この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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第十一話

緊急要請により、俺達冒険者は街の正門へと集まっていた

 

何事かと思ったが、先週この街に来た悪魔の幹部。デュラハンがそこにいた

 

「……今度は何の用だ?」

 

俺は思ったことを率直に口に出していた

 

その直後、カズマ達も到着した

 

デュラハンはカズマ達を見つけると、開口一番叫びを上げた

 

「何故城に来ないのだ、この人でなし共がぁああああ!!」

 

俺は一週間前の事を思い出していた

 

一週間前、このデュラハンはダクネスに『死の宣告』を使った

 

確かその時言った言葉は、「汝に死の宣告を!お前は一週間後に死ぬだろう!!」

 

………一週間後、つまり今日だ

 

てことは、このデュラハンは俺達が来るのをずっと待ってたというのか?

 

なんか申し訳なくなってきた

 

俺が考え事に耽っている最中に話は進んでいたらしく、デュラハンが再び叫びを上げた

 

「あ、あれぇええええええええっ!?」

 

その叫びで我に返った俺は周りを見渡し、冒険者達の中にダクネスを見つけた

 

…あぁ、死んでないことにビックリしたのか

 

あの様子じゃ相当動揺してるな。兜のせいで表情は見えないが

 

「なになに?ダクネスに呪いを掛けて一週間が経ったのに、ピンピンしてるから驚いてるの?このデュラハン、私達が呪いを解くために城に来るはずだと思って、ずっと私達を待ち続けてたの?帰った後、あっさり呪い解かれちゃったとも知らずに?プークスクス!うけるんですけど!ちょーうけるんですけど!」

 

アクアがデュラハンを指さして楽しそうに爆笑している

 

プルプルと肩を震わせているデュラハンを見る限り、激怒しているに違いない

決して恥ずかしいからという訳ではないだろう

 

「……おい貴様。俺がその気になれば、この街の住人を皆殺しにする事だって出来るのだ

 いつまでも見逃して貰えると思うなよ?」

 

アクアが挑発したせいでデュラハンの奴が殺意で満ちてるんだが

 

「アンデッドのくせに生意気よ!『ターンアンデッド』!」

 

アクアが突き出した杖から光が放たれる

 

「駆け出しの冒険者の魔法が通用するもぎゃあああああああああああああ!!」

 

アクアの魔法を食らったデュラハンは、体から黒い煙を吹出しながら、地面を転げ回った

 

メッチャ効いてるな…

 

痛みがなくなったのか、デュラハンはふらつきながらも立ち上がった

 

「ねぇカズマ!変よ、効いてないわ!」

 

「いや、結構効いてた様に見えたんだが、ぎゃあああ!って言ってたし」

 

アレのどこが効いてないように見えたんだこの女神は

 

……あ、女神だから一撃で屠れるとでも思ったのか

 

「お、お前。本当に駆け出しか?駆け出しが集まる所なのだろう、この街は!」

 

そのはずなんだが。アクアはともかく、周りの冒険者を見渡すと、レベルの高そうな冒険者も数人混じってるように見える

昨日も魔剣持ちのチーターがいたしな。アイツのレベルも高かったはずだ

 

「まぁいい、わざわざこの俺が相手をしてやるまでもない

 アンデッドナイト!この連中に、地獄を見せてやるがいい!」

 

デュラハンを囲むように、次々と、地面から鎧を着たゾンビ達が召喚された

 

「あっ!あいつ、アクアの魔法が以外に効いてビビったんだぜきっと!」

 

「違うわ!いきなりボスが戦ってどうする。まずは雑魚を片付けてからボスの『セイクリッド・ターンアンデッド』」

 

デュラハンのセリフに被せて、アクアが上級魔法を唱え、デュラハンが光の中に飲み込まれた

 

「ひあああああああああああ!!」

 

そして悲鳴を上げながら、再び地面を転げ回った

 

「ど、どうしようカズマ!私の浄化魔法がちっとも効いてないの!」

 

「ひあーって言ってたし、すごく効いてる気がするが?」

 

コイツは一度、眼科に行くべきだと思うのは俺だけか?

 

デュラハンはさっきと同じように体から黒い煙を吹出していた

 

「ええい、もういい!街の連中を、皆殺しにする!」

 

その声に反応し、アンデッドナイト達が一斉にこちらに向かって走り出した

 

「おわーっ!プリーストを呼べ!」

「誰か!教会行って、ありったけ聖水貰って来て!」

 

冒険者達が次々と動揺し始めながらも、戦闘態勢に入る

俺も背中の剣を抜き、臨戦態勢に入ったが、……様子がおかしい

 

これだけの人数が居たら、アンデッドナイト達もばらけるはずだ、なのに

 

「わ、わあああああっ!」

 

何故かアンデッドナイト達は、アクアしか狙っておらず

逃げ出したアクアに付いて行くように、冒険者達の目の前で進路変更した

 

「なんで私ばっかり狙われるの!?私、女神なのに!日頃の行いも良い筈なのに!」

 

「ああ、ズルい!私は本当に日頃の行いも良い筈なのにどうしてっ!」

 

逃げ出したアクアの叫びと、ダクネスのどうしようもない発言が聞こえたが無視しよう

 

……てかなんだこれ、魔王の幹部が来てるはずなのに、今物凄くピンチなはずなのに

なんだこの煮え切らない感じは!

 

「おいめぐみん!あのアンデッドナイトの群れに、爆裂魔法を撃ち込めないか!?」

 

今が一掃するチャンスだと思ったのだろう、カズマがめぐみんに爆裂魔法を頼んだ

 

「えっ!?まとまりが無いので無理ですよ!」

 

まとまりが無い上、動きまくってるからな。そりゃ無理だろ…

 

そんなことを考えていると

 

「わあああああ、カズマさん!カズマさーん!!」

 

アクアが大量のアンデッドナイトを引き連れてこちらに戻ってきた

 

『うわぁああああああああ!!!』

 

冒険者達はたまらず、叫びながら退避し始めた

 

逃げ出す際、ダクネスの笑顔が見えたのは気のせいだと思いたい

 

「このバカッ!こっち来んな!!」

 

アクアとアンデッドナイトの追いかけっこに巻き込まれたカズマの叫びが聞こえた。

 

俺はめぐみんと同じ方向に逃げたので、一緒に岩の上に退避した

 

その直後

 

「めぐみん!魔法を唱えて待機してろ!」

 

「りょ、了解です!」

 

カズマから爆裂魔法の指示が出た

 

「何をするつもりだ?」

 

「さぁ、私には分りませんが、カズマの事ですから、何か策があるのでしょう」

 

俺はカズマ達の方に眼をやると、デュラハンの方へと走っているのが見えた

 

……なるほど、そう言う事か。考えたな

 

「めぐみん!今だっ!!」

 

デュラハンの目の前でカズマとアクアが別々の方向へと飛びのいた

 

アンデッドナイトはそのままデュラハンに突っ込むのではないかと思う勢いで走り続けている

 

それを見ためぐみんは

 

「何という絶好のシチュエーション!感謝します、深く感謝しますよカズマ!」

 

めぐみんはその瞳を紅く輝かせ、杖を構えた

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者!我が力、見るがいい!『エクスプロージョン』!!」

 

めぐみんの放った爆裂魔法が、デュラハンとアンデッドナイトの大群のど真ん中に炸裂した

 

アンデッドナイトの群れを一掃し、街の正門の真ん前に巨大なクレーターを作り上げた

 

「クックックッ、我が爆裂魔法の威力を目の当たりにし、誰一人として声も出せない様ですね。……ふああ、凄く、気持ちよかったです」

 

言い終わるのと同時に、めぐみんの体が前に倒れ始めた

 

「おっと、大丈夫か?」

 

「あ、ありがとうございます。受け止めてくれたので、今日は地面に倒れず済みました」

 

「ツバサ、そのままめぐみんの事介抱してやってくれ」

 

「おう、分かった」

 

俺は抱き抱えているめぐみんを、背中に背負い込んだ

 

そして未だ爆煙が上がる中、街中の冒険者から歓声が沸き上がる

 

「うおおおおおおおお!やるじゃねーか、頭のおかしい子!」

「頭のおかしい紅魔の子がやりやがったぞ!」

「名前と頭がおかしいだけで、やる時はちゃんとやるじゃないか、見直したぜ!」

 

街から聞こえてくる歓声に対し、めぐみんが

 

「すいません。ちょっとあの人達の顔、覚えといてください!今度、爆裂魔法でぶっ飛ばしたいので」

 

恐ろしい事を言うな……

 

冒険者達が歓声を上げる中、クレーターから勢いよく、デュラハンが飛び出してきた

 

「クフフフ、面白い。面白いぞ!本当に配下を全滅させられるとは思わなかったぞ!よし、では約束通り!この俺自ら、貴様らの相手をしてやろう!」

 

まるで爆裂魔法によるダメージなど無かったかのように、大剣を構えこちらへと駆け出した

 

まさかアクアとめぐみんの魔法を直撃で食らったにも関わらず、ここまでピンピンしてるなんてな

流石魔王の幹部ってだけはあるな

 

「ビビる必要はねぇ!直ぐにこの街の切り札がやってくる!」

「ああ!魔王軍の幹部だろうが何だろうが関係ねぇ!」

「一度に掛かれば死角が出来る!全員で殺っちまえ!」

 

デュラハンがこちらへ着くよりも先に

多数の冒険者達が武器を手に、デュラハンへと向かっていった

 

「…余程先に死にたいらしいな」

 

デュラハンは自分の首を、空高くへと放り投げた

 

それを見た俺は、瞬時にその行動の意味を理解し、斬りかかりに行った冒険者達に叫んだ

 

「駄目だ!戻れっ!!」

「止めろ!行くなー!」

 

カズマもデュラハンの行動を理解し、斬りかかりに行った冒険者達を止めるべく、叫んでいた

 

だが

 

「えっ?」

 

最初に斬りかかった冒険者から、間の抜けた声がこぼれる

 

直後、次々と冒険者達の攻撃を躱してみせたデュラハンは、片手で握っていた大剣で、斬りかかってきた冒険者達全員を、瞬く間に斬り捨てた

 

正直声が出なかった

 

人が殺されるのも、殺すところも見るのは初めてだったと言うのもあるが

こんな簡単に、人の命は奪われる物なのかと

 

自分もその世界にいるのだという恐怖が、俺の体を硬直させた

 

デュラハンは落ちてくる自分の首を受け止めると、こう言った

 

「次は誰だ?」

 

その言葉に、周りの冒険者達は怯む中

 

一人の少女が叫びを上げた

 

「あ、あんたなんか、今にミツルギさんが来たら一撃で斬られちゃうんだから!」

 

……ミツルギ?

 

アイツなら朝一、仲間連れてどこかに走り去って行ったが…

 

魔剣を持ってなかったところを見ると、カズマに返して貰えなかったのだろう

魔剣に関してはミツルギの自業自得だが、こんな時に限っては間が悪すぎるぞ!

 

一番先頭にいたカズマにジリジリと近寄ってくるデュラハンから庇う様にダクネスが前に出た

 

いくらなんでも無謀だろ!デュラハンの大剣は、鎧をも真っ二つにしたんだぞ

 

「ほう?次はお前が俺の相手をするのか?」

 

何かカズマと言葉を交わした後、ダクネスは大剣を正眼に構え、デュラハンに向かって駆け出した

 

「勝負だ、ベルディアっ!!」

 

「相手が聖騎士とは是非も無し!」

 

デュラハンが身を低く落とし、回避の構えに入っている

 

そのデュラハンに、ダクネスは体ごと叩き付けるように大剣を振ったが

 

その剣はデュラハンに届くことはなく、足先数センチほど前の地面に叩き付けられていた

 

「………は?」

 

デュラハンが気の抜けた声を上げる

 

そりゃそうだよな、俺も初めてダクネスの剣を見た時は驚いた

つうか今回のは前回見たキャベツの時よりも酷い…

なにせ動いていない相手に外したんだからな

 

「なんたる期待外れだ。もうよいっ!」

 

再び斬りかかろうとしたダクネスを、デュラハンが袈裟懸けに、無造作に剣を一閃させ

ダクネスを切り裂いた

 

「さて、次の相手……は?」

 

先ほどの冒険者同様、確実のに討ち取った自信があったのだろう

 

だがダクネスは倒れることなく、デュラハンから距離を取り

 

「ああっ!?私の新調した鎧がっ!」

 

鎧に出来た大きな傷を悲しげに見つめていた

 

「な、何だ貴様は?俺の剣を受けて、何故斬れない?その鎧が業物なのか?

 ……いや、それにしても。先ほどのアークプリーストといい、爆裂魔法を放つアークウィザードといい、お前らは……」

 

デュラハンが何かブツブツ言い始めたが、この位置からではよく聞き取れない

 

鎧が傷つきながらも、デュラハンに果敢に挑意で行くダクネス

デュラハンはその攻撃を躱し、時には動かず、抱くネスの攻撃を躱しつつ

何度もダクネスに斬撃を与えていく

 

俺は戦闘に参加するべく、背負っていためぐみんを、少し離れた場所に置き

カズマのところへ向かおうとしたとき、叫び声が聞こえて来た

 

「クルセイダーは、背に誰かを庇っている状況では下がれない!こればっかりは絶対に!」

 

その言葉はまさに、クルセイダーの鏡となる名言になるだろう

次に続く言葉さえなければ

 

「それにだ!このデュラハンはやり手だぞ!こやつ、先ほどから私の鎧を少しずつ削り取るのだ!」

 

………は?

 

「全裸に剝くのではなく中途半端に一部だけ鎧を残し、私をこの公衆の面前で、裸より扇情的な姿にして辱めようとっ!」

 

「えっ!?」

 

周りの冒険者達の顔も、どう反応したらいいのかと困った顔になっている

デュラハンでさえも攻撃の手を止め、かなり引いている

 

流石にこんな時でさえも、性癖を持ち出して来る所にカチンときた俺は

 

「「時と場合ぐらい考えろ、このど変態が!!」」

 

一字一句違わず、カズマと同じツッコミをしながら

ダクネスを蹴り飛ばした

 

「うおっ!?貴様、いつの間に距離を詰めたのだ!」

 

突然目の前に現れた事に対し驚くデュラハン

 

「悪いが答える気はないな!」

 

俺は右手のシルファリオンを握り直し、デュラハンに斬りかかる

 

「ぐっ!」

 

流石のデュラハンも、シルファリオンの速度には付いて来られなかったようで

一部を除き、デュラハンに直撃する

 

「おおおおおっ!あのデュラハンに剣を当てたぞ!」

「一体誰だアイツは!?」

「それよりもアイツ、あんな剣だったか!?」

 

その光景を見た冒険者達から歓声が沸き上がるが

 

「フフ、フハハハハハっ!なんだ今の斬撃は!虫が止まっただけかと思ったぞ!」

 

チッ!やっぱデュラハンの防御力の方が上をいったか

シルファリオンの弱点でもある一撃の攻撃力の低さ

 

「どうやら速度だけに特化した剣の様だな」

 

「……即座に見破ったのはお前が初めてだよ」

 

「その程度の実力で、俺に立ち向かおうとした勇気は褒めてやろう。だが、勇気と無謀は別物だぞっ!」

 

デュラハンは大剣を横に薙ぎ払い、斬りかかってくる

 

「っ!なめるなっ!」

 

シルファリオンからアイゼンメテオールに戻し、デュラハンの剣を受け止める

 

「なにっ!?剣が変化しただと!?

 貴様、一体何者だ!」

 

俺はデュラハンの攻撃を受け止めるのが精一杯で、答えることが出来なかった

 

「アイツの剣、今変化したよな」

「あんな剣が存在するのか」

「剣が変化するなんて聞いたことねぇぞ」

 

デュラハンだけではなく、冒険者達も困惑している様だった

それもそうだろう。俺は今まで、人前で剣を変化させたことが無かったからな

 

「…俺が何者かだって?ただの冒険者だよ!」

 

俺はテン・コマンドメンツを担ぎ、一気にデュラハンへと振り下ろした

 

しかしデュラハンは、それを簡単に躱し、反撃してくる

 

俺はそれを躱すのではなく、剣で受け止めるのが精一杯だった

 

「ただの冒険者がそんな不思議な剣を操れるとは思えんのだが、まぁいい

 お前を野放しにするのは少々危険な気がする

 ……その剣、まだ他にも変化できるのではないか?」

 

鋭いなコイツ……

 

「……今見せてやるぜ!『エクスプロージョン』!!」

 

俺はデュラハンの足元へと、エクスプロージョンを放ち、土煙を上げた

 

「ぐっ、目くらましとは!」

 

デュラハンも突然の事で、対応できないでいた

 

今がチャンスだ!

 

「くらえ、爆・速・連携!爆龍の十二翼!!」

 

デュラハンに十二発の音速爆撃技を放ち、全弾命中した

 

が、

 

「…爆裂魔法程では無いが、今のは良い技だ。やはり貴様は危険な存在だ、ここで消えてもらおう」

 

爆龍の十二翼も効かないとなると、いよいよヤバいな

 

デュラハンが大剣を振り下ろそうとした瞬間

 

「『クリエイト・ウォーター』!」

 

突然カズマが、俺とデュラハンに魔法を放ってきた

 

ギリギリのところで躱すことができ、デュラハンとも距離を取ることが出来た

 

「やり方に文句はあるが、助かったぜカズマ!」

 

「いいやまだだ!『フリーズ』!」

 

カズマは続けて魔法を唱え、水たまりの上にいたデュラハンの足を凍らせた

 

「っ!?ぬかった!」

 

「回避しづらくなれば、それで十分だ!その剣奪ってやるぜ『スティール』!」

 

カズマは右手を突き出し、魔法を発動させる

 

しかし――

 

「悪くはない手だったな。レベル差というヤツだ。もう少しお前との差が無ければ、危なかったかもしれないが」

 

魔王の幹部には効かなかった

 

「さて、そろそろこの茶番を終わらせるとしよう」

 

デュラハンは足を凍らされているにも関わらず、何事もないかのように歩き始めた

 

何か策はないか?テン・コマンドメンツの変化は出し切っている

まだ解放されていない第四の剣も、デュラハン相手では効果が無い

 

「なかなかに楽しめたよ不思議な剣を扱う冒険者よ。だが、これで終わりだ」

 

「『クリエイト・ウォーター』!!」

 

「っ!?」

 

剣を振り下ろそうとしていた手を止め、デュラハンは大きく後ろに飛び退いた

 

一瞬カズマが、何をしようとしたのか分からなかったが、デュラハンの行動を見て理解した

 

「水だあああああああっ!!」

 

カズマの叫びと共に、魔法使い達が魔法を唱え始めた

 

「『クリエイト・ウォーター』!『クリエイト・ウォーター』!『クリエイト・ウォーター』!!!」

 

「くぬっ!おおっ!っと!」

 

頭上から次々と浴びせられる水を、デュラハンはこれでもかと躱していた

 

水が弱点なのは分かったが、俺は初級魔法を取得していない為、後ろに下がることになった

 

今俺の後ろには、俺と同じように初級魔法を覚えていない者や

俺に蹴られてそのまま退場したダクネスと、魔力を使い果たし動けないでいるめぐみんがいた

 

「ところでツバサ、さっきエクスプロージョンを使いませんでしたか?」

 

「いや、使ってない」

 

「嘘ですね。私の耳にはハッキリとエクスプロージョンと聞こえましたよ」

 

聞こえてたか…

 

「今回は非常事態なので見逃しますが、次はないですよ」

 

「そいつはどうも」

 

どうやら許されたようだ

 

めぐみんとの会話を切り上げ目の前で繰り広げられている戦闘に集中する

 

水さえ当たれば、デュラハンの弱体化する筈だ。そうなれば、カズマのスティールであの大剣を奪う事も、俺の攻撃も効果が出ると思う

 

だから俺は、いつでも攻撃を仕掛けられる様に構えていた

 

そんな中、カズマとアクアが何やら言い合っているのが見えたが、何やら嫌な予感がする

 

アクアが詠唱に入ると同時に、周りの空気がビリビリと震えだし、一層不安が高まる

 

逃げ出そうとするデュラハンの足に、いつの間にそこに行ったのか知らないが、ダクネスがしがみついていた

 

「離せ!この、ド変態騎士が!!」

 

あ、デュラハンの中でもド変態が確定したのか

 

「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!!」

 

アクアが両手を広げ、魔法を発動させた

 

……そう洪水クラスの水を

 

デュラハンだけでなく、周りの冒険者達も、突如出現した水に押し流されていた

 

このままじゃ溺れ死ぬ人も出てくる

 

現に俺の後ろでは

 

「俺は泳げないだ!助けてくれ!」

「うおっ!?しがみつくな、俺まで溺れるだろうが」

 

などという悲鳴が聞こえてくる

 

ついでに言ってしまえば、ここには全く動くことの出来ないめぐみんもいるのだ

 

どうにか守らなければ

 

とは言ってもどうする、この迫ってくる水をどうにかする方法は

 

……あるな。イチかバチかの策が一つだけ

 

俺はテン・コマンドメンツを構え、叫んだ

 

「発動してくれ!封印の剣『ルーン・セイブ』!!」

 

俺は思いっきり剣を振り下ろし、緑色の刀身は水を切り裂いた

 

「やった!…って、うぉあっ!!」

 

水を切り裂いたのはほんの数秒で、再び水が襲ってきた

 

どうにかめぐみんだけは溺れないよう守ることが出来たが、他の冒険者達の中には流されてしまった者もいた

 

やがて水が引いたその後には、地面にぐったりと倒れ込む冒険者達と

 

「何を考えているのだ貴様は………馬鹿なのか?大馬鹿なのか貴様はっ!?」

 

同じく、ぐったりしていたデュラハンが、よろよろと立ち上がった

 

正直デュラハンと同意見だ

敵味方関係なく薙ぎ払うんじゃない!死人が出たらどうするんだ!

 

カズマもよろよろと立ち上がり、デュラハンに対峙した

 

「今度こそお前の武器を奪ってやる!」

 

「弱体化したとは言え、駆け出し冒険者のスティールごときで俺の武器は盗らせはせぬわっ!」

 

「『スティール』!!」

 

カズマは全力で魔法を炸裂させた

 

直後、デュラハンの方を確認するが、その手には大剣が握られたままだった

弱体化しても無理だったかと、周囲から失望の声が上がった

 

だが、カズマもデュラハンも動く様子がない

 

その事を不思議に思っていると、恐る恐るといった感じの、小さな声が聞こえた

 

「あ、あの………」

 

デュラハンはか細い声を震わせながら

 

「あの……首………返して貰えませんか?」

 

カズマの手の中に、デュラハンの首があった

 

うわー、カズマの奴、メッチャ悪い顔になってるぞ……

 

「おいお前ら、サッカーしよーぜ!サッカーってのはなああああぁ!手を使わず、足だけでボールを扱う遊びだよおおおおお!!」

 

そう言うとカズマは、デュラハンの首を冒険者達の中に蹴り込んだ

 

蹴られて転がるデュラハンの頭は、今まで焦れて待っていた冒険者達の恰好のオモチャにされ

頭を蹴られ続けているデュラハンの体の方は、剣を握ったままうろたえていた

 

………なんか馬鹿らしくなってきた。もう帰っていいか?

 

俺が呆れて、その光景を眺めていると

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』!!」

「ちょ、待っ……ぎゃああああああ!」

 

アクアの魔法でデュラハンは浄化されていった

 

こうして、魔王幹部との戦いは幕を閉じた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

デュラハン討伐の翌日

 

俺はギルドに訪れていた。その目的はデュラハン討伐の報酬を貰うためだ

 

昨日デュラハンを浄化した後、ダクネスが羞恥攻めを食らったりしていたが

俺には関係ないので、早めに撤収した。

 

ギルド内から騒がしい声が聞こえてくる、おそらく宴会でも開かれているのだろう

扉を開けると案の定、中では冒険者達が騒いでいた

 

酒を煽るもの、宴会芸を披露するアクア、ウェイトレスは酒場内を忙しく動き回っている

 

俺はその中を掻き分け、ギルドの受付にいるルナさんに話しかけた

 

「ルナさん、デュラハン討伐の報酬を貰いに来たんですけど」

 

「ツバサさんですね。少々おまちください」

 

そう言ってルナさんは受付の奥に行き、報酬を持ってきてくれた

 

「こちらが、ツバサさんの報酬になります」

 

その額は二千万エリスだった

 

……………

 

「…こ、この額は何かの間違いじゃないんですか?」

 

絶対に何かの間違いだろう、俺はデュラハンに攻撃は与えたものの、そんなにダメージは入っていないはずだ

 

「何も間違いはありませんよ?この報酬金額は、デュラハンに攻撃を与え、洪水による街への被害を軽減させた功績によるものです。安心して受け取ってください」

 

洪水による街への被害?

 

気になる単語が出てきたが、貰えるというのなら貰っておこう

それにこれだけの金額があれば、俺の家も建てられそうだ

 

その後、カズマも報酬を貰うためにギルドに現れ、その報酬金額が三億と言う事でギルド内が騒ぎになったが

 

洪水による街への被害額の一部を払ってくれという話になり

カズマのパーティは四千万の借金を抱えることになった

 

……俺の報酬は渡せないが、玉にはパーティに加わって借金返済の手伝いくらいはしてやろうかな?




アニメ一話分はやっぱきついな
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