蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH ~まだ私は、ここにいる~   作:鳳慧罵亜

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戦い ~らんせん~ Ⅱ

島へ接近するフェストゥム。その中の一体は

、突如その身を襲った業火にその身を焼かれ、瞬く間のうちに灰へと還ってゆく。対フェストゥム用気化燃料火炎放射器『サラマンダー』の2,000℃に及ぶ高温の炎がフェストゥムの体組織を崩壊させる。この武装は、マークノインの搭乗者である西尾里奈に銃器のばら撒きの傾向が見られたための装備で任意での拡散度と射程の調整が自由に行える武装になっている。

 

その威力を危険と見たのか、エウロス型が単機でマークノインに接近。左腕に尾のような部分で絡めとリ、引き摺る様に飛行する。

 

辛めとられている部分から、同化現象の特徴である緑色の結晶が生えてくる。それに恐怖を覚えた里奈は叫ぶ。そこに、どこからか機銃掃射が入りエウロス型はマークノインから離れる。

 

「大丈夫だ。落ち着け」

 

里奈を助けたのは剣司だった。剣司が落ち着けといった直後、左腕に生えていた結晶が砕け散る。が、マークのインには傷1つ入ってはいない。改良を重ねたノートゥングモデルは、ワームスフィアーだけではなく同化現象にも強い耐性を手に入れたのだ。

 

「っ……うわあああああ!!」

 

里奈は体勢を立て直し、エウロス型へサラマンダーを発射する。エウロス型は、ライフルで体をかばいながら、飛び去っていった。

 

フェストゥムによる爆撃が降り注ぐ中で、それを避け、突進する紫の巨人。マークツヴォルフとその搭乗者、立上芹は普段の理性的な雰囲気とは、かけ離れた凶暴な表情で、フェストゥムに突撃する。変成意識の影響なのかある種の心の衝動が前面に出ているらしく、突拍子もない行動に出るようになるため、小楯保から専用の装備が与えられている。

 

「ああああああああ!!!」

 

『頭部』に装備されていたバインダーのようなものが展開され、プラズマのフィールドを纏う。それは、サイや鹿などのどうぶつに存在する……角のような武器であった。

 

その専用武装。『ショットガンホーン』での頭突きをフェストゥムに敢行した立上芹。勿論ショットガンホーンはただ頭突きをするための武器じゃあない。角に設けられた、レールガンは、ルガーランスと同じように、零距離射撃でフェストゥムを内部から、破壊する。芹は墜落したフェストゥムの前に着地し、上空のフェストゥムにレールガン式マシンガン。スコーピオンでの射撃を行う。

 

「あああああああ!!―――えっ!?」

 

芹は射撃を突如中止し、目線を下にもって行く。そこには眼前に墜落し横たわっているフェストゥムが一騎の時と同じように苦悶のような表情を見せていた。

 

 『―――――――』

 

「なに!?……何か言おうとしてるの?」

 

芹はフェストゥムに現れた表情。そしてその口が、なにか声にならない声で何かを言おうとしていることに気づいた。普段昆虫採集などが趣味な芹は物事に於ける感受性が高く、フェストゥムの変化に気づけたのだろう。

 

だが、戦場は彼女に敵のことを考える余裕は与えてはくれない。

 

「え、……きゃあああああ!!」

 

彼女が気づいたときには、フェストゥムが目前に迫っていた。思わず目をつぶり、死を覚悟する。だが、その瞬間は訪れることはなかった。

 

炸薬音。そして、地面に叩きつけられ、消滅するフェストゥム。それを見た芹は後方に目を向ける。

 

そこにいるのはグレー。剣司が駆るマークアハトと、同型の巨人であるマークツェーン。

搭乗するのは、西尾輝。彼は見晴らしの利く山に登り、精度に優れるドラゴントゥースでの狙撃を担当していた。

 

「はあっ……はあっ」

 

西尾輝は疲労と同時に狙撃の難易度に、驚愕を覚える。想像以上に必要な集中力、射線を合わせるタイミング。それを、遠見真矢はいとも簡単にやってのけていることに、深い尊敬の念を覚える。

 

「いいよ、その調子」

 

真矢からの声援に、輝は力強く「はいっ」と返事を返した。

 

戦闘が始まって30分近く経過したころ。『それ』おこった。

 

一騎は、ブリーフィングルームで、行われている戦闘を見ていた。視力が低下してはいるものの、何とか戦況は理解できる程度には見えている。一騎は自分が出られないことに、もどかしさを感じているものの、心配はそこまでしていなかった。

 

昔からさらに進化した射撃技術で空を自由に駆け、仲間を援護し敵を確実に排除する真矢。

 

総士が見たら驚愕し、本当に同じ人物かと疑うであろう程にリーダーシップを持ち、精神的にも成長し、強くなった剣司。

昔からは全く変わらない苛烈さと経験を活かし、おそらく自分でも敵わないほどの戦闘技術を持つカノン。

カノンに匹敵する戦闘技術と様々な所で、搭乗者のサポートをし圧倒的に低い同化耐性を、技術と機体特性を最大に生かした戦いでカバーするレイ。

 

一時は戦線を離脱したが、復帰したあともブランクを感じさせない動きで、不得手な戦闘スタイルを瞬く間に克服し、自分のものとした咲良。

 

それと、今はまだまだだがいずれ成長してゆくであろう後輩達。

 

彼らが、いるのだ。自分が出なくても、負けることはない―――。

ふと一騎は立ち上がり、ブリーフィングルームを後にする。

 

――――

 

治療室。カプセルに入った存在が、目を覚ました。人の形を成しながら、スフィンクス型と判定されたフェストゥム。それは、これから一体何をなすのだろうか。

 

――――

 

戦闘が始まって一時間が経過しようとした時。ふと変化がおきた。

 

「フェストゥムたちが……」

 

「……去っていく?」

 

フェストゥムが突如、踵を返し退いて行くのだ。まだ、相当の数が残っているのにもかかわらず。

 

「何故このタイミングで……。まるで、今回は顔合わせとでも言いたげだな……」

 

レイは苛立ちと疑問が混ざったような声でそういった。それは、真矢、剣司、カノン、咲良も同意見である様だ。

 

だが―――

 

「私達……勝ったの?」

 

「勝った……!勝ったぞ!」

 

後輩は、それを勝利と勘違いした様で、堂馬広登はマークフュンフの武装であるレーザーガン。ゲーグナーを虚空に目掛け、発射する。それを、剣司は咎める様な目で見ていた。

 

――――

 

「一人で戦うなって言ってんだ!」

 

剣司は広登と言い争っている。それは戦闘中の広人の単独行動に近い行動に関してを咎めているようだ。

 

「お前のせいで、誰かが死ぬぞ!」

 

「俺は、衛先輩みたいに戦うんだ!!」

 

広登は聞く耳さえ持たずに走り去ってゆく。剣司が溜息をついていると、マークヌルが斜面を降りてきた。

 

「剣司君。少々予定を変更。次の模擬戦では4対4(フォー・オン・フォー)で徹底的にやろう。あのちっぽけな自信と驕りを、完膚なきまでに叩き潰す」

 

「レイ……はあ、それしかないのか」

 

剣司はレイの過激過ぎる発言に若干引きつつ、それしか方法はないのかと溜息をついた。

 

―――

 

「剣司先輩より、俺のほうが強い!!」

 

広登の発言を聞いたカノンは苛立ちを隠せない表情で「あいつ……ッ」と言った。

 

「あははっ。言われちゃってる」

 

反面、咲良は笑いながら、少し楽観的に言った。

 

「帰ったら私がしかってやる……!」

 

「あんたは褒めな。飴と鞭。ほら、あそこに強力な鞭がしなってるし」

 

咲良の指すほうをカノンは見た。そこにいるのはレイだった。そして、彼が相当苛立っているのを、クロッシングで感じ取った。

 

「あれは鞭にチタンスパイクがついているな……」

 

「あはは……」

 

カノンの言葉に咲良は苦笑で返した。が、直ぐ真顔になり

 

「それより、勝ったと思う?」

 

とカノンにたずねる。カノンの返事はだいたい、咲良の予想通りだった。

 

「帰還命令が出ていない。何かある……」

 

そのカノンの言葉に呼応するかのように全ファフナーのモニターにあるモノが映し出された。

 

「俺の名前は、来栖操」

 

  

 

パンドラの箱はいまひらかれた。




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