーセンを出る前にカズマとこの時間に集合と約束をした

 

「買い出しに出るって言ってたけど、その荷物は多すぎじゃないか?」

 

「色々やりたいことがあるんだよ、向こうでな」

 

「色々って言ってもなぁ」

 

やっぱりカズマも引くか

 

まぁ一番デカい登山用バック一杯に詰まってるからな

 

それはともかく俺達はファミレスで夕食を取り、深夜になるまで時間をつぶし

 

ファミレスでカズマ達と別れた後、俺とゆんゆんは

俺の自宅へと向かった

 

「ここがツバサさんの本当の家なんですね」

 

俺達が来たのは、街のちょっと外れの方にあるマンションだ

 

「とても大きなお家ですね」

 

「俺だけの家じゃねぇよ。ここには部屋の数だけ、家族が住んでるんだ」

 

「こ、こんなにたくさん!?」

 

ゆんゆんは廊下に面している扉を見て驚いた

 

「ビックリだろ、こっちの世界の人口は六十億以上の人がいるからな」

 

「ろくっ!?」

 

向こうの世界の人口がどれくらいか知らないが、少なくともこっちの世界より少ないだろう

 

「ついたぞ。ここが、俺の実家だ」

 

俺は持っていた鍵を使い、家の中に入る

 

家の中は静まり返っていて、妹が起きている様子はなかった

 

「よし、今の内に写真の現像ともっていく物の準備を――」

 

今の時間は午前1時、2時間もあれば十分準備できるだろう

 

そう思っていたのだが

 

「………」

 

俺はそっと自室の扉を閉めた

 

「あれ、入らないんですか?」

 

「いや、入るけど……さ」

 

俺はもう一度自室の扉を開け、中を確認し

見間違い出なかったことに、ひどく落胆した……

 

「……なんでここで寝てるんだよ。真奈」

 

何故か俺のベッドで真奈が――妹が寝ていた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

さて、どうしたものか

 

「ゆんゆんさんは兄さんとモンスターと戦ったりしたんですよね。兄さんは強いですか?」

 

「とても強いですよ。レイヴっていう不思議な力も持ってますし」

 

俺は今、目の前で楽しく会話をしているゆんゆんと真奈を見てため息をついた

 

真奈を起こさず作業しようと思ったのだが、やはりというべきかPCの起動音で起きてしまったのだ

 

それからがもう大変だった

 

兄さん兄さんと泣きついて離れてくれないし、この人は誰だとゆんゆんに警戒心剥き出しだったし

 

事情を説明するのに一時間もかかった、異世界とはいえ俺が生きていたと言う事にまた泣き出すし

 

……もう散々だった

 

とりあえず写真の現像は今作業中だ

作業中と言っても、全自動だから終わるのを待つだけなんだが

 

「ところで兄さん、後一時間もしないうちに異世界へ帰っちゃうのは分かったんですけど」

 

俺が荷物の準備をしていると、不意に真奈が話しかけてきた

 

「…もうちょっとお話しませんか?」

 

……一番持っていきたかった物をまだ回収していないから、作業を止めたくはないんだが

 

まあいっか、置き去りにしてしまった妹の我がままだ。聞いてやらない訳にはいかないな

 

その後俺とゆんゆんが帰る事となる3時の少し前まで、色々な事を話した

 

そして――

 

「早く準備しないと時間だぞ!」

 

「文句言わないでください!本当ならまだ話したい事が沢山あるんですから!」

 

文句を言いつつも準備を手伝ってくれるのは、本当にありがたいが

それ以上に申し訳なかった

 

そんな気持ちを抱きつつも、俺は作業の手を緩めはしなかった

 

しばらくして準備が終わり、最後に俺は机の奥にしまっていた『宝物』を胸ポケットにしまい部屋を出た

 

「……本当に、異世界に帰っちゃうんですね」

 

真奈が残念そうにしているが、コレばっかりはどうしようもない

 

「悪いな、俺にはどうする事も出来ないからな」

 

俺は真奈の頭を撫でてやる

真奈は昔から、頭を撫でられるのが好きだった

 

「もう兄さん、いつまでも子ども扱いしないでください!」

 

「アハハ、悪い悪い」

 

俺はゆっくりと真奈から手を放し、一歩下がった

 

「……またな、真奈」

 

「……うん、………また、会えますよね」

 

「ああ、またいつか、こっちに来るよ。その時は12時間付き合ってやるよ」

 

そう言った瞬間、俺とゆんゆんの体が光だし、ここに来る時と同様に視界が奪われていった

 

奪われる視界の中、泣きながらも笑顔で見送ってくれた真奈の顔がはっきり見えた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『……………』

 

「…何も起きないな」

 

箱の蓋を開けたが、何も起きなかった事にみんな残念がっていた

 

「――て重っ!?」

 

俺は立ち上がろうとすると、背中に強烈な重みを感じた

 

「ツバサ、その荷物は何だよ。さっきまでそんなの持ってなかっただろ」

 

「ああ、俺もコイツが何なのかは――」

 

そう思いつつ俺はバッグを見ると、それは元の世界の物だとすぐに気が付いた

 

この世界にはないバッグ、つまり俺達は日本へ行けたという証拠になる

 

と言う事は

 

「お、おいツバサ、急に黙ってどうしたんだ」

 

「ハ、ハハハ、………アッハハハハハ!!」

 

急に笑い出した俺を見て、皆が引き気味だった

 

だがそんな事は関係ない!

この高ぶる感情を抑え込めるものか!

 

調味料が手に入ったのだ!

自分で使う分はもちろん、この世界での研究用の物も準備してあるはずだ!

 

「ついにまともな和食が食えるぞ!!」

 

「……ついにツバサもあいつらの様に変な事を言い出し始めましたね」

 

「ああ、黒髪黒目だからもしやと思っていたが」

 

「あれ?ツバサさんこれは何ですか」

 

ゆんゆんが俺のバッグから何かを見つけたらしく、渡してきた

 

何の変哲もない茶封筒だけど、少し厚みがあった

 

中身を出してみると

 

「な、何だこれは!?」

 

「私達がいます!」

 

「写真までもってきたのか」

 

日本のゲーセンで遊んでいる姿やファミレスで食事をしているところが写真に収められていた

 

「ちゃんとツバサの姿も写っているところを見ると、俺も何枚か撮ったみたいだな」

 

俺は調味料の事を考えるのは後回しにし、バッグの中身を確認する

 

調味料の類と本が数冊、それから自宅に行った時に回収したであろう物が数点

 

「ん?なんだこれ」

 

俺はバッグのそこの方にあった白い箱を見つけた

 

箱の外は白一色で、どこにでもありそうな普通の箱だった

 

中身は何かと箱を開けると

 

「――っ!?」

 

『兄さんへ』と書かれた茶封筒と、見覚えのないキーホルダー

それに、妹と写っている写真も入っていた

 

……なぜこんなものが、いや会ってしまったからか

 

まさか妹に会ってしまうとは、しくじったな

 

寂しい思いをさせたくないから、会うつもりはなかったんだが

 

……まぁ仕方ない

 

「カズマ、とりあえず今日はもう遅いし帰るわ」

 

「お、そうか。写真ありがとな」

 

俺はカズマの分として用意してあった写真を渡して、俺とゆんゆんは自宅へ帰った

 

家に帰ってから、ゆんゆんは写真を見ながら俺にいろんなことを質問してきて

結局寝れたのは日が昇った後だった

 

妹からの手紙には色々な事が書かれてあったが

手紙の一番最後に書かれてあった『兄さんに会えてうれしかったです!第二の人生を楽しんでください!』

 

その言葉が、とても印象的だった


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