ストライク・ザ・ブラッド 〜陽の皇女と陰の皇子〜 作:パニパニ
双子は雪菜と唯里に預けられた。零菜や阿矢華、唯のように近接戦闘もこなせる眷獣を持っているならまだしも、二人の眷獣は戦闘支援や奇襲による一撃必殺に特化していて近接戦の能力は乏しかったのだ。
「あーあ……だるい」
二人に科された課題を途中で投げ出したのは華城。件の課題とは、ただの座学だ。
「ていうか、夜の帝国(ドミニオン)の皇子がこんなことやらなくてもいいだろ」
「ちゃんとやらないと、雪菜ママに怒られるよ」
「大丈夫だよ。ちょっとくらい」
そう言って、華城はスマホでゲームを始めた。画面をリズミカルにタップしていく、いわゆる『音ゲー』というものだ。
「今、これ学校で流行ってるんだぜ」
「へー。そうなんだ」
「やってみないか?」
「興味ないからいいよ」
視線はあくまでも机に固定して、沙月は応えた。
姉の素っ気ない反応に脈なし、と判断した華城もゲームに集中する。
室内はペンが紙の上を滑る音と、指がスマホの画面を叩く音で満たされる。
華城は最初、ただの息抜きだったはずが没頭してしまっている。高難度の楽曲がクリアできそうでできず、何度も挑戦しては失敗していた。
「沙月、華城。ちゃんとできていますかー?」
突然、扉を開いて姿を見せたのは雪菜。吸血鬼が誇る反射神経を活かして手にあったスマホを隠すも、剣巫の並外れた動体視力がその動きをバッチリ捉えていた。
唯里なら『ダメだよ』くらいで終わるのだが、今回は島でも教育熱心で通っている雪菜。そんな甘いはずがない。
そこから始まるお説教。ガミガミと、雪菜の怒声が止むことはない。小一時間の説教を受け、1週間の座学の追加ということと相成った。
華城は判決に不服として、異議申し立てを行う。
「皇族がこんなことしなくてもいいでしょう?」
という、さっき沙月に言ったこととほぼ同じことを言った。さらに、
「眷獣さえ制御して立派な吸血鬼になれば、真相直系の吸血鬼としては十分だと思います」
これに対して雪菜は、
「いいえ。それは違いますよ」
と、真っ向から否定した。
「確かに、眷獣を制御できれば吸血鬼としては十分でしょう。けれど先輩は、そして私たちも、そう思っていません。帝国の支配者である私たちに科された使命は、領内の安全を守ること。それは軍事的な面はもちろん、行政的な面もあります。そして文武を分ける前に、人としてどうかということが大切です。人間的に尊敬されることこそが、真の支配者であり、真相直系にあたるあなたたちの使命ではありませんか?」
「う……それはそうだと思いますけど……」
華城は言い淀む。元は人間だったという古城らしい考えだな、と思う華城だった。
「とはいえ、いささかこんを詰めすぎたかもしれません。少し休憩して、戦闘訓練に入りましょう」
かくして鬼は現れる……