Daydream 0(デイドリーム・ゼロ)   作:皐月潤

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オチはやはりあの人になった。


第六話~刀剣乱舞、開始しよう~

現代side

 

 

 

 またも失敗した。

 ガックリと両肩を落とし、ヒビまで入ったそれを諦め悪く見つめる。

 

 ──どうして、上手くやれないのだろう。

 

 この家には姉がいて、妹がいる。

 私含めて全員同じ女。そしてティーンズだ。

 容姿が違う。性格が違う。

 それは当たり前のことで批判される理由はない。

 でも。なのに。

 何でだ?

 私だけが、何かを許されない。

 

 子どもの自分には未だにわからない。

 親に自分だけが嫌われる理由。

 姉妹に蔑まれる理由。

 

 顔が可愛くない?

 そんなの自力じゃどうしようもないじゃないか。

 性格が可愛くない?

 すみませんね、でも表立って悪いことをした記憶はない。

 

 学校には友だちがいるからまだ良い。

 でも家の中には理解できないカースト制度が存在して、謎の底辺扱いなのだ。

 

 ──私が一体何をした?

 

 わからない。覚えがない。

 姉妹が当然のように人の持ち物を持っていくとか。

 壊すとか。

 きっと社会的にはおかしなことが、何故かこの家の中では(まか)り通る。

 

 ──また壊されたし。

 

 グッと手の中に握るのは、先ほどまで光っていた液晶画面のスマートフォン。

 電源は落ち、綺麗だった画面に蜘蛛の巣のようなヒビが入っている。

 

 理由は何だったか。

 ああ、クソな彼氏と喧嘩したのだったか。

 そんな理由で八つ当たられて、私の心の癒しは破壊されたのだ。

 

 口論からの無慈悲な暴力。

 頬を叩かれるくらいはしょっちゅうで、物を壊されるのもしょっちゅう。怒る気も起こらない。

 

 ──でも、なぁ。さすがにこれは怒っていいんじゃね? なぁ、加州清光。

 

 初期刀に心の中で呼び掛ける。

 愛されたい、全身で叫ぶ彼に共感して選んだ我が初期刀さま。

 

『可愛くしているから、大事にしてね』

 

 何て素直で愛らしい子なんだろう。

 私もこのくらい言えるようになりたい。

 

『なに? 俺撫でて楽しいの?』

 

 楽しいに決まってる。

 照れたような表情が可愛くて何度も撫でた。

 

『…こんなにボロボロじゃあ…愛されっこないよな…』

 

 君はこんな私でも主と呼び慕ってくれるんだね。

 

『ちょっとは、可愛くなったかな!』

 

 見た目じゃなくて性格がとっても可愛いよ?

 

『俺、汚れる仕事いやなんだよなー』

 

 そう言いながらやってくれるんだよね。

 

『修理してくれるって事は、まだ、愛されてんのかな』

 

 むしろ怪我をさせてしまった私が嫌われないか怖いのに。

 

 レア刀もいるけれど、必死にあれこれ頑張ってついてきてくれる子で。

 戦略に疎い主で申し訳ないと思いつつ会話でたくさん癒されながらこれまで続けてきた。

 

 ──なのに……会えなくなっちゃった。

 

 私は悪くないという想いが姉に立ち向かわせて。

 それでよりによって本丸に繋がる端末を壊させてしまった。

 私、バカ過ぎる。

 これだけは守らなきゃいけなかったのに。

 

 契約主ではない私がスマホ修理なんて一人で出来るだろうか。

 親が、許してくれるだろうか。

 

「かしゅうきよみつ……」

 

 泣きそうなこの声も、今は、届かないね。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

本丸side

 

 

 

 以上です、と感情の削ぎ落としたこんのすけの声が大広間に落ち。

 聞き入っていた刀剣男士が青い顔から泣き顔へと変わっていく。

 

『しゅ、主君……っ』

 

 桃色の綿菓子のような髪の秋田藤四郎が、泣きそうになりながらあわわと両手を口元へ持っていき。

 隣に座る五虎退は気絶した。

 前田藤四郎は己の刃を出して真顔で眺め。

 小夜左文字は並んで座っていた両隣の兄に『復讐、する……?』と尋ね、よりによって江雪左文字から許可を取っていた。

 中でも話の渦中(かちゅう)にあった加州清光、そして間近に座る新選組は。

 

『んじゃ、始めますかねぇえええええっ……』

『首落ちて死ね!!!!!』

『……殴り込みだな』

『お手伝い(殺意)なら任せて!』

『おれは止まらんぞ!』

 

 殺る気に満ち満ちている。

 

 愛されていると知った加州清光はもちろん、同じ沖田刀の大和守安定に怒りの導火線大点火、士道など欠片もない家族が土方刀の和泉守兼定と堀川国広の虎の尾を踏む。隊長格の長曽祢虎徹? 誠を背負って散った近藤勇刀がこれを許すとお思いか?

 

 泣き崩れる刀剣男士に、刀の鋭さを確認する刀剣男士。

 死んだ目をしたこんのすけ。

 ブラック家族も彼らには絶許だ。何しろ自身がブラック本丸だったのだから。

 

「こんな事情ですから、審神者を急ぎ救出したいのです」

『はっはは! それじゃあ、驚いてもらおうか』

 

 難しい顔をする狐に、ようやっと笑みを見せた鶴丸国永がぱしりと膝を打った(のち)立ち上がる。

 ぐるり見回すと、全員が同意するように彼を見上げていた。

 

 

 

『さぁ、大舞台の始まりだ!』

 

 

 

 刀剣乱舞、開始しよう。




なるべく刀剣男士を出演させてますが、誰がまだ出てなかったか混乱する。

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