Daydream 0(デイドリーム・ゼロ)   作:皐月潤

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日本人はお涙ちょうだいに弱い。


第二話~そして彼らは少女を愛す~

現代side

 

 

 

 LINEに新着メッセージが届いた。

 

「“長谷部に厚樫山焼き払えって主命した”……っておい。おい」

 

 学校でじじいと狐を連呼した友達の暴走がひどい。でも実のところ難民と称されるほどに審神者間では有名な現象なのだとか。

 うちにはゲーム開始同時からいたし、じじいと言う割には無双しまくるので青い悪魔、狂犬(病予防をし損ねた狐)と呼ばせていただいている。レベルの上がり方も尋常ではない戦闘狂っぷり。

 データとわかりつつも同行の刀剣も面白くないだろうと、最近では専ら遠征に出して送っている。なのに誉桜が取れない。おじいちゃんどうしたの? ボケちゃったの?

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

本丸side

 

 

 

 一方、本丸では同田貫が三日月に声をかけていた。

 

『おいじーさん。ちょっくら話聞かせてくれよ』

『ん? おお、審神者のことか?』

『ああ。随分戦闘はご無沙汰なんだ、じーさんも相当楽しんでんだろ?』

『最近は遠征ばかり行っているが』

『はあっ!? ようやく戦えるようになったっつーのにあんた何してんだよ!?』

『何と言われてもな……図にのって戦ってるうちに俺と狐だけがレベルが突出してな。他の奴らが実力をつけるまで待ってくれと言われてしまった』

『もったいねぇえええ!!!』

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

現代side

 

 

 

 姉が男を連れて来た。

 

「え、君が彼女の妹さん? えええ……ああごめん、そうは見えないね?」

 

 これに何と答えろと? 腹立たしいのでゴミを見る目で見返してやった。

 

「ごめんね、愛想のない妹で。コレとは違って可愛い妹もいるから、帰ってくるまで待ってちょうだい」

「もう一人いるんだ、そっちは君と似てるの? 楽しみだなぁ」

 

 忌々しいカップルだなおい。居座らないで欲しいが、この家では私の意思など無関係だ。

 どこまでも人の意見を聞かず軽んじられる。それがリアルの私でしかない。

 握るスマホがぎしりと軋みを上げたが、それは間違いなく自分の心の音でもある。

 

『……ぬしさま』

 

 小さな呼び声は、画面に手のひらが触れていたからだろう。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

本丸side

 

 

 

『──ということがあったのじゃ』

 

 いつもの様にいつもの如く、現代で見聞きしたことを小狐丸は本丸内の刀剣たちに語って聞かせる。

 今回は日課話でなく、画面越しに明らかになっていく家族間の仲の悪さ。

 主にこれらを知りたがるのは、情に厚い面々。最初から気にかけていたわけではないが、少女を取り巻く環境が気になって仕方がない。だからついつい小狐丸や三日月を呼び止めて聞いてしまうのだ。

 そうしてまた今日も同じ一言が口をついて出る。

 

『不憫!』

 

 目を覆うと眼帯が濡れていくのがわかる。燭台切光忠、彼は少女の恵まれない環境に憂えている。

 

『そんなことを言うお姉さんも彼氏くんもカッコよくないよ……!』

 

 黒い手袋までしとどに濡れ、泣き崩れ続ける。そんな彼の姿はまったくカッコよくなかったが、少女を想えば気にしていられない。

 また、別の刀剣男士はガリガリと畳に爪を立てている。

 

『……っ、……!』

 

 誰より馴れ合わない男、大倶利伽羅。

 何故彼が、と驚くなかれ。誰かが審神者の話を聞き出そうとすれば、声が聞こえる距離でこのように顔を俯け畳を掻いている。

 

『……別に、語る……こ、とはっ……』

 

 ガリガリガリ。この音が彼の本心を何より物語っている。

 戦闘後でもないのに学ランの袖口やシャツが湿気ていることでお察し下さい。

 

 しゃきん、と抜刀する不穏な男士もいた。

 

『ははは……家宅侵入後、各個撃破と洒落込みますか』

 

 笑顔満面で青筋を浮かべる一期一振と、

 

『恨みはある。主命はない。だが死ね』

 

 ブチギレているへし切長谷部。

 

 身内認定すればセコムと化す一期一振は、弟たちの年齢に近い少女を既に粟田口家族枠に入れることを決めていた。

 姑並みに厳しい眼差しで少女の言動を窺っていたへし切長谷部は、立ち回り下手で良いように扱われている審神者候補を誰より傍にいて守らなければ! と過保護目線にシフトチェンジしていた。

 

 黙って立ち上り姿を消した石切丸は、祈祷部屋へ。

 渡りに協力し続けたせいか既に父性に目覚めていた彼は、『うちの娘にいい度胸だね』とぼそり呟いていた。

 

『…………』

 

 生真面目に主のことを一から知ろうとしていた平野藤四郎は、座して沈黙していた。

 また、主がつらい想いをしている。守り刀である自分が守らなければならないのに、今こうして物理的に距離があるためにまた悲哀に満ちておられる。

 

 ──自分たちは離れてはいけないのだ。この少女と。

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

政府side

 

 

 

「ちょ、長官! 大変です!」

 

 とある重役の一室に、勢いのまま飛び込んできた部下がいる。

 机の前で書類を捌いていた上司は、首を傾げて問いかけた。

 

「落ち着け、何があったんだ?」

「し、失礼を……伯耆国の本丸から付喪神が来られております!」

「審神者と一緒にか?」

「いえ、元ブラック本丸で──現在は審神者不在の本丸です!」

「……なるほど」

 

 カタリと立ち上り、到来の目的を理解した男は無駄のない動きで部下を促した。

 

「恐らく我らの実験結果が出たのだろう、これでこの日ノ本(ひのもと)がどうなるかが決まるな」

 

 失策に失策を重ねた時の政府の頼みの綱の妙案の結果が、今明らかになろうとしていた。




さて、どうなりましょうか?

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