蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~ 作:鳳慧罵亜
アルヴィスの最深部、ワルキューレの岩戸。此処には、島のコアが眠っている。その部屋で、遠見千鶴率いる数名のスタッフが、
早急にコアを避難させるための作業をしている。
「コアの同期!急いで!」
千鶴が指示を飛ばし、周りのスタッフは、岩との基部に機材を繋げ、コアを避難させようとする。だが直後、壁の崩れる轟音と共に、
現れた紫闇の腕が、ワルキューレの岩戸を?む。
?まれた岩戸は、ピシッ、という音が数回なり、入った罅が広がっているのか、流れ出た深紅の液体が千鶴に降りかかる。
「ああああ!」
掛った液体の勢いで、その場に千鶴は崩れ落ちる。
マークニヒトを駆る来栖の両手、ファフナーと人間を繋ぐニーベルリングから、生えていた結晶からさらにまた結晶が生えてきていた。
その結晶と共に、彼に入り込む1つの感情。
「これが憎しみ……。これが……」
岩戸を?む手に更なる力が加わる。流れ出る赤い液体は、さらにその量を増し、もはや何時砕け散るのかもわからなかった。
「やめて……」
彼女は、叫ぶことしか出来ない自分に歯噛みする。それでも、自分には叫ぶことしか出来ないのだと、わかっていた。そんな自分を憎くすら思う。
その感情も、来栖の中に流れ込んでいるのだろうか。
「おねがいやめて!!」
その願いが届いたのか、間一髪で、壁が再び崩壊し、今度は白銀の腕が紫闇の腕をつかむ。
普\ウルドの泉では、コアを奪おうとするマークニヒトの隣に、それを阻止せんとするマークザインがいた。
壁に入れた左手の反対、マークザインの右手には、ルガーランスが握られている。
「なんで『それ』を選ぶ……!痛みばかり増やす神様に、何で逆らわない!!」
岩戸をつかんだマークニヒトの手をマークザインが引き剥がしてゆく。レルキューレの岩戸から、完全に二つの腕が引き抜かれ、白と黒。
対となる巨人は向かい合う。
「……」
一騎の声を聞いた来栖は、ただ顔を背け、眼を瞑る事しかしなかった。
いたるところに、罅が入り、赤い液体が流れ出て、何時完全に砕けてもおかしくない岩戸。それをかばうように罅を抑え、少しでも
破損を防ごうと千鶴は、動いた。
「損傷箇所をふさいで!」
彼女は、唖然とするスタッフに指示を飛ばす。
「はやく!!!」
――――
銃口から放たれる弾丸の雨は、フェストゥムに吸い寄せられるように飛ぶ。金色の身体は、弾丸が当たった部分から黒く変色し、やがて鉄屑のように
バラバラに砕け散っていった。崩れ去り、爆発するようなワームスフィアに呑まれ消滅していったフェストゥムの奥に、見えたのは、深緑の巨人。
剣司が駆るマークアハトだ。右腕が根元から切断され、左手に持つライフル、「ガルム-44」は最早弾切れを起こしたのか、いくら引き金を引いても、
沈黙していた。
マークアハトに広登の駆るマークフュンフが駆け寄る。
「剣司先輩!……!?」
駆け寄ってきた広登に剣司は左手を差し出す。広登は自身の手を前に出した。マークフュンフの手の上で開かれたマークアハトの手。広登は、
手の中に何かが乗った感触がした。
マークアハトの手が離れる。広登の眼に映ったのは、ファフナーのコアブロック。
センサーアイの映像を拡大し、内部をファフナーのネットワークを通じ視認する。其処には西尾里奈がいた。気絶しているようだが、命に別状はないだろう。
剣司が、息を切らしながらも、広登に指示を飛ばす。
「絶対放すなよ……!……カノンを支援、それと、機体命で呼べっつたろ……!」
「剣司先輩だって……っていうか、先輩は!?」
剣司は、不適に笑んだ。
「こっちの『仕事』が、終わってねえんだよぉおおおおおお!!」
機体を持ち上げ、左手には標準装備の拳銃『デュランダル』を持ち、フェストゥムの大群に応戦する。その姿は、雄雄しく、逞しさを感じさせるものだった。
「いけええええ!!」
剣司の声が広登を動かす。
「仲間を『護れ』ええええええええええ!!!!」
それが剣司が広登に託した彼の役目。かつて、その紫の機体を駆り、多くの仲間を護った少年が居た。広登に、彼と同じことが出来るとは言えない。
でも、『絶対の盾』を持つ巨人を駆ると決めたのは、広登なのだ。なら、その盾で、仲間を護って欲しい。それが、剣司が、彼に託した言葉だった。
広登は、彼に背を向け走り去る。仲間をその力の限り、護る為。振り返ることはしなかった。剣司もまた、振り返らなかったがその口元には確かな笑みがあった。
――――
マークドライツェンは、島を侵食するフェストゥムに刃を突きたてたまま、動けずに居た。
深紅の巨人に搭乗する少女は激しく息をつく。そして身体は徐々に蝕まれたていく。
「同化、現象……」
体から『生える』美しい緑色の結晶は、彼女の体を飲み込もうとする。
「……っ!あああああああ!!!」
そのとき、機体のアナウンスが機械的な口調で、声を発する。
『フェンリル、起動認証』
レイがファフナーの設計で、容子と相談し、追加した機能。フェンリルを発動させるには、搭乗者、つまりカノンの声が起動キーとするようにした。
それは、彼女に選ばせるため、どんな状況でも、レイは彼女に自分の選択をして欲しかった。その、自らの選択を迫るために搭載した機能は、ひどく機械的に、彼女に説明をする。
『実行には、認証キーが必要です』
彼女の身体から、生えてくる結晶は、その数をますます増やしていく。彼女は肩で息をしていたが、はっきりとその声が聞こえた。
『実行しますか?』
―――余計な世話だ、レイ―――
「まだだ……」
―――お前には、言いたいことがある―――
「まだ私は……!」
―――それを言うまで―――
「ここにいるぞ!!」
―――死ぬつもりは全くない―――
――――
海中。フェストゥムに引き摺られる様にして、マークツェーンはフェストゥムのなb「た。
それを追うマークジーベン。搭乗者の遠見真矢はその絶対的冷静さを欠き、感情的になっていた。
「輝君!」
フェストゥムが、ふいにマークツェーンから離れる。その隙に、マークツェーンは海中から脱出を図る。が、その瞬間、離れたフェストゥムが、マークツェーンに突撃した。
金属と金属がぶつかり合ったような、鈍く、大きい音と共に金色の巨体の頭部のような突起に、ファフナーが突き刺さる。
マークツェーンノ搭乗者、西尾輝は、ファフナーのセンサーアイ越しに、真矢が近づいていてくるのが見えた。
「先輩……来ちゃ、だめだ……うぁああああああああああ!!」
輝の身体から、同化現象特有の緑色の結晶が生えてくる。それは、フェストゥムに、突き刺さった部分から、結晶が生えているファフナーと、同じ部分でもあった。
輝はの唇は、自然と言葉を紡いでいく。
「これが……敵の同化現象……」
輝の両の目の瞳が少しずつ、変化し、金色に変わってゆく。
「心が、消えていく……父さん……母さん……りな……」
ピー
フェンリルが起動する。タイムリミットは5秒。それは、それだけファフナーが同化され、危険な状態にあることを指す。搭乗者は、脱出は不可能。このままでは搭乗者も、何れ同化現象で、
いなくなる。どちらにせよ、輝の命運は決まっていた。
「よしなさい!!!」
真矢は叫んだ。機体の速度は限界だ、レールガンも、水中では、その威力は10分の1も発揮できない。だが、諦めるわけにはいかない。
そのときだった。
青白い光と、燈色の閃光がちょうどマークツェーンに交差するようにそれを貫く。二つの色が混ざった爆発がおき、海中に急激な奔流がおきる。
それは、ファフナーすらも揺るがし、押しのけてしまうほどだった。
奔流が収まり、気泡が機体を過ぎ去った。彼女が見たのは、2体の巨人。彼女には、そのどちらもひどく見覚えがあった。
巨人の一体が、手を差し出す。彼女の手に渡されたものは、マークツェーンのコアブロック。2体のファフナーはそのまま会場へと浮上してゆく。真矢はその光景をただ見つめることしか出来なかった。
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