この素晴らしい世界に聖石を! 作:ホムラ
……うぅ、なんか寝苦しぃ
飛竜騒動から一夜明けた翌日、俺は苦しさで目が覚めてしまった
くそ、二度寝できそうにもないから起きるか………ん?
起き上がろうとしてもうまく体が起こせなかった俺は、そこで初めて腹の上に何かが乗っかっていることに気が付いた
「…キュ~…キュ~」
コイツはいつの間に俺の布団に潜り込みやがった
俺の腹の上に乗っかっていたものの正体は、昨夜生まれたばかりの飛竜、レウスだった
このままでは起きることが出来ないので、俺はレウスをゆっくり持ち上げ布団におろした
さて、朝飯でも作るかな…
俺は片付けきれていなかった荷物の中から、食材を取り出し、台所で調理を始める
因みに料理は俺の特技のひとつでもある。伊達に妹の世話をしてきた訳ではない
初めての調理場で手間取った部分もあったが、案外スムーズに終わったんじゃなかろうか
そう思っていると、ゆんゆんが起きて来た
「…ふぁ、おはようございます」
「おはよ、朝食作ったから食っていいぞ」
「え!?ツバサさん、料理も出来るんですか!?」
なんか心外だな
まぁ確かに、野宿してた時は携帯食料しか食わなかったからなぁ
ゆんゆんは食卓に並べられた料理をまじまじと見ていた
この世界では和食なんて珍しいだろうからな
少なくとも俺はまだこの世界で和食を見た事が無い
「作れないと生活できなかったからな。さぁ、食おうぜ」
そう言って食卓に着こうとした瞬間
「キュキュキュキュキュキューーゥ!!!」
「うぼぉあっ!!」
「ツバサさんっ!!」
起きた時に俺が居なかったから慌てたのだろう、レウスはドタドタと音を立てながら走ってくると、生まれた時と同じように俺の腹に飛び込んできた
「キュウッ!キュウッ!」
いってぇ、二度目とはいえ、これはどうにかならないものかねぇ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……お、お疲れ様でしたツバサさん。こちらが今回の報酬の百三十万エリスになります。……ご確認ください」
冒険者ギルドでリザードソルジャー討伐の終了報告と、その報酬を貰っているところだが……
「キュ?」
俺の肩に乗ってるコイツのせいで周りの目が痛い!
俺が冒険者ギルドに向かおうと家を出ようとしたら全力で泣きついてきたから仕方なく連れて来た
どの道、レウスの報告はしなくてはならなかった為、今回ついてきたのはちょうどよかったかもしれない
「…あれってワイバーンだよな」
「え?なに、モンスターをテイムしたの?」
「普通ワイバーンなんて危険なモンスターをテイムする奴がいるか?」
ギルド内のいたるところからそんな声が聞こえて来た
てか、この世界にモンスターテイムの概念ってあったんだな
「なぁなぁ、確かワイバーンって幼体でも経験値豊富じゃなかったか?」
――っ!!
俺はふざけた事を言ってる奴に全力で殺気を向けてやった
「うおっ!じょ、冗談だって!!」
分かればいい
「…あの、ツバサさん。さっきから気になってたんですが、そのワイバーンはどうされたのですか?」
おそらくこのギルド内の全員が聞きたかったであろう質問を、ルナさんが代表して聞いてきた
「コイツですか?偶然卵が孵化するところに居合わせちゃいましてね。刷り込みで俺の事親だと思ってるんですよ…」
嘘はついていない筈だ
「そ、そうなんですか。あ、でも、幼体とはいえワイバーンは危険な存在ですので、できれば街中には…」
流石にコイツを連れまわすつもりはないが、街の治安の為だから注意されるのも仕方あるまい
「分かってますよ。今日コイツを連れて来たのは、一応の報告をする為です。今後は家から出さないようにしますよ
あ、そうだ。間違えて討伐しないように、冒険者達に呼びかけをお願いしますね」
念のための釘だけ刺して、俺は冒険者ギルドを出た
ルナさんに注意されたばかりだが、市場で今後の生活にいるだろと思う物を一通り買い家まで戻る
「あ、ツバサさん、お帰りなさい」
「おう、ただいま。つっても、荷物置いてアクアのところだけどな」
「アクアさんって昨日の?」
そうか、ゆんゆんはまだ軽い挨拶しかしてなかったな
「ああ、ちょっと頼みごとが合ってな」
俺はレウスをゆんゆんに預け、ピーピー泣き喚くレウスを無視してアクアのところに向かった
「ようカズマ、今起きたのか?」
「ああ、朝飯作るのも億劫だから、これから街に行くつもりだ。ツバサもどうだ?」
「俺はもう食べたし、それに今街から帰ってきたところだぞ」
「そうだったのか、それで?こんな朝早くから何か用か?」
朝早くって……だいぶ時間過ぎてると思うんだが
まぁいい
「ちょっとアクアに頼みたいことが合ってな」
「アクアに?」
「あら、リッチーのところで世話になってたツバサじゃない、私に用があるって聞こえたけど、何かしら?」
余計なセリフが入ってたが、今は無視しよう
コイツの機嫌を損ねると話を聞いてくれなくなるかもしれない
「実は俺の家に温泉をひいて欲しくてな。個人的な依頼だが、報酬金は二百万用意させて―――「任されたわっ!!」お、おう、頼んだ」
「じゃあ早速ツバサの新築に行きましょうか!」
アクアが嬉々として屋敷から飛び出していった
「ツバサの家か、日本風な家を見るのも久しぶりだな」
「カズマカズマ、ニホンフウって何ですか?」
飛び出していったアクアに続いてカズマと、いつの間にいたのか知らないがめぐみんも俺の家へ向かった
………てか、なんでカズマとめぐみんまで?
あっ!ちょっと待て!あいつらにレウスの存在を教えるの忘れてた!!
大事なことに気が付いた俺は、大急ぎでカズマ達の後を追い、自分の家へと入ると
「ちょっと!いきなり何するのよめぐみんっ!!?」
「早くそのワイバーンを寄越すのです!幼体といえど経験値は豊富な筈、我が爆裂魔法の糧にしてやりますっ!!」
既にレウスを抱えたゆんゆんと、戦闘態勢に入っているめぐみんの追いかけっこが庭で繰り広げられていた
俺はカズマに簡単な事情を説明し、二人がかりでめぐみんを取り押さえ
カズマ達にレウスの事を説明した
「―――という訳で、コイツは俺の家族だ。手を出したらただじゃおかないからな」
「……わかりました。このワイバーンは諦めます」
かなり渋っていたが
これまでの経緯と、コイツの重要さを事細かく説明して、どうにか諦めてくれたようだ
「キュィ?」
レウスは何が起きているのかよく分かっていない様子で、めぐみんの肩をじっと見ていた
そこには、偶に付けている黒猫のぬいぐるみが―――
「にゃー」
……………え?
めぐみんの肩に乗っかっていたぬいぐるみ(?)が、突然床に降りてレウスに近づいていく
額に十字の模様と背中に悪魔の翼のようなものがあるから、てっきり人形だと思ってたんだが
コイツ生きてたのかよ…
黒猫がレウスの前まで行くと、お互いに首を傾げ
「にゃっ!」
―――ペチッ
なんと黒猫はレウスに軽い猫パンチを繰り出し
「キュッ!?キュキュ~ゥ!!」
叩かれたレウスは庭の方へ逃げて行き
「フナオーッ!!」
黒猫がその後を追い、先ほどのゆんゆんとめぐみんの追いかけっこと全く同じ光景が出来上がってしまった
『…………………………』
しばらくの間、俺達は黒猫とレウスの追いかけっこを、目を点にして見ていた
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「キュ~ゥ…」
散々追い回されたレウスは、ゆんゆんの膝の上で丸くなっている
「ちょむすけが私の言う事を聞かないなんて初めてでしたよ」
めぐみんの黒猫、ちょむすけはめぐみんの腕の中で大人しくしてはいるが、まだレウスの方をジッと見ている
「しっかし、飛竜をこんなに近くで見るのは初めてだな」
カズマはレウスにそっと手を差し伸べると
「キュ?…クンクン」
レウスはカズマの匂いを嗅ぐと、おもむろに口を開け
―――ガブッ!!
カズマの手を噛んだ…
「………いっでぇーー!!!」
「ちょ!?レウス、お前何やってんだ!」
相当な力で噛まれたらしく、カズマの指先が漫画のように腫れあがっていた
「キュ~」
俺が怒っていると感じたのか、レウスは少し落ち込み、カズマの指を舐め始めた
「おぉ、なんか新鮮だ…」
カズマは普通じゃ味わえない珍しい体験に、指先の痛みを忘れて堪能している
「そう言えばツバサ、お風呂場はどこ?早いとこ温泉ひいて、屋敷でのんびりしたいんですけど」
カズマと一緒にレウスと戯れていたアクアが、思い出したかのように言ってきた
「そうだったな。風呂場は―――」
俺がアクアを風呂場に案内しようとした瞬間
「にゃーっ!!」
「ああっ!ちょむすけ!!」
業を煮やしたのか、ちょむすけが一瞬のスキを突いて、めぐみんの腕から脱走し
「キュッ!?キュキュ~ゥ!!」
再び庭で、レウスとちょむすけの追いかけっこが始まった
自分で書いてなんですけど、猫に追いかけられる飛竜ってシュールですね(笑)
ちなみにちょむすけは、ただ単にレウスと遊びたいだけです(ちょむすけに襲ってる感覚はありません
レウスの大きさはSAOのピナと同じくらいの大きさです