ストライク・ザ・ブラッド 〜陽の皇女と陰の皇子〜   作:パニパニ

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1・5 古城の怠け学

那月が産んだのは双子だった。姉は沙月(浅葱考案)、弟は華城(凪沙考案)と名づけられた。

 

 

 

沙月たちは古城の執務室にいた。まだ5歳でしかない二人はまだまだ親に甘えたい盛りだ。

ところが彼らの家庭は少々特殊だった。親、あるいは親代わりになる人物が多忙で、家にいないというのが当たり前だったのだ。

唯一、父親の古城だけが絃神島に残っている。だから二人のみならず他の姉弟にとっても古城の執務室が憩いの場になっている。

今もこうして古城のところに押しかけてはワイワイお祭り騒ぎをする子供たち。それを古城が見守るという形だ。

もちろん、子供たちに請われたなら遊び相手にもなる。本来誰よりも多忙なはずの真祖がこんなことをしている暇があるのだろうか。

子供がそんなことを考えるはずがない。ただ、何も考えずに沙月の発した一言が今後の子供たちの性格を決めるなどとは誰も予想しなかった。

「ねえ古城くん」

「どうした沙月? あと、俺のことはパパと呼べパパと」

「朝ね、ゆきなママに『あんまり古城くんのところに行っちゃダメ』って言われたの。……来ちゃダメ?」

古城の願いは却下された。一考の余地もないらしい。

いつの間にか喧騒が止み、子供たちがジッと古城を注視していた。目も潤んでいる。

子供にすがるような目をされて冷たく振る舞える親がいるだろうか、いやいない。いたとしたら鬼である。古城も吸血鬼でも元は人間。親の心は持ち合わせていた。

「いいに決まってるだろ。パパは嬉しいぞ」

「わーい!」

沙月の浮かべる天使の笑顔が古城の表情を綻ばせる。後ろで耳をそばだてていた華城や零菜ほか、子供たちも一様に安堵の表情を浮かべた。

そんな会話から始まった二人のお話に零菜が参加。華城、阿矢華と続き、最終的にその場にいた全員が参加するお話会になっていた。

沙月たちは古城との会話に花を咲かせる。普段から遊ぶことはあっても、他愛もないことをひたすら話す機会なんて滅多になかった。そのせいか話は一向に終わらない。

特に子供たちが興味を持ったのが母親の昔話だ。彼らの母ーーすなわち第4真祖の妃たちは古城の名代として世界各地を回っている。年末年始などの祝賀行事を欠席することも珍しくなかった。

母親と交流することが稀なのだから、どうしても本人から直接訊く機会は限られていた。しかも本人たちは古城との惚気話しかしないから、つまらないのだ。

その点古城は色々なことをペラペラと話してくれる。母の恥ずかしい話だって聞き放題だ。もっとも子供たちは母との語らいでは古城の恥ずかしい話を聞かされていたからお相子だが。

そんな感じで話していると侍女が夕食の時間だということを報せに来た。

「おっ、もうこんな時間か」

「えーっ。もっとお話したいよ!」

「お話しよ! しよ!」

「大丈夫だ。ご飯の後も遊んでやるから」

「本当!? やったーっ!」

零菜や阿矢華が歓声を上げる。沙月もグッ、と拳を握っていた。口には出さないが嬉しいらしい。

嬉しいのは華城も同じだったが、疑問点がひとつ。

「古城くん。お仕事は大丈夫なの?」

「「「あ……」」」

父がいつも多忙なのは子供たちの誰もが知っていた。それは執務机に山と積まれた書類を見ても分かる。ただあまりの楽しさに失念していたらしい。

しかし古城はしれっと、「大丈夫だ」と言った。

当然のようにどうして、と疑問を投げかける子供たち。反応を予想していた古城は言い放った。

「子供の面倒を見てたって言えばだいたい許される」

「「「……」」」

子供たちは呆れたような視線を向けられる。それはちょっと……という視線だ。

その中で、沙月ひとりはいたく感銘を受けていた。

(古城くん、かっこいい……)

これが後々の彼女の性格と華城の受難を決定づけることになろうとは、本人も含めて誰も知らない……。

 

 

 


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