蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~   作:鳳慧罵亜

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再動 ~こうよう~

「っぐう……!!」

 

咲良は、山にもたれかかるような形で、デュランダルを撃っていた。先ほど、フェストゥムの攻撃で、ファフナーに飛行能力を与えるリンドブルムが破壊され、墜落したのだ。その証拠に、彼女が駆るマークドライから、少し離れたところに炎上しているリンドブルムの残骸がある。

 

墜落してから、どれ位経っただろうか。もう何体のフェストゥムを倒したのだろう。恐らく自分が思っているよりも倒せていない気がする。自分の周りには、大量の薬莢が散らばっていた。だが、元々標準装備であるこの拳銃は威力が心許ない。それに、どれくらいの時間が立ったかは定かでは無いが、そろそろ弾薬が尽きるだろう。

 

間もなくして、その時は訪れた。

 

「―――くっ、弾切れ……!」

 

もう何回引き金を引いても、カチッ、カチッ、と無機質な音がなるだけになってしまった。今からになったのが最後の弾倉だったのは、先ほど確認している。さらに、側面から一体のフェストゥムが、近寄ってきた。2年前の彼女なら、死を恐れて引くことはせず、果敢に立ち向かっていただろう。だが、今の彼女は、生きる明確な理由がある。アイツをこれ以上悲しませたくは無い。あの向こう見ずで先輩だからと意地を張る、デリカシーがないくせにいっちょ前にかっこつけ用とするバカを。

 

「―――キャアアアア!!」

 

だが、今の彼女は昔と違い虚弱体質で調子が良くない日は、歩くことすらままならないのだ。逆に体調の優れている日は、ある程度の歩行は可能であった。

 

そして、今現在彼女のコンディションは、幸運にも良好だった。

オレンジカラーの巨人は、立ち上がり一歩を踏み出した。このままなんとか逃げれば、誰かと合流は可能だ。そうすれば、少なくともこの状況は少しは好転するはず。

 

だが、二歩目を踏み出そうとしたところで、彼女に不運が訪れたのだ。

 

バキッという鉄板が割れたような、鈍く、多く直人が彼女に耳に響いた。2歩目を踏み出そうとした、右足の大腿部。

墜落の衝撃で罅が入っていたのか、その右足が折れたのだ。

 

鈍い音を立て、崩れ落ちるマークドライ。足が折れた激痛と共に、身全身に襲う不快な感触。彼女を襲っていたフェストゥム。スカラベJ型種が触手を出し、マークドライを包んだのだ。

 

「くそっ……くそおお!!」

 

身体を覆う触手から、脱出しようにも、身体が言うことを利かない。背部のスラスターを蒸かすが、水面を走ることは出来ても、触手に覆われた機体を起こすほどの出力は無かった。

 

あとはもう、ただ同化されるのを待つのみ、まさに万事休す。諦めない。諦められるはずがない。それでも、この状況はもはやどうしようもない。咲良の脳裏に浮かんだあの2年の光景が走馬灯のように走る。

 

 

青白い閃光が奔ったのはそのときだった。

 

 

一筋の閃光がフェストゥムを穿つ。巨大な光に撃ち抜かれたフェストゥムは、一瞬にして消滅し、あたりを覆っていた触手も、

まるで、液体が沸騰するかのように、ワームスフィアーの黒い球体に呑まれ、消滅していった。

 

金色、黒の順に色が変化し、消えてゆく。底に残ったのは大地の茶色と、オレンジ色の巨人だった。その巨人、マークドライを駆る、要咲良の眼に映ったのは、一体の影。

 

燃え盛る大地の中央に立つ、一体の巨人。それは剣司の駆るマークアハトではなく、それと同じ型のファフナー。

両肩のハードポイントには、大型レーザー砲『メドゥーサ』が装備されている。

 

内部に酸化剤タンクと燃料タンクがあり、燃焼ガスからレーザーを取り出す。最大出力での威力は、

マークヌルの『シヴァ』に匹敵するほどのものだ。

 

咲良は、機体コードの検索を開始。結果はすぐに出てきた。

 

―――mk-VIER―――

 

「マーク、フィアー……っ!!」

 

彼女は息を呑んだ。表示された機体コードは、かつて失われたはずの4番機。マークフィアー。そして、彼女はマークフィアーに乗っていた人物は一人しか知らない。

 

「……こうよう……!!」

 

彼女の声は震えていたが、しっかりとその人物の名を顕した。

 

――――

 

島の最西端。山の中腹にある、伸びた崖がある。そこにその少女はいた。年相応なあどけない顔をしており、以前は、周りに木々が生い茂っていたが、度重なる戦闘で、木々は枯れ、殺風景な景色が広がるその崖には不相応なほど純粋な目をしていた。

 

その後ろには、左腕を押さえた、男が立っている。服の上からは見えないが腕から伝い、その手には血が流れ、雫となり赤茶色の地面を染める。

 

「彼女こそ……我等の側で生まれた「可能性」だ……!お互いの希望だ!」

 

彼の目には、確かな光が宿り、聞こえないであろう自分の言葉を、それでも相手に伝えるために、その口を開いた。

 

「フェストゥム!!」

 

空を見上げる少女。こちら側とあちら側。その存在をかけた対話が、始まった。

 

――――

 

「く……うあああああ!」

 

カノンは、消えそうな意識を、かろうじて繋ぎ止めていた。だが、その瞬間も、彼女を襲う同化現象。ゆっくりと、

その数を増やしていく結晶は、彼女の体を飲み込み掛けていた。だが、彼女は諦めなかった。マインブレードを握る手が離れてゆく。

だが、それは彼女が力尽きたことを意味するのではない。マインブレードから離れた左手は、握りこぶしを作る。そして、ファフナーの手を保護するようにナックルガードが降りた。

 

「ぬうああああああああ!!」

 

力を振り絞り、放たれた拳。それはフェストゥムに突き刺さったマインブレードに容赦なく振り下ろされた。

マインブレードはより深くフェストゥムの中に突き刺さる。それは、後僅か、コアに届かなかった刃を届かせるのには、十分すぎた。

フェストゥムは、悲鳴を上げるかのように、その体を振り上げる。ちょうどその体にのっかかる形だったカノンのマークドライツェンは、振り落とされた。

 

「ぐっ……かはぁっ」

 

地面に叩き付けられた衝撃は思いのほか強く、息を吐き出したカノン。だが、苦痛に歪んだその顔には歪だが、確かな笑みが刻まれていた。

その視線の先、体を振り上げたフェストゥムは、漆黒の球体に体を飲まれ消滅する。

 

「やった……!」

 

「カノン先輩!!」

 

そこへ、剣司の指示で、カノンのところへと駆けつけた広登が、近寄ってきた。

 

「大丈夫すか!」

 

「ああ、なんとかな」

 

フェストゥムから開放されたカノンは一先ず安堵の息を漏らす。これ以上同化現象が進行することは無い。あとは

この体でどこまで耐えるか、そう思ったとき、広登が声を上げた。

 

「カノン先輩!!」

 

広登が声をあげた先には、深紅のフェストゥム―――エウロス型。

既に、銃を構え、此方を撃たんとしていた。カノンは、銃撃をよけるために動こうとするが、

 

「くっ!メインブースタがいかれただと!?」

 

マークドライツェンの背部に搭載している2基の大型ブースタが、火花を奔らせていた。

広登は咄嗟にイージスを展開。カノンの前へ立ったが、不幸は連鎖する。

 

「後ろにも―――」

 

撃ち出された銃弾は、無情にもマークフュンフを貫く。そう、後ろにもエウロス型がいたのだ。

 

「うわあああああああ!!」

 

炎を上げ、崩れ落ちるマークフュンフ。カノンは、何とか動こうとするが両足と補助ブースタだけでは、まともに行動できない。

 

「くそおお!!」

 

エウロス型が、もう一度カノンへ銃身を向けた―――。

 

 

燈、一閃

 

 

燈色の閃光が眼前のエウロス型を覆い尽くす。直後に、エウロス型のいた場所から黒い球体が出現し、消滅した。

閃光は、そのままマークドライツェンの上を通過し、背後のエウロス型をなぎ払い、消滅させた。

 

プラズマの奔流を纏う燈色のレーザー兵器。それを持つものは、カノンは一機しか知らなかった。

 

「マークヌルの『シヴァ』……まさか!!」

 

「そのまさか、さ。カノン」

 

脳裏に響く声。そして、機体のクロッシング状態を示す部分。複数のファフナーの番号が写っているモニターに、また一体のファフナーの番号が追加された。

 

mk-NULL

 

目頭が熱くなる。鼓動が早くなる。いままで、どれほどその声を聞きたかったか。どれほど名前を呼んでほしかったか。

 

どれほど、その存在に甘えたかったか。

 

カノンの前に降り立った漆黒の巨人。その右腕は、アンバランスな大きさの、まるで猛禽類のような3本爪を有する。

 

万象すべてを破壊する機械仕掛けの腕をもった。機体コード「マークヌル」搭乗者は

 

「いつもの重役出勤か……レイ」

 

「重役だからね。まあ、今回はちょっと遅すぎたかな」

 

レイ・ベルリオーズ。戦線復帰




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