この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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第二十一話

バニルは限りなく永く存在し、いつの日から破滅願望が芽生えたらしい

しかし最後は、至高の悪感情を食し華々しく滅び去りたいとの事だ…

 

その為にダンジョンを手に入れ、悪魔の部下や苛烈な罠を用意し、歴戦の冒険者が突破してくれるのを待つという

 

そしてバニルは興奮したのか、大きく手を振り、熱弁しだした

 

「そしてダンジョンの奥で、最後に待ち受けるのはもちろん我輩!そこで言うのだ、『よくぞここまで来たな冒険者よ!さあ我を倒し、莫大な富をその手にせよ……!』と。そして始まる最後の戦い!我輩は冒険者との激戦の末、とうとう打倒されてしまう。やがて地に崩れる我輩の背後には、厳重に封印された宝箱が現れる。意識が薄れゆく我輩の目の前で、苦難を乗り越えた冒険者達はそれを開け………!」

 

バニルから見れば敵になるが、冒険者目線で小説を書けば面白そうな相手になるな

そう思いながら話を聞いていると

 

「………箱の中にはスカと書かれた紙切れが。それを見て呆然とする冒険者を見ながら、我輩は滅びたい」

 

前言撤回。これは反発される内容になる。絶対書けない……

てか止めろよそんな夢、やられる冒険者はたまったもんじゃない

 

バニルはその夢の為に街まで行こうとしたが、偶然このダンジョンを発見し、もうここでいいかと開き直ったらしい

 

「…まあ、これ以上人形は作らないみたいだし、放っておいても問題ないか。それよりカズマ、この先の魔法陣を何とかするんだろ?早く消して帰ろうぜ」

 

俺の言葉にカズマではなくバニルが反応した

 

「……魔法陣?ほう、我輩が難儀していた、この魔法陣を消してくれるだと?それは何ともご親切な事で。どこの迷惑な輩がこれを作っていったのか知らぬが、この忌々しい魔法陣のせいで部屋に入れず困っていたのだ。これを消してくれるというのなら、我輩手製の、夜中に笑うバニル人形を進呈しよう」

 

「いらんわっ!そんなもん寄越したら即行で討伐してやるからな!!」

 

「なんと美味な悪感情!貴様の家にバニル人形を送るのも悪くはないな」

 

コイツはっ!今すぐ討伐してやろうか!!

 

「しかしなにゆえ汝らがこの魔法陣を消しに来たのだ?どれどれ、ちょっと汝の過去を拝見して………」

 

ん?過去を拝見?俺達が魔法陣を消したい理由が知りたいのか、まぁ知られて困る事なんて何も…

 

「…………………………フハハッ」

 

何を見通したのか、バニルは急に笑い始めた

 

「フハハハッ!フハハハハハハハ!フハハハハハハハハハハハハ!なんという事だ、なんて事はない、貴様らの仲間のプリーストが、この迷惑な魔法陣を作ってくれおったのか!大悪魔たる我輩ですら立ち入れぬ魔法陣を作るとは、そのプリーストはよもや………!」

 

何を刺激されたのか、ヤバそうな雰囲気だ

 

「ほう……。見える、見えるぞ!地上だな!このダンジョンの入口で、魔法陣を作ったプリーストが退屈そうに茶を飲んでくつろいでる姿が見えるわ!」

 

元凶が退屈そうにしてるだと?しかも茶を飲んで!?

 

今まさにアクアに一発キツイのを食らわしてやるわと息巻いてるバニルに便乗してやろうか

 

てか、今コイツ。人間はって強調したな。て事は、アクアの正体に気付いたって事か

 

「貴様がアクアに危害を加えると言うのなら、引く訳にはいかない。女神エリスに仕えるクルセイダーとして、ここは通さぬ!」

 

ダクネスがバニルの前に立ちふさがり、それに対しバニルはダクネスに悪魔の囁きを使い誘惑する

だが、カズマに邪魔され、バニルの甘言に惑わされる事なく、ダクネスは先手を取り斬り掛かった

 

だが、案の定人形の時とは違い、その斬撃はバニルにかすりもしなかった

 

「フハハハハハハッ!なんだ、威勢の割には攻撃がスカばかりの娘よ!……むむ?もう一人の、口ばかりは一人前なクセに今一派手な活躍をしなそうな男はどこへ消えた?」

 

バニルはいつの間にか消えたカズマの行方が気になるらしい

カズマなら潜伏スキルを使い近くの壁に潜んでいると思う

 

「一体どこを見ている!お前の相手は私だろう!」

 

そんなバニルにダクネスは何度も斬り掛かるが、カズマを探しながらダクネスの斬撃をヒョイヒョイ躱していく

 

「あの姑息そうな男はどこへ消えた?なんというか、脳筋クルセイダーよりもあの手の輩がの方が厄介なのだ。飛竜の男はそこにいるから良いとして、あの男の気配は感じるのだが、一体………?」

 

俺はダクネスとカズマが仕掛けているので見学に回らせてもらっている

悪魔相手が怖いといえば噓になるが、この二人が悪魔相手にどう戦うのかという興味の方が勝ってしまった

 

バニルはダクネスの放った横薙ぎに、大きく後ろに飛んで避けた

その瞬間、バニルの背後現れたカズマが、バニルの背中に飛び蹴りを食らわせた

 

「おおっ!」

 

「ぐおっ!!貴様、いつの間に……、し、しまっ……!?」

 

蹴られた反動で前によろけたバニルを、ダクネスが渾身の一撃で叩き切った

 

「まさかこの我が……。おのれ、油断したわ……!この駆け出しの街に、お前達の様な使い手が眠っていたとは……!くっ……、まさか、我輩は、ここで滅ぶの……か……」

 

そう言い残し、バニルの体が崩れ去り、仮面だけがその場に落ちた

 

「……まさか。私が本当に、魔王の幹部を仕留められた……のか……?」

 

自分でも信じられないという表情をしているダクネス

 

しかし俺は、そんな簡単に魔王の幹部が死ぬだろうかと、仮面を睨みつけていた

 

「キュ~!!」

 

レウスも何か感じ取っているのか、警戒を解いていない

 

「コレは本当にやったんじゃないか!?」

 

カズマも興奮しているが、その言葉に応える様に

 

「と、期待したところで」

 

仮面が急に喋りだしたかと思うと、仮面が土を吸い上げる様に体が生えてくると

先ほどと全く変わらない姿になった

 

「もしや討ち取ったとでも思ったか?残念、何のダメージもありませんでした!フハハハハハハハハハッ!おおっと、汝ら二人の悪感情。飛竜の男に悪感情は感じないので残念ではあるが、大変に美味であるぞ!」

 

あらかた予想していたから特に何も感じなかったが、手玉に取られる二人を見てるのはちょっと面白いな

 

「ツバサも見てないで援護しろよっ!!」

 

俺が壁に寄りかかって見学していると、カズマから文句を言われてしまった

 

「見てるだけで終わらせるつもりだったが仕方がない」

 

俺は背中のテン・コマンドメンツを抜いて、バニルに向かって構える

 

「その大きな得物が、我輩に当たるとでも?」

 

「そう言ってられんのも今の内だ」

 

俺は即座にシルファリオンへと変化させ、一気に距離を詰めた

 

「―――っ!?」

 

「もらった!!」

 

シルファリオンを下から上へと斬り上げるが

 

「フハハハハハハハ!剣の速度に少々驚いたが、その程度の攻撃が我輩に当たるとでも思ったか!」

 

バニルは嫌味ったらしく高らかと笑っていた

 

「しかし、我輩としても長々と相手してもいられないのでな。こういう時の必殺技とでも言うべきか!誰一人として傷つけることなく、悪感情だけは頂けるという、我輩のとっておきを見せてくれる!」

 

そう言うとバニルは、自らの仮面に右手を掛け

 

「おいダクネス、なんかヤバい!一旦逃げるぞ!」

 

「もう遅い!頑強な肉体を持つクルセイダーよ!貴様の体、借り受けるぞ!」

 

ダクネスに向かって手にした仮面を投げつけた

 

そしてその仮面はダクネスの顔に貼り付けられ、だらんと剣をぶら下げたまま下を向き、固まった

 

まさかとは思うが、あの仮面を貼り付けることでそいつを操れるのか?

 

俺がダクネスを観察していると、気付いた事があった

 

バニルの肉体が消えている……

 

それが何を意味するのか考えたくなかったが、その直後

 

仮面を貼り付けた相手を操るのではなく、相手の体を乗っ取るのだと確信に変わった

 

「フハハハハハハハハハハハ!フハハハハハハハハハハハ!小僧、聞くがいい!我が力により、(どうしようカズマ、私の体が乗っ取られてしまった!)どうだ小僧、この娘に攻撃できるものなら(一向に構わん!遠慮なく攻撃してくれ!さあ早く!これは絶好のシチュエーションだっ!!)」

 

………ウッゼェエエエ

 

一人の体で二人に喋られるとここまでウザいか

 

「………お前らは何が言いたいんだよ」

 

「バカな、何だこの(麗しい)娘は!……こ、こらっ、ちょこちょこと余計な口を挟んで遊ぶな!しかしどういう事だ、一体どんな頑強な精神をしているのだこやつは……(まるでクルセイダーの鏡の様な奴だな!)……ええいっ、やかましいわ!」

 

なんか愉快なことになったな……

 

バニルとダクネスは一つの体で話まで始めてしまった

 

どうしたもんかと見ていると

 

カズマがお札を取り出し、それをバニルの仮面に貼り付けた

そのお札の効果なのか、バニルはお札に触れられない様だった

 

カズマは封印の札とか言っていたが、それでバニルを封じたつもりなのか?

自由にしゃべってるし動いてるし、仮面に触れないから体から出られないのだろうけど……

 

結局カズマは、バニル(ダクネス)をそのままアクアの元へと連れて行くことにした

 

そして地上の光が見え始めた辺りで

 

「ダクネス、よく耐えたな!後はアクアが何とかしてくれる。他の冒険者達と一緒に、お前の体を取り押さえて――」

 

「フハハハハ……フハハハハハハハハ!!貴様は一体誰に話し掛けている?」

 

おっと、これはマズい事になってないか?

 

「支配完了!」

 

やっぱりか……

 

「小僧、我輩を甘く見たな!今までは敢えて手加減してやっておったのだ!この姿のまま貴様らの仲間に近づけば、それはそれで無警戒な状態で出迎えてくれるだろうて!貴様らの仲間のプリーストに、出会い頭に一発食らわせてくれるわ!」

 

バニルは重い鎧を付けているにも拘らず、かなり速い速度で階段を駆け上り始めた

 

バニルの目的はアクアに一発食らわせる事らしいが、それはたぶん無理だと思う

 

だってアイツは仮にも女神だし、普通の人には感じ取れない感情を感じ取れるって事は

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!!」

 

「(ああああああああ!!)」

 

……ほらな

 

 




バニル回はもうちっとだけ続くんじゃ!

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