この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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第十話

デュラハンが現れてから数日

 

俺は再びブラックファングの討伐の為、街外れの山まで来ていた

 

今回は前回のように死にかける訳にはいかない、前回助かったのはたまたま運が良かっただけだ

また誰かが助けてくれると言う事は無いだろう

 

なので今回は罠を張る為にブラックファングが通ったであろう痕跡などを調査し、そのけもの道に罠をいくつか仕掛けておいた

 

初めはけもの道って分からなくて困ったぞ、道中にフンや動物の食べ残された死骸などがあったからそれで判別する事が出来た

 

罠を仕掛けたポイントは全部で三つ、時間が無かったからそこまで深く掘る事の出来なかった落とし穴に、そしてその上にウィズ魔道具店に置いてあった衝撃を与えると爆発するポーションを20個ずつ設置してある

 

つまりブラックファングが落とし穴に掛かると同時に、ポーションが落ちて

ブラックファングの背中を襲うと言う事だ

 

俺のいる位置は、三つの罠が見える見晴らしのいい木の上だ

此処からなら、罠を仕掛けた場所も見渡せるし、爆発音が聞こえればすぐに向かうことも出来る

 

前回の戦闘ではかなりごり押し気味だったからな、今回は頭を使わせてもらったぜ

さぁ、どこに引っかかる?

 

俺はブラックファングが罠にかかるまで、潜伏スキルを使い木の上で息をひそめる

 

 

 

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隠れてからどれくらいの時間が経っただろうか、だいぶ長い時間監視しているが現れる気配はない

 

…一度周囲を探索してみるか?

いや、下手に動いてブラックファングと遭遇したら厄介だな

かと言って、ここからじゃ罠以外はけもの道が見えないんだよな

 

………待てよ、あえて見つかるのも面白いかもな

 

俺は口元をにやりと歪め、勢いよく飛び降り、けもの道の方へと走り出した

 

「さぁ出てきやがれ巨大熊ぁ!!」

 

俺はテン・コマンドメンツを抜き、シルファリオンへと変化させ。速度を上げる

 

ついでに腰に付けているポーチから、大きめの魚を取り出し

罠を仕掛けた内の一つに仕掛けとして追加しておく

 

後は縦横無尽にけもの道を走るだけだ

 

そうしてしばらく走り続けた後

 

ドドドドドドドドォオオオンッ!!!

という爆音が山全体に鳴り響いた

 

「あっちで引っかかったのか、急ごう!」

 

俺は爆音がなった方へと走り、ブラックファングが落とし穴から出るのに苦戦しているが見えた

 

ポーションが熊の足元で爆発したのだろうか?

まぁいい、これはチャンスだ!ブラックファングは全ての足が地面に埋まっている状態だ

俺はこの機を逃すまいと、一気にブラックファングの横に生えている木に、壁走りのスキルを使って駆け上がる

 

「ハァアアアッ!!」

 

俺は枝を蹴り、ブラックファングへと突っ込む

シルファリオンからアイゼンメテオールに変化させ、ブラックファングの首めがけて全力で振り下ろした

 

ザシュッという鈍い音と共に、剣がブラックファングの肉を抉っていく

 

「ウォラアアアアッ!!」

「グアアアアアアッ!!」

 

俺は力を振り絞り、剣へと力を籠め

一気にブラックファングの首を切り落とした

 

俺は剣に付いた血をふき取り、鞘へと戻し、一息ついた

 

「……ふぅ、今回は、襲って来る事はないだろう」

 

しかし、この作戦は今回きりだな

準備に時間かかるし、待つのも疲れる

 

なにより準備している時も、周りに気を付けなければならないから、常に神経を張り詰めていなければならない

仮に集中が途切れた時に襲われでもしたら、反応が間に合わずやられてしまうだろう

 

「これからは精神統一の修行とかもやっとかないと不味いかな?」

 

俺は今回の作戦で得られた改善点などを簡単にまとめ、依頼達成の報告の為

街へ帰る事にした

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……ん?なんだあれ」

 

帰り道の途中、泉の方で奇妙なものを見つけてしまった

泉の中で何かが暴れているのだろうか、水しぶきが収まる様子がない

 

よく見てみると、近くにはカズマ達がいる

 

「ようカズマ、こんな湖で何してるんだ?」

 

「お、ツバサか。湖の浄化クエ、今アクアが体を張って浄化中だ」

 

カズマが指さした方向には、檻に入れられて魔法を唱えまくっているアクアと

それに群がっているワニみたいなモンスターがいた

 

「なぁ、アレ大丈夫なのか?」

 

「問題ないだろう、ギルドで一番頑丈な檻を借りて来たからな。ああっ、あの檻の中に入りたい…」

 

ダクネスの後半部分は聞かなかったことにしよう……

 

それからしばらくして湖の浄化が終わり、ブルータルアリゲーターはどこかへと姿を消していった

 

「……ぐす……ひっく」

 

浄化が終わったアクアの元へ向かうと、膝を抱えて泣いていた

 

浄化の最中、カズマに今回の作戦を聞いたのだが、思いのほか危険なものだった

いくら頑丈といえど、終わってみればかなりボロボロになっている

もう少し浄化が遅れていれば、檻を破られていた可能性がある

 

まぁ、無謀な作戦に関して人のこと言えないがな……

 

「……おい、いい加減檻から出ろよ。もうアリゲーターはいないから」

 

「…………まま連れてって……」

 

「なんだって?」

 

「……檻の外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」

 

……見事にトラウマになってるな。まぁクエストをリタイヤしなかったコイツの自業自得な気もするが

 

それから俺達はギルドに報告する為、街まで戻ってきたのだが

 

「ドナドナドーナードーナー………」

 

「おいアクア、もう街中なんだからその歌は止めてくれ。ボロボロの檻に入って膝抱えた女を運んでる時点で、ただでさえ注目浴びてるんだからな。ていうか、出て来いよ!」

 

「嫌。この中こそが私の聖域よ。外の世界は怖いから、しばらく出ないわ」

 

「すっかり引きこもってしまいましたね」

 

湖からずっとこの調子だ。この分じゃ俺がいることにも気付いていないだろう

いや、別にそれはそれで構わないが

 

「女神様っ!女神様じゃないですかっ!」

 

このままギルドまで行くのだろうと思っていたが、突然、後ろから叫び声が聞こえてきた

 

声の方を見てみると、青い鎧を纏った男が鉄格子を掴み、いとも容易くグニャリと捻じ曲げてしまった

 

「ええっ!?」

 

「マジですか!」

 

あのブルータスアリゲーターでも壊せなかった檻を簡単に捻じ曲げるなんて、こいつの筋力値はどのくらいなのだろうっと

俺は驚いているカズマ達とは別の反応をしていた

 

「何をしているのですか女神様、こんな所で!」

 

「おい、私の仲間に馴れ馴れしく触れるな。貴様、何者だ」

 

ダクネスがその男に詰め寄った

 

今のダクネスはまさにクルセイダーの鏡と言っていいほどに、大切な仲間を守る盾となっていた

 

コイツは珍しいなっと思い、俺は面白半分で成り行きを見守る事にした

 

横ではカズマがアクアに話しかけている。アクアが微妙に反応を見せた後

 

「そうよ、私は女神よ!」

 

と、そう言っていつもの元気を取り戻し、ようやく檻から出てきて、男の顔を眺める

 

「……あんた誰?」

 

どう考えてもコイツは俺とカズマ同様、転生してきた奴だろう

コイツの特典は、あの剣だろうか

 

「僕です、御剣響夜ですよ!あなたにこの魔剣グラムを頂き、この世界へ転生した。御剣響夜です!」

 

あ、やっぱその剣が転生特典だったか

確か魔剣グラムって北欧神話に出てくるシグルズの愛剣だったな

北欧神話で言ったら、俺はダーインスレイヴかレーヴァテインのどちらかを選んだな

まぁ、ダーインスレイヴは危険だから、無難にレーヴァテインを選ぶだろうけど

 

「お久しぶりですアクア様。あなたに選ばれし勇者として、日々頑張っていますよ。レベルも三十七まで上がりました

 ところで、アクア様は何故、檻の中に閉じ込められていたのですか?」

 

本人が出たがらなかったんだよなぁ

てかレベル三十七か、羨ましい。先にこの世界に来てるから、あまり文句は言えんが

因みに俺のレベルは十九だ。封印の剣はとっくの昔に解放されているはずなのだが、未だに使えないでいる。これはもしかすると、レベル以外にも解放条件があるのかもしれない

 

そう思っていると、カズマがミツルギにこれまでの経緯を説明し終わり

 

「はぁっ!?女神様をこの世界に引きずり込んで!しかも檻に閉じ込めて湖に浸けた!?キミは一体何を考えているんですか!!」

 

ミツルギはカズマの胸倉をつかんで怒鳴り散らした

 

「ちょ、ちょっと!?私としては結構楽しい日々を送ってるし、この世界に連れてこられた事も、もう気にしてないし!」

 

「アクア様、こんな男にどう丸め込まれたのか知りませんが、あなたは女神ですよ!それがこんな!」

 

ほう、アクアを助けようとしてるのか。上っ面しか知らないからこういう事言えるよな

ちょっとだけ、ちょっかい出してみたくなったぞ

 

「ちなみにアクア様は、今どこに寝泊まりしてるんです?」

 

「えっと、みんなで馬小屋で」

 

その言葉を聞き、再びカズマを睨み付ける

それを見た俺はミツルギの肩に手を置き

 

「はいはい、そこまでだ。自称勇者君」

 

「誰が自称勇者だ!……君は、ソードマンか?それに、クルセイダーにアークウィザードか。なるほど、パーティメンバーには恵まれているんだね。それなら尚更、君達はこの人達を馬小屋で寝泊まりさせるなんて、恥かしいとは思わないのか!?」

 

おっと、矛先がコッチにも向いたぞ。まぁ確かに、上級職の多いパーティは周りから見れば恵まれたパーティ何だろうが。問題はもっと別にあるんだよな

 

そう考えていると、後ろの方でカズマとアクアがヒソヒソ話をしていた

 

「なあなあ、この世界じゃ馬小屋で寝泊まりするなんて普通だろ?こいつ、なんでこんなに怒ってるんだ?」

「あれよ、彼には異世界への転生特典で魔剣をあげたから、そのおかげで、最初から高難易度のクエストをバンバンこなしたりして、今までお金に困らなかったんだと思うわ。……まぁ、能力か装備を与えられた人間なんて、大体がそんな感じよ」

「……いやちょっと待て、その説明だと、ツバサも高難易度のクエストに行けるって事になるよな。確かに最近は高難易度のクエストに行ってるらしいが、かなりきつそうだったぞ」

「それはあれよ。彼に与えた装備は、使用者のレベルに比例して能力が変わっていくものだからよ。最初はあの鉄の剣しか使えなかったはずよ」

 

よくご存じで、流石に自分が与えた力に関しては調べてるのか

てかこの世界に来た時に金が無かったこと、俺はいまだに恨んでるからな?

 

そう思っている俺を他所に、ミツルギは憐みの混じった表情でめぐみんやダクネスの方を向くと

 

「君達、これからはソードマスターの僕と一緒に来るといい。高級な装備品も買い揃えてあげよう。というか、パーティの構成的にもバランスが取れていいじゃないか。ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士と盗賊にクルセイダー、そしてアークウィザードの君にアクア様。まるであつらえたみたいにピッタリなパーティじゃないか!」

 

おっと?俺とカズマがメンバーの中に入っていないな。さり気なく男を除外するとか、どんなハーレム主義者だよ

そんなミツルギから、普通なら悪くない条件を出されたが

 

「ちょっと、ヤバいんですけど。あの人本気で、引くぐらいヤバいんですけど。ていうかナルシストも入ってる系で、怖いんですけど」

「どうしよう、あの男は生理的に受け付けない。攻めるより受けるのが好きな私だが、あいつだけは何だか無性に殴りたいのだが」

「撃っていいですか?あの人に爆裂魔法撃ち込んでいいですよね」

 

大不評ですよナルシストさん

俺の誤解もこの辺で誤解を解いておくか

 

「いまだに勘違いしてるらしいから今言うが、俺はカズマのパーティメンバーじゃないぞ。それに俺はソードマンじゃなく冒険者だ」

 

「その恰好で!?」

 

そんなに見間違われるかね?まぁ、大剣担いでる冒険者は普通いないよな

 

「ねえカズマ。もう行きましょう?私が魔剣あげておいてなんだけど、あの人には関わらない方がいい気がするわ」

 

「えーと、俺の仲間は満場一致で、あなたのパーティには行きたくないそうです。じゃ、これで」

 

カズマは馬の手綱を引き、再びギルドへ向かおうとするが

ミツルギが前に立ちふさがり、通行の邪魔をしている

 

「どいてくれます?」

 

「悪いが、アクア様をこんな境遇に置いてはおけない」

 

話を聞いてなかったのか?それとも自分勝手な解釈をしたのだろうか

おそらくは後者だな。そうじゃなきゃ、大人しく引き下がってるだろ

 

「勝負をしないか?アクア様を譲ってくれ、君が勝ったら、なんでも一つ言う事を聞こうじゃないか」

「よし乗った。行くぞ!」

 

間髪入れずに、カズマが腰の剣を抜きミツルギに斬りかかる

それに対し、ミツルギもとっさに魔剣を抜き、カズマの剣を受け止めようとしたが

 

「スティールッ!!」

 

剣同士がぶつかる瞬間、カズマが左手を前に突き出し、スキルを発動させた

淡く光り、周囲にいる人の視界を奪った

光が収まり、カズマが奪ったものを確認すると

 

――ミツルギの持っていた魔剣がそこにあった

 

カズマは左手に持った魔剣を振り下ろし、ミツルギの頭を強打した

 

……下手したら死ぬだろ、それ

 

「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者ーっ!!」

 

いつからに俺達の近くに居たのか、ミツルギの仲間であろう二人の少女がカズマを罵倒していた

 

「あんた達、こいつの仲間か?」

 

「そうよ!この最低男、卑怯者っ!」

 

なぜ卑怯者扱いなのだろうか

勝負はミツルギの方から持ち掛けてきてたし、細かいルールは決めてないにしてもスキルの使用は反則ではないだろ

 

確かに不意打ちで始まった勝負だが、ソードマスターと冒険者の勝負だぞ

レベル差もあるし、ハンデをつけない方が卑怯だ

 

「グラムを返しなさい!その魔剣はキョウヤにしか使えないんだからっ!」

 

「……え?マジでっ!?」

 

「魔剣グラムはその痛い人専用よ。カズマが使っても、武器屋で買える剣より少し斬れる程度よ」

 

カズマは地面に刺さっている魔剣を眺めながら、何か考えている

 

「……まぁ、折角だし貰っておくか」

 

「あっ!ちょっ!待ちなさいよ!!」

 

「こんな勝ち方、私達は認めない!」

 

………ふむ、流石にちょっとイラッと来たな。他人事だが

 

「なぁあんたら。今の勝負のどこに文句があるんだ?」

 

「はぁ!?アンタには関係ないでしょ!」

 

「うるせぇ!確かに関係ないが、知り合いが理不尽な目に合ってるのに黙ってられるか!

 そもそもこの勝負は、そこで伸びてる奴が吹っ掛けた勝負だ。それにレベルや装備の差は歴然だろ

 そんな結果の分かり切った勝負なんて勝負とは言えない、ただの出来レースだ!

 それを覆したから卑怯者!?ふざけるな、確かにカズマは最悪とも言える不意打ちをしたかもしれない

 だがスキルの使用は問題ないはずだ。魔剣を使う時点でどっちが卑怯者か分かるよな!」

 

言い返すことが出来ないのか、涙目になってきたな

さて、そろそろ心を折ってやるか?

 

そう思っていると、後ろからカズマに肩を掴まれた

 

「もういいよツバサ。それよりも、あんたらは今の勝負が納得できないんだよな

 だったら俺と勝負するか?」

 

カズマの方から勝負を持ち掛けるとは意外だな

いいだろう、ちょっと見学させてもらうか

 

「っ!の、望む所よ!キョウヤの敵は私達が取ってやるんだから!!」

 

おい二人がかりか、さっき卑怯とか言ってた奴がそんな事していいのか

つうか敵討ちとか言ってる時点で、ミツルギの負けを認めてるようなもんだぞ

 

「だが俺は真の男女平等主義者だ。女の子相手でもドロップキックを食らわせられるほどのな」

 

それはかなりの大物だな、流石に俺でも女相手に手は出せないぞ

 

「手加減してもらえると思うなよ?公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ!

 それでもやるか?」

 

カズマは二人に手を向けワキワキさせている

 

その手の動きはどうかと思うぞ

ほら、ミツルギのパーティメンバーだけじゃなくて、お前のパーティメンバーも引いてるぞ

 

流石に身の危険を感じたのか、二人はミツルギを置いたまま逃げ去ってしまった

 

………なんか哀れだな、コイツ

 

俺は倒れているミツルギをみて、そう思った

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

魔剣持ちに絡まれた翌日

 

なんかこの入り方にも飽きて来たな、もっと別の表現の仕方は無いものか

 

どうでもいいことを考えながらギルドに入ろうとしていると

 

「ちっくしょおおおおおおおお!」

 

昨日の魔剣持ちとその取り巻きが飛び出してきた

 

「……なんだったんだ?」

 

走り去っていくのを呆れながら見ていると、突然街中にアナウンスの声が響き渡った

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門へ集まってくださいっ!…特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』

 

……今度は一体なんだ。どんな面倒事が起こるんだ


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