Daydream 0(デイドリーム・ゼロ)   作:皐月潤

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こんのすけ見参★


第五話~管狐の再就職~

本丸side

 

 

 

『こんのすけ? うぅん、誰だったかなぁ……』

『兄者、人ではない。管狐だ』

『ああ! ……狐?』

『一度はわかったような反応はやめてくれ兄者』

 

 戻ってきた石切丸の話を聞くべく、広間に集まった面々。

 そこで切り出された名前に源氏兄弟ならずとも困惑した。

 

『うちの本丸にいたこんのすけは廃棄処分されたんじゃなかったか?』

『御手杵、その言い方は』

『いや、確かにあの審神者はそう言っていたよ』

『石切丸殿……』

 

 苦味のある顔をするのは、蜻蛉切が前審神者を思い出したからだろう。

 石切丸も脳内に思い描くだけで嫌な気分になる。

 徹頭徹尾こちらの矜持を無視した審神者。好く要素がなかった。

 

『破壊されてなかったってこと?』

『管狐は死ぬものじゃないからね』

 

 なるほどね、と頷く大和守安定。

 

『前審神者の言い分じゃ処分だったけど、実際は差し戻しだった。つまり無用だと政府に返されてたんだよ』

 

 良かった、と声が上がる。

 初期から前審神者に苦労させられた同士だった。

 当然のように廃棄処分と言われて激昂した刀剣も数振りいた。

 自分たちを、こんのすけを、命あるものと見做さなかった審神者。理解し合えない苦しさが喉に詰まって苦しかった。

 

『先に審神者に会いに行かせたのは何でー?』

『それより盃を置きなさい、次郎』

『やーんっ』

 

 酒瓶を抱えて離さない次郎に苦言を呈す太郎。

 大太刀兄弟の力の抜ける喧嘩に思い出したあれこれも流されていく。

 

『こんのすけも眉間の皺が消えなくなるほど審神者を嫌っていたからね。彼女のサポートに就いてもらいたいのに、思うところあったら支障が出るだろう?』

 

 自分たちも全力で手を貸す所存だが、政府との橋渡しはこんのすけがより役立つ。その彼が非協力的ではお話にもならない。

 

『あ、あのう……あるじさまの、お迎え、は……?』

 

 気弱な五虎退の言葉に、ハッと顔を上げる刀剣男士たち。

 いつこの本丸に呼び寄せるのか。現代に刀剣が行けるのか。家族に引導を渡せるのか。

 この場にいる全員が少女に会いたがっていたのだから。

 

『ん? 私は行くよ』

 

 父だからね! と胸を張る石切丸に、この場の全員が挙手し始めたのは言うまでもない。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

現代side

 

 

 

 これはいけない、とインビジブルモードになっていたこんのすけは身を震わせた。

 

 

 

 一度は追い出された職場への復帰要請。

 管狐とて個としての意識を芽生えさせられているのに、それを無視するかのような政府。日本海溝が眉間に刻まれた。

 仕事が嫌なわけではない。むしろこのこんのすけは仕事が好きだ。

 だが上司となる審神者との関係が思わしくなく、パートナーシップも取れなかった。

 気分よく仕事のできない毎日。口うるさく言わざるを得ない関係。うんざりしたところに職場を追い出された。仕事なんて知るかと言いたくなるのも仕方ないだろうに、またも政府は同じ職場へ行けと言う。

 なめとんのか? と三白眼になったこんのすけはゲートに突っ込まれ、やむなく新審神者の実家へ来た。

 前の審神者はクビになったんだとか。ざまぁとか別に思ってない。

 

 今回のお宅訪問は本丸男士の命令らしかった。

 新審神者を知っておけということだろう、仕事のやる気ゼロになっていたのは事実だったので、読みは当たっている。

 普通の民家に姿を消して潜り込んだこんのすけは、足音を肉球で消してキョロキョロと歩き回る。

 年若い少女は二人いたが、どうやら審神者候補ではなかった。

 中年男女も見た。恐らく審神者の親だろう。なぜ本人だけが居ないのか。

 

 最後の住人を見つけた時には、「これはいけない」と何度も呟いていた。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

本丸side

 

 

 

「お久し振りにございます」

 

 犬猫サイズの管狐は、この本丸を去った時と同じように喜怒哀楽が行方不明になった顔で小さく頭を下げて見せた。

 よそ本丸ではキャンキャンとよく吠えるこんのすけもいると言うが、本当だろうかとここの刀剣男士は思う。

 言っても無駄、わかってもらおうとしても無駄。

 そんな審神者に対する認識が管狐に感情を忘れさせていたのだろう。

 

『どうだったかな』

 

 楽しそうな石切丸は、無表情でもこんのすけの気持ちはわかっているのか。

 本人接触の未だない多くの刀剣はこんのすけの見解も聞いてみたいとワクワク待っている。

 

 眉間に皺を作ったこんのすけは、かつての審神者に見せていた顔と同じものだ。

 今度の審神者も気に入らなかったのか……?

 

「どうもこうもありゃしませんよ」

 

 吐き捨てるかのようなこんのすけ。どう見ても苛立っている。

 

『き、気に入らなかったのかい……?』

「ええ気に入りませんね」

 

 小さな獣足がタシタシと畳を叩いた。訊いた光忠が困惑している。

 

「何ですかあの子、めちゃくちゃあの家で蔑まれてるじゃないですか、審神者になれる存在は稀少価値が高いというのに十把一絡げな姉妹に見下されてるとかふざけてんですか、あの親自分の娘に差別とか人間腐ってんじゃねぇですか生ゴミの方がまだ腐ってねぇですよマジふざけんな、金銭格差に食事格差は虐待ドンピシャっすありがとうございません、ざっけんな奴ら全員ギルティだかんな通報してやるからなむしろ社会的に抹殺してやるからな待ってろとりま一家離散から始めるか」

『恐い恐い恐いこんのすけ顔が遡行軍より悪くなってるよ!』

「おっと失礼」

 

 ぱふと口元を押さえ、言葉を止めた。

 石切丸の背後ではこんのすけの見解にまたも全員がどよめいている。

 聞いていたとはいえ、少女が心配になるレベルの家庭環境だ。

 

「石切丸様、わたくし今より審神者奪還計画を立ち上げます。時の政府は市役所と呑気な言い合いをしてましたのでこちらで審神者を救出いたしましょう」

 

 政府の犬とも思えぬ発言に、ニコリと笑みが返ってくる。

 

『それはもちろん。ふふ、それにしても私の娘をまだそんな目にあわせているとはね……』

 

 これは念入りな御祓い(物理)が必要かな?




フルボッコの未来しか見えない。

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