この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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オリジナルを一話に凝縮し過ぎた気がする…


第十六話

「ようやく着いたか」

 

俺は今、アクセルの街から遠く離れた火山地帯にいる

 

何故こんな所にいるのかというと、話は二日前まで遡る

 

いつものようにウィズの店を手伝いながらクエストを受ける日々を送っていた俺に

ルナさんから指名依頼だと、一つのクエストを渡されたのだ

 

「俺宛に指名依頼ですか?」

 

「はい、変化する不思議な剣を持つツバサさんに是非ともお願いしますと、貴族の方から直接」

 

……何かおかしい、俺はそう感じた

 

別に指名依頼がおかしいと言っているわけではない、実際腕の立つ冒険者に依頼を指名しているところは何回か見た事がある

 

おかしいと感じたのは、『変化する不思議な剣』や『貴族の方から』のところだ

 

俺は貴族と関わった記憶はない、他の冒険者から俺がレイヴを持っていると知った可能性もあるだろうが

 

それに依頼内容も妙だ。内容は、火山地帯の行商人のルート上にリザードソルジャーが出没し始めたから迅速に討伐をお願いしたいそうだ

 

迅速な依頼なのに、態々アクセルの街にいる俺に依頼するか?

 

罠か?

いや、貴族に喧嘩を売ったことも買ったこともないからその線は捨てよう

とりあえず受けてみればわかるか

 

「分かりました。この依頼、受けますよ」

 

そんなわけで、俺は火山地帯に行くことになった

 

火山地帯へは近くの街まで馬車で行くことになってるから、出発まで時間はある

今のうちに準備をしておくか

 

俺はポーションなど、必要な物を買いに市場へ向かうと

その道中、何やら路地を見ながらコソコソしているカズマを見つけた

 

「カズマじゃないか、そんなところで何してるんだ?」

 

背中から話しかけたせいか、カズマとその横にいた二人の男がビクッと跳ねた

 

「ツ、ツバサか、驚かせるなよ」

 

「勝手に驚いたんだろうが」

 

カズマ達は何故か円陣を組みだし、何か相談している

俺が不思議そうに見ていると、急にカズマが俺の肩を組み、円陣に加えた

 

「おい、急になんだ」

 

「今から言う事は男の冒険者達だけの秘密なんだが、ツバサは口が堅いよな?」

 

「…?まぁ、黙ってろって言われたら誰にもしゃべらないが」

 

「……実はな、サキュバス達がこっそり経営している、いい夢を見させてくれる店の話を知ってるか?」

 

カズマ達の話だと、この路地の先にサキュバスの店があるらしい

男冒険者にいい夢を見せる代わりに、少しだけ精気を吸うとのことだ

つまりこの街で性犯罪が無い理由はサキュバス達のおかげと言う事になる

 

「どうだ、今から一緒に行かないか?」

 

「……かなり興味はあるが、今からクエストに行かないといけないんだよ」

 

「ん?クエストなんて明日に回せよ、一緒に行こうぜ」

 

ダストとキーンも俺を誘ってくる

 

「悪いな、急ぎの依頼らしくて、明日には回せないんだ」

 

「そうか、まったく仕事熱心な奴だなお前は」

 

正直なところ、サキュバスの店はかなり興味がある

だが残念なことに、依頼を受けてきてしまったからなぁ

後日詳しい場所をカズマに案内してもらおう

 

「そういう訳だ、じゃあまたな」

 

そう言って俺はカズマ達と別れ、準備を整え火山地帯へと向かった

 

そんなこんなで現在、俺は火山地帯を探索中だ

 

「あっちーぃ。冬のくせに、やっぱ火山の近くだからか?」

 

別に暑いのが苦手な訳ではないが、冬なので少し厚着なのだ

それが火山地帯との組み合わせで悪い方向に影響している

 

俺はインナーの長袖を半袖に変え、体温を調節する

うん、ちょうどいい感じになったか

 

それにしても、リザードソルジャーってのはどこに居るんだ?

さっきから敵感知スキルを使っているのに何も反応が無い

 

渡された地図を見るとこの先にリザードソルジャーの住処があるらしいが

 

「……行ってみない事には分からないってか」

 

俺は地図をしまい、住処の方に近づいていく

近づくにつれて、敵感知スキルに反応が出てくる

 

あの角を曲がった先あたりだな……

 

俺は荷物を岩場に隠し、テン・コマンドメンツを構えて少しずつ近づいて様子を見てみる

 

1、2、3、………ざっと二十体くらいか

 

おおう、トカゲ戦士が剣や盾、ついでに鎧まで装備してやがる

シルファリオンを使っても急所の首に当てないと一撃じゃ倒せない

ただ、体は鎧が、首はあの盾が防ぐだろう

 

でもまぁ、やるしかないな

 

俺は覚悟を決め、近づけるギリギリのところまで移動した瞬間

勢いよく飛び出すと、反応の良いリザードランナーが迎撃に来た

 

縦振りの斬撃を紙一重でかわし、リザードランナーの首をシルファリオンの刃で斬り裂いた

 

「ギャアアアアアアアアアっ!!」

 

絶叫を上げ、絶命したリザードランナーが倒れる

 

その絶叫を聞いた他のリザードソルジャーが戦闘態勢に入り、こちらを威嚇して来る

 

「さぁ、かかってきやがれトカゲ野郎!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ガキィンっ!という剣のぶつかり合う音が辺りに響き渡る

 

リザードソルジャーの数は残り三体まで減っている

このまま一気に押し切ろうと考えていたが

 

リーダー格の三体らしく、かなり手こずっていた

 

「他の奴らは簡単につぶせたのに、流石はリーダー格だ強さが別格だぞ」

 

自分達以外の仲間が全滅してるから相当お怒りの様だしな

確実に俺を殺しに来てるな

 

リザードソルジャーが右から攻めてくる

 

それをアイゼンメテオールで受け止めた瞬間、反対側からもう一体が突っ込んできた

 

「っ!ここで連携攻撃かよっ!!」

 

視界の隅の方でリーダーのリザードソルジャーがほくそ笑んでいるのが見えた

 

この野郎、これで俺を――

 

「――倒したつもりかぁあああ!!」

 

左から振り下ろされた剣を、冷気を纏った剣が受け止める

 

「「「ギィッ!?」」」

 

その光景にリザードソルジャー達が驚きの声を上げる

 

「双竜の剣『ブルークリムソン』!!」

 

「――ッ!ギャァアアアアアっ!!」

 

最後の一体が真正面から襲い掛かってくる

 

いくら二刀流でも、三対一は流石に分が悪い

それに片腕のせいで押し返す事も出来ていない今、防ぐ手立てはない

 

「くっそ!!」

 

折角第5の剣を開放出来たのに、それでも力及ばずかよっ!

 

もうだめかと思い、諦めてしまった瞬間

 

「『ライト・オブ・セイバー』!!」

 

「ギャ?」

 

「えっ?」

 

襲い掛かって来ていたリザードソルジャーの首を少女が放った光の刃が通過した

そしてそのまま、何が起こったのか分からないままリザードソルジャーの首が落ちた

 

その光景に、俺と鍔迫り合いをしていたリザードソルジャーも呆気にとられていた

 

「今の内です!!」

 

俺は少女の叫び声で我に返り、力の弱まっていた剣をはじき返し反撃に入った

 

「くらえ新技!『デュエルエクスプロージョン』っ!!」

 

俺は二刀のまま、エクスプロージョンへと変化させ、弾いたリザードソルジャーの頭を爆発で吹き飛ばした

 

「エクスプロージョン!?」

 

俺を助けてくれた少女が驚きの声を上げる

 

「あ、あの、今の技って……」

 

疑問に思うのも不思議じゃないな、めぐみんにも名前が同じだから勘違いされたし

 

「今のはこの剣の技だよ。爆裂魔法とは一切関係ないから」

 

俺はいつものようにアイゼンメテオールへと戻し、剣を背中に戻した

 

「――っ!!?」

 

あ、なんか久々だなこの反応。アクセルの連中はもう見慣れて面白い反応が無いからなぁ

 

「……い、いい、いま、…剣が」

 

「ああ、俺の剣についてる宝石の力でな。剣を十通りの形や能力に変化させることが出来るんだ。それよりも、さっきは助けてくれてありがとな」

 

「あ、いえ、余計な事してごめんなさい!」

 

………えぇっ!?なんか謝られた!!

 

「余計だなんてとんでもない!君の援護が無かったら、今頃あの世だったよ

 何かお礼がしたいんだけど、えっと君の名前は?」

 

「……………」

 

うつむいたまま黙られてしまった……

まさかとは思うが、この状況でナンパと勘違いされたとかじゃないよな

 

「あ、あの!絶対に笑わないで下さいね!!」

 

「お、おう」

 

なんか頬を染めながら釘を刺されてしまった

え、何?名前聞いただけなのに何でこんな状況に!?

 

俺が混乱していると、少女はマントをバサッと翻し

 

「わ、我が名はゆんゆん。アークウィザードにして、上級魔法を操りし者。やがては紅魔族の長となるもの!」

 

…紅魔族はこの挨拶を強いられているのだろうか

まぁいいや

 

「俺はツバサだ、よろしくゆんゆん」

 

そう言って握手をしようと右手を出したのだが

 

「あ、あれ?…私の名前、聞いても笑わないんですか?」

 

めぐみんと違って随分と恥ずかしがり屋だな

紅魔族ってめぐみんみたいなのばかりだと思ってたけど、実は違うのか?

 

「俺の知り合いに紅魔族がいるからな、その挨拶が普通なんだろ?」

 

「普通なんですけど、私がおかしいのか、恥ずかしいんです…」

 

なるほど、この子が特殊だっただけか

……紅魔族の挨拶か

 

「……ちょっと面白そうだしやってみるか」

 

「え?今なんて――」

 

俺は口の端を吊り上げると、背中からテン・コマンドメンツを抜き

 

「我が名はツバサ!最弱職の冒険者にして、光の聖石『レイヴ』を操りし者!」

 

………思ってたよりも、恥ずかしいなこれは

 

「…ぷっ」

 

「ん?」

 

「あはは、あははははははは!!」

 

ゆんゆんが腹を抱えて笑い始めた

紅魔族の挨拶なんか間違えたか!?

 

「私、紅魔族じゃない人がその挨拶をするところ、初めて見ました!」

 

思いの外受けたらしい

 

「くっ!ふはははは!」

 

なんか俺まで笑いが移ってしまったぞ!

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

あの後、思いっきり笑いあった俺達は街まで戻り、一緒に酒場で夕食を取っている

 

「笑ってしまってすみませんでした!」

 

「いや、ホントもういいって」

 

街に戻る前からずっと謝られ続けている

 

「それよりも、ゆんゆんはなんであんな所にいたんだ?あの辺はリザードソルジャーの縄張りで危険だったはずだ」

 

「…私はともだ―――ライバルと決着をつけるために、上級魔法習得の為の修行の旅をしてたんです」

 

今、友達って言おうとしたよな。アレか、友と書いてライバルと読むのか?

 

「それで、無事に上級魔法を覚えたので試しに行ったら――」

 

「殺されかけてる俺と出くわしたって事か」

 

「はい」

 

ゆんゆんがあの場所にいたのは偶然だったか

もはや奇跡のレベルで俺は運がいいな

 

しかし―――

 

「―――これで二度目か」

 

俺は以前の出来事を思い出し、ため息をついた

 

「二度目?何がです?」

 

「ああ、前にアクセルの街の近くの森に出た、ブラックファングの討伐クエストを受けた事があるんだけど、その時も死にそうになってさ

 もうだめかと思ったけど、誰かがブラックファングを仕留めて俺を助けてくれたんだよ

 その人は名乗るどころか姿も見せずに消えたからお礼も言えないままなんだよなぁ

 ……………ん?どうしたゆんゆん。そんなに汗かいて、大丈夫か?」

 

何故かゆんゆんがうつむいて汗を大量に流している

 

「い、いえ、なんでもないです!」

 

「そ、そうか」

 

俺はゆんゆんの鬼気迫る感じに気圧されてしまった

 

さて、それはともかく

 

「んで、コイツはどうするか」

 

「…どうしましょうか」

 

俺とゆんゆんの視線の先には、赤黒くデカい卵が鎮座していた

これを持ってきた時の酒場の視線が痛いのなんの

 

まぁ、今でも視線を感じるが……

 

この卵は街へ戻る最中に見つけたものだが、ゆんゆんも見た事が無いと言う

何故か気になって持って帰ってきちまったが

 

「………やっぱ売るか」

 

「えぇっ!?気になったから持って来たんですよね。それを売っちゃうんですか?」

 

「でもモンスターの卵だろ?生まれる前に処理した方がいいと思うんだが」

 

「…そうですけど」

 

ゆんゆんも気になるのか

そりゃそうか、ゆんゆんが先にこの卵を見つけたんだしな

 

「分かったよ。とりあえずアクセルに持って帰って調べてもらおう、それからこの卵をどうするか考えよう」

 

話はそれでひと段落し、俺達は各々の宿へ戻った

 

その日の夜、俺は中々寝付けないでいた

 

「はぁ~、まさかめぐみんに続きあんな女の子と知り合いになるなんてなぁ

 ……あんまり人とは関わり合いたくないんだが」

 

人と関わり合いたくない。それにはちょっとした理由があるのだが

 

「………元気にしてるかなぁ」

 

俺は前の世界に置いて来てしまった家族―――妹の事が気になっていた

 

カズマのパーティに入りたくない理由の一つが、めぐみんにある

妹と同年代の子が近くにいるだけで、どうしても妹の事を思い出してしまうからだ

普段クエストに出たりウィズの店の手伝いをしてるのも、考えなくて済むからだ

 

俺の両親は既に事故で亡くなっている為、もしかしたら会えるかもと思い、ルナさんに冒険者リストを確認してもらったが両親の名前は無かった

 

しっかり者だから大丈夫だとは思うが、兄としてはやっぱ心配だ

 

はぁ、とりあえず明日アクセルに戻るまでの辛抱だな

ホームシックなんてカッコわりぃな……

 

街に帰ったら、また仕事漬けにしよう

そう思いながら俺は、いつの間にか眠りについていた




冒頭部分でお気づきの方が多いと思いますが、この作品にデストロイヤー戦はございません!
この小説を書く前に、ルーンセイブでコロナタイトを余裕で封印出来るからどうしようかと悩んだ結果、戦闘に参加させなければ解決じゃね?という結論に至り今回の話が生まれました

あと十六話にしてヒロインの登場です
この時をどれだけ待った事か!

あ、因みに妹設定は当初からあったので誤解されないようお願いします(後付けではありません)

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