Daydream 0(デイドリーム・ゼロ)   作:皐月潤

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亀甲来てくれて幸せ実感中。


第十二話~刀の仕事はkillことです~

 大きくひしゃげた居間の扉が非常事態発生を告げていた。

 身内に、世間に、社会の常識に、法律に、道徳心にと何重にも守られた現代日本人は、圧倒的な破壊力を前にするだけで意識がログアウトする。

 

 ――家の中で避難って何だよ。

 

 戦時中の空襲警報ほどに現実味がない。

 生存本能をなくした家犬のように、ただ、立ち尽くすのみ。

 

 とはいえ、キラキラとした眼差しの加州と目を合わせ、守るように抱き締める石切丸が後ろにいて、自本丸の刀剣男士たちが自分を傷付けるとは思わない。

 

 彼らは、味方。

 血縁者ですら敵の私の、唯一絶対の味方。

 画面越しの逢瀬を経て、やっと出会うことの出来た血よりも濃い絆の“本当の”家族なのだから。

 

 故に2メートルの壁的僧侶を見ても、「岩融マジ弁慶」などと感嘆していた。仁王立ちが様になってますね、ヒュー!

 隣と斜めに顔面蒼白の元家族も居たがスルー。

 心は完全に本丸家族に奪われている。

 片想いより両想いが良いよね。当然ですよね。

 感情は着々と別離の手続きが進んでおりますよ。アディオス、血の繋がった赤の他人。

 

 床をギシミシ言わせながら現れた岩融は、私を見つけて嬉しそうな顔をする。

 

『おお、主よ! 遅うなってすまなんだ。迎えに来たぞ!』

 

 小脇にボストンバッグを抱えている姿が激しくミスマッチだが、あえて問うまい。

 

「うん、待ってた。本丸行ける日が来るのを」

 

 ずっとずっと待ってたよ。

 自分の正気を疑いながら。

 

『主……寂しい思いさせてゴメンね?』

 

 加州の爪先まで綺麗な指が絡む。

 体温のある指。

 受け入れてるよと温かい気持ちがじんわり伝わってくる。

 

「(夢なら死ぬまで覚めなくていい)行こうみんな。本丸があるなら私の居場所はここじゃない」

「──は?」

『ッ! うん! うんうんうん!』

「ちょ、何バカを言って──」

 

 思っていた以上に本丸を求めてくれる主候補、いやもう自分たちの、自分たちだけの主に、加州の不安が綺麗さっぱり拭われていく。一方で、石切丸は。

 

 ──普通は親兄弟と離れるとなれば多かれ少なかれ衝撃は受けるもの。何の疑問もなく負の感情だけを向けている時点で、ここの家人の罪業はその余命で(あがな)える量ではないのだろうね。

 

 人が足を運ぶ神社に御神体として存在していただけに、人の家族は数多く目にしている。しかし納得はしない。神が情をかけた愛し子を道の外れた扱いで苦しめる外道は祓い清めるべし。

 

 とは言えせっかく出会えた今この時に、血の穢れは面倒だ。情の有無は思った以上に薄れており、歓喜するほどに心の天秤は我らに傾いているが、別れを誤ると彼女の記憶に強く残ってしまう。それはいけない。記憶そのものが穢れとなってしまう、石切丸たちにとっての。

 

 では見逃すか? ――それはありえない、唯一絶対の主を貶める存在は『解決法:悪即斬』な御刀様なのだから。

 

 

 だから本丸へ。

 早く本丸へ行こう、主。

 現世の(うれ)いも縁も関わりも失ってしまう、あの神域へと。

 

 

『邪魔をしたら穢れを祓うよ?(物理的に)』

『一騎打ちしちゃう?^^(刀の錆にしてやるよ)』

『この部屋ぜんぶ僕の間合いです!(おめでとうございます! 任務が達成されたようですよ)』

『俺は刺す以外能が無いからなぁ(今度生まれてくる時も願いは揃って同じ串?)』

「副音声きこえるこわい」

 

 そう言いつつも加州との指は離れず、石切丸から逃れるわけではない。

 軽口を叩いても絶対の信頼を置いてくれている――それがわかり、心が震えた。

 

「本丸へ行こう。みんなに会いたい。ずっとずっと会いたかった」

『主……』

 

 親を見つけた子供のように求める姿に、喜びと切なさが同時に去来する。

 

『ずっと大事にしよう。人ではなく君を信じよう、主。私との――いや、我ら神との約束だ』

「うん、約束」

 

 今ここに人と神との契約が成立した。

 霊力がしっかりと結び付く。

 仮初めの霊力が流れ落ち、知っていた霊力が流れ込み、自己を形作る。

 

『うはあ……すげぇ気持ちいい』

 

 熱い湯に浸かったかのようなぽややんとした声が御手杵から漏れた。

 頬はほんのりピンク色になり、潤んだ眼差しがそれっぽい。幸せそうに息つく様子が正に『温泉に浸かりました』状態だ。

 

 

 石切丸が言い直したのは理由がある。

 自分達だけでなく、本丸に置いてきた仲間達をも含むため。そうする事で距離を無視して契約を果たした。

 当然状況が見えない本丸のメンバーは、歓迎会の準備をしながら……

 

『ファッ!!???』

『みにゃーッ!?』

『おおおおどろいたぜぇっ!!!』

 

 という具合に腰砕けになっていたのだが。

 

 

『さて“すべき事”は終わったよ、さっさと帰ろう』

「待って半透明の鎖持ってる」

 

 にっかり青江が白い靄で作られたような鎖を何本か握っていた。

 先が見えなくなってるのがまた怖い。

 どっからそれ調達してきた!?

 

『ふふ、気になるかい? まぁ歓迎会に使うオモチャのようなものだよ』

「おもちゃ」

『君が使えるのはもう少し大人になってからだねぇ』

「おとなのおもちゃ」

 

 あ、ハイ。知りたくないので見て見ぬふりします。

 御覧、家族が胸を押さえて奇妙な顔してるよ。美形のセクハラは心臓に悪いです。

 

 

 永遠の別れだからか、石切丸がその深い懐に私を抱き込んだ。

 

 

 いい匂い。

 伽羅? 白檀?

 何かすっごい、眠く、なる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここから先は見せられないよ」




答えはサブタイ!

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