グリモア~私立グリモワール魔法学園~ つなげる想い 届けたい言葉 作:春夏 冬
魔法学園で過ごす最後の夜。それはきっと、この学園で日々を過ごしてきた人にとってかけがえのない特別な時間となるだろう・・・なぜなら、僕が今そう感じているのだから・・・・・・なんてね。
「・・・やっぱり、少し寂しいかな」
例えば、チトセさんやヤヨイさんのようにすでに学園を発った人たちもいる。
魔物が出現しなくなった以上この学園に留まり続ける必要はない・・・・・・聞き方によってはドライな考え方だと言えるけど、でも「事情」を抱える人たちにとってはそれぞれに大切なことがあるわけで・・・・・・。
ただ、それでもこの学園を、過ごしてきた時間も含めて大事に思ってくれていることはみんな分かっている。
そして、だからこそ今日の卒業式には、誰一人欠けることなく集まることが出来たのだろう。
つい先刻まで開かれていた、お疲れ様会と称した大々的なパーティは大盛り上がりを見せていた。
卒業生と在校生、そして学園OBが入り交じって大騒ぎ。料理部の小蓮とやってきた里中さんの料理はとても美味しかったし、突如としてOBである音無さんが歌い始めればそこからカラオケ大会が始まる。現役アイドルの絢香さんとモデルの純さんが会場に現れたときなんて特に凄かった。姿を見た在校生たちが興奮しすぎて会場がさらにヒートアップしたのは言うまでもない。
「最後にまさかもう一度風紀委員の手伝いをする羽目になるとは思ってなかったけど・・・・・・。まぁ、いい思い出かな?」
と、そんな感傷に浸っていた僕だったが、とある気配を感じてふと部屋の中を見渡す。
先ほど荷造りを済ませたことにより、部屋にはおおよそ私物は見当たらない。あるのは学園から支給されていた今腰を掛けているこのベットだけ。
本当は卒業式が終わった時点で次の住居がある風飛に向かっても構わなかったのだが、やはりというべきか思い出の深いこの寮での最後の一夜を大切に感じたいと思ったことからこそ、僕は今ここにいる。
そして、なによりも大切なことがもう一つ・・・・・・。
「・・・だぁーれだ・・・なんちゃってっ!」
突如として目の前が真っ暗になるも、しかし驚くことは何もなかった。
視界を遮る手の感触に、背中に感じる仄かな温もり・・・そして、彼女らしいと言える茶目っ気を感じさせる声。
「・・・・・・あれ?あんまし驚かないッスね先輩」
「まぁ、もう慣れたし・・・それに声だけでも十分分かるからさ」
長い学園生活やクエストを共にし、遊びもいたずら事も一緒に楽しんできた悪友とも呼べる間柄の少女。そんな彼女を待っていたことこそが、僕に在るもう一つの「理由」。
「待ってたよ。梓」
「はい、お待たせしたッスね。先輩」
いつだったか、二人だけの「天文部」で交わした約束。
それから特に言葉にはしなかったけど、もしかしたら忘れてしまうかもしれない程度に、本当に小さな約束だったけど、それでも僕たちはちゃんと覚えていた。
『卒業式の夜、二人で星を見ましょう。・・・ね、先輩っ?』
服部 梓 《服部という忍者》
7/29日 本編公開予定