Daydream 0(デイドリーム・ゼロ)   作:皐月潤

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すったもんだの果てに、彼らは──


閑話休題~手入れ部屋in本丸~

 そこは今、野戦病院さながらの光景になっていた。

 

 

 

 手入れ部屋in本丸。

 一部隊分の刀剣が去った後、その部屋は呻き声や歯軋りの音が響いている。

 

『鶴、鶴よ……おぬし何故こんな非道なことができる……っ』

 

 美しい(かんばせ)に『鶴絶許』と書いた三日月宗近が(むせ)び泣いた。

 

『ぐ、あ……っ! ひざ、ひざ、が、アアアーッ!』

 

 まるで階段を降りられない年寄りのように身を丸めた小狐丸も、『鶴絶許』と顔に書きながら痛みで震えている。

 

『ふ、はは……っ、俺はただ主に誰より早く驚きを届けたかった、だけ、さ……がふぅっ』

 

 根性で起きていた血まみれの鶴は、それだけ言い残し息絶えた。

 

 言葉もなく(うつぶ)せて死んだように動かない明石は、ダイイングメッセージの『犯人は江雪』という文字を最期に書き残していた。

 一方の証拠を残された江雪本人は、自分に怯える大典太光世を瞳孔のカッ開いた目で見つめている。▼みつよはことりのようにふるえている!

 

『はっはっは、大包平はほんに火に炙ったスルメのようにふんぞり返っておるなぁ。よきかな、よきかな』

『誉める振りして悪口か!? 止めろと言ってるだろうが!! 俺は! 貴様の! 息子では! ないっ!!!』

『ブゴフッ!』

『鶯丸! お前今笑いすぎで軽傷が中傷になったぞ!?』

 

 小烏丸を胸ぐら掴む大包平と、爆笑するオーディエンスの鶯丸、事態の悪化を防ごうとするがどうにもならないソハヤ。

 彼らが手入れ部屋にいるのも不可解。

 

『いやあ~もう歳だねぇ』

『兄者ぁあああああッ! その台詞は巻き込み事故を起こすから止めてくれぇええええ!!』

 

 屋根の上に逃れていた源氏兄弟は足を滑らせ転げ落ち、三日月の泣く気持ちをその身で実感していた。

 何故太刀が屋根に逃げた。距離を置くだけではいけなかったのか。

 

『いや、その、ズボンを脱がされようとしたので、咄嗟に……』

『あ? 咄嗟に刀抜いて広間の畳血まみれにしたってのか? 何言ってんだいち兄、畳総入れ替えだぞ』

『す、すまない』

『主さんは戦のない時代の女の子なんだよ! 袈裟斬りにされた駄鳥なんて見せたらどう思うか分かんないの! この顔だけタラシ!』

『顔だけっ!?』

『僕はただ憂さ晴らしをしたいだけです』

『前田!?』

 

 「ついカッとなってやった、後悔はしてない」の申し子のような一期一振は、兄の凶行を愕然と見ていた多数の弟たちがハリセン片手に説教だ。

 アメジストの瞳が怒りに煌めく薬研は、『大将が来る日にこの馬鹿兄何しやがってんだ』であり、鮮やかなブルーに苛つきを見せた乱は『もうもうもう! 主さんには綺麗なもの可愛いものを見せてあげたかったのに!』であり、前田は自分にクリソツな顔がドヤ顔して腹立たしかったので兄を吊し上げていた、正直すぎてお兄ちゃん泣いちゃう。

 

 騒ぎを見ているだけになった顔触れでドタバタと大部屋の換気と畳替え、同時並行に歓迎会の準備と慌ただしい。

 本当は騒動を起こしてる場合じゃないので、手入れ部屋から出たところで彼らは冷遇間違いなし。本当図体大きいだけだなテメェらは! と思われている。

 

 獅子王や数珠丸が何にも悪くないのは知っている。だが、だが、言わせてくれ。

 太刀の!! お馬鹿っっっ!!!!!!

 本日共通の認識となった心の叫びが響く本丸に、やっと帰ってきた太刀が一振り。

 

『カーッカッカッカ! 兄弟よ、ようよう帰ったぞ! ──ん? 手入れ部屋が混雑しておるな。はて、戦闘は予定になかったと思うが?』

『きょ、兄弟! 朝からどこに行ってたの、もうっ!』

 

 山伏国広が山より戻り、台所班に掃除班にと指示を出していた堀川国広が飛び出てくる。換気をし、畳の張り替え中だった山姥切国広も主お迎え日に限って姿を見かけず兄弟揃わなかったことに焦っていたのかバタバタ飛び出した。

 

『兄弟、戻ったのなら大広間の掃除に参加してくれ──何だ、その大荷物は』

 

 背に巨大な猪を担ぎ、両脇にデカい籠二つを抱え持った姿に目が点になる。

 

『今日は主を迎える大事な日なのである! 山の恵みをかき集め、豪勢な料理を用意し迎え入れようではないか!』

『きょっ、兄弟!!!!!』

 

 良かった! うちの太刀はアホじゃなかった! 本当に! 良かった!!!

 

『わー! 山伏くんすごい助かるよ! 前もって通販で用意したけれど新鮮な食材が何より美味しいもんね!』

『これは旬の山菜ばかりだね。素晴らしいよ』

 

 本丸二大シェフがべた褒めた。

 さすが山篭もりをちょくちょくしてるだけはある、どれもこれも山の駅で売り出せば人気を集めるものばかり。

 

 わあっ! 山伏さんえらい! すごい! てんさーい!

 という言葉が上がる度、手入れ部屋行きになった身内刀剣がしょっぱい気持ちになっていく。

 

『……さんじょうのなをけがしたおおばかものはしゅくせいしなければ』

 

 と気持ちを固める短刀がいれば、

 

『こんな日に! 手伝いもせず! 寝てるなんて何なんだよ国行ぃいいいいぃ!』

『保護者の名折れだよね』

 

 と本人悪くないのに罵られてるケースもあれば、

 

『再刃を理由に何でも有りの認識が見受けられます。僕たちでいち兄を管理していきましょう!』

『あるじさま、女の子ですし……せ、せくはら、禁止ですっ!』

『夜番も決めておこうか』

『夜は簀巻きにして庭に放り出すというのは?』

 

 と未然の事故防止に勝手に話を進める者たち。冤罪ですと言うには彼は血に濡れ過ぎたのだ。

 

『お小夜……わかっていますね?』

『……(こくり)』

 

 兄のバーサーカーっぷりを目の当たりにする破目になった弟刀は。

 打刀の兄とアイコンタクトで通じ合うと、意味深な頷きを返すのであった。




身内の不始末は僕が復讐するよ、主……

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