蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~ 作:鳳慧罵亜
アルヴィスの会議室。敵の襲来に備えての会議が開かれていた。その中には少年の姿はない。いまだ彼はさめぬ眠りについていた。
「エウロス型を中心とした、複数の敵集団の合流を確認。戦闘に無関係だった個体を、多数、支配下に置いたと推測されます」
「非戦闘員まで搔き集めたってか……!」
元人類軍のジェレミーによる敵の分析に対しての溝口の反応はそれだった。今までの戦闘では、おそらく自分たちの群れだけで襲来してきただろうが、今度は自分たちとは関係ない、いわゆる流れフェストゥムを多数自らの支配下に置き、襲来してくるというのだ。
流れとは言っても、その数は人類軍の推測では、百単位でいるだろうと推測されている。それだけの数のフェストゥムだ。たとえすべての流れフェストゥムを支配下に置いた訳ではなくても、その数はおそらく100を超えるだろう。
「周囲の存在まで自分たちの戦いに利用する……それがエウロス型の本質か……」
文彦の評価を聞き、モニターに映る敵を見た小楯保はやや声を震わせてこういった。
「こんなの数の大群……勝てるのか?」
その言葉に向かい側の席に座っていた西尾行美は言葉を返す。
「勝ったところで、次の大群が来る。敵のミールを叩くしかないよ」
行美の言うことは正論だ。フェストゥムは個という概念を持たなかった。蒼穹作戦が行われ、北極のミールが破壊されてからは、それぞれ別のミールに分かれ、群れ同士が別々になっても、その本質はあまり変わらない。いつか来栖が言っていたようにミールは彼らでいう“神様”だ。
故にその神様を破壊すればフェストゥムは瓦解し、ばらばらになる。
だが、幾美の言葉に応えられる者はおらず、沈黙の場を作る。そもそもミールはフェストゥムの中核。破壊するのは容易ではない。どうやって破壊するかを決めるには、情報が少ないのだ。
その沈黙を破ったのは、元人類軍の2人だった。
「私たちに、提案があります」
――――
アルヴィス。レイの部屋、無人のこの部屋に入ってきた人物がいる。カノンだ。
彼女はレイの部屋に入ると、まっすぐにパソコンが置いてある机を目指す。
「……レイ。お前のいない間に見るのは失礼だが、こんな時でないと、お前の思いは分からないからな」
写真たてに隠してあったフロッピーディスク。それが何を意味するのか。彼女はそれが知りたかった。そこで、今の空き時間にレイの部屋を訪れたのだ。恐く彼がいま起きていたのならば、あの手この手でそのフロッピーの中を私に見せないようにしていただろう。
そもそも、写真立ての裏に隠しておくなど、誰にも、特に近しい人に見られたくないものに違いないのだ。
パソコンの起動音が静かな部屋に響く。フロッピーディスクを入れると、まもなくウィンドゥが表示され、中のフォルダをクリックした。
フォルダをクリックすると、そこにはいくつかのフォルダが入っていた。その中で最初に目を引いたのが、『ドライツェン』という名前のファイル。どうやらCGデータファイルのようだ。
その名前からして、自分のファフナーに関係があると思ったカノンは、迷わずそのフォルダをクリックした。
「これは―――」
――――
アルヴィスの会議室は騒然としていた。その発端は、元人類軍のイアン・カンプとジェレミー・・リー・マーシーの立案した作戦。
その内容は
「かつてこの島を守る為に『L計画』と言う計画が発動されたと聞きます」
そう、4年前竜宮島を守る為に発動された『L計画』。それは島の一部であるLボートと言う区画を切り離し、そのLボートを竜宮島として漂流させる。
いわば囮作戦だった。
2ヶ月に及ぶ作戦は、滞りなく行われ、全くのイレギュラーも存在せずに、2ヶ月の作戦期間を全うし、完全に敵を竜宮島から目を反らせて対応作を張り巡らせる猶予をもたらせ、1年という平和を勝ち取らせることに成功したという、完璧かつ見事な勝利で終わった。
作戦実行者全員の「未帰還」をもって……。
今回の作戦はそのLボートと同じ区画部分を切り離し、敵ミールの存在する元人類軍戦艦『ボレアリオス』に接近させるというものだ。
「……手段は?」
溝口の声を押し殺したような質問に、イアンは答えた。
「可能な限りの人員を脱出させた後、フェンリルを使用、敵諸共吹き飛びます」
静まりかえる室内。その沈黙を破ったのは西尾行美だった。
「敵に囲まれている中で脱出なんて、できるもんじゃないよ」
「でも、どうして貴方達が!?」
要澄美の言葉に、今度はジェレミーが少し、身を乗り出して、言った。
「人類軍の攻撃が、あの敵を作りました!!」
「我々の責務なのです……!かつて捨てられ、今祖に間に生かされたイノチ。本望です!」
ジェレミーの、その言葉に応えるようにして言ったイアンの目には、言葉には、覚悟の色が見て取れた。
再びの沈黙。周りは先ほどよりも静かに感じる。モニターの電子音が、いつもより大きく響いた気がした。そして、この沈黙を破ったのは、今まで沈黙を守っていた真壁史彦だった。
「あの島を使うことには許可する」
「真壁!」
さすがの溝口も、彼らの自殺行為に等しい作戦を許可するような発言に、声を荒げた。だが、史彦は彼らの予想とは全く逆の言葉を口にした。
「だが、諸君等を犠牲にするためではない」
「……!」
「『L計画』は絶対に繰り返してはならんのだ……!」
史彦の脳裏に浮かんだあの日の夜。
月が綺麗だったあの夜、島中に『彼』の声が響き渡った。
―――以上が、俺達の戦いだ。これを聞いてくれる奴が居るのを、願ってる―――
あの夜。島の全ての人が、涙を流した。島を守る為に、犠牲になった少年。少女。大人たち。その正真正銘最後の一人が、残した
あのときは、それが最良の手段だったかもしれない。だが、それは史彦の中で、自らの過ちとして、刻んでいる。
ガタンッと言う音と共に、史彦は立ち上がる。その音に、顔を伏せていた者達も、史彦を見た。
史彦の目には覚悟があった。
「今度は我々が、『対話』を求める番だ!」
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久しぶりに投稿できた。文字が少ないのは勘弁してください。