この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

19 / 26
第十八話

「ここがツバサさんの家ですか」

 

ゆんゆんは一風変わった家を見て呟いた

 

そう、俺は念願の自宅へとやって来たのだ

 

門をくぐり引戸の扉を開けると、新築の木の香りが漂ってきた

 

「……おぉ!」

 

この香りがたまらねぇ!俺は靴を脱ぎ家に入る

 

念のため間取りもチェックしてみたが、俺の設計した通りの出来だった

流石親方、いい仕事をしてくれる!

 

ただ残念なのが、魔力ランプを使用している点だ

極力魔力を使わない方向で家を造ってもらいたかったが、オイルを使ったランプが存在しない為仕方なく妥協した

まぁ他にも妥協した点を上げるとキリが無いが……

 

俺は自室として造った部屋に入り、卵を隅の方へ置き手荷物を片付け始める

家具なんかも親方に頼んで造って貰っておいたので、新たに用意する心配はない

 

さぁ、明日は遠征で疲れた体をのんびり休めるか

ただ朝一で冒険者ギルドにクエスト終了の報告をした後、アクアのところに行かないといけないんだよな

 

めんどくさいがこればっかりはアクアに頼るしかない、その為に報酬も用意したからな

 

明日からの予定を考えていると、不意に後ろから声を掛けられた

 

「…あの、ツバサさん、私はどうすれば」

 

「――っ!?」

 

俺がビックリして振り返ると、ゆんゆんが荷物を抱えたまま佇んでいた

 

え!?あれ!?なんでゆんゆんがいるの!?そりゃさっきまで一緒にいたけど

宿に向かわなかったから、俺はてっきりカズマの屋敷の方に行くのかと思ってたんだが

 

「えっと、…やっぱり私なんかがお邪魔するのは迷惑ですよね」

 

かなり寂しそうにそう言ってくる

 

「……私は今からでも、宿の方に行きます」

 

「ちょ、ちょっと待った!」

 

ここで追い出したら俺が悪者みたいじゃないか!!

 

「隣の空いてる部屋なら好きに使ってくれて構わないぞ!狭いけど…」

 

そういうとパァッと表情が明るくなり

 

「はい、ありがとうございます!」

 

深々と頭を下げ、ゆんゆんは隣の部屋へと消えて行った

 

………恥ずかしがり屋で人見知りだったよな、アイツ

 

この数日間、一緒に行動してよく分かった

ゆんゆんに友達がいない事とかも…

 

アイツの読んでる本がチラッと見えたが、〇〇と友達になれる的な物が多かった

 

てかアクセルに着くまで、…いや、火山地帯で会ってからずっと一緒に行動してたからなぁ

もうゆんゆんの中では一緒にいるのが当たり前のパーティ扱いなのかもしれない

 

弱ったなぁ…俺はもうこれ以上人と関わり合いたくないというのに

 

ん?その割にはカズマの屋敷の隣に土地を買ったんだなって?

ここが静かで一番安かったからだよ!カズマが越して来ると分かってたらここは選ばなかったぞ

 

………まぁいいや、ゆんゆんをどうするかはまた後日考えるとして、寝る前に縁側でのんびりするかな

 

俺は持ってきた荷物の中から、この家に来る前に貰ってきた少量の酒とコップを取り出し縁側へ向かった

 

「さてさて、味の方はどうかな?」

 

この酒も実は前から造っていた物のひとつで、クリムゾンビアではなく芋から造った芋焼酎だ

 

親のいなかった俺は自由に酒が飲めたからな、中でも芋焼酎が好みだった

だからこの世界に来てクリムゾンビアを飲んだ時はかなり嫌な思いをしたもんだ

 

あ、酒は20歳になってから飲めよ

タバコだけはいくつになってもやめておけ、アレは毒だ

 

俺がしばらく縁側で試作品の芋焼酎を堪能していると、後ろから変な物音が聞こえて来た

 

ん、なんの音だ?ゆんゆんの部屋からじゃないな。俺の部屋?

 

不思議に思った俺は自室へと戻り確認してみると

 

カタ、カタカタッ

 

卵が不自然に揺れている………

 

え、…これってもしかしなくてもヤバいやつなんじゃ

 

俺がどう対処しようか考え始めた瞬間

 

―――パキャッ!!

 

「キュルル?」

 

卵の上部から、赤い鱗に包まれた顔が飛び出し周りを見渡した後、俺の事をジッと見つめて来た

 

「……ぅぉぉおおおああああああああああああああっ!!!」

 

俺の絶叫を聞き、ゆんゆんが部屋の中へ飛び込んできた

 

「ど、どうしたんですかツバサさ――「キュイッ!」へ?」

 

ゆんゆんの足元で卵から孵ったばかりのモンスターが、頑張って殻から出ようとしていた

 

「キ、キャアアアアアアアアアアっ!!!」

 

その光景を見たゆんゆんも俺と同じように叫んだ

 

「キュキュゥッ!?」

 

その声に驚いたのか、モンスターは慌てて殻から飛び出し、俺に向かって突っ込んできた

 

「って!コッチに来るなぁああああああっ!!?」

 

俺は飛び込んできたモンスターを受け止めきれず、そのまま押し倒される形になってしまった

 

「キュー、キュルル」

 

モンスター――というか、ワイバーンの幼体は俺の上でぶるぶる震えていた

 

「な、なんなんだ一体?」

 

「ツ、ツバサさん!その子ワイバーンですよね!?」

 

「……た、卵から孵ったみたいだな……どうしようか、コイツ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

あれから色々あって、ようやくワイバーンは眠りについた

 

「はぁ、まさかワイバーンにも刷り込みの習性があるとは知らなかったな」

 

「そうですね。私も初めて知りました」

 

このワイバーン―――長いので飛竜表記で、この飛竜は、どうやら俺の事を親だと思っているらしい

俺が歩くと後ろについて来るし、座ると隣に座ってくる

俺だけではなく、二番目に見たゆんゆんにも、初めは悲鳴のせいで少し怯えていたが、害が無いとわかるやいなや、凄く甘えだした

 

「それにしてもワイバーンの子供って寝てる時は可愛いんですね」

 

ゆんゆんが興味深く飛竜を観察している

 

飛竜といってもまだ生まれたばかりの幼体だ、そんなに恐れることもない

それに刷り込みで俺の事を親だと思っている以上、絶対に危害は加えないだろう

 

「それで、この子どうするんですか?」

 

それに関しては俺もずっと考えていた事だ

誰も見た事が無い卵から孵った飛竜

 

普通なら生まれた瞬間に殺すだろう

だが俺もゆんゆんもそれはしなかった。殺そうと思えば簡単だったはずなのに

 

「やっぱ様子見かな。コイツを野放しにしようとしても必ず俺のところに戻って来るし、ギルドに渡そうものなら即行で殺される

 もしくは新種だから研究の為に解剖されかねない。それだけは、避けたいと思うんだ」

 

「……私も、同じ気持ちです。どうしてこんなにこの子の事が気になるのか分かりませんけど、放っては置いちゃいけない気がするんです」

 

そう言って、俺とゆんゆんは飛竜の方を見る

そこには静かに寝息を立てる飛竜が、丸まって眠っている

 

しかし、よく見ると似てるなMHシリーズの空の王者に………

 

「よし、じゃあレウスにするか」

 

「レウス?」

 

ゆんゆんが突然俺が言った言葉に首をかしげる

 

「こいつの名前だよ、世話をしていくのなら名前は必要だろ?」

 

「そ、そうですね!世話をするから名前が必要ですよね!

 ……レウス、うん、カッコいい名前だと思います!」

 

ゆんゆんはコイツの世話をする事に反対せず、名前も気に入ってくれたようだった

 

「んじゃコイツをどうするか決まったし、長旅の疲れもあるからもう寝るか」

 

「はい、…実は私も、もう限界で、部屋に戻りますね。おやすみなさい」

 

そう言ってゆんゆんは部屋に帰って行った

それを見送った俺は眠らず、そのまま縁側へ戻った

 

……はぁ、また厄介事が増えたな

厄介事が増えるのはカズマだけで十分なんだが、ホントこれからどうしよう

 

俺は飲みかけだった芋焼酎を煽り、再びため息をついた




はい、飛竜の登場には批判の声が上がるの覚悟で登場させました!
今後この二人と一匹がどのような冒険をするのかお楽しみください!

次回はカズマ達と飛竜の顔合わせです









……………レイヴマスターとアークウィザードのパーティに飛竜の組み合わせってチートなんじゃ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。