Fate/gap 《他世界聖杯戦争》   作:無想転生

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二カ月近く経過してしまいました。





吸血鬼アーカード

今ここに、三体のサーヴァントと、三人のマスターが睨み合っている。

 

目の前に立ちはだかるのは弓兵と剣兵…四対ニという不利なこの状況で…それでも尚、老兵とアーカードと呼ばれるサーヴァントの二人は、不敵な笑みを浮かべている。

 

「不気味なサーヴァントね…

でも相手が自分で真名を明かしたんなら、対策はある程度取れるわよね」

 

「それなんですが…少し妙です」

眉根を寄せて困惑するセイバーに対し、凛が「妙…?」と、それに対して問いを投げかけた。

 

「聖杯より与えられたどの情報を探っても、アーカードなどという名前の英霊は見つかりません」

 

「え…⁉︎それってどういう事…?」

凛が疑問に思うのも無理はない。

サーヴァントの情報は聖杯によって与えられている筈だ。

世界は無限に存在する、その無限に広がる世界全ての英霊となれば話は別だが、少なくとも今聖杯戦争に参加している英霊の情報はある筈、そうでなければおかしいのだ。

 

「おそらく奴は、真名秘匿のスキルでも持っているのだろうな。アーカードというのは、奴が生前付けられていたあだ名か何かだろう。

もちろん、この戦いの為に、奴らの間で決められたコードネームという可能性も十分あるが…」

 

「前者であっているさ。

私にとって名前など、あって無いようなものだからな」

アーチャーの推測に、笑みを浮かべながら肯定するアーカード。

 

もちろんこの笑みは「もう戦いなんて止めて、皆で仲良くしよう」なんて爽やかなものではなく「本気でかかって来いよ、私を楽しませてみせろ」と言った、相手への挑発と、己の芯から溢れ出る高揚感が表れたものである。

 

アーチャーはその表情から、敵の性格を察した。

相手は心の底から闘争を望む者…いわゆる戦闘狂だ。

 

「さぁ…主よ、話はもういいだろう?

早く、早く、早く命令(オーダー)を下せ。我が主、キング・ブラッドレイよ」

アーカードは赤い眼球でブラッドレイを見つめながら、もう待てないとばかりに興奮している。

 

「いいだろう。

アーカードよ、貴様はセイバーとそのマスターの小僧と、もう1人のマスターである小娘の相手をしろ」

アーカードの求める通り、ブラッドレイは命令を下した。

 

自らのサーヴァントの攻撃対象である、士郎や凛、セイバーの事など目もくれず、ただ一点を見つめながら…

 

「アーチャーの相手は私がやる」

そう、剣を抜き睨みつけるは、アーチャーただ1人。

ブラッドレイはアーチャーとの一騎討ちに持ち込む腹であった。

 

「サーヴァントと一騎討ち⁉︎

…余程の自信があるって事か?」

士郎が相手の行動に疑問を持つ。彼が参加していた聖杯戦争でも、偶然や他者からの手助によって、サーヴァントを倒した者は少なからずいる。自分もその内の一人だ。

 

ただ一騎討ちとならば話は別である、何の手助けも借りずに、真正面からサーヴァントとタイマンで戦うなど、自殺行為以外のなにものでもない。

もっとも、士郎が他人の事を言える柄ではないが…

 

「あいつは今まで、私とアーチャーの2人を相手に1人で戦ってた。

アーチャーはまだ手の内を隠していたけど、それを差し引いてもかなりのやり手よ」

相手は唯の人間…サーヴァントならば簡単に倒す事ができる。

などと舐めてかかれば痛い目を見る。事実アーチャーがそうだったのだ。

 

凛は二人の戦いを近くで見ていたからこそわかる。

ほんの僅かな慢心が敗北につながるのだ、凛は敵の危険度を、未だ知らないセイバーと士郎に伝えた。

 

「だが向こうの策はこちらにも好都合だ。

今度は油断しない、一騎討ちだというのなら確実に仕留められる」

ただ問題なのが…と呟き、アーチャーはアーカードを睨みつけた。

 

「あの正体不明のサーヴァントだな。

まだクラスも判明していない、分かっているのは「アーカード」という偽名だけか」

何も分かっていないも同然だな…と、アーチャーが付け加える。

 

「安心してくださいアーチャー。

リンとシロウは私が絶対に守ります、この剣に誓いましょう」

アーチャーに対し、セイバーが力強く応えた。

 

一騎討ちという事は、その性質上、自らのマスターである凛をその場に置いておくという事だ。

敵は未知のサーヴァント、そんな者の目の前に、見方がいるとはいえどマスターを置き去りにするのは不安が残る。

セイバーはアーチャーの表情を見て、それを察したのだろう。

 

「セイバーか、確かに最優のサーヴァントである君ならば、どんなサーヴァントが相手であろうと、容易に負けたりはしないだろうな」

 

セイバー…真名はアルトリア・ペンドラゴン。かの有名な騎士王であるアーサー王がそう言っているのだ。

誰もが認める大英雄、心強い事この上ない。

 

それにアーチャーは、これまでに二度彼女の戦いを目撃している。

一つは前回の聖杯戦争…凛によってアーチャーのクラスで限界した時。もう一つは…彼がまだ衛宮士郎という名前であった時。

名前に負けぬ実力を持っている事は、重々に承知しているつもりである。

 

「そこまで言うのなら、ここは任せるぞ、セイバー」

 

「何だ、今回はやけに素直だな」

 

「なに、私もその方がよいと判断したまでだ。

それに、貴様はともかくセイバーの実力は前から信用していたからな」

 

「なんだよそれ…」

互いに憎まれ口を叩き合う二人のシロウ。

しかしその顔には、僅かに笑みが浮かんでいた。

 

相変わらず口が悪いな、と思いながらも、士郎はアーチャーの顔を見て、心の底で安心していたのだ。

 

アーチャーは前回の聖杯戦争で、自分とセイバーを、身を挺して助けてくれた。

アーチャーからしてみれば、自分のマスターである凛を助けるついでだったのかもしれない、しかし助けられたのは事実だ。

そしてアーチャーは、最強のサーヴァントであり大英雄、ヘラクレスに敗北し、消滅した。

 

そもそもヘラクレスと戦う事になったのも、元はと言えば士郎がヘラクレスのマスターである、イリヤスフィールに捕まってしまったからだ。

 

責任を感じずにはいられなかった。

しかしこうして再び会うことができた、アーチャーがあの戦いで消滅した事には変わりないが、それでも…ほんの少しだけでも救われた気がした。

 

「気を抜くな!敵は未知のサーヴァントだぞ!

セイバーが共にいるからといって、確実に勝てる相手ではない」

ボッーと気を緩めていた士郎に対し、アーチャーが喝を入れた。

 

何か思うことがあるのかもしれない…と、同じシロウであるアーチャーは、その表情から何かを察したが、今は目の前の敵に集中しなくてならない。

 

アーチャーは自分が戦うべき相手…キング・ブラッドレイを睨みつけた。

 

その視線に気づいたブラッドレイが、顎で合図を送った。

「ついてこい」と、確かにそう言っている。

 

敵は一騎討ちを所望している、戦いやすいように誰もいない、何処か別の場所に誘導しようとしているのだろう。

 

「お呼びのようだ、私は行く」

そう言ってアーチャーはたった一言…「気をつけろよ」とだけ呟き、ブラッドレイに続いてこの場を立ち去った

 

その場には剣兵と二人のマスターが取り残される。

 

迎え立つは正体不明のサーヴァント、アーカード。

アーカードはその両の手に、白銀の銃と黒金の銃をそれぞれ構えながら、ただただ敵を見定め、笑みを浮かべていた。

 

「銃を使うって事は…もしかしてあんたのクラスって、アーチャー?」

 

「その通りだ。

私はアサシン以外の全てのクラスに適性があるが…今宵はアーチャーのクラスでここに召喚された」

この程度の情報、敵に渡しても十分に勝つ自信があるのだろう、凛の問いにアーカードは素直に答えた。

 

敵のクラスは三騎士の一角、アーチャー。

これでクラスは判明したが、三騎士クラス…それもアーチャーという事は、厄介なスキル、単独行動がついている。

 

ブラッドレイがアーカード一人を残して行ったのも、これで頷ける。

 

「二人共!来ます!」

セイバーの合図で、二人の意識が一瞬にしてアーカードへと向いた。

 

アーカードが銃口を、三人に向けていたからだ。

 

辺りに発砲音が響き渡る。

同時に銀の弾頭が三人に襲いかかった。

 

セイバーが前に出る。

風に覆われた透明な剣で弾丸を叩きつけ、撃ち落そうとする。

 

が…

 

「重い…⁉︎」

剣を持つ両腕に、凄まじい衝撃が走る。

 

とても弾丸を切ったとは思えない。

セイバーの常人離れの剣技ならば、弾丸など切り落せても不思議ではない筈だ。

しかしアーカードの放った弾は、セイバーの剣に当たった瞬間に炸裂し、セイバーの腕に痺れを残した。

 

もしセイバーの持つ剣がエクスカリバー(宝具)でなければ、逆に粉々に吹き飛ばされていた可能性もある。

 

「何あれ…?

拳銃って、あんなに威力があるものなの⁉︎」

 

「いや、俺もあまり詳しい方じゃないが…あれはおかしい、明らかに銃身がでかすぎる!」

 

凛は銃刀違反が厳しい国、日本の高校生だ。

その上近代兵器に疎い魔術師家系で育った彼女には、銃の知識など毛ほども無い。

 

前者に関しては士郎にも言える事だが、彼は凛ほど魔術に深く関わっている訳でもないし、機械には強い方である。

その上銃に詳しい切継が義父にいる、その義父からも、銃についての教えを受けた事もないし、実際に扱った事も無いが、少なくとも、凛よりはよほど深い知識を有しているのだろう。

 

そんな士郎の目から見ても、アーカードの持つ銃は異常なのである。

 

「純銀製マケドニウム加工弾殻、マーベルス化学薬筒NNA9、全長39㎝、重量16㎏、13㎜炸裂徹鋼弾、ジャッカル!

パーフェクトだ!ウォルター!」

この銃の製作者と思われる者の名を叫びながら、白銀と黒金の銃を連射した。

 

平然とした顔で一切のブレも無く連射するが、全長39㎝、重量16㎏もの拳銃を、普通の人間が片手放てばただでは済まない。

腕がイカれる事は確実だ。そもそもこの手の銃器には、数発撃てば必ず、こまめにリロードをする事が必要なのだが、アーカードからはその様子が全く見受けない。

時々思い出したかの様に、弾を交換するだけであった。

 

「はあぁっ‼︎」

28…29…いや、双方合わせて30発を超える弾丸が三人に襲いかかったが、前へ躍り出たセイバーの剣によって、全て例外なく打ち落とされた。

 

「侮らないで貰おうか、アーカード。

確かにその銃弾の威力には驚いたが、そうだと分かった上で対処すれば、十分に防ぐ事はできる」

セイバーの生きていた時代には銃などというものは存在しない。

 

聖杯から情報は与えられていたが、それはあくまで通常のものだ。

士郎よりも以前にセイバーを召喚したマスター、衛宮切嗣も銃を使っていたが、彼の使っていた物もまた、多少改造は施されているものの、普通のものである。

 

そしてそれらは、騎士王たるセイバーにとっては、さして脅威になりえないものばかりであった。

 

しかしアーカードの持つ銃は違う、アーカードの使う物は、およそ人類が扱えるべく範疇を超えていた。いわゆる化け物拳銃だ。

 

しかしだからと言えど、最強の聖剣であるエクスカリバーを持つセイバーならば、決して苦戦しうる攻撃ではない。

最初の攻撃を防いだ時も、単純に思っていたよりも銃弾の威力が高かったので、驚いて剣が鈍っただけである。

 

冷静にそうだと理解した上で対処さえすれば、厄介だという程度の武器でしかない。

 

「そうだ、そうでなくては困る。

さぁ、早くその刃を突き立てて見せろ!その見えない刃を持って、私を斬り伏せて見せろセイバー‼︎」

 

「言われなくともそのつもりだ!」

以前変わらず笑みを浮かべるアーカードに対し、セイバーが威勢良く応答した。

 

そしてセイバーは、迫り来る弾丸を全て切り落としながら、足を一歩…また一歩と踏み出していった。

 

やがてアーカードの眼前まで迫ったセイバーは、その手に握る聖剣を強く握って、風によって刀身の見えぬ剣を持って、アーカードの体を真っ二つに両断した。

 

「やった‼︎」

それを見ていた士郎と凛の、二人のマスターが喜びの声をあげる。

 

しかしセイバーは…たった今相手を斬り裂いた本人である筈のセイバーだけは、今の攻撃に違和感を抱けずにはいられなかった。

 

(手応えはあった、幻でも影でもない…紛れもなく本物だ!

なのに何だ…この違和感は…!)

セイバーは1秒にも満たない時間の中で、一瞬にして思考し、その違和感の正体を導き出した。

 

(何故奴はさっき…攻撃を“避けようとも”しなかったんだ…⁉︎)

違和感の正体はこれだった。

 

そう、アーカードはセイバーが眼前に迫っていたにも関わらず、攻撃を避けようとも防ごうともしなかった。

避けれなかったのではなく…避けなかったのだ。

 

(まずいっ‼︎)

瞬間、ランクA相当のセイバーの“直感”スキルが、セイバーに身の危険を知らせた。

 

セイバーの鎧に銃弾が掠った。

大した傷には至らなかったが、このまま直撃していれば鎧ごと体をズタズタにされ、消滅していた可能性すらあっただろう。

未来予知の領域にあるという、セイバーの“直感(A)”のスキルがあるからこそ、相手が攻撃を仕掛けるよりも以前に、回避行動に移ることができた。

それがなければ、本当に危険だったかもしれない。

 

「何故…まだ生きている…アーカード!」

セイバーが真っ二つに両断された筈のアーカードを睨みつけた。

 

アーカードはその身を霧状に変化させながら、セイバーに斬られた傷を完全に修復させていた。

 

「体を剣で斬り裂いた…その程度じゃ私は死なない」

最早完全に元の姿を取り戻したアーカードが、笑みを浮かべたままセイバーの頭に黒金の銃口を定めた。

 

投影、開始(トレース・オン)‼︎」

アーカードがセイバーの頭を撃ち抜こうとした瞬間、一瞬にして武器を投影した士郎が、アーカードの武器と同じく黒と白で別れた武器を持って、アーカードの腕を切り落とした。

 

「士郎!」

セイバーが叫んだ。

まだアーカードの腕は一本残っている、今度はもう片方の手に握る、白金の銃を持って、士郎の頭を狙った。

 

しかし再びアーカードの攻撃は妨げられる。

銃弾を放つ寸前で、赤い閃光がアーカードを襲ったのだ。

 

正体は凛の放ったガンドである。

しかしただのガンドなど、対魔力のスキルを持つアーカードにとっては虫に刺された程度だ。

時間をほんの僅か、それこそ1秒に満たない程に微かな時間しか稼げない。

 

だが、その1秒にすら満たない時間でも、セイバーには十分過ぎる程に十分であった。

 

体制を整えたセイバーが、アーカードのもう一本の腕を斬り裂いた。

アーカードの腕が宙を舞い、銃弾の軌道が大きくそれる。

 

しかし追撃はしない、体を真っ二つにしても簡単に再生したのだ。

腕を切り落とした程度じゃダメージにすらならない。

セイバーは士郎と共に、一旦アーカードから距離を離した。

 

「相変わらず無茶するわね、士郎」

 

「しょうがないだろ、セイバーが危なかったんだ」

 

「シロウ、私は貴方のサーヴァントです、あれしきの攻撃、私だけでも対処できます。

貴方は自分の身を守ることを最優先に考えてください」

セイバーの言っていることは強がりでも何でもない、未来予知とも呼べる高度な直感によって、セイバーはアーカードの攻撃が読めていた。

至近距離で銃口を突きつけられようと、セイバーの身体能力ならば十分に対応できたのである。

 

逆に、セイバーにとっては、マスターであるシロウを殺される心配の方が遥かに高い。

 

「しかしシロウ、お気持ちは嬉しいです。

私一人ではどうにもならない…そんな状況に陥ったならば、その時は是非力を貸してください」

 

「…あぁ、もちろんだ。セイバーは俺のパートナーだからな」

セイバーの優しい笑みに、若干頬を赤らめながらも、士郎は力強くそう答えた。

 

「・・・・・」

異様に距離が近い二人を見て、凛が嫉妬で若干顔を歪ませる。

 

マスターとサーヴァント…言わば従者と主人である関係とは言えど、セイバーも異性である事には違いない。

士郎とは恋人同士という関係にある凛にとっては、あまり見ていて面白いものではないのだ。

 

しかしそんな事を気にしている場合ではない。

不死身のサーヴァント…アーカードを前にしている今、そんな個人的なものに注意を向けている余裕はないのだ。

 

「…不死身の肉体に、コウモリを使役する能力…大体の正体は掴めたわ。

恐らくだけど、あいつは死徒…つまり吸血鬼よ!」

 

「吸血鬼って…映画とかにでてくる…⁉︎」

 

「あくまで恐らくってだけよ、確証はないわ」

特徴から考えた推測だ、当たっている自信はある。

 

しかし今回の聖杯戦争においてはそれが通じない。

相手は別の世界の英霊だ、死徒に似通った性質を持っているとは言えど、それは単に似ているだけの、全く別の何かだという可能性もある。

 

「リンの推測は当たっています。

化け物にして、化け物殺しの祝福儀礼を施した銀の弾頭を持つ吸血鬼…聖杯から与えられた英霊の情報の中に、一人だけ該当する者がいました」

セイバーが凛に続いてそう言った。

 

アーカードの真名秘匿のスキルは未だ継続中だ。

なのでセイバーも、アーカードに対する全ての情報を掴んだ訳ではない、セイバーが知るのは、あくまでも彼の表層的な情報なのであって、もっと深なる部分は明かされていないのだ。

 

それでも、全ては分からなくとも情報は多いに越したことはない。

セイバーはそのまま話を続けた。

 

「王立国境騎士団ヘルシングに雇われた、化け物殺しを専属とする吸血鬼。

その最も厄介な特徴は…不死者とも死なずの君とも呼ばれる…異常なまでの不死性です」

 

「異常なまでの不死性…ね、その不死性ってのを保っている源…みたいなものは分からないの?」

 

「すみません、そこまでは」

凛の質問に対し、セイバーが申し訳なさそうに答えた。

 

「気にしないでセイバー、仕方ないわよ。

真名秘匿のスキルがある限り、相手が宝具でも使わない限り全てを暴くのは無理だわ」

凛の推測通り、アーカードは死徒であったようだ。

 

しかし存在する世界が違うということは、互いの世界の理も違うということだ。

凛達の住む世界と、アーカードのいた世界とでは、死徒という概念そのものにズレがあってもおかしくはないだろう。

 

こちらの世界の死徒には有効な筈の攻撃でも、アーカードには効果が無い可能性があるのだ。

 

「どうした?もう終わりかセイバー?化け物はここに立っているぞ?

化け物を殺し、武名をあげるのが英雄だろう、騎士ならば尚更だ」

アーカードが既に修復され終えた腕を使い、挑発気味にセイバーを手招きした。

 

「剣を使えよセイバー、持てる力を全て使って私を討て、でなければ私は倒せない」

 

依然としてこちらを挑発するアーカードに対して、セイバーは一瞬思考した。

(確かにこのまま撃ち合っていても、アーカードを倒すことはできない。

あの再生力がある限り、私達に勝利は無い…か)

 

先ほどの戦いで見る限り、身体能力においてはセイバーの方が上手だ。しかし相手は剣で切り裂かれたとしても、一瞬にして再生することができる。

アーカードの弾丸はセイバーの腕を持ってすれば簡単に防ぐことができる、しかしあの化け物拳銃の一発一発は炸裂徹甲弾だ。打ち落とす際に発生する衝撃は、剣越しにセイバーの腕にジワリと鈍い痛みを蓄積させる。

このまま戦闘を続けていてもジリ貧だ。セイバーの腕が壊れるのが先である。

 

「シロウ!凛!私が宝具を解放し、アーカードを討ます‼︎」

 

「宝具を⁉︎でも…大丈夫なの?」

 

凛の心配も無理はない。

確かにセイバーの対城宝具である約束された勝利の剣(エクスカリバー)を全力で放てば、アーカードをチリも残さずに消し飛ばすこともできるだろう。

しかしそれの発動には、尋常ではない量の魔力の消費が伴うのだ。半人前の魔術師である士郎には、とても補える程のものではない。

 

事実、前回の聖杯戦争の時もそうであった。

士郎をマスターとした際のセイバーは、宝具を放った瞬間に、消滅の危惧すら訪れた。

精々撃てるのは数発、とても序盤で使うようなものではない。

 

しかし対する士郎は、それを承知しているにも関わらず、凛に向かってこう言った。

「大丈夫だ遠坂、心配ない。

セイバー、思いっきりやってくれ」

 

勝算も無い賭け…という訳ではない、その顔は自信に満ちていた。

 

セイバーは無言で頷き、剣の周りを纏う風の装甲を解放した。

セイバーを中心に、風の渦が一気に爆発し、辺りを吹き飛ばしそうな程の暴風が襲う。

 

次の瞬間、セイバーの手には、黄金の剣が握られていた。

 

ここでアーカードの顔が初めて驚愕に包まれる。

しかし一瞬にして、その顔は先ほどと同じ様な…いや、それ以上の歓喜の表情に塗り替えられていた

 

「その剣…なるほど、お前が名高い騎士王、アーサー・ペンドラゴンか…まさか女だったとはな。

素敵だ…今宵の戦場は本当に素敵だ。まさかいきなりこの様な大物に出会えるとは…」

 

アーカードの口角が釣り上がる、抑えきれずに、喉の奥からクックックと笑い声が漏れ出している。

 

「私も英国出身だ、その伝説は深く耳にしている、こうして向かい合う事ができるのは至極光栄…感激の極みだ」

 

アーカードの体が揺れる。

その瞬間、セイバーだけでなく、直感スキルを持たない筈の士郎と凛ですら、自分の身に降りかかる危険を予感した。

 

「ならば私も、それ相応の敬意を持って戦わねばなるまいな」

 

アーカードが自分の眼前で手を構えた。

無数の目が三人を睨みつける。

赤く…黒く…アーカードを中心に空間が闇に覆われた。

 

「お前をカテゴリーA以上のサーヴァントと認識する。

拘束制御術式(クロムウェル)、第三…第二第一号解放。眼前の敵の殲滅まで、能力使用を限定解除開始」

 

もはやアーカードからは形が失われた。

アーカードは不定形の異形へと変わり、その周りには魔犬が…コウモリがムカデが、彼の使い魔がひしめき合っていた。

 

まるで地獄の底を体現したかの様な醜悪な姿を前にして、一同は吐き気すら催す悪寒に襲われた。

 

「さぁ、夜はまだ続くぞ、お楽しみはこれからだ!かかって来い!

早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)早く(ハリー)‼︎」

 

目の前に立つのは死の体現者。戦いはまだ続く。

 

 

 

 




その頃…英霊の座にて


少佐「邪魔だアーカードッ‼︎そこを退けぇぇぇ‼︎セイバーが見えん‼︎」

ドク「あんたまだ言ってんですかッ‼︎セイバーはおれのもんだって言ってんでしょおおお‼︎」

少佐「いいやッ‼︎セイバーは俺のものだってぇ、言っただろぉぉぉ‼︎」

大尉「おれ、学校の先生になって、キャスター探してくる」


※漫画Hellsing、カバー裏イラスト参照


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