クズでぼっちで   作:いけちゃん&

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依頼

 

 

 

 二年生も終わりを迎え、あのバレンタインチョコ料理教室後に感じていた違和感の正体と向き合い、雪ノ下の依頼に悩み足掻きながらもなんとか成し遂げることができた。

その頃には校門付近に植えられた桜は花びらを散らし、気づけば既に春は中頃を迎えていた。

 

進学校であるこの総武高校に在籍している生徒は一様に受験生として、『一日十時間勉強』という他に寝て飯食う事くらいしか時間の使い道がないような、そんな目標のもと、日々を忙しく過ごすのがほとんどだ。

 そのほとんどに漏れることなく、奉仕部も小説の頁が捲れる音や忙しなくボタンが押されることによって生じる機械音に変わり、今ではシャープペンがノートに鉛色の文字を綴る音がこの部屋を占めている。

 

あれ以降、平塚先生が依頼人を連れてきてその問題の解決を手助けをするというのはなく、ここはその日出された課題や予習復習などを行う勉強部屋へと様変わりしていた。

 ・・・というか、今までやってきたのは解決ではなくただの解消だ。つまり俺たちは今まで部の方針を達成できていなかったってことじゃん。やべぇ、なにそれ無能すぎるだろ。

現国の課題がキリのいいところまで進んだため、少し休憩するかと顔を上げ部長ともう一人の部員を見たところ、予想通りと言うべきか、部長は真面目に勉学に励んでいたが片や一方はもう飽きたといわんばかりに人中へシャープペンを乗せて最近乗り換えたスマホォをさわっていた。あの子大学受験本当に大丈夫なのかしら。八幡心配しちゃう。

そしてこちらの目線にようやく気がついたのか由比ヶ浜は焦って手にしていたものをカバンにしまいながら言い訳を並べ始めた。

「ち、違うよ。さっきまでちゃんと勉強してたよ!これはなんていうか…その……調べ学習?」

おいなんで最後疑問系なんですかね。こっちが聞きたいよ。てかそれにしてはあなたスマホォの画面をすごい速さで縦横無尽にスライドしてたじゃないですか。絶対ツムツムやってたろ。

由比ヶ浜の言い訳(全然言い訳になっていない)によって集中が途切れたのか、雪ノ下は先ほどまでやっていた勉強を止め、少々呆れながらアホの子に対してくちを開く。

 

「由比ヶ浜さん、あなたもう少し集中力というものを鍛えてみるべきよ。まだ始めて三十分じゃない。その点比企谷君は流石というべきか、この時間中一度としてくちを開かなかったわ。もはや屍ね」

「おい、なんで途中まで褒めてんのに最後で台無しにしちゃうんだよ」

 

そしてあらそうかしら別に褒めたつもりはないのだけれどと、またも余計な一言を付け加えた。それだともう悪意しか残ってないんですが。

雪ノ下とのいつものやりとりを終えると、由比ヶ浜は申し訳そうに弁明を始めた。

「うぅ…だってわからない問題がでてきたんだもん。ゆきのんに聞こうと思ったけど、ゆきのん集中してたから邪魔しちゃ悪いと思ったし……」

まあ確かに集中して何かに取り組んでるやつを横から遮るというのは憚られるな。

それを聞いた雪ノ下は呆れ顔からほのかに慈愛を持った表情を浮かべながら答える。

あー、なぜかこれから起こることが予知できるぞ。

「そんな気を遣わなくてもいいのよ。だって私…その……由比ヶ浜さんに頼られるの、嫌いじゃないから……」

 

はい、百合展開キマシタワーーー。

雪ノ下さん、あなたほんとに由比ヶ浜さんには甘いんですね。ていうかなにこの即落ち3コマみたいな展開。なんならいっそもう少し進んでみたらどうでしょうか(ゲス顔

 

由比ヶ浜が頬ずりしながら抱きつき、それに対し口では嫌がりつつも身体は正直で由比ヶ浜を離そうとはしない雪ノ下。なんかこれだと結×雪になってますます百合百合しくなっているが今更だろ。

思考がひと段落したところで扉をノックする音が聞こえた。

タイミングいいと思いながら音の鳴る方へと視線を向けると、生徒会長兼奉仕部員と言っても過言にならないほど半年くらいから毎日のようによく来るようになった一色いろはと、その後ろに初めて見る顔の一色の同級生と思しき女性が連れだって入室してきた。

どうやら三年生になっても依頼相談はあるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「今日はですね〜なんと、依頼人を連れてきたんですよ!」

そういって彼女は高校生にしては珍しいツインテールの髪型をしたいかにも美少女といった女生徒を引き連れて入室してきた。

3年生になったため、もう依頼人は来ないだろうと心の底で思っていた俺たちは突然のことに面食らうも、そこは部長。冷静沈着という言葉を体現しているかのように一瞬で切り替え、もはや定位置となっていた一色の席の隣にもう1つの椅子を用意し座るように促した。

さっすがゆきのん。そこに痺れて憧れちゃう。

だからお願いします、そんな睨まないで。

一色が席に着くのに続いて女生徒も腰を下ろしたところでお互いの自己紹介が始まった。

女生徒の名前は 鴎端 のり子 というらしい。だが本人はモカと自称している。どうやらちょっとばかし頭の痛い子であった。だけど可愛いから許されちゃうんだろうな。理不尽だぁ。

 

 

 

席に着いた二人に依頼の内容を聞くと数分の沈黙の末、意を決したのかおずおずと口を開いた。

「その……安楽岡さんが麦と本当に付き合っているのか確かめてほしいんです……!」

 

それを聴いた俺たちはなんともいえない気まずさを感じつつ、全容を伝えられた。

鴎端の依頼内容とは俗にいう恋愛相談であった。

去年の修学旅行で奉仕部は一度その手の依頼を受け手痛い過去を持っている。相反する矛盾した依頼を一手に引き受けたことにより、どっちつかずの"解消"という形で無理やり収束させ、また、その自分のやり方のせいで二人を傷つけ奉仕部は崩壊しかけた。

そんな過去を持つせいか俺を含めた三人は上手く言葉を発することができないでいた。

 

その空気を察して一色は取り繕うように身振り手振りを交えて依頼の内容を復唱し始めた。

 

「つまりはあれですよね。初恋の人を取られたことに納得できないから客観的に判断してもらいたいってことですよ〜」

 

鴎端は慌てて違うもんと否定する。なんだよもんて。あざといな。実にあざとい。まっ、一色には及ばんが。

だがおかげで先ほどまで殺伐としていた空気が一瞬和んだ。これを逃すとまいと俺は俺らしくもないことを口にする。

 

「いいんじゃないか、別に。依頼は恋愛成就って訳じょなくてただ、客観的な視点からの意見がほしいだけだ。前回の時とは趣向違う。早ければ1週間もかからずに終わることができるし勉強に差し支えることはないだろう」

 

それにーーー

 

言い終えたあと無性に顔が赤くなっていくのを感じる。あーー恥ずかしいぃぃぃ。本当なに言ってんだ俺。

呆然としていた表情から一転、くすりと微笑み口元に右手を持ってきて雪ノ下は答えた。

 

「そうね。客観的な立場からの意見が欲しいというのが依頼というのであれば私達で良ければ引き受けるわ。それに……彼もああ言ってることだし、私達にとっても、こういっては申し訳ないのだけれど有益であるもの」

 

そういった雪ノ下の顔はとても意地悪く、そして満足気だった。

どうやら彼女にとっては俺の新しい黒歴史はお気に召すものだったらしい。

まったく本当いい性格してやがる。

 

鴎端は雪ノ下の確認に気にすることもなく「そうです……お願いします」と答えた。

 

こうして三年になった俺たちの奉仕部活動は始まりを告げた。

 

だがこの依頼が俺たち奉仕部にどのような災厄をもたらすのかを知るのはまだ先のことだった。

 

 


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