Daydream 0(デイドリーム・ゼロ)   作:皐月潤

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血縁が愛情の保証をしない、仕事しろ貴様。


第九話~本丸片道切符下さい~

審神者候補side

 

 

 

「お願いします」

 

 

 

 不慮の事故扱いで済まされる姉の無慈悲により、御臨終してしまった携帯端末。

 画面はブラックアウトしたまま。未成年の自分は直接の契約者でもなく、本丸へ行く術がない。

 

 これまでと同じように諦めて、忘れる。

 積み上げてきたものを無かったことにする。

 それがこれまでの私の心の安寧法だったが、その安寧が得られない。

 

 駄目だ、諦められない。

 加州清光は寂しがりなんだ。

 パッパは実父代わりなんだ。

 青江は意味深なしゃべり方で笑わせてくれるんだ。

 岩融は悩みも大したことないって笑い飛ばしてくれるんだ。

 御手杵は近い距離を許してくれる兄ちゃんなんだ。

 他のみんなも。誰一人として居なくなったら、会えなくなったら嫌なんだ。

 

 

 

「物を大事にしないお前が悪いんだろう」

 

 

 

 ──実の家族から大事にされてないことが突きつけられても。

 

 

 

「あんたお姉ちゃんや妹みたいに友達多くないから要らないでしょう」

 

 

 

 ──同じスタートラインに立ってた筈の姉妹格差に傷ついても。

 

 

 

「はーい、お姉ちゃんに携帯はもういらないと思いまっす!」

 

 

 

 ──なけなしの矜恃に爪を立てられ食い込んで血が流れたとしても。

 

 

 

「あんた如きの不注意で無駄遣いすんじゃないわよ、バーカ」

 

 

 

 ──嘘を吐かれ周りが誰も疑いを持たなくても。

 

 

 

 きり、と噛んだ唇が出血したのか血の味だ。

 これが現実。力のない自分。信用のない味噌っ(かす)

 自力では変えられない中で願いを叶えるには屈辱だってある。

 すぅ、と息を吸い顔を作る。

 悔しい顔は私が悔しい。余裕な顔はより一層の事態の悪化。姉の話を持ち出しても誰も信じない。むしろ自分が叱られる。ここで自分が取れる最良の一手は。

 

「友達は何人かいます。今は先生ともLINEで繋がってます。私だけが連絡手段がないと不審に思われ学校から連絡がきます」

 

 怒りも屈辱もあるだけに英語の直訳のようになったが、気にしてられない。

 見えない場所から面白くなさげな舌打ちが聴こえたが、やったのは姉かコンチクショウ。

 

「学生向けのスマホは実質0円です。買い替えさせて下さいお願いします」

 

 リビングで偉そうにふんぞり返って腕組んでる親父と迷惑そうな母親に頭を下げる。土下座は最終手段だ、プレゼンテーションで攻略出来たら儲けもの。つか何で社会人でもないのにこんなこと考えにゃならんのだろうか。

 いえ姉妹と格差があるからですけどねアハハ。こんなんしてるの三姉妹の中で私だけだぞチクショウめが!

 

「……ハーッ、卒業まで携帯無しで過ごせないのか?」

 

 ぎっ、と噛み締め過ぎて肉ブチッつったわ、唇取れてないよな?

 

「……無理です先生から家に電話の一つくらいあると思います『お宅の娘さんスマホも持ってないんですけどそんなに経済的困窮してる御家庭なんですか』って言われるかもねアハハ」

 

 後半嫌味がポロッした。

 だって悔しい。家族一緒に毎週デパートで服買ったり食事してるんだぞ、私抜きでな!

 明らか出費が違うじゃないか、小学校の時は遠足費を私一人忘れられたことだってあるんだぞ。ちなみに親からクリスマスプレゼントを貰ったこともない、お年玉もかろうじて親族の数人からもらうだけだ。いや扶養家族だけど! だけど! 姉妹は何の疑問もなく貰ってんだよ、おかしくね???

 

 私の嫌味にムッとしたのだろう、それはマズイと外面(そとづら)星人の親父が唸る。何でそんなに手間暇惜しむわけ? 私にだけな!!

 

 そして許可の名の元に嫌味ターイム。

 知ってた、わかってた。苦行はいつでもどこでも何度でも付きまとうことは。

 

「まったく、お前の不注意で携帯2台目なんて贅沢な……」

 

 0円だっつってんだろ話聴けや親父。

 

「月額だけでもお金かかるのよ、子どもが持つ必要ないんじゃないの?」

 

 同じことを姉妹に言ってみろよオカン。

 

「お姉ちゃん友達いるって嘘っしょー? 見栄はりすぎ!」

 

 お前が私の何を知ってるんだ。

 

「あんたほんっとお父さんとお母さんに迷惑かけすぎ!」

「お姉ちゃん……誰かさんと違って親思いなんだから」

 

 あっ、元凶が親の関心買い始めた、最悪だなお前。そしていちいち騙されるなよ、洗濯も物干し風呂掃除も私がやってんだよ家事に貢献してる姿見たことねぇわ!

 

 駄目だこの家族、友達より信頼が置けないどころか私にとって敵だ。なのに私ってば抵抗する手段のない未成年なんだ。何て理不尽。

 

 我慢我慢我慢。スマホが入手できたらこっちのもんだ、本丸行けるしみんなに会えるしまた私のストレスも軽減される、よっし勝訴!!!

 

 まだ耳に流れ込んでくる数多の毒に、脳味噌を掻き回され痛みすら起きている最中に──

 

 

 

 ピンポーン♪

 

 

 

 来客が来た。




クローズアップすれば歪な筈なのに、そんな彼らも社会的地位はあるんですよ。

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