蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~ 作:鳳慧罵亜
「さぁて―――」
マークアハトは戦場全体を見渡しながら、どのように指揮するかを素早くまとめる。
現在、マークアハトは目の前のマークフュンフと戦闘をしているが、直ぐに決着は付きそうにない。そして、自分立ち含めて乱戦になりかけている。
例外は互いにスナイパーだろう。敵のスナイパーはマークツェーン。こちらはマークジーベン。そして、互いにスナイパーの存在で決定打にかけている。
ならば真っ先に片付けるのは―――
「マークドライツェンは狙撃型に急行してかく乱。マークジーベンが狙撃型を叩くんだ!」
「了解!」
「了解」
マークアハトから指示が飛び、マークジーベンは空中を高速で飛行しながら両手に持っているレールガンの標準をターゲットの後方にいるマークツェーンに定める。
そのマークツェーンはマークドライツェンの高機動に翻弄され此方が狙っているのに気がつかない模様。マークドライツェンを狙撃しようとしている銃も、距離が詰められては真価を発揮できない。
「・・・・・・」
短く息を吐きながら、レールガンのトリガーを引く。放たれた飛翔体は超音速でマークツェーンの下腹部。コックピットブロックのある位置へ直撃した。
バシャンという奇妙な音がなり、マークツェーンの下腹部に緑色のペンキが塗布される。
「え?うぁああ!」
マークツェーンは自分が撃たれたことに気を取られ、その瞬間にマークドライツェンからルガーランスを突きつけられた。
「っは!?」
ルガーランスは既に刀身が開き、内部の熱核プラズマ砲が顔を覗かせている。
負けた―――そう思ったマークツェーンはドラゴントゥースから手を離して両手を上げた。
「マークヌルはそのまま突撃型を、ジーベンは火炎放射型を叩け!」
「オーケーだよ」
「了解」
マークヌルは頭部の『ショットガンホーン』を展開して突撃するツヴォルフを背中の2基あるブースタのうち、片方を最大出力にして、軸をとり反転しながら躱す。マークツヴォルフは勢いあまりマークヌルの脇を通り過ぎていく。そして、補足のためにもう一度反転して向き直った頃には、マークヌルの右手がこちらに向けられていた。
「あ―――」
「じゃあね」
マークヌルの右腕掌部から、ファフナーの半分を超える面積のレーザーが発射される。
それは向き直ったばかりのマークツヴォルフを簡単に覆い尽くし、そのまま背後にいたマークアハトとマークフュンフに襲いかかる。
「うぉっ!?」
「うっ―――うおおおおお!!」
マークアハトはギリギリでかする程度に収めたものの、マークフュンフは展開した『イージス』で受け止める。だが、マークヌルのレーザーを受け止めるためにその場に釘付けにされてしまい、マークアハトが側面に回るのを許した。
「え―――」
「そらそらそら!!」
マークアハトの持つガルム-44の銃弾がマークフュンフを打つ。弾丸は破裂して大量のペンキをマークフュンフに塗布することになった。
「え、ちょっと芹、輝、ひろ―――きゃあああああ!!」
最後に残ったマークノインは上空からの狙撃であっという間に沈黙した。
――――
模擬戦の結果は散ざんなものだった。
剣司率いるチームレッドは各々が連携を意識して、相手を深追いせず確実に追い詰めていく。
一方広登率いるチームブルーは連携など一切関係なしに戦闘を行い、劣勢を強いられた。時にはフレンドリーファイヤまである始末だった。
結果、チームレッドは損傷軽微程度のダメージで終わり、チームブルーは全機大破というものである。
その後、アルヴィスの食堂で、真矢、剣司、咲良、カノン、レイが食事兼ミーティングをいていた。
「……レイ」
「さすがに、やりすぎじゃない?」
「あそこまでやらなくてもなあ」
模擬戦の結果はチームレッドの圧倒的な勝利に終わったのだ。そして、広登達に連携力をつけるための訓練をこれから毎日シミュレータで行うと宣言したところだった。
「そうも言ってられませんよ。事態は彼らが思っているより深刻です。いまは何より即戦力がほしいところなんですから」
レイはそう応えた後、「こちらにもけっこう問題点もありますよ」といった。
「まず剣司君は敵に近づきすぎです。あれでは、実戦ではフェストゥムの直接攻撃を喰らってしまいます」
「わ、悪い」
「真矢さんは飛行が少し低空でした。本来ならもう少し被弾率は低いはずですよ」
「うっ……」
「カノンはやや動きが直線的でした。ドライツェンはもう少し機敏に動けるはずです」
「……確かに、直線的過ぎたな。気をつけよう」
「僕のほうも、少し苛立っていたために、普段よりシヴァを使いすぎてしまいました。マークアハトに2回ほど掠ってしまったのは、申し訳ありません……マークアハト」
「……俺に謝るんじゃねえのかよ」
「あんたは痛いだけで怪我したわけじゃないんだからさ。ソレくらい我慢しなさい、前線指揮官」
そうやって、談笑しながらも、各々の注意点をまとめ、それを改善しようとシミュレータで訓練することになった。
――――
真壁邸
真壁史彦は、自身の『普段』の職である陶器
造りをしていた。今は亡き妻、真壁紅音に誘われ、始めたもの。腕のほうは祭りの会場においてあった奇妙な形をした皿を見てもらえれば、察していただけるだろう。
史彦は目を閉じながら、昔のことを思い出していた。
――――――
戦闘機の整備をしていた史彦は、マニュアルを見ながら不備が無いかをチェックしていた。
(フェストゥムが土に返る?)
(彼らの体はケイ素。つまり土でしょ?)
紅音の言葉に疑問を持った史彦が聞き返し、紅音はフェストゥムの構成を述べて自身の推論を語ってゆく。
(彼らも還る場所を探しているんじゃないかしら?)
(まさか)
史彦は、半ば笑いながら紅音に言葉を返す。だが、紅音の返した言葉。それに彼は唖然することになる。
(私は見つけたわ。貴方と一緒に)
(……)
――――
「―――病気のこと、溝口さんに話した?」
「!」
史彦の回想は、一騎の言葉で中断された。何故一騎が『ソレ』を知っているのか、と疑問に思ったのだ。
「ああ。誰から聞いた?」
「遠見が、どこか悪そうだって……」
―――なるほど、真矢君には天才症候群の一種である、『優れた洞察力』があったな―――
「スマンな」
心配をかけたことに謝る史彦。
「謝ること無いだろ」
言いづらそうに一騎はそう返し、史彦の隣まで歩くと胡坐をかくように座った。
「俺達が島を守る」
一騎は唐突にそういった。
「だから父さんは、好きにしなよ」
「何をしろというのだ?」
「此処で一緒に住むとか」
一騎は此処でいったん口を閉じ、こういった。
「遠見先生と」
―――沈黙―――
「―――ッハハハハハハハ!!」
史彦は一瞬呆けたが、言葉の意味を理解すると、琴線が切れたように笑った。
「笑う所じゃないだろ!」
「お前は何処にいるんだ?」
「っ、俺は別に」
一騎は目をそらし、そう言った。
「マークザインに乗るのか?」
「乗らなきゃならないときはそうするよ」
目をつぶって思いっきり顔をそらした一騎。
史彦はいったん目を瞑り、一騎が生まれた時の事を思い出しながら言った。
「俺の願いは、此処が何時でもお前の還ることが出来る場所である事だ」
「……うん」
ろくろの電源を切って、今まで作業の手を止めなかった史彦は、一度ダ行を中断して一騎に姿勢を向ける。
「まだまだ島は任せられん!スマンな」
「謝る所じゃないだろっ」
先ほどと同じイントネーションで、一騎は言った。互いに不器用な親子である。
史彦は真剣な顔になり、言った。
「あの来栖操。どう思う?」
一騎はそれに、「わからない」と答えた。
「敵だけど。でも、感じるんだ。総士は、あいつに何かを懸けてる」
「総士君が島を守るために、あの船をこさせたと、そう感じるんだな?」
史彦の言葉に、一騎は「うん」と頷き言葉を続けた。
「わからないけど、わかるんだ」
一騎の言葉に史彦は頷き、言った。
「命を費やすことだけが戦いではない」
「……」
「お前があの存在と対話しろ」
史彦は言葉を続ける。
「残された時間野の中で、島を救う方法を探れ」
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