この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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第二十二話

ダンジョンから飛び出したバニルが白い炎で身を焼かれ、地面にヨロリと片膝をついた

 

「ダクネスー!」

 

ダクネスの身を心配したのか、慌てて駆け寄っていた

 

「フ……、フフフフ……、フハハハハハハハハハ!」

 

あ、問題ないっぽいな

流石は魔王幹部

 

さて、俺も準備を始めるか

 

俺は潜伏スキルを使い、こっそりとカズマ達の横を通りぬける

準備と言っても何かを設置するわけじゃない、位置取りをするだけだ

 

レウスは、俺が潜伏スキルを使っているのが分かっているのか、俺の肩で静かにしている

 

本当によくできた子だよお前は

 

俺が目的の位置まで移動するのとほぼ同時に、バニルが俺が居なくなっている事に気が付いた

 

「……飛竜の男はどこへ行った?そこの姑息な男よりも、あの男の方が厄介なのだ」

 

バニルがアクアや冒険者達の攻撃を受けながら、俺の事を探し始めた

まぁ受けていると言っても、ほぼノーダメージなんだけどな

てか神々の魔法にも耐性があるってめんどくさいな

 

レイヴがどれだけ効くか分からないが、試してみる価値はある

バニルが俺の記憶をどこまで見たのかは知らないが、確実に俺の狙いには気づいている

 

チャンスは一回きりだな

 

「ちょっと!よそ見しながら私の魔法を避けるんじゃないわよっ!!」

 

……アクアの魔法だけ避けるあたり、ちょっとした嫌がらせを感じるな

 

「アクアも、他の冒険者達も頑張ってくれ!きっとツバサが何か仕掛ける気でいるんだ!!」

 

カズマが他の冒険者達に声をかけるが、頑張るも何も攻撃が通らないんじゃあまり意味が無い

 

「やはりあの男が何か企んでいるのか。これは一刻も早く見つけなければ」

 

……余計な事を言ってくれたなカズマ

 

俺はより慎重にテン・コマンドメンツを構え、ゆっくりとバニルとの距離を詰め始める

 

正直、今俺がしているのは、さっきカズマがしたのとほぼ同じ事だ

ただ違う点は、他の冒険者に当たらないようにする為に、距離がある事ぐらいか

 

この距離を一瞬で詰めるにはシルファリオンでしか無理だろう

そして懐に入って一太刀当てる事さえできれば、俺の勝ちだ!

 

一瞬でも隙が出来ればと、俺が静かに待っていると

業を煮やしたのか、アクアがとんでもない事を叫んでくれた

 

「ちょっとツバサ!冒険者達の後ろでコソコソしてないで、あんたも攻撃に参加しなさいよっ!!」

 

「「――っ!!?」」

 

俺とバニルが同時に驚いた

 

どうやらバニルは、カズマと同じく背後にいるものだと思い込んでいたらしい

俺は潜伏スキルを使っているのに、場所を特定された事に驚いた

 

「そうか、そこにいるのか。居場所さえ分かれば奇襲など怖くはないわ!」

 

くっそ、あの駄女神め!余計な事言ってくれやがって!

俺は潜伏スキルを解くのと同時に、シルファリオンでバニルとの距離を一気に詰める

 

「食らえっ!!」

 

俺はルーンセイヴへと変化させ、バニルめがけて斬り上げる

 

「おっと、その剣を食らう訳にはいかんなっ!」

 

バニルは俺の攻撃を余裕の表情で躱し、距離をあけた

 

「チッ!駄目だったか」

 

俺の剣を見て、冒険者達とセナが驚いているが、今回ばかりはそちらを気にしている暇はない

 

「(おおっ!その剣は初めて見るな、何という剣なのだ!?)」

 

今のはダクネスか…

反応や喋り方で見分けは付くが、ホントにめんどくさいな

 

「ルーンセイヴだ。……まったく、一撃必殺の予定がどこかの水に邪魔されたかと思うと腹立たしいな」

 

「その悪感情、おやつ程度に美味であるぞ」

 

「……そりゃよかったな」

 

俺は再びルーンセイヴを構える

 

「さぁ、第二回戦を始めようか!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「さぁどうした?先ほどから攻撃が当たっていないぞ?(どうしたツバサ!何時ものように簡単に決着をつけるのではないのか!?)」

 

「うるせぇ!!」

 

マジでイライラしてきた。剣は避けられるし挑発されるし

 

他の冒険者に至っては攻撃すらしてないからな!

 

「これならどうだ!?『ブルークリムソン』!!」

 

今度は二刀で斬りかかりに行ったが

 

「おおっと!そんな小細工な手が通用するバニルさんではないわっ!」

 

今までと同様にヒラリと躱されてしまう

 

「それならこれだ!」

 

俺は右手の剣をバニルに投げつけた

 

「そんな投擲が――っ!?」

 

「『シルファードライブ』!!」

 

「ぐおっ!!」

 

とっさの奇策で、ようやくまともなダメージを与えることが出来た

 

「まさかそんな手段を取って来るとは……、というより、その剣といい飛竜といい、貴様何者だ?」

 

「……ただの最弱職の冒険者だよ」

 

その言葉を聞いたバニルはぽかんとしていたが、次第に笑いはじめ

 

「フハハハハハハハッ!!そうか、ただの最弱職か!その不思議な剣を持ちながらも最弱を名乗るとは面白い!!(いや、ツバサは本当に最弱職の冒険者なのだが…)」

 

俺は笑うバニルと困惑するダクネスを眺めつつ、次の手に移ろうと剣を構えた

 

「……ほう、一発当てたからと言って調子に乗り始めたか?」

 

「調子になんか乗ってないさ、それにダクネスの体だけあって固すぎてダメージ通ってないんだろ?そんな奴に手加減なんてするかよ」

 

「味方と言えど手加減をしないとは(興奮するな!!)おいこら!変な事を口走るな!」

 

ホントダクネスが関わると面倒だな……

 

「興奮するのは勝手だが、ツバサに迷惑かけんなよー!」

 

カズマもカズマで勝手な事を言ってくれる

 

そしてカズマの隣にいるセナが顔を引きつって引いているのはどうしてだろうか

またカズマが仲間を見捨てる発言でもしたのだろうか

 

「カズマ!お前も見てないで戦闘に参加しろよ!」

 

流石に文句言っても良いだろ

 

てかお前のパーティメンバーだろうが、お前が戦闘に参加しないとかどうなんだよ

 

「俺にも策があるから、もうちょっと頑張ってくれー」

 

………カズマの策か、また小細工程度なのか、それとも大掛かりの策なのか

どちらにせよ期待してもいいだろう

 

「一つ忠告しておこう、あの男の策を当てにしないのが吉であるぞ」

 

カズマの言葉を聞いたバニルがそんな事を言ってきた

 

「誰が悪魔の言葉に耳を貸すかよ。そんな忠告している暇があるなら、アクアに一発かます方法でも考えたらどうだ?」

 

「(ちょっ!何を言っているのだツバサ!?)フハハハハ!その意見はごもっともだ!

 貴様との戦闘が楽しすぎてプリーストの存在を忘れておったぞ!」

 

「なっ!?悪魔のクセに私の事を忘れるなんていい度胸じゃないの!今すぐ消滅させてあげるわ!『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』!!」

 

「甘いわっ!」

 

アクアの魔法をバニルはひらりと躱した

 

「隙あり!『シルファードライブ』!!」

 

着地を狙い、俺がシルファードライブを放つ

 

が、それも簡単に躱されてしまった

 

「我に同じ技は通用せんぞ?(ツバサ!もっと早く撃ち込めないのか!?)」

 

「もっと早く撃てたら苦労しねぇよ!!」

 

くそ、こんな時にゆんゆんがいてくれたらまだマシな戦いになってたかもしれないのに

 

「キューウッ!」

 

レウスも俺の攻撃が当たらないことに苛立っている様子だ

 

「…そういえばその飛竜はどこで手に入れたのだ?」

 

突然バニルがそんな質問を投げかけてきた

 

「地名は忘れたが、遠くの火山地帯だが?」

 

「ふむ、なるほどな」

 

俺の返答でバニルが何かに納得した様子だ

 

勝手に納得されても困るのだが……

 

「今だっ『ティンダー』!!」

 

いつの間にかバニルに近づいていたカズマが、バニルの仮面に貼り付けてあるお札目掛けて、着火魔法を唱えた

 

「――っ!?貴様、いつの間に!?」

 

不意を突かれたバニルは、避ける暇なく着火魔法を食らい

 

お札はきれいに燃えて無くなった

 

…策ってコレか!?

 

「いまだダクネス!仮面を剥がして放り投げろ!さっきから好きにしゃべったり動いたりしているお前なら出来るはずだ!!」

 

結局切っ掛けしか作らないのかよ!ちょっとがっかりだぞ

 

ダクネスはカズマの言葉を聞き、仮面に手を伸ばしたが――

 

「(……外れないっ!)」

 

バニルはしぶとくダクネスに張り付いたまま、離れる様子は無かった

 

が、この状況は俺にとって好都合だ!

 

「お札を燃やす方が吉だったみたいだな!『ルーンセイブ』!!」

 

俺はバニルの背後に周り縦に斬り裂いた

 

「ダ、ダクネースっ!!」

 

ダクネスの体が真っ二つにされたと思ったのか、カズマだけではなく

周りにいた冒険者達も驚きが隠せない様子だった

 

一瞬の沈黙の直後、カランという乾いた音が周りに響いた

 

「……は、外れた!?」

 

『えっ!?』

 

ダクネスの気の抜けた声と共に、冒険者達が困惑し始めた

 

「いや、完璧に真っ二つにされてたよなっ!?」

「俺はちゃんと見てたぞ!ダクネスさんの体を、あの緑色の剣が斬り裂くのを!!」

「えっ!?なんで!?確かにダクネスさんが仮面もろ共斬り裂かれたはずなのに!」

 

色々驚くのはしょうがないとして、この結果は予想できなかったな

 

まさかこんな簡単にバニルとダクネスの繋がりを断ち切れるとは………

 

「お、おいツバサ、一体何したんだ?説明してくれよ」

 

カズマが代表して問いかけてきた

 

「そういえば説明した事なかったな。この剣は斬れない物を斬る剣なんだ」

 

「斬れない物、……て事はつまり!」

 

「察しが良いなカズマ。そう、斬れる物は斬れない、今ダクネスにしたようにな」

 

俺は自分の腕を斬るようにルーンセイブを当て、すり抜ける事を確認させた

 

「つまりその剣で、ダクネスとバニルの繋がりを斬ったって事か」

 

「ご名答!そしてバニルは封印してやったよ」

 

「封印までできるのかっ!?」

 

流石に封印までは予想できなかったか。周りの冒険者達も驚いているし、まぁ当たり前の反応だな

 

「ところでツバサ。その仮面はどうするのですか?」

 

突然話しかけてきためぐみんは俺の剣よりも、バニルの方が気になる様だった

 

「どうするって言われてもなぁ。封印したからギルドに頼んでどこかに保管かな?」

 

「保管するのなら破壊してしまっても問題ないわけですね」

 

めぐみんは俺の手からバニルの仮面を奪い取るように取り、仮面を空高く放り投げた

 

「お、おい何をっ!?」

 

「『エクスプロージョン』!!」

 

先程の乾いた音とは対象に、激しい爆発音と爆風が冒険者達を襲った

 

爆裂魔法による煙が晴れると、横たわっているめぐみんと未だ何が起こったのか分からないでいる冒険者達が目に入った

 

「ふっふっふ、これで私は悪魔殺しの二つ名を――」

 

そうか、それが目的だったか……

 

まぁ破壊してしまったものは仕方がない

どちらにせよこれで一件落着だろ

 

この時の俺は、そんな軽い気持ちでいた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

バニル戦から一週間が経ち

 

カズマは嫌疑を掛けられた件の謝罪と、街からの感謝状を貰い

デストロイヤーとバニル討伐の賞金として、借金と領主の屋敷の弁償額を引いた四千万エリスを受け取った

 

因みに俺は――

 

「冒険者、アカツキツバサ!貴殿のバニル討伐における功績を称え、五千万エリスを進呈します!」

 

借金返済が無い分、まともな賞金を貰った

 

カズマは羨ましそうな顔で俺の事を見ていたが、借金を作る方が悪いので無視した

まぁ借金はカズマのせいじゃないから何とも言えないがな

 

ちなみにゆんゆんからも

 

「魔王幹部の悪魔を討伐するなんて凄いです!」

 

と、自分の事のように喜んでいた

 

喜んでくれたり功績を称えられるのは嬉しいんだが、俺は一つ気になっている事があった

 

バニルはこの街にいるポンコツ店主に会いに来たと言っていた

つまりウィズと知り合いだと言う事だ

 

バニルの事はウィズに報告しなければならないだろう

友人とも言っていたから報告し辛いんだよなぁ

 

なんと言えばいいかと言葉に悩んでいる内に、ウィズの店に着いてしまった

 

なんとなく重い足取りで店の中に入ると、新顔の店員が挨拶してきた

 

「へいらっしゃい!今日も飛竜に突撃されし男よ!おっと我輩が滅んで無い事がそんなに不思議か?そんな簡単に滅ぶわけがなかろう!フハハハハハハハハハ!」

 

………まさかバニルが生きていたとは

 

「それにあの程度の封印で満足してしまうとは、慢心は身を亡ぼすぞ?」

 

「それはお前には言われたくねぇよ」

 

「あ、ツバサさん、いらっしゃいませ!お久しぶりですね!聞きましたよ、バニルさんを一時的にとはいえ封印したそうですね。流石です!」

 

俺の事に気が付いたウィズが挨拶してくれる

 

「いや、封印はしたけど、ついでにめぐみんが爆裂魔法で木っ端みじんにした筈なのに。なんでコイツはピンピンしてんだよ」

 

「先程同じことを言ったが、我輩とて、あんな物を食らえば無傷でおられるはずがなかろう。ほら、この仮面をよく見るがよい」

 

バニルは自分の仮面の額辺りを指さしていた

 

よく見てみるとⅡという文字が見える

 

「……おい、まさかとは思うが」

 

「そのまさかである!我輩は残機が一人減ったので、二代目バニルと言う事だ!」

 

「ふざけてんのかテメェ!!」

 

ブチ切れた俺をウィズが必死になだめる

 

落ち着いた後でウィズに話を聞いたが、バニルは金稼ぎに関しては実力があるらしく信用できる人物だと言う事だ

 

色々話している内に日も暮れてきたので帰ろうとした時、後ろからバニルが話しかけてきた

 

「例の飛竜と、汝の記憶の欠落について聞きたい事があればいつでも相談に来るがよい。多少とはいえ力になれるぞ?」

 

その言葉に対し、俺は何も答えなかった

どうせあの悪魔は、俺が相談に来ると分かっているだろうからな




バニルが魔王軍の幹部だって事を、今回の話を書くまですっかり忘れてました(笑)

原作三巻を大幅にカットしてしまいましたが、カズマとあまり関わり合いたくない主人公だから仕方ないね

次回は原作四巻!の予定でしたが、先にコミックの方にあった日本旅行の話にしようと思います。
新キャラも登場するのでお楽しみにっ!!



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