ストライク・ザ・ブラッド 〜陽の皇女と陰の皇子〜   作:パニパニ

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南国の太陽が燦々と照らす人工島ーー絃神島。かつて日本の領土だったが、現在は第4の帝国"暁の帝国"の支配下にある。

その空港には密かにVIPが訪れ、展望テラスで待ち人を待っていた。

「あちー」

言動や仕草、そのすべてに気怠さを感じさせる少年だ。パッと見はごく普通の一般人という風体だ。

彼の後ろには子供を抱いた可憐な少女がおり、足下には艶やかな黒髪の幼子。さらには白銀の髪を持ち、神秘的な雰囲気を纏った幼児もいる。夫婦とその子供なのだが、外見的特徴が希薄すぎて初見では分からないだろう。家庭に特殊な事情があるとしか思えない。あるいは犯罪者だ。

しかしよく見るとサングラスをかけた黒服が周囲に侍っている。少年に近づけば外見とは裏腹に落ち着いた、圧倒される威厳に満ちていた。

少年の名前は暁古城。第4真祖ーー焔光の夜伯であり、ここ絃神島を領有する帝国の皇帝である。

その彼は妃たちの帰還を今か今かと待っていた。

気が気でないといった様子の古城を見て、隣に立つ可憐な少女ーー雪菜はやれやれという表情を浮かべている。

「先ぱーー古城さん。心配なのは分かりますが、もう少し落ち着きを持ってください」

「お、おう。……しかし、やっぱり抜けないんだな、その癖」

「仕方ないじゃないですか。それに、間違いは誰にでもあります!」

「でもなあ……」

古城は雪菜や紗矢華をはじめとして複数の妻を娶っていたが、行動を共にするの場面は圧倒的に雪菜が多い。外交の席では特にこれが顕著なのだ。

そこで雪菜は度々やらかしていた。いつもさっきのように『先ぱーー古城さん』と言い直す。古城と雪菜が出席した際の、一種の名物的なものと諸外国からは認識されている。

余談だが、古城のことを完璧に『古城さん』とか『陛下』と呼べるのはラ・フォリアと結夢しかいない。公式の場でやらかしましたシリーズは"暁の帝国"の完全な名物と化している。

(雪菜が『先輩』、浅葱が『古城』、凪沙・唯里が『古城くん』、紗矢華が『変態真祖』、夏音が『お兄さん』、那月が『暁』といった具合である)

これまでにやらかしてきた失敗を古城が思い出していると、雪菜はそっぽを向いてしまった。

「もう。先輩なんて知りません!」

相当拗ねている。しばらくは治りそうにないと察した古城は勘弁してくれ……と空を仰ぐ。

すると遥か遠く、見渡す限りの蒼空に黒いシミが生まれる。それは徐々に大きくなっていった。

シミの正体はB級飛行艦コンゴウ。帝国軍が保有する最大の戦力だ。那月たちのテロリスト追撃行に御召艦として参加していた。護衛のD級飛行艦2隻が付き従っている。

北欧の国、アルディギアと深い関係にある帝国は軍事面においても彼の国から世話になった。この飛行艦も元は装甲飛行船の技術を帝国最高技術顧問の浅葱が進化・発展させたものだ。

B級、H級、L級、D級に分類され、B級やH級は単独で一都市を地上から消し去るといわれている。

コンゴウに従っている護衛艦2隻の名は1号と2号。飛行艦技術黎明期に建造されたいわば試作実験艦だったが、アルディギアの要望に応える形で無償供与された。その理由は無論、積年のライバルである"戦王領域"への牽制だ。いかに不完全とはいえども脅威は脅威。"暁の帝国"の高度な電子技術とアルディギアの精霊炉技術が融合した、恐るべき兵器だ。

発着ポート直上まできた飛行艦はゆっくりと降下。見事に着艦した。

タラップが下りてきて、小さな影が飛び出た。

それは古城めがけて驀進してくる。少し手前でピョイ、っと跳躍し、古城の腰に抱きついた。

「だっ!」

「おー、グレンダか。お疲れ。元気だったか?」

そう言って抱きついてきた少女ーーグレンダの髪を撫でる古城。娘とその父親といったところか。

非常に心温まるワンシーンだが雪菜は看過できなかったらしく、体を前に倒し、グレンダと目線を合わせた。

「グレンダさん。もう少し落ち着いて行動してください」

「うーっ。ゆきな、きらい!」

それだけ言って古城の背に隠れるグレンダ。拗ねてしまったようだ。

「おい雪菜。グレンダはまだ小さいんだ。ちょっとは勘弁してやってくれ」

「せーーじゃなくて古城さん!?」

古城がグレンダの味方をしたことに雪菜は驚く。古城がこう言うと彼女も強く出られない。夫を立てるのが妻の務めと引き下がる。

しかし未だに古城がグレンダに構っているため、時間に比例して機嫌を悪くしていった。

彼が他の女の子を擁護したのが雪菜は気に入らなかったらしい。

どうしたものかと後頭部をぽりぽりと掻く古城。救いの手は思わぬところからもたらされた。

「いい加減にしろ、剣巫」

「那月さん……」

「那月ちゃん、寝てなくて大丈夫なのか?」

女性の護衛に抱きかかえられ、額から脂汗を流しながらも雪菜を窘めた那月。だが古城も雪菜も、そんなことはどうでもよかった。大事なのは那月の体だ。

「正直きつい」

那月ちゃんと呼ばれたことに突っ込むことすら忘れるほどらしい。古城たちは思わず顔を見合わせた。

「急いで病院に!」

「先輩、大変ですよ。下手をすると治療しながら分娩することに……」

「ゆっきー、古城くん、安心して。大怪我をしたわけじゃなくて、陣痛が始まっただけだから」

「「それはそれで一大事だ(です)!」」

後から出てきた唯里が安心するようにと補足したが逆効果だった。ますますヒートアップした二人はあれよあれよと言う間に騒ぎを大きくしていき、救急車を向かわせていたのをキャンセルしてヘリを呼び、たった1分で遅いと焦れて眷獣を呼び出し、瞬間移動して病院に行った。

無論、後で浅葱と凪沙にこってり絞られたのは言うまでもない。


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