Daydream 0(デイドリーム・ゼロ)   作:皐月潤

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まったり再開です。


第三話~時の政府とブラック男士の決断~

政府side

 

 

 

 時の政府も指針を決める中で、常に一枚岩だったわけではない。

 一般企業と同じくこれがベストという考えはそれぞれにあって、派閥となり思想となり主義となる。

 危機感も身の保身も清濁混ざり存在し、悲しいことに足の引っ張り合いだ。

 

 その中で、やり口はともかく健全であろう派閥が一つある。今現在総括的に審神者や付喪神に指示をしている政府長官、御劔(みつるぎ)のブラック本丸再起案。言葉を綺麗にするとそうなるが、要は失敗した審神者選びで被害に遭った付喪神のリサイクル提案だ。

 ブラック本丸を生んだのは審神者選抜と監督不行き届きだった政府のせい。物だからと付喪神を舐めてかかった悪徳審神者と考えが足りなかった政府のせいで、触ると怪我をするどころか引き継ぐ審神者を幾人も喪う破目になった。

 

 御劔はもだもだする政府首脳陣に日ノ本の暗い未来を予兆し、下級官吏からのし上がり長官に座った人間だ。もちろん一般的な方法が取れたわけもなく、見方を変えれば誰より悪質だったかもしれないが。それでも支持を受けこうして新しい舵を切れたのは、良心をどこに使うか考えれば多少の卑怯も許されると思われたからだ。

 人次第で付喪神への敬意も扱いも、審神者のアフターフォローすらも変わる。長官であっても一派閥と言わざるを得ない現状に溜め息しか出ないが、実際のところは何がベストなのかは誰も分かりはしない。

 

 勝手なものだがブラック本丸の問題は厄介かつ深刻であったし、打ち捨てるのも敬意あるとも思えない。責任を付喪神自身に取らせるような丸投げになってしまうが、それが一番審神者と付喪神が上手くいくだろうと考えた。

 刀はどうしたって使い主を求め、審神者も人だから道を踏み外すこともある。そこに誰か第三者が介入するよりも本人同士で納得の関係を築き上げれば良いと思ったのだ。

 

 ただ──国民が受け入れやすいゲームという下地にしたせいで、PCゲームならいざ知らずスマホアプリの子ども使用率が高く、勧誘係の刀剣割り振りも年齢の網を設けなかったために御しやすい子ども審神者が狙われたのはこれまた失敗であった。

 外部から見れば真名を奪われ教育も途中の子どもはある意味神への供物である。それでも止めることが出来ないのはそこまで深刻だからだ。

 現時点では成功例がないこの妙案は、御劔派閥も、その喉笛に噛み付きたい連中も、結果を息を殺して待っていたのだ。

 

 ──さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 

 後悔のない御劔は到来したという付喪神がいる応接室へと向かうのだった。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

本丸side

 

 

 

 時を少し遡った本丸内大広間にて。

 

『そろそろ決断しても良いと思うのだけどね』

 

 刀剣を集め、切り出したのは石切丸。

 審神者の家族は小さく降り積もる雪のように悪意の毒を少女に盛っているように見えた。

 例えば存在を無視するような発言で。

 例えば容姿を嘲笑うことで。

 例えば否定することで。

 痛い、と言えなくなるまで少女を追い詰めている。

 自分の方がよっぽど父らしい心配をしているのに、血の繋がっている筈の家族がそれをしない。ならば貰い受けても良いだろう、それが彼の最終判断だった。

 

『彼女をこの本丸の主に迎えるに当たり、異論がある刀剣はいるかい?』

 

 数十の人間形態を取る刀剣に、不満を訴える素振りはない。

 三日月に、小狐に、少女の言動を毎日のように聞いていた彼らは前の悪辣審神者と同じではないと知っている。早く迎えるべきだと主張する者も頻発していた中で、この集まりは遅いとすら感じていたのだ。

 だから。

 

『いるわきゃねぇ。ま、主っつーには些か頼りねぇのは事実だけどな』

『もう……兼さんってば』

 

 浅葱色の羽織を纏う和泉守兼定がそう言えば、隣に座っていた堀川国広が呆れた声を上げる。

 情の厚い相棒は毎日毎日少女の様子を気にかけていた。曰く、肉体的な虐待も始まるのではないか。性的な手出しを受けるのではないか。これ以上傷付いたら今以上に深刻なことになるのではと。

 素直に言えばいいのにと、新選組刀剣たちから呆れの眼差しが集中してるよ、兼さん。

 

『知識も経験も必要となってくるのは事実。でもだからといってそれが一番優先されるべきとは思えない。それはこの本丸にいた誰もが知ってることだろう?』

 

 蜂須賀虎徹がやんわりと、しかし毅然と訂正を入れた。発言者の和泉守の顔が歪み、前任の凶行を思い出した刀剣たちに苦渋が満ちる。

 そう、この本丸の最初の主であった人間は審神者としては非常に評判の良い者だった。戦略も指示も的確。敵にとっては脅威だったことだろう。しかし刀剣にとっては誰も評価出来ないような内面に問題のある人物だったのだ。

 

『安心して良い。此度の審神者はまずそのような愚かしさは持ち合わせてはおらん』

(しか)り』

 

 ドキッパリと宣言するのは、実際に審神者と接していた三日月宗近と小狐丸の両名。

 人間を恐ろしくすら感じるようになっていた全刀剣の不安を取り除く。

 

『ぬしさまは過ぎた欲もなく真っ当な心をお持ちよ。前任の彼奴(きゃつ)めと同じにしては無礼千万というもの』

 

 信仰深さも清い心を持つでもない、それでも闇落ちする気配のない健全さがある。その心の強さを二振りは評価していた。

 清いだけの巫女はハリボテに見える。

 生きるということは哀しむということ、憎しみを覚えるということ。

 そこから守られた聖職者の言葉など心に響こうか?

 

『人のせいにすることなくただあるがままに受け止め、何があり(しいた)げられようと歪むことがない。我らに必要な主とはそういう方ではないのか』

 

 一緒にするなと言う小狐と、静かに問い掛ける三日月。

 絶大な信頼は周囲の刀剣にも良い納得を与えた。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

政府side

 

 

 

『というわけで、うちの子にするよ』

 

 失敗だったら首を落とす覚悟までした場でうちの子宣言されて、長官ちょっと意味わかんない。




学生審神者は本丸で我が子扱いされるといいよ!

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