この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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第十三話

気が付くとそこは、以前にも見た事がある風景だった

 

何もない空間に、自分が座っている椅子と、それに対面するように置かれているちょっと豪勢な椅子

 

そしてその椅子の前にいる修道女のような恰好をした女性

 

「あれ、ツバサッ!?」

 

突然、慣れ親しんだ声が隣から聞こえてきた

驚いて声の方を向くと、カズマが俺と同じように椅子に座っていた

 

「カズマ!?あれ、て事は俺、死んだのか?」

 

「はい、あなたは自身が放った技で冬将軍と相打ちになったのです」

 

俺の死因を目の前の女性が教えてくれた

 

「…俺の死因を知っていてこの空間って事は、あなたは女神ですか?」

 

「……冷静な方ですね。少しは驚いてもいいと思いますが……まぁいいです

 あなたの言う通り、私はこの世界の女神です」

 

………なんか誰かに似てる気がするな

 

俺とカズマの顔を見ると

 

「佐藤和真さん、赤月翼さん、私はあなた方に新たな道を案内する女神エリス

 この世界でのあなた方の人生は終わったのです」

 

アクアの時と似てるな、やっぱテンプレ文なのだろうか

 

「せっかく平和な日本からこちらの世界に来て下さったのに、このような事に」

 

アクアと違う点と言えば、優しさがあるというところだろう

この人は俺とカズマの死を悲しんでくれている

 

他人に対して悲しめる人は少ない、まぁ人の概念が女神に通じるかは分からないが

アクアからは何も感じなかったからなぁ

 

「異世界から来た勇敢な方々、せめて私の力で次は日本で裕福な家庭に生まれ

 何不自由なく暮らせるように転生させてあげましょう」

 

……日本に転生?

 

転生って事は転移とは違って、俺の記憶は失われ、赤ん坊からやり直すと言う事じゃないのか?

 

………そんなのは嫌だ。まだあの世界でやり残したことがある!

 

自分の家も建設中で、米だって腹いっぱい食ってない!

それに、まだ冒険したりない!!

 

俺は女神に抗議するべく顔を上げると

 

カズマがエリスに無茶難題を押し付けていた

 

「いやーよかったー。もう終わりかと思ったけど、首の皮一枚繋がった感じですわ

 ツバサもそうだろ?」

 

「…俺はまだ、あの世界で冒険がしたい。やり残した事も沢山あるんだ

 エリス様、あの世界へは帰れないんですか!?」

 

俺は立ち上がり、エリスに詰め寄った

 

「……ごめんなさい。天界規定により、転移者の蘇生は禁じられているんです」

 

エリスは暗い顔で謝って来た

 

「そう、ですか……」

 

俺は諦め、椅子に腰かける

 

「またよき出会いのあらんことを」

 

エリスはそう言って右手を前に出し、暖かな光が現れた

 

ふとカズマの方に眼をやると、涙を浮かべていた

口や態度では嫌っていたが、本心はあの世界の事を気に入っていたんだな

 

始まったばかりの冒険がもう終わるのかと思っていると

 

『さぁ帰ってきなさい!カズマ、ツバサ!!』

 

突然アクアの声が響き渡った

 

「「えっ!?」」

 

『なにあっさりに殺されてんの、ツバサも勝手に自滅しないで、死ぬのはまだ早いわよ!』

 

「こ、この声、アクア先輩!?まさか本物!?」

 

エリス様が驚いているな。そうか、アクアが異世界に連れていかれた事は神々に知れ渡ってるって事か

 

『あんた達の身体にリザレクションかけたから、もうコッチに帰って来れるわよ!』

 

マジか、それは助かる!

あ、リザレクションってのは復活魔法の事だ

 

「ちょ、ちょっと待ってください!さっきも説明した通り、天界規定によりこれ以上の蘇生は出来ません!」

 

しまった忘れてた……

ここは多少癪だがアクアに頼んでみるか

 

「おいアクア!天界規定で俺達はこれ以上蘇生出来ないそうなんだが、どうにかならないか?」

 

『はぁー?誰よそんなバカなこと言ってる女神は!ちょっとアンタ名乗りなさいよ!

 仮にも日本担当のエリートな私に、こんな辺境担当の女神がどの口聞いてんのよっ!!』

 

エリス様の顔がだいぶ引きつってるな

てかこの世界って辺境なのか?

 

「えっと、エリスって女神様なんだけども……」

 

『エリス!?この世界でちょっと国教として崇拝されてるからって、調子こいてお金の単位にもなった、上げ底エリス!?

 ちょっとカズマ、エリスがこれ以上何かゴタゴタ言うのなら、その胸パッド取り上げてあげなさい!』

 

「わ、分かりましたっ!特例で!特例で認めますから!今、門を開けますからっ!!」

 

アクア先輩は理不尽なとか聞こえてきたが、エリス様には悪いが今回だけはその理不尽に感謝するぞ

俺はまだゲームオーバーにはなりたくない

以前誰かに救われた命だ、礼の一つも言えないまま去るなんて御免だ!

 

「さあ、これで現世と繋がりました。こんな事は普通ないんですよ

 ……ツバサさん、カズマさん」

 

「えっ、あ、はいっ!」

 

突然名前を呼ばれ、カズマは上擦った返事をした

 

エリス様はこちらへ近づいてくると、イタズラっぽく片目を瞑り、嬉しそうに囁いた

 

「この事は、内緒ですよ?」

 

……そのしぐさに、一瞬心を奪われてしまった

これが本物の女神様なのか、あの自称女神とは大違いだ

 

そう思いながら、俺とカズマは現世へと帰って行った

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

なんとなく、意識が覚醒していくのが分かる

それに準じて、人の声が聞こえて来た

 

「………ズマ……!カズマっ!カズマ起きてくださいっ!」

 

眼を開け声の方を向くと、めぐみんがカズマにすがって泣き叫んでいた

 

「あ、二人とも起きたわね。ったくあの子は、相変わらず頭固いんだからまったく」

 

アクアの言うあの子とは、おそらくエリス様の事だろう

頭固いというか、規定なんだから守るものだから仕方ないんじゃないか?

 

まぁそんな事よりも、なぜ俺はアクアに膝枕をされているのだろうか…

カズマはめぐみんとダクネスに抱きつかれてるし

 

……今この状況で羨ましくも嬉しくもないこの感情はどうしよう

 

「ねぇ二人とも!私に何か言う事あるでしょ?」

 

生き返らせたことを感謝してほしいのだろうが、なんか感謝したくない

そう思っているとカズマが先に口を開いた

 

「女神チェンジ!」

 

「上等よこのクソニート!そんなにあの子に会いたいのなら、今すぐ会わせてあげようじゃないの!」

 

その言葉にアクアは俺を放り投げ、勢いよくカズマに襲い掛かった

 

「痛ってぇなクソが!生き返ったばっかりの人間を放り投げんな駄女神が!」

 

「ツバサまで私の事を駄女神って呼ぶの!?」

 

文句を言ってくるアクアを無視し、俺は上体を起こして身体の確認をした

 

「…………二人とも大丈夫ですか?特にカズマは首ちょんぱされてましたが」

 

「首ちょ……」

 

そうか、カズマは自分の死因が分かってなかったのか

俺はその光景をまじまじと見てたからな

 

「冬将軍はツバサが撃退してくれたからしばらくは出てこないけど、どうする?」

 

「撃退?討伐出来なかったのか?」

 

アクアの言った撃退という言葉に疑問を思い、聞いてみるとめぐみんが代わりに答えてくれた

 

「冬将軍は精霊ですからね、討伐する事は出来ないんです。力が元に戻るか、再び雪精を狩り続ければ出現しますよ」

 

どの世界でも精霊を殺すことは出来ない存在なのか

 

ではあの手ごたえは何だったのかと

俺は冒険者カードを取り出し、レベルを確認してみると

冒険者カードに記されてるレベルは22になっていた

 

つまりこれでブルークリムソンが使えるようになったという訳だ

まあ解放条件を満たしただけで、まだ自在に使う事は出来ないんだが

 

てか、撃退でも経験値って入るものなんだな……

 

結局今回のクエストは撤退する事となり、討伐した雪精の報酬を山分けし

俺は別で冬将軍撃退の報酬を貰ってカズマ達と別れた

 

帰り際にクエストボードを覗いてみたが、今朝と変わらず

特に目ぼしい依頼は無かった

 

「んー、早いとこ次の剣も解放したいんだが……

 ……………あれ?」

 

俺は未だ解放されていない剣を思い浮かべたが、何一つ思い出せなかった

 

つい最近まではちゃんと覚えていた筈なのに

 

「まぁいいか、いずれ思い出すだろ」

 

この時の俺はあまり深く考えず、思い出そうともしなかった




ツバサが第六の剣以降を思い出せなくなった理由とは

次回はカズマのパーティ交換の回ですが、ほとんど関わりません
最後の方に少しだけ絡む感じですね



………早くヒロイン出したい

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