この素晴らしい世界に聖石を!   作:ホムラ

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第九話

ブラックファング討伐から数日、死にそうになったにも関わらず

俺はギリギリ達成可能な依頼を受け続け、心身共にボロボロになっていた

 

「おいツバサ、最近やけにボロボロになってないか?」

 

「少し無理し過ぎた。流石にキツイわー」

 

ギルドの酒場でテーブルに突っ伏している俺はカズマに心配され、気怠そうに返事をする

 

「確かに金は欲しいが、ツバサはちょっと無理し過ぎなんじゃないか?

 俺にはどうも、ただ金が欲しいって感じには見えないんだが」

 

なんでこういう奴は偶に鋭い観察眼を発揮させるのか…

 

「……俺は自分の家が欲しいから金ためてんだよ」

 

「自分の家って、てかツバサはウィズのところに居候してるんだろ?」

 

「いつまでも甘える訳にはいかないからな。…それにそろそろ我慢するのが嫌になってきた」

 

「我慢?」

 

俺は日本風の――武家屋敷に住みたいのだ

今まで話すことは無かったが、俺は日本文化が大好きだ

 

食で言えば白米やみそ汁、魚の塩焼きなど定番的な物はもちろん

醤油などの調味料にもこだわりがある

まぁ、この世界でも食えないことはないが高いんだよ……

 

寝巻きはいつも浴衣だったし、自宅にいるときも基本浴衣だったりする

派手な運動などしなければ浴衣でも普通に動けるし快適なんだぞ

 

家だって木製で、木や畳の匂いが好きで落ち着くんだよな

 

あー、思い出すだけで涙出て来た……

 

「………グスッ」

 

「ええっ!?急に泣き出してどうした!!」

 

あぁ、カズマが居たの忘れてた。つうかここ酒場だし

 

「…いや、なんでもない

 我慢ってのは日本文化の事だ」

 

俺は涙を拭いながらカズマの質問に答えた

 

この世界での衣食住の違いや、現在武家屋敷建築の為の資金調達など

カズマは結構食い入るように話を聞いてくれた

 

「確かに、この世界と日本じゃ相当文化に違いがあるからな」

 

「もうそれらが恋しくて」

 

「カズマ、そろそろ行きませんか?」

 

俺とカズマが話をしている後ろから声をかけられた

振り向くと、デカい三角帽に杖、それに黒いマントをつけた少女がそこにいた

 

そういやめぐみんに会うのも久しぶりな気がするな

 

「おう、今日も爆裂しに行くか。ツバサもどうだ?気晴らしに散歩でも」

 

爆裂しにってところが気になるが……

 

「そうだな、気分転換に散歩もいいかもしれないな」

 

俺はカズマとめぐみんの散歩に付き合うことにした

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「『エクスプロ―ジョン』!!」

 

めぐみんが少し離れたところに見える廃城に爆裂魔法を撃ち込んだ

 

「おっ、今日のはいい感じだな。爆裂の衝撃波が、ズンッと骨身に浸透するかの如く響き。それでいて、肌を撫でるかのように空気の振動が遅れてくる。ナイス爆裂!」

 

カズマがグッと親指を立て、めぐみんも同じようにサムズアップで返す

 

「ナイズ爆裂!カズマも、爆裂道が分かってきましたね。どうです?いっそ、爆裂魔法を覚えてみては」

 

「うーん、将来余裕があったら取得してみるのも面白そうだな」

 

カズマとめぐみんはそんなことを言い合いながら笑っていた

 

………なんだこれ

 

なんでカズマは評論家みたいなことしてるんだ?

毎日あの廃城に爆裂魔法撃ち込んでるの?

何がどうしてこれが日常になってしまったのか

 

ただまぁ、なんか和む雰囲気だな

 

「ツバサはどう感じた?今の爆裂魔法は」

 

「え?俺に聞くのか。うーん、そうだな」

 

俺は今の爆裂魔法をよく思い出す

 

「……いや悪い、俺にはまだ評価は難しそうだ」

 

「「……はぁ」」

 

おいなんだよそのため息は

 

「やはり邪道爆裂を使う者には、真の爆裂魔法の良さは伝わらないのですね」

 

「何度も言うが、俺の剣は魔法じゃないから勘弁してくれって言ってるだろ」

 

めぐみんと顔を合わせると毎回こんな感じだったのを今思い出した

 

「そうだぞめぐみん。ツバサのは剣なんだから、魔法とは一切関係ないじゃないか」

 

いや、そもそもレイヴって魔法で作り出されたようなものだから、魔法を使ってないとは断言できないんだよな

 

この事だけは絶対に言えないと、俺は思った

 

この後俺達は、色々会話しながら街へと帰ったのだが、もっと早く気付いていればと後悔するのに時間はかからなかった

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「私の存在意義を奪わないでよ!私がいるんだから良いじゃない!!」

 

カズマ達と散歩に行った次の日

朝早くにギルドへ顔を出してみれば、第一声にアクアの叫び声が聞こえて来た

 

「今回は一体何があったんだ?」

 

「こいつが回復魔法を教えてくれないんだよ」

 

俺はテーブルに頭を伏せて泣いているアクアを見た

 

なるほど、存在意義を奪わないでとか言っていたな、確かにカズマが回復魔法を覚えたらこいつは宴会芸しか取り柄がなくなるな

 

まぁカズマのパーティの事だ。俺には関係ないと、掲示板の方へ移動しようとした直後

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!!』

 

と、切羽詰まったアナウンスが街中に響き渡った

 

武装してって事は、今回は穏便なクエストではなさそうだな

 

俺は他の冒険者たちに交じって、正門へ走り

外に出たところにそいつはいた

 

――馬に乗る、漆黒の鎧を着た首なし騎士が

正確には、騎士の腕の中に頭がある

 

確かああいうモンスターの名前はデュラハンとか言ったか

ボスクラスの厄介な相手だった気がする

 

デュラハンは自分の首をこちらに差し出すかのように向け、話し始めた

 

「……俺はつい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが」

 

やがて、首がプルプルと小刻みに震えだし

 

「………ま、毎日毎日毎日毎日っ!お、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法を撃ち込んでくる大馬鹿者は、誰だああああああああっ!!」

 

俺はデュラハンの言葉を聞き、真っ先に紅魔族の少女の顔を思い出していた

 

俺はかなり冷静でいられたが他の冒険者達はざわついていた

 

「……爆裂魔法?」

「爆裂魔法を使える奴って言ったら……」

「爆裂魔法って言ったら……」

 

冒険者の多くは、めぐみんの方へ視線を向けた

 

視線を向けられためぐみんはフイっと、近くにいた別の魔法使いの女の子へと視線を向け

その行動に、他の冒険者の視線も女の子の方へと向いた

 

「ええっ!?あ、あたしっ!?なんであたしが見られてるのっ!?爆裂魔法なんて使えないよっ!?」

 

濡れ衣を着せられた女の子は目に涙を浮かべ、必死に釈明している

なんて可哀想に……

 

その光景を見て罪悪感を感じたのか、やがてめぐみんはため息をつき、嫌そうな顔をしていたが前に出て行った

 

流石にめぐみんもそこまで非道ではなかった事に少し安心した

 

そしてデュラハンから十メートルほど離れた場所にめぐみんが対峙する

同じパーティだからだろうか、カズマ・アクア・ダクネスの三人も、めぐみんの後につき従っていた

 

その後、めぐみんとデュラハンの間で色々会話が行われていたが

この位置では上手く聞き取れなかった

 

すると突然

 

「先生!お願いします!!」

 

と言う啖呵が切られた

 

何故啖呵を切ったのかは分からないが、その言葉により、アクアがデュラハンの前に出だ

どうにも意気揚々としていた気がするのは気のせいだろうか

 

しかし、アクアが魔法を唱えようとするよりも早く、左手の人差し指をめぐみんへ向け

 

「汝に死の宣告を!お前は一週間後に死ぬだろう!!」

 

デュラハンはそう叫び、めぐみんに呪いを掛ける

それと同時に、ダクネスがめぐみんを後ろへ引っ張り、めぐみんの代わりにダクネスが呪いを受けた

 

あいつめぐみんの代わりに呪いをっ!

 

身代わりになるなんて、そう思っていたが、俺は即座に考えを改める

どうにも様子がおかしい事に気が付いたからだ

 

ダクネスは頬を紅潮させ、カズマになにか話している

他の冒険者よりも少し前に出て耳を澄ませると、会話が聞こえて来た

 

「どうしようカズマ!見るがいい、あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を!あれは私をこのまま城へと連れて帰り、呪いを解いて欲しくば黙って言うことを聞けと、凄まじいハードコアプレイを要求する変質者の目だ!!」

 

………うわー、デュラハンも災難だな

越してきたばかりの城に爆裂魔法を毎日撃ち込まれ、その事で抗議しに来て

なぜ死の宣告を発動したのかは知らないが、その呪いの対象がドMの変態に変更されるわと

 

デュラハンに近づいていくダクネスを必死に止めているカズマを見るあたり

デュラハンと共に城へ行こうとしてるのだろう

 

とんでもない変態だな……

 

その後デュラハンが高らかと笑いながら去って行った

 

「カズマ!ダクネスは無事か!?」

 

「死の宣告をかけられた。一週間後って言ってたから、それまでにあのデュラハンを倒さないと、ダクネスに掛けられた呪いは解けないだろうな」

 

ダクネスは何やら膝を抱えていたが、その事に関してはあまり気にしないでおこう

 

俺とカズマがデュラハン討伐を考察していると、めぐみんが一人で城へ向かおうとしていた

 

「おい、どこ行く気だ!」

 

「今回の事は私の責任です。ちょっと城まで行って、あのデュラハンに直接爆裂魔法をぶち込んできます」

 

めぐみん一人では無理だろう、爆裂魔法を撃ったら魔力を使い果たして倒れるんだからな

 

そう思っていると、カズマがため息をつくと

 

「俺も行くに決まってるだろうが。そもそも、俺も毎回一緒に行きながら、幹部の城だって気付かなかった間抜けだしな」

 

「…じゃあ、一緒に行きますか。でも、アンデッドが相手では武器は効きにくいですね

 私の魔法の方が有効なはずです。なので、こんな時こそ私を頼りにして下さいね」

 

めぐみんは僅かに笑みを浮かべてそう言った

 

「なら、俺もカズマと同罪だ。俺はルナさんから、小城に魔王の幹部が住み着いたって聞いてたのをすっかり忘れてたんだ。

 …だから、俺もデュラハンの城に行くぜ」

 

「よし、じゃあ三人であのデュラハンをぶちのめそうぜ!安心しろダクネス、お前の呪いは俺達が――」

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!!」

 

「「「……えっ」」」

 

突然アクアが唱えた魔法により、ダクネスの体が淡く光った

 

「この私にかかれば、デュラハンの呪いの解除なんて楽勝よ!どう?私だって、たまにはプリ―ストっぽいでしょ!」

 

その言葉により、多くの冒険者から歓声が沸き、アクアの周りを取り囲み褒め称えた

 

………勝手に盛り上がっていた、俺達のやる気を返せ

 

ともあれ、魔王軍幹部との戦闘は避けられたので良しておこう

今のレベルじゃ、簡単に負けそうだったしな

 

俺はまた、少々無理のある依頼を受けていこうと思った

今度は自分の欲望の為だけではなく、強くなって命を守れるようにと


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