Daydream 0(デイドリーム・ゼロ)   作:皐月潤

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審神者レベル100を超えました。


第七話~審神者候補強奪部隊~

本丸side

 

 

 

『加州清光、大和守安定、和泉守兼定、堀川国広、長曽祢虎徹、残り一枠には陸奥守吉行を添えて』

『池田屋か』

『蛍丸、太郎太刀、次郎太刀、石切丸、残り二枠には3スロ大包平、大典太光世』

『うちの皆殺し要員じゃねぇの』

『鶴丸国永、髭切、亀甲貞宗、千子村正、にっかり青江、三日月宗近』

『事案ですぞ』

 

 おい、それは真剣なのか冗談なのかどっちなんだ。

 山姥切国広は真顔で言い合っている仲間たちに困惑している。

 

 審神者候補を誘拐救出するためにまず手をつけることになったのは、メンバー選抜。

 よく考えてほしい、何十振りと顕現されながら没個性は誰一人としていない刀剣男士だ。際立つキャラクター性と無限の組み合わせはバラエティー色豊かで、場合によっては現世から一軒家がまるっと消える。何せ人間への思い入れの深さもピンキリなのだから。

 

 ──主の家族は鬼でしょ? だったら斬っちゃえばいいよ。

 

 ホンワカ微笑みながら躊躇いゼロで言い切った髭切が良い例だ。

 弟はまだ周囲を気にする常識はあるが、『罪人は試し斬りするものだろう?』と刀を研いでいたから信用はならない。あいつら由来を言い訳に自由過ぎないか?

 

 名だたる名刀たちの天然なのかツッコミ待ちなのかわからない話し合いは真顔で進められていく。

 人間向けの常識がインストールされた初期刀五振りは『ズレてんな』と感想を抱くが、偶然にも審神者候補の初期刀だった加州清光が真っ先に殺意で満ち満ちてしまい、ツッコミ放棄。次いで陸奥守吉行もつられたように熱く血が滾りツッコミ放棄。時代を変えた幕末刀は血気盛んだから仕方ない。

 

『主の初期刀は俺。だーかーら、俺が出陣するのは当たり前』

 

 こんのすけから決められた人数枠は6。ちょうど一部隊だ。対してここの本丸男士は十倍は居る。狭き門に()じ込もうとそれぞれが好き勝手にプレゼンテーションを始めた。

 

『同じ打刀なのに初期刀固定ってズルくない?』

 

 ジトッと()めつけてくる大和守安定。

 陸奥守は朗らかに、加州は不敵に笑い、山姥切は布に隠れ、歌仙は菩薩の如く微笑み、蜂須賀は輝いた。だって真作だからね!

 

『知名度で言えば僕も負けていないと思うのですが、ね』

 

 侍らないスタイルの宗三左文字が小言を言った。流し目にぶつかり山姥切は布まんじゅうと化す。

 

『……いいな』

『ややっ、鳴狐も不満な様子! こういう時にはビシリと言ってやりましょうぞ! さあ! さあ!』

 

 鳴狐までもが参戦し、お供が(やかま)しい。

 

『むしろ初期刀を打刀にする必要性を感じないな』

 

 しゃらっと刀種制限に物申す鶯丸に、ハッとする大多数と舌打ちする打刀勢。

 

『面倒見の良さで言えば護衛も嫁入り同行もした短刀です!』

 

 毅然と立ち上がる短刀陣。

 打刀勢のような無様に内輪揉めなどしない。ここは勝利のために共同戦線を張るべし。

 

 遥かに頭のいい判断を下した見た目幼い者たちに、心に疚しい何人かが視線を()らす。

 違うんだ、別に仲間を蹴落とした上で我欲に走ろうとしたわけじゃない、ほら、あれ、あれだから、そう、あれな!

 

 目が泳ぎまくる保護者に凍てつく眼差しの短刀たち。

 しかし彼らも内心では『よっしゃ、このまま思考停止させて自分たちに利があるように持っていくぞ』とか考えちゃっている。

 

 ずっとずっと欲しかった、信じ合い助け合い想い合う関係。

 審神者候補自身も家族愛に飢えているだけに、期待値は振り切っている。

 その、迎えだ。

 今後を左右するかもしれない、大事な大事なお迎え。

 手段を選んでなどいられない。何としても彼女に自分自身を売り込む。

 

 信濃藤四郎は審神者の懐に入れろと思ってるし、平野前田は絶対護衛させろと思っている。博多は慣れぬ経理は任せんしゃい! と息巻いてるし、五虎退は自分の分身とも言える五匹の虎を見て口角を上げている。担当医という替えのきかない役を保証されてる薬研は視覚効果の高い白衣をあえて羽織ったまま今この場にいた。乱は少女的見た目を活かして女優する気満々だし、今剣も幼げな口調であざとく審神者を攻略する所存である。愛染や厚や後藤や貞ちゃんは遊んであげなきゃな! と初の妹の登場に浮かれ、不動行光は黙々と自作の甘酒を濃度濃い目に作っている。小夜と秋田はちょっとどうしようと思ったがブラック本丸出身は同じなので最終的に『まいっか』で済ませた。

 

 このままでは流れで全隊員が短刀というパナい状態に向かう段になって、『自分が娘を迎えに行けなくなるじゃないかふざけんなよ』と思った石切丸が待ったをかけた。

 

『まぁまぁ、ここは平等にいこう。全刀種一振りずつ。これならずるくもないんじゃないかな?』

『……っ!』

 

 ばっかフザけんなよ薙刀なんて一振りじゃねぇか短刀打刀太刀何人いると思ってやがるどこが平等だ!!!

 

 無言の集中砲火を受けてもその微笑みは揺るがない。大太刀枠は手段を選ばない石切丸に確定したので、三振りは既に傍観の(てい)だ。

 

『(短刀・脇差・打刀・太刀・大太刀・槍・薙刀……あっ、やっぱり枠に入れない刀種がいる)』

 

 指折り数えた物吉貞宗は黙った。

 これを言うと幸運どころか血の雨を呼ぶからである。




多分十話までには現世に行くと思うよ(白目

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