この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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第十五話

 

「ウィズ、コレ店頭に並べていい奴だよな?」

 

「はい、お願いします」

 

今日は久しぶりにウィズの店の手伝いをしている

 

最近クエストに出ても集中できないから、こうして店の手伝いをしてはいるが

やっぱどうしてもアラシの事が頭をよぎる

 

なぜ俺に接触してきた

なぜ自分がダークブリングマスターだと名乗ったのか

なぜデカログスを選んだのか

 

それら考えが、頭の中で渦を巻いている

 

「ちょっとツバサさん、聞いてますか?」

 

「え?」

 

「もう、さっきから声をかけてるのに、無視するなんてひどいじゃないですか」

 

どうやらウィズに話しかけられていたらしい

駄目だな仕事に集中しないと

 

「あぁ、悪い悪い。で、なんだ?」

 

「ポーションの在庫が切れていたので、買い出しに出てもらいたいのですが」

 

「そんな事か。分かった、買って来るよ。他に必要な物とかあるか?ついでに買ってくる」

 

それから俺はウィズに買い出しメモを貰い、市場に仕入れに行ったのだが

帰ってくるなり騒動に巻き込まれるとは想像もしてなかった

 

買い物を終わらせ、店まで戻って来ると

 

『確保ーっ!!』

 

店の中からアクアの叫びが聞こえてきた

 

「なんだ!?」

 

俺は大急ぎで扉を開けると、ウィズの上にまたがるアクアとそれを眺めるカズマが目に入って来た

 

が、そんな事はお構いなしに俺は

 

「何やってんだこの駄女神がっ!!」

 

アクアの思いっきり蹴り飛ばした

 

「ツバサっ!?」

 

「大丈夫かウィズ」

 

「…あ、ありがとうございます」

 

俺はウィズを起き上がらせると、今回の顛末をカズマから聞いた

 

「なるほどな。ウィズが魔王の幹部の一人って知ったからアクアが襲い掛かったと」

 

「そう言う事だ。だけど一応、冒険者な手前、見逃すって訳には」

 

申し訳なさそうにカズマがそう言ってきた

 

「そう思うのも無理はないだろうな。現に俺も、ウィズに魔王軍の幹部だって教えられた時は色々調べたし」

 

「調べた?」

 

「あぁ、魔王軍の幹部の事や、ウィズに賞金が掛かってるかとか色々な

 初めから疑ってはいなかったけど、ウィズは問題ないよ」

 

そんな俺の言葉を聞き、アクアはこちらを睨みつけて来た

 

「リッチーのすぐそばにいる奴の事はあまり信用したくないから、念のため退治しましょう」

 

「おいやめろアクア!」

 

カズマがアクアを押さえつけている

 

どうも俺はアクアから敵視されている節がある

めぐみんはエクスプロージョンの件で目をつけられてはいるが、敵視って程じゃない

 

でもまぁ、流石女神ってところか、リッチーのウィズに対して相当な嫌悪を見せるし

何かと退治したがるし、女神としての本能がそうさせるのだろうか

 

「んで?今日はウィズにスキルを教えて貰うために来たんだよな」

 

「そうそう、忘れてた!」

 

「そうでしたね。では早速、一通り私のスキルをお見せしますから、好きな物を覚えて行ってください」

 

カズマがウィズにスキルを教わると言うので、俺は荷物を置きに、倉庫の方へ向かう

 

「あれ、ツバサは教わらないのか?」

 

「俺はいい、今あるスキルだけで十分だからな」

 

そう言って俺は倉庫の整理に向かった

 

そしてしばらくすると

 

「ツバサー、ちょっと来てくれないか?」

 

カズマに呼び出された

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……この屋敷か」

 

街の郊外に佇む一軒の屋敷

 

そしてその目の前に、建設中の俺の家がある……

 

「まさかこの屋敷に悪霊が住み着いてるとはな」

 

「俺は別の意味で驚いたよ。ツバサの家がすぐ隣にあるとはな」

 

「ここは人があまり来ない場所だからな。静かでいい場所だぞ」

 

建設具合は8割と言ったところか、もう少しで出来上がるな

 

因みにこの家の建築は、俺が設計図を書いて、大工屋の親方に説明してある

畳や瓦造りの家など、この世界にはない技術もあったので、熱心に聞いてくれて助かった

 

てなわけで、ちょくちょく様子を見に来る感じで、作業は全て親方任せだ

 

うん、この屋敷に比べると小さいが、十分デカい部類に入るだろ

庭も広いし、縁側で茶をすするのが楽しみになってきた

 

「…いやいや、今は俺の家はどうでもいいよ。屋敷の除霊が先だ」

 

そうだ、そもそもアクアのせいで動けなくなったウィズの代わりに除霊に来たんだ

何故か俺まで連れてこられたが、まぁいい

 

てか俺が倉庫に行ってる間に、またウィズが消えそうになるなんて

アクアが来てるときは何があってもそばに居よう

 

「しかし、本当に除霊が出来るのか?聞けば、今この街では祓っても祓ってもすぐにまた霊が来ると言っていたのだが」

 

ダクネスが、大きな荷物を背負いながら言ってきた

 

荷物を持っている理由は、カズマ達がこの屋敷の悪霊を除霊する報酬として、この屋敷に住まわせてもらえるからだ

 

……なおの事俺がここにいる意味が分からなくなってきた

 

「任せなさいな!」

 

そう言ってアクアは両手を前にかざし、何かを探り始めた

 

「…見える、見えるわ!この私の霊視によると、この屋敷には貴族が遊び半分で手を出したメイドとの間に出来た子供、その貴族の隠し子が幽閉されていたようね!」

 

カズマ達の目が疑いの眼差しをしている

ちょっとは信じてやれよ

俺だって信じたくはないが、仮にも女神だぞ

常人には分からないことも分かるんだろう

 

てかカズマ、お前はアクアが女神だって知ってるだろ

いい加減信じてやれよ

 

あぁ、ついにはアクアを無視して3人が屋敷に入って行ってしまった

 

「名前はアンナ=フィランテ=エステロイド。好きな物はぬいぐるみや人形、そして冒険者の冒険話!」

 

アクアの話を聞く限り、今説明している少女の霊は悪霊ではないらしいな

名前や好きな物くらいは覚えておこう

 

俺はアクアを置き去りにしたまま、カズマ達を追って屋敷に入った

 

中ではすでに大掃除が始まっており、俺も手伝うことになっている

てか今回俺がここにいる理由が、この屋敷の掃除の手伝いだったりする

 

なのでこの後行われるであろう除霊活動には一切関わらない筈だ

 

カズマは俺にもこの屋敷で暮らさないかと言って来てくれたが、丁重にお断りした

 

理由は簡単だ。近々自分の家が出来上がるし、なによりカズマが俺をパーティに加えようとしているのが目に見えて分かったからだ

 

俺は一人でのんびり、マイペースに冒険を楽しみたいんだ

カズマには悪いが、邪魔されてたまるかよ!

 

それにしても、この屋敷からは嫌な感じがするな

俺って霊感強い方だったか?

 

「なぁカズマ、この屋敷から嫌な感じしないか?」

 

「そうか?俺は何も感じないけど。何か感じるか?」

 

「いや、私は何も」

 

「私も特に感じるものはありませんね」

 

カズマ達は何も感じないのか

 

「やっぱ気のせいなのかなぁ」

 

俺はあまり深く考えないまま掃除に戻ることにした

 

そして夕方

 

「これで一通り掃除も終わったな」

 

「部屋割りも決めたし、荷物も運びこんだし、あとは夜を待つだけだ」

 

これで俺の役目も終わりだな

 

「掃除したけど、まだ埃っぽいな」

 

カズマはそう言って窓を開け、そっと窓を閉めた

 

あの方向は屋敷の門がある方だったな

まさかアクアがまだそこにいるとかじゃないだろうな

 

「んじゃ、これから自由行動って事で、悪霊が出たらすぐに報告する事。解散!」

 

掃除が終わり解散と言う事なので、俺は帰らせてもらおうかな

 

「じゃあ俺は帰るよ」

 

「ああ、掃除手伝ってくれてサンキューな。でもホントにここに住まなくていいのか?

 部屋だったらまだいくらでも残ってるのに」

 

「いいよ俺は、自分の家を持つし。それにこんなにデカい家じゃ落ち着かねぇ」

 

「そうか、それは残念だ。折角ツバサをパーティに引き込むチャンスだったのに」

 

この野郎、やっぱそれが目的だったか

 

俺はカズマと話をした後、屋敷を出た

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

翌日、ウィズと共にカズマの屋敷へ行くと、ちょうど墓の掃除をしているところだった

 

「カズマさん、こんにちは!お墓の掃除ですか?」

 

「もう大丈夫なのか?昨日は悪いな、ウチの馬鹿が迷惑をかけて」

 

「いえいえ、あの後ツバサさんから魔力を分けてもらいましたし」

 

そのせいで少し疲れ気味なんだが

てか魔力吸われると体力も消耗するっておかしくないか?

 

「では、店番があるので、今日は帰ります。皆さんによろしく」

 

「ああ、今日は来てくれてありがとう」

 

そう言ってウィズは店に帰って行った

 

「ツバサは一緒に帰らないのか?」

 

「俺はこの後、親方に建設具合を聞きに行くからな

 それとその前に、コイツをお供えさせてくれ」

 

俺は持ってきた袋から、クマのぬいぐるみを取り出し、墓の隣に置かせてもらった

 

「なんでぬいぐるみなんだ?」

 

「アクアが、この少女はぬいぐるみや人形が好きだって言ってたからな

 霊になっても、こういうものが欲しいんじゃないかと思ってさ」

 

「へぇ~」

 

カズマが知らないのも無理はないか、あの時話を聞かずに屋敷に入って行ったからな

 

「そんじゃ俺も行くわ。家が出来たら、俺にも墓掃除を手伝わせてくれ」

 

「ああ、またなツバサ」

 

そう言って俺はカズマの屋敷を後にした





次回はサキュバス回!!

っと、言いたいところですが、都合により別のお話となります
前半多少絡みますが、全くの別の話になります
お楽しみに!

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