蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~   作:鳳慧罵亜

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久しぶりにここまでの速度で投稿ができた。

感想欄にも色々意見が来てくれてるようで嬉しい限りです。
変身できなくてごめんなさい。

レイ君はやはり島に残ったほうがいいのか……

ふむ。その方向で固めてみようかな?


蒼穹 ~そら~

竜宮島の戦いは激化の一途を辿っていた。

 

今や島のほぼ全体が戦場と化しており、辛うじて居住区のある一体は激しい戦闘が行われてはいないが、これ以上戦闘が激しさを増すと、どうなるかは判らない。

 

ただ、時間的には既に遊撃部隊が戦闘に入った頃だ。ちょうどその頃から、僅かだが敵の動きも鈍ってきている。この機を逃すわけには行かないと防衛部隊の攻撃は一層強く展開されていたのだった。

 

だが、それも通常のフェストゥムとの戦闘での話である。敵には、かつて島を絶望に陥れた存在が猛威を振るい始めたのだ。

 

「う、うわあああああああ!!」

 

雄叫びとも、悲鳴とも取れない叫びを上げた来栖操。その声に呼応するようにマークニヒトは空中に静止したまま両手を掲げた。

瞬間、フェストゥムを攻撃していた島の迎撃機構が瞬く間のうちに、黒い球体に飲み込まれた。

 

次々と迎撃機構を飲み込むように出現するワームスフィア。その球体が消滅すると、そこには何もなかったかのように綺麗に抉れた地表と、コンクリート壁がのこされていた。

 

それはほんの数秒にも満たない時間で、島の迎撃機構が多数が破壊された。島のCDCでも、その驚異は捉えていた。

 

「くそったれがぁ、レイ!ニヒトをどうにかしろ!!」

 

真壁史彦の代わりに島に残り防衛部隊の全体指揮を執る溝口恭介。彼は一瞬にして消滅した迎撃機構のシグナルを見るやいなや、通信回線を開き、ファフナー部隊の隊長に指示を飛ばした。

 

マークニヒトは、真っ先に始末するべき。それを正確に理解しての指示だった。

が、そこには1つ落とし穴が存在している。

 

『解っています!ですがあれは1人2人でどうにかできる相手では―――』

 

「だったら全員で叩け!その間はなんとかこっちで持たせてやる!!」

 

『――――』

 

その穴を言外に指摘するレイだったが、溝口の返答は無茶苦茶なものだった。マークニヒトを撃破するまでの間、ほかのフェストゥムは島の迎撃システムだけで防衛する。そんなことは簡単にできるようなことではない。

 

レイはそれを誰より理解している。でも同時に、それしか打つ手がないことも理解していて―――

 

『了解しました。なんとか持たせてください……っ』

 

唇を噛み、憎憎しげにそう答えたのだった。無論、憎いのは敵を容易く倒すことのできない己自身。

そして、それを理解していながらもこうして己に任せてくれる人への申し訳なさ。

 

「任せろ!オメエさん等がやってる間に、こっちで敵を全滅させてやっからよー」

 

それを理解している溝口は、軽口で返す。自分の行っていることが無茶だというのは自分が一番分かっている。

だが、時には無茶でもやらなくては道は開けない。そして、こうしてやることで、同じく無茶を負けせてしまう彼への重荷を少しでも軽くしてやろうとしたのだ。

溝口はレイにはない人生という経験値があるからこそ、彼に対してこういう心遣いができるのだた。

 

『……はい。ご武運を』

 

少しだけ、苦笑いを含んだ返事を最後に通信が切れた。それを聞き届けた溝口は早速無茶を罷り通らせる為に指示を飛ばす。

 

「デナイアル発射準備!1番から10番まで装填次第発射しろ!目標は上空エウロス型、俺様特性の溝口カレーミサイルを食らえってんだ!!」

 

「了解、デナイアル、発射します!」

 

CDCの、全力の時間稼ぎが始まった。

 

――――

 

一方、ファフナー部隊隊長、レイ・ベルリオーズは眼前に表示されるディスプレイを睨みつけていた。

 

「マークジーベン、目標に攻撃開始!ポイントS-4-6まで誘導!マークフィアーは道中のフェストゥムを駆逐しつつ同ポイントへ急行、目標を視認しだい攻撃開始!マークドライツェンはポイントS-4-5へ急げ、目標に奇襲をかけろ!マークフュンフはドライツェンをカバー!」

 

竜宮島のファフナーには、ジークフリートシステムが、分割されて内蔵されている。機体の搭乗者全員で意識をクロッシングさせることで、強力な耐心防壁を構築している。そのなかでもマークヌルに内蔵されているシステムは、他の機体よりも機能が充実していた。

 

クロッシングだけではなく各機体に対する機能命令権、クロッシングの接続権限など、通常のジークフリート・システムと遜色ない機能を持たせている。

ファフナー部隊を指揮する隊長であるが故に多くの機能と、部隊員全員の命を彼は背負っていると言っても過言ではない。

 

指示を飛ばしてすぐ、レイもポイントへ急ぐ。眼前を塞ぐようにして現れた3体のエウロス型。1体がライフルを構え、もう1体がミサイルを用意していた。

 

「邪魔するなよ土塊共!」

 

すぐさま右腕の「シヴァ」を撃つ。巨大な光柱がライフルを構えたいたモノと、ミサイルを発射しようとしていたモノを消し去る。が、3体目が上へ飛ぶように回避し、だが、レイは回避先を読んでいた。

 

「消えろおぁ!!」

 

上に飛び、マークヌルの真上でライフルを構えるエウロス型。だが、標準をつけた時にはマークヌルは距離を詰め、右腕の3本爪を振りかざしていた。

銃口がマズルフラッシュを吹くも、身体を捻るようにマークヌルは銃弾を回避し、そのままエウロス型を切り裂く。

 

黒い球体に飲まれ、消滅するエウロス型に見向きもせずに、着地し再びポイントへ急ぐレイ。

ディスプレイに表示されている情報を見ると、既にマークジーベンが、マークニヒトを指定ポイントへ誘導していた。

 

が、その直後にマークジーベンの高度が急速に低下していく。機体にも損傷を示す表示が出たため、すぐに対処する。

 

「マークジーベン!ペインブロック作動。左腕部接続強制解除!」

 

視界の隅に表示されたマークジーベン。その左腕部分が正常な水色の表示から、破損を受けた赤へ、そして接続解除の黒へと変更される。

直後に、マークニヒトの位置が大きくブレ、地表に墜落するのが見えた。

 

そして、その位置の近くに、ポイントへ到達していたマークドライツェンの姿がある。

 

『マークヌル!』

 

どうやら彼女もマークニヒトが墜落したのを見たようだ。レイの隣に赤いカノンの影が現れる。彼女を見てレイは頷いた。

 

「マークドライツェン、マークニヒトに奇襲しろ!」

 

『任せろ!』

 

レイの隣にいたカノンの影が消えマークニヒトのとなりの地点にいたマークドライツェンの反応が移動する。

ちょうど挟み込むような形で、マークフィアーも移動中だった。これならそう時間もかからず挟み撃ちにできるだろう。

カノンの少し後ろには、マークフュンフも来ている。

 

チェックだ―――

 

そう思った直後、マークニヒトの周囲で異常な反応が現れた。

 

「何!?」

 

なんと、マークニヒトの周囲におびただしい数のワームスフィアが出現したのだ。

レイは目の前に笑われたワームをジャンプすることで回避、移動しながら周囲を見渡す。

このワームスフィアは無差別に出現しており、仲間であるはずのほかのフェストゥムを巻き込んでいる。

 

視界の隅で、こちらにライフルを向けていたエウロス型がそのワームに飲み込まれ、消滅していった。

そして、ディスプレイには、マークドライツェンがマークニヒトへ接触していた。

 

自らももうすぐ、指定ポイントに到着する。

 

マークヌルのブースター出力を増強し、急ぎ現場へ急行した。だが、マークニヒトへ接触していたマークドライツェンが大きくマークニヒトから離れ、ドライツェンの表示には、左腕部、頭部に損傷を示す赤い表示がされていた。

 

「っ―――!!」

 

丘を乗り越え、マークニヒトを視認。マークニヒトは機体と同じ紫暗のルガーランスを構え、プラズマの砲撃を行っている。

そこには、マークドライツェンを庇うようにイージスを展開げ、プラズマの砲撃から耐えるマークフュンフがいた。

 

マークドライツェンのカバーを指示したのが功を奏したようだ。

視界のマークドライツェンを拡大する。左腕部が大きく凹み、頭部がひしゃげてしまっている。この状態では視界がおぼつかず、もはやこれ以上の戦闘は不可能だろう。

 

マークニヒトのルガーランスもかなりの出力を持っているようで、マークフュンフがプラズマを受けるとき、僅かに後退しかけている。

現在位置関係は僕はマークニヒトの左後ろから接近して―――

 

「―――っ」

 

馬鹿か僕は、呑気に状況を分析している場合ではないだろう。一刻も早くやつを排除しなければならないというのに。

いつマークフュンフのイージスが崩されるか、それとも後ろからフェストゥムに撃たれるか。

どちらにせよ、今すぐ、やつを破壊する。

 

破壊しなければならない。

 

 

 

 

さもなくば―――

 

 

 

 

「――――――ぁ」

 

 

――――カノンが、死ぬんだから。

 

 

早く

 

疾く

 

速く

 

はやく

 

ハヤク―――

 

 

 

アレを、ケセ!!

 

 

「―――ああああああああああああああ!!!」

 

 

右腕をマークニヒトに向け、発射。

直前で気づいたようだが、もう遅い。完全に補足された一撃はマークに人の全身を焼き尽す。

 

「シヴァ」の一撃は直撃した。このまま一気に距離を詰め畳み掛ける。

照射を維持したまま背部ブースタの出力をさらに引き上げる。距離は瞬く間に詰められ、照射が終わった頃には既に腕を伸ばせば障れる距離にまで近づいていた。

 

「はああああああ!!」

 

そのまま右腕の爪を振りかざす。マークニヒトは後ずさりしながら腕で防御の姿勢をとるが、そのまま振り下ろす。

 

ギィン、と重い金属音が響き、マークニヒトの装甲から火花が散る。流石にザルヴァートルモデル。フェストゥムに取り込まれた経緯もあってか相当頑丈だ。

傷は浅く、「シヴァ」で全身を灼いた傷と一緒に数秒で回復してしまう。

 

だが、十分に恐怖感は植え付けたようで、今度は飛んで逃げようとした。

 

だが、許すとでも?

 

「馬鹿が―――」

 

すぐさま左腕のレージングカッターを射出。機体をがんじがらめにして、地面に引き寄せ、叩きつけた。

 

もし、この機体に乗っていた人物が機体の性能をきちんと把握し、

そこそこの経験を積んでいたなら、逆にこっちが空中に引っ張り上げられて、地面に叩きつけられていただろう。

それは大きく損傷したマークドライツェンを見れば明らかだ。機体そのものの駆動モーターとアクチュエーターの出力がそもそも違うのだから。

 

が、相手は碌な経験もない素人だ。このまま潰す。

 

叩きつけてすぐに機体の腹部を踏みつける。素人が相手なら、これだけで思考能力を大きく奪える。

そして、マークニヒトへ向けて無線を開く。本来ノートゥングモデルに無線はない。だが、この機体は人類軍によって製造された番外機。故に0(ヌル)

 

竜宮島のノートゥングモデルとは結構差異が存在する。この無線機能もその一つだ。

 

「きこえるかい?来栖操」

 

繋がった無線で喋る。その声は自分の予想以上に冷たい声だった。

 

 

――――

 

橙色のレーザーがマークニヒトに襲いかかる。マークニヒトは直前で気づき、躱そうとしたがもはや遅い。レーザーの光はマークニヒトを飲み込み、その身を余さず灼く。

 

 

「うわあああああ!!」

 

 

マークニヒトを駆る来栖操は2度目となるプラズマに全身を焼かれる感覚を味わう。

全身の装甲が焦げ、カメラアイが乱れる。

そもそも、全身をくまなく焼かれるというのは想像を絶する苦痛にほかならない。兵士でもない彼にとって、その苦痛は判断能力を彼から奪うには十分すぎることだった。

 

「――――ひっ」

 

視界から橙色の光が消えた時には、既に黒いファフナーが眼前に迫っている。

逃げなくては、と思考する前に黒いファフナーの右腕が、こちらに振り下ろされようとしていた。

 

「ぐあああああ!」

 

咄嗟に両腕で防御するものの、爪に腕を切り裂かれるのは焼くのとは違う痛みを覚える。

傷自体は浅く、先ほどのレーザーで負った損傷もまとめて、数秒で修復するが黒いファフナーは止まらない。

 

飛翔するためにウイングを広げるが読まれていたのか、左腕から発射されたワイヤーで絡め取られ、地面に叩きつけられる。

地面が機体の重量と叩きつけられた衝撃で大きく陥没する。

 

「っはあ!」

 

 

背中を強打する痛みで大きく息を吐き出した。

 

「なんなの―――ぐふっ!」

 

生ぬるいとばかりに今度は足で腹部を踏みつけられる。叩きつけられたときにも息を吐き出したが、踏みつけられて、またもや大きく息を吐き出した。

そのため、一瞬呼吸ができなくなりさらに思考がめちゃくちゃになってしまう。

 

『きこえるかい?来栖操』

 

聞こえてきたのは、少年の声。自分よりもやや高く、それでいて背筋が凍りつくような底冷えする音だった。

 

「ひっ―――」

 

来栖は、今までに感じたことのない感情に包まれた。

背筋が凍え、全身が微かに震える。頭から血の気が引き、奥歯がカタカタと音がする。

 

そして、通信が開いたことで、黒いファフナーの搭乗者の心が見えた。

 

 

 

殺意。

 

 

 

憎悪。

 

 

 

その感情は、ミールによって学ばされたものよりも、遥かに鋭く、痛々しいものだった。

その理由を来栖操は知らない。ミールが教えた憎しみ。その根源は北極ミールの存在が、マークニヒトの起動中に機体を乗っ取られた刈谷由紀恵が発した行き場のないものであったのに対し、彼のもは明確に、一個へ向けて発せられた、明確な方向のある憎悪。

 

個という概念の薄い現在のミールやフェストゥムの在り方ではどうあっても学ぶことのできない感情であった。

故に、来栖が今感じている感情は必然であるといえよう。目の前に理解できないものが存在し、それが自らを脅かすとなれば、生じる感情は限られてくる。

 

それは―――

 

『へぇ、フェストゥムも恐怖って感情はあるんだ?』

 

興味深そうなニュアンスで聞こえるが、その声色は冷えて平坦。それが来栖の感情を加速させた。

 

―――恐怖?これが?

 

これが、怖いって感情なの?

 

こ、わい

 

怖い

 

これが、恐怖―――

 

 

「あぁ……あああ……」

 

『まあいいや。消えろ』

 

はじめて学んだ感情に、頭が支配されるなか、無情に告げられた宣告。そして、黒いファフナーの右腕が向けられた。

その機械維持掛けの掌。中央に空いた窪みから橙色の光が漏れ、同色のプラズマが奔る。

 

それが、さっき全身を焼いた光だと理解して、恐怖が更に加速する。右腕に握る武器を振るうことさえ、今の彼には考えが及ばなかった。

ただ、怖い。怖い。怖い。その感情がかれを支配している。

 

「やめ―――」

 

 

『失せろ』

 

 

光が奔る―――

 

 

――――同時に、マークニヒトから黒い球体が広がり、マークニヒトとマークヌルを包み込んだ。

 

2機を包み込んだ黒い球体は、その色を徐々に橙色へと変えて行き、プラズマのようなものを全体から奔らせる。

そして、数瞬の後に、弾けとんだ。

 

「うぁあああああああああ!!!」

 

「ぐううううううう!!!」

 

 

橙色となったワームスフィアがはじけ飛ぶと同時、2機のファフナーもそれぞれ反対側へ飛ばされた。あのワームしフィアの中で何が起きたのか。

 

2機とも全身の装甲が溶解し内部の液体が漏出しており、マークヌルに至っては右腕がかろうじで原形を保っている体であり、特徴的な3本の爪が綺麗に消失していた。

 

「はぁ、はぁ、ひっ」

 

来栖は、マークヌルを視認すると、学んだばかりの恐怖に従い、急いでこの場を離れようとする。咄嗟に繰り出したワームスフィアが功を奏したものの、いつまたあの機体が襲って来るかわからない。止めを刺すのも嫌だ。

 

だって怖いのだ。怖いものには近づかない。女性がゴキブリを簡単につぶせるのにも逃げ回るのと同じ理屈だろう。

いかに簡単に排除できるものでも、怖いものは怖いのだ。

 

それに、もう動き出してるし。

 

動き出した直後、今度は後ろから青白い閃光が襲いかかった。

 

「―――っ」

 

焦げ茶色のファフナーがこちらに接近していた。

 

 




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来栖……こりゃトラウマだな、絶対。

今まで書いていそうで書いてなかったプッツンレイ君
あとちょこっと出てきた指揮官としてのレイ君


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