クズでぼっちで   作:いけちゃん&

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アニメが始まりましたね。


遭遇

 

 

 

あの依頼から数日の時が経った。

奉仕部の働きとしては三人がそれぞれ交代して彼らの関係を探るというものだ。既に由比ヶ浜と雪ノ下は二人が 恋人関係 という結論を出し、残すは俺の判断のみとなっている。っといっても実際は昼食時間、休み時間や放課後の様子を見る、というだけのことなので大した労働ではない。だが報告のたびに相手の男と俺とを比較するのはやめていただきたい。無性にそいつの顔面めがけて俺のナックルパンチをぶちこみたくなる。ただしその後躱されてカウンターを決められるのは確定事項。

 

ちなみに、昨日由比ヶ浜の番から俺に変わるとき「ヒッキーが誰かを観察するってなると違う意味になる気がする」と二人が話していたのは聞こえなかったことにした。

時にストレートな言葉よりも濁して伝えた言葉の方が傷つくことがある事があるんですよ由比ヶ浜さん。

先日のまだ記憶に新しい黒歴史を掘り起こされてはたまらんと八幡サポートセンターから告げられたので言いかけたがやめた。

本当なんであんなこと言ったんだろうか。

 

「ーーー残り少ない高校生活、思い出は多いに越したことはないだろう。っと、少なからず思わんでもない」

 

 

まったく、思い出すたびに顔が赤くなってくる。

あの時の俺は熱に侵されていたのだろう。でなきりゃあんなリア充よろしくな青春しているセリフは言わなかったはずだ。

 

奉仕部に入部させられてもう一年になる。成熟していくにつれ時が過ぎるのを早く感じる。

あの時平塚先生に呼び出されなかったら今頃俺はなにをしているのだろうか。

きっと俺のことだ。高校一年の時と変わらず休み時間は寝たふりで過ごし、放課後は小町のお使いや本屋に行く以外は家に直帰。毎日その繰り返しだっただろう。・・・あれ?今もほとんど同じじゃね?

まあそれは置いといて。結局何一つ変わることはなかったのだろう。

 

たらればの話に意味はない。そう分かっていても夢想してしまう。今の俺を見たら一年前の俺はなんと思うのだろうか。

散々自分が嫌っていた変化を受け入れた俺。きっと "偽物だ" "欺瞞だ"と忌み嫌うだろうな。

 

でも、それでも。俺は今の自分が嫌いではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在俺は屋上にて購買で買ったパンを摂りつつ依頼対象の2名を待っている。ここでちょっと探偵ぽくてかっこいいと思ってしまうのは俺だけではないだろう。

 

四限のチャイムと同時に教室からステルスヒッキーを発動して颯爽と屋上まで来たため、屋上にはまだ誰もいなかった。

そういえばここに来るのも去年の文化祭以来だ。あの時は相模を発表に間にあわせるために皆が言う自分を犠牲にする事で問題の解消を図った。それが最善策であったからだ。

今でも決してあの時の行動は間違っていたなんて思わない。俺は過去の自分を否定なんかしない。だけど今では俺にもあの時はなかった選択肢がある。今度は本当の意味で誰も傷つかない最良の方法を選択していきたい。

 

 

昼休憩のチャイムが鳴って10分程経った頃、ようやく依頼対象である件の二人が屋上に現れた。聞いた話通りに美男美女である。そのまま飛び降りて死んでしまえばいいのに。

女の方はそれで足りるのかと心配になるような小さい弁当と、男の方は購買で買ったパンが2つほど。こちらもそれで足りるのか心配になるレベルの量であった。

食事中は特にイチャつく訳でもなく淡々としていた。その後も話したのは些細な出来事を一言二言だけで、側から見てるとこの二人が付き合っているのか疑わしく思える。それとも年齢=彼女いない歴の俺だからそう思えてしまうのか。そのとおりだだって?やかましいわ。

 

五限開始まで残り10分となったところで2人は昼食の片付けをし始めた。どうやら観察はここまでの様だ。自信をもって「2人は恋人関係だ」と言えるような確信を得ることができず歯痒さを感じていた時、不意に近くで水音が聞こえた。気になって視線を向けると先程までの様子とは打って変わり、互いの愛を確かめ合っている2人がいた。ストレートに言えば接吻をしていた。しかも深いほうの。

 

ケッッ。

こんな白昼に学校の屋上なんかで発情しやがって。あーやだやだこれだからリア充は嫌いなんだ。人の目も憚らずにいちゃいちゃしやが・・・・・・って、いっけなーい☆八幡2人に気づかれないように待ち伏せして監視してたんだった、テヘペロ♪(すっとぼけ

ていうかいつまでやってんだ。さっさと教室戻れよ。おまえらが戻んないと、もれなく俺まで教室戻れないんですけど。 うわぁ、あんなに舌絡ませて、唾液のブリッジできちゃいましたってか。どうだ羨ましいだろってか。今なら何年かかろうともドラゴンボール探す旅に出れそうだ。願い事は『いちゃいちゃしてるカップルを滅ぼしたい』な。

 

これ以上直視すると八幡の精神系統を司る何かしらに多大な影響を及ぼし兼ねないので、渋々視線を他へ移した。いや別に見たくて見てるわけじゃないんだよ?だって仕事だしー?ちゃんとやらなきゃいけないから仕方なく的なー?あれ俺ってこんなんだったっけ?

その後煩悩を振り払う事に必死で5限の始まりのチャイムを聞き流し、結果遅れて教室に戻り平塚先生からゲンコツをくらったのは言うまでもない。

 

ただ、俺はあの時淫靡な音に混じって微かに呟かれた言葉に気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッキー4限目のチャイムが鳴ったと同時に教室から出ていったのに、お昼休みから帰ってくるの遅かったけどなにかあったの?」

 

やはり由比ヶ浜は5限に俺が遅れてきた理由を聞いてくるか。てかあなた俺のことどんだけ見てんの。教室から出て行くところ見てたって、それって礼した後すぐこっち見たってことじゃん。なにそれコワイ。

しかしながらどうしたものか。さすがに昼休憩の時に見た安楽岡と粟谷の情事をそのまんま話すわけにはいかないし、かといって観察してた内容に触れないっていうのも怪しいしな。ここはひとつ体調不良で誤魔化すか。

 

「依頼されてた2人を見て観察してたんだが途中で腹の調子が悪くなってな。何度かトイレ行ってたんだ。売店のおばちゃんまちがって腐ったパン渡しやがったな。もう二度とツナパンなんて買わね」

 

「そ、そうなんだ……。いやーそれはなんていうかお悔やみ申します?……って感じだね!」

 

おいなんで俺死んだことになってんの。それを言うなら“お大事に"だろ。なんだそらとも目か、この目がいけないのか。寧ろ爬虫類っぽくてかっこいいだろ。違うか?違うな。

それにしても由比ヶ浜さんあなた今年受験生ですよ。この先あなたが勉三さんみたいになっていく未来がどんどん現実になってきているのだが。本当にこの子は大丈夫なのだろうか。八幡とても心配である。

「由比ヶ浜。大学落ちてもまた次があるからな。」

 

「なっ!……人が心配してあげてるのになんてことゆーし!ヒッキーなんて次の音楽の授業の時に一人先生にあてられてみんなの前で歌うことになっちゃえ。」

 

「おいばかやめろ。そんなことになったら俺は全身の穴という穴から血を噴き出して死ぬぞ。」

「ええぇっ!死んじゃうんだ!?」

 

当たり前だろ。ぼっちを何だと思ってやがる。チョットでも衆目の前に晒されてるだけでもかなりのストレスになるんだ。ガラスと同じで割れ物のハートなんだ、丁重に扱え。

あれでもおかしいな。俺って選択授業は書道を選んでいたはずなのになぜ由比ヶ浜は音楽のことなんて言ったんだ。

 

「なあ由比ヶ浜、俺の選択授業何か知ってるか?」

 

「えっ、知ってるけど。……書道だったよね。それが何か関係あるの?」

 

どうやら知ってて言っていたらしい。だとすると何で急に音楽の話なんて持ち出してきたのだろう。

 

「だったら俺は今日の6限にある選択授業は書道なんだが、何で急に音楽を引き合いに出してきたんだ?」

 

「ヒッキーなにも聞いてないでしょ。朝担任の先生が、今日から書道の先生が怪我して入院することになったから書道選んだ人は他の美術か音楽に変更するようにっていってたのに。」

 

「なのにヒッキーずっと寝てるから勝手に人数の少ない音楽に変更されたんだよ。ちなみに音楽に変更した人はヒッキーとさいちゃんだけだったよ。」

 

なんということだ。救いはないのか。なぜ誰も起こしてくれなかったのだ。あ、ぼっちだからか。でも戸塚がいるだけで救われるな。音楽を選ぶやつなどほとんどが女子生徒を占める中だった一筋の救いの光。俺はここで戸塚エルに一生ついていくことを誓った。もう日本は戸塚を国教にしたらいいと思う。そしたらメッカもといサイカも1日5回必ずやる自信があるな。

 

 

 

 

音楽室に移動すると女々しいという言葉が相応しいそんな場所だった。知ってはいたが本当に女子生徒しかいないのな。あっ、戸塚がこっちに手を振ってる。どうやら俺の分の席まで取ってくれていたようだ。健気だ。まるで残業帰りの夫を待っている妻のようだ。でも戸塚は男なんだよな。世の中ほんと理不尽。

 

「悪い。わざわざ席取ってもらって。」

 

「ううん、僕が勝手にやったことだからいいの。それよりもほらここに座って。」

 

太陽のようにキラキラとした笑顔を浮かべながら戸塚は自分の隣の椅子に座るよう促してくる。わざわざ俺のために気を使って一番端の席を用意してくれた戸塚に心の中で愛してるぜ戸塚と唱えて席に座る。そうするとまた一段とニコニコしてこちらを見てくる。もう性別なんて関係ない。結婚しよう戸塚。そしたら名前は 比企谷彩加 になるのか。いや 戸塚八幡 か?うん悪くない。寧ろ推奨する。

そんな アホなことを考えていると突如背中に悪寒が走る。……あっれぇ、海老名さんここにいないはずだよね。あの人美術選んでたはずだけど、もしかして負(腐)の波動を感じて念を送ってきたのか⁉︎なんて恐ろしい人だ。

 

「そういえば八幡知ってる?音楽担当の先生。皆川先生っていうんだけど、若くてすっごい綺麗な人なんだ。僕もこの前職員室であったんだけどね、その時もうわぁ綺麗な人だなーって思った。」

「へーそんなに綺麗な人なのか。俺はまだ見たことないけどな。」

 

そもそも職員室に行く用事なんて平塚先生の婚活パーティー失敗した愚痴を聞かされるくらいだしな。入ってもすぐに応接室に呼ばれるんだからまともに他の先生の顔を見る時間なんてないから尚更だろう。

にしてそんなに綺麗なのか。その皆川っていう教師は。そういえばクラスの男子生徒もそんなようなことを噂してたな。よっぽど男受けのいい先生なんだろう。逆に女にはめっぽう嫌われてそうだな。なにそれどこの一色だよ。さぞかしあざといんだろうな。

 

気づくと予鈴まであと1分を切っていた。そして廊下で足音を忙しなくたてながらこちらに向かい、息を切らして音楽室に入ってくる人物がいた。これが噂の綺麗な先生か。あだ名をつけるなら間違いなくバタ子さんだな。

そして始まりの音が鳴ったところで息が落ち着いてきたのか、顔をあげて口を開く。

 

「す、すいません、遅くなりましたぁ。ちょっと立て込んでいたもので。それでは始めてくださーい。」

 

戸塚が焦ってるときはなんだか可愛いねと言ってくるがそのまま聞き流してしまうくらい今の俺は動揺していた。

 

この人はなんだ。

いやこいつはなにものだ。

 

これは雪ノ下陽乃に初めて遭遇した時に似た、いや、それ以上の不気味さをこの人から感じた

不気味だ。気持ち悪い。悍ましい。惨たらしい。目を合わせたくない。この人から発せられる悪魔のような声を聞きたくない。

 

それ程までにこの 皆川 という人間は不気味だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




頑張ったらほとんど1日で完成するような代物。

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