蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~   作:鳳慧罵亜

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顕現 ~ふたたび~

展開された迎撃機構から放たれる機銃掃射にミサイルの雨。それはたった一体の敵に向けるには、いささか過ぎているように見える。

 

だが、その全てがその一体の敵にとっては、無意味と化すのだ。

 

―――いま、いまのいままで咆哮を続けていた機銃は、黒い球体に包まれる。それは敵、フェストゥムの反撃なのか、はたまた祝福なのか。

 

だがそれは確実に島の防衛機構を文字通り、無に還していくのだ。

ワームスフィアー現象という一定の範囲の空間を0次元へねじ切る、ブラックホールに近いが決定的に異なる現象を、フェストゥムは用いる。それが件にとって祝福であれ、攻撃であれ。

 

「きゃああ!!」

 

間近でフェストゥムのワームスフィアーが出現したカノンたちは悲鳴を上げる。幸い、彼女たちからは少し遠くに迎撃機構があったため、巻き込まれることはなかった。

 

そして彼女たちを見向きもせずに、フェストゥムは島へ進行して行く。その神々しさは、この世の全てを無に還す祝福である。

 

――――

 

アルヴィス内部、巨人が佇むブルグと呼ばれる場に一人の少年はいた。名を真壁一騎。彼の目の前に佇む一体の巨人。ファフナー・マークザイン。一騎は何の躊躇いも無く、戦いに赴く。大切な物を守るために……

 

「うわぁああっ、ッく!」

 

ファフナーを動かすには、ファフナーと一体化しなければならない。ファフナーの搭乗の際にニーベルングの指環という、いわば操縦桿に指を通すのだが、それとは別に大腿部と両肩部に接続機器が装着される。だが、その接続器には針があり、装着時に同化するように刺さるため、激痛を伴う。

 

その痛みに耐えてまでも、彼は戦うのだ。誰に言われるまでも無く。自分の意思で、守りたい物を守るために。

 

「マークザイン。出撃スタンバイ!」

 

「ッ!?一騎……ッ」

 

CDCで全体の指揮を執っている真壁史彦は、その名を聞いた瞬間、苦しそうな顔をする。

当然だろう。今までの出来事をなしにしても、一騎は彼の息子だ。ただひとりの我が子を戦場にたたせるというのは、誰だって苦しもののはずだろう。

 

「敵、竜宮島本島に進行!」

 

だが、咲良の母、要澄美の言葉を受け、意を決した表情で「マークザイン。出撃!」と命を下した。

 

――――

 

「これは?」

 

ファフナーブルグへ到着したカノンの第一声はそれだった。今まで空だった筈の13番ナイトヘーレ。

 

そこに今まで見たことの無い、紅いファフナーが佇んでいるのだ。

 

形状も、今まで見てきたノートゥングモデルのどの機体とも似ておらず、あえて挙げるならばレイのマークヌルに似ている。相違点は大腿部のスラスターと、通常のマニュピレータがある右腕、そして深紅のカラーリングである。

 

―――新型機なのか?

 

カノンは疑問に思ったが、今はそれ所ではない。すぐに気持ちを切り替え、自分の持ち場に走る。その紅いファフナーが、誰の物になるかを今の彼女は知る由もなかった。

 

――――

 

島へ迫るフェストゥム。その眼前の海面に、一条の白が奔る。

 

水飛沫の音と共に「それ」は姿を現した。白銀のカラーに身を包んだそれはファフナー、マークザイン。それを繰る一騎は怒りに声を荒げた。

 

「なんで……お前達なんだ」

 

――――なぜ、お前達が来た。なんで……

 

「何で総士じゃない!!」

 

ファフナーを走らせる。がその直後、マークザインをワームスフィアーが包む。全てを無に還す祝福。だが、それも、龍になった巨人には、通用しなかった。

 

ワームスフィアーが消えたそこには、ルガーランスを構えるマークザインが在った。ルガーランスとマークザインの手を、緑色に輝く結晶が包む。それはフェストゥムのワームスフィアーとは違う祝福。同化と同じ現象だった。

           

ルガーランスの砲門が開く。直後、通常のルガーランスでは有得ないほどのパワーを持つ飛翔体が放たれる。

 

それは、正しく閃光となり、フェストゥムを穿つ。ファフナーは人が唯一手に入れたフェストゥムへの、対抗手段。島の迎撃機構では、掠りさえしなかった攻撃が届く。倒すことができる。

 

ルガーランスの砲撃が直撃したフェストゥムに変化がおきた。今までのっぺらぼうの様に何も無かった頭部のような部分に、人間の、まるで苦悶の表情が現われた。だが、一騎は気づくはずも無く、フェストゥムヘ突進する。

 

フェストゥムはマークザインの腕に4枚の板のような物を出現させる。それは、ファフナーの腕をねじり、切断した。

 

切断部から緋い液体が流れる。機体に内蔵されている衝撃吸収剤であるそれは、さながら腕から流れ落ちる流血のようであった。

 

「うぐああ!ッああああ!!」

 

その痛みを堪え、一騎は反撃に出る。マークザインのブースターから、凄まじいパワーのジェットが噴射され、圧倒的な機動力を持って、フェストゥムに肉薄する。その速度は、フェストゥムに攻撃する隙さえ与えずに、ルガーランスを突き立てた。

 

「っあああああ!!」

 

フェストゥム倒れ、海へ沈む。一騎は止めを刺すためにルガーランスの砲門を展開こうとして―――、動きを止めた。

 

「―――――」

 

フェストゥムが何かをしゃべったのである。声は無いが、苦しみの表情の口は確かに何かを発している。

それに一騎は気を取られた。

 

フェストゥムはその姿を変えた。一騎は後ろに下がり身構える。フェストゥムは、瞬く間にその形を変えていき、紅く、変色していく。

 

マークザインは突然、謎のフェストゥムに吹き飛ばされ、防壁に追突する。一騎は「フェストゥム……なのか?」と疑問を口にする。当然だ、フェストゥムはその全てが、等しく金色なのだ。形態が違う物もいるがいくら、種類があり、姿かたちを変えようとも。ただ2つの例外を除いては、全て同じ金色をしているのだから。

 

紅にフェストゥムはさらに驚くべき行動をした。腕を結晶が包み、砕ける。その腕にあるものは、ライフルだった。

 

人類が使う武器を、フェストゥムは使ったのだ。そのライフルから放たれる銃弾は無慈悲にマークザインを貫く。

弾丸が直撃したマークザインは火に包まれた。だが、それだけにはとどまらなかった。なんと、搭乗者の一騎に緑色の結晶が現れだしたのだ。

 

――――

 

「人類の兵器を使った……?」

 

真壁史彦はフェストゥムが取った行動を信じられずに立ち上がり、今の言葉を発した。

 

「根本的に、異なる化学反応です!」

 

「パイロットに、急速な同化現象が!?」

 

伝わってくる報告を聞いた史彦は、「後続のパイロット、発信急げ!」と命令を下す。

 

「ッ!?ゴホッゴホッ!?」

 

直後史彦は口を押さえ、激しく咳き込む。離した自身の掌を見た史彦は。目の前の光景に大きく眼を見開いた。

―――その手は、緋色の液体……血に濡れていた。




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