響乱交狂曲   作:上新粉

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明石さんの後日談は今回の一話だけとなります。
短い?いいえ、夕月達の話が予想外に名がっくなっただけです(`・ω・´)キリッ


第九十二番〜技〜

「……ってな事があったんだよ。まぁ一時はとうなる所かと思ったが皆進む先が一つに定まったみたいで良かったぜ」

 

「へぇ〜そうだったんですかぁ、だから最近睦月ちゃん達の元気な声が工廠に聞こえてくるんですね」

 

呉の皆とお別れしてから早くも三週間。

今でこそこうして摩耶さんと休憩がてらのんびりとお茶しながら話せていますが、そんな私も最初の一日二日はは自室に引きこもり四六時中上の空でした。

やっぱり覚悟を決めたとはいえ次にいつ会えるか分からない仲間との別れは辛いものがあります。

 

そんな風に塞ぎ込んでいた私でしたがふとヴェルの言葉が脳裏に浮かんできたのです。

 

『……それでも残るんだね?明石』

 

そうだ、私は自分の使命を果たす為に自分で残ると決めたんだ。

だったらこんな事に時間を使っている場合じゃない!

 

そこからの私は後先も考えず行動し、その結果フラワーさんを通じて深海棲艦の皆さんの整備を本格的に受け持つようになりました。

フラワーさんや以前私が頼んで整備させて頂いた方々の口コミによって少しずつ私の所へ来て下さる方が増えていき、今では毎日一、二人は整備をする様になりました。

まだまだ未知な所はありますがそこは妖精さんと協力しながら対応し、今では新たな発見に心を躍らせる日々を過ごしています。

 

まあそんな経緯がありまして今は私の空き時間と摩耶さんの休憩時間が重なったのでこうしてお話している次第ですね。

 

「そうそう、にしてもすげぇよなぁ……アタシより一回り二回りも幼いっつうのに深海棲艦と艦娘と人類が手を取り合える様に動き始めてるんだぜ?」

 

「あれぇ?摩耶さんもしかしてちょっとナイーブになってます?」

 

「なっ、馬鹿っ!!違ぇよ、純粋に感心してるだけだって……まぁあの変態が世界平和とか言い出した時は感心っつうか失神しそうだったけどな」

 

「あっははは!いいじゃないですかぁ!?門長さんも実は平和主義だったんですよぉ〜」

 

「おいおい、流石に無理があんだろうよ」

 

まぁ私も最初にその話を聞いた時は腹が捩れる程笑いましたから摩耶さんの言う事も解りますけどね。

それはともかく、摩耶さん最近顔色が良さそうですねぇ。無理はされていない様で何よりです。

松ちゃん達が確りとサポートしているからでしょうかね?

代わりに私が松ちゃん達と触れ合う機会が減ってしまいましたが……それも摩耶さんの為ですから仕方ありませんね。

 

「……っと、そろそろ次の方が来られる時間ですね」

 

「おっ、そうか。んじゃアタシもそろそろ戻っかな!お茶、ありがとなっ!」

 

「いえいえ、それではお互い頑張りましょう」

 

「おうっ!」

 

元気の良い返事を響かせて摩耶さんは部屋を後にしました。

 

さて、私も準備しに行きますかね。

 

摩耶さんから元気を分けて貰った私は意気揚々と工廠へ出て行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

工廠に出た私が機材を用意していると海から工廠へ直接乗り入れる事が出来る出入り口から私を呼ぶ声が聞こえてきました。

 

「アカシサーン!イマスカーッ?」

 

本日の午後のお客様はフラワーさんの後任として現在輸送船団を仕切っているワ級flagshipさんです。

 

「いらっしゃいワフラさん。どうぞ上がってください」

 

「ワフラッテワタシデスカッ!?」

 

「へ?えぇと、すみません。嫌でしたらワ級さんと呼ばせて頂きますが」

 

「イエッ!フラワーサンミタイデカッコイイデス!」

 

フラワーさんは格好良いって言われたい訳じゃないと思いますが……まあ、喜ばれている様なので良しとしますかね。

 

「えと、それでは改めましてワフラさん」

 

「ハイッ!!」

 

「あはは、それでは艤装を外してこちらに上がってきてもらえますか?」

 

「ハイッ!オネガイシマス!!」

 

フラワーさんとは随分雰囲気が違いますねぇ。

恐らくワ級という名称は私達艦娘で言う所の睦月型や金剛型に相当するのかも知れませんね。

そうなると本当なら一人一人に名前があるのでしょうか。

気になった私は艤装を外して上陸するワフラさんに少しだけきいてみる事にしました。

 

「ワフラさん、個人的な質問で恐縮ですが一つ宜しいですか?」

 

「ナンデスカ?ワタシニコタエラレルコトナラナンデモキイテクダサイ!」

 

「はい、姫級以外の深海棲艦の皆さんはイロハ以外に個を識別する名前を持っているんでしょうか?」

 

私の質問の内容にいまいちピンと来ないのかワフラさんは暫く首を傾げていましたが何となく分かった様でワフラさんは自身なさげにこう答えました。

 

「エェト、ワタシタチハナマエヲモッテマセン」

 

「名前が無い?イロハ以外にという事でしょうか」

 

「イエ、ソモソモソノナマエヲツケタノハニンゲンタチデス」

 

ワフラさんから話を聞き終えた私は暫く開いた口が塞がりませんでした。

彼女曰く、深海棲艦の中で初めて組織らしい組織が立ち上がり、姫達が本格的に指揮を執るようになってから指揮系統に致命的な問題が発覚したそうです。

それこそが名前を持たない事による指令の伝達不良。

そこでその時のトップの一角であった後の港湾さんが人類が付けた名称を流用しようと話を持ち掛けたそうです。

当時の組織のトップ達は自身の名にさして興味を持っていなかったという事もあり、その案はあっさり採用された様です。

 

もしかしたらその頃から港湾さんは私達や人類との和解の道を模索していたのかも知れませんね。

 

ワフラさん達の事情は分かりました……ですがこれは私がどうこう言える問題ではない様です。

私一人で皆さんの名前をお付けするわけにも行きませんし、何より私自身まだ深海棲艦の皆さんの違いと言うものを把握仕切れていませんから。

 

「アカシサン?ドウシタンデスカ?」

 

「あ、いえ……すいません。事情も知らずに野暮な事を聞いてしまって」

 

「ヘッ?ウウン、ゼンゼンキニシテナイヨ?ソレニワカリニクイナラワタシノコトハワフラダンチョウッテヨンデクレルトウレシイカナ?」

 

「ワフラ団長ですか……?分かりましたっ!それでは本日は宜しくお願いしますね団長さん」

 

「コチラコソヨロシクネーアカシサン!」

 

こうして改めて団長さんの問診を開始する事にしました。

まず初めに自分で作った問診票を手に幾つか聞いていきます。

問診票は今の所人型、艤装一体型の大きく二つに分けて用意しています。

因みに団長さんを含むワ級さん達は海で見る時は解りにくいですが実は艤装の取り外しが出来る人型の艦種なのです。

 

私は自分で作った問診票を見ながら身体に異常を感じないかを確認していきます。

 

「団長さん、ここ最近で身体に違和感を感じたり自分の思った通りに動けなかったりした事は無いですか?」

 

「ウ〜ン、ヨクワカラナイケドソウイウノハナイカナァ」

 

「自覚症状は無し……っと。そしたら次は艤装の役割を確認しますね?」

 

深海棲艦とその名にある通り彼女達は私達艦娘と通ずる所があります。

それは装備であったり一人一人の性格であったりと様々ですが、調べていて気付いたのは艤装の役割の多くが艦娘と同じであるという事でした。

そこに目を付けた私は彼女達との親睦を深める意味を込めて深海棲艦の整備を受け持とうと思い立ったのです。

 

「これは……単装砲ですか?」

 

「チガウヨ〜、コレハレーダー」

 

「これは……?」

 

「コレハタダノボウシダネッ」

 

ですが見た目で判断するのは相当厳しいので、こうして一つ一つ記録に残していく為に一人一人からこうして艤装の役割を聞くことにしてるわけですね。

 

問診が済めば後は艤装及び本体の整備が始まります。

と言っても今はまだ損傷部分の修復は妖精さんに任せるか入渠して頂くしか出来ないんですがね。

 

「ネェアカシサン、ココハスゴイデスネ〜」

 

私が艤装の損傷箇所にチェックを入れていると不意にワフラさんが話し始めました。

 

「凄いですかぁ……まぁ確かに色々と凄いですが、どうしたんですか?」

 

すると団長さんはキラキラと瞳を輝かせながら答えてくれました。

 

「ダッテサ!ホカノトコロデハベツノワタシトベツノアカシサンガタタカッテルノカモシレナインデスヨ!?ソノフタリニイマノコウケイヲミセテアゲタイデスヨッ!」

 

「……っ!」

 

団長さんの一言で私が思い出したのはあの時の武蔵さんの反応でした。

あの時の私は実は少しだけショックを受けていました。

 

平和の為に活動を続ける港湾さんやフラワーさん、沢山の部下の信頼を背負っていた離島さんや、そんな彼女をずっと支え続けてきたリ級さん。

そんな彼女達の事が頭ごなしに否定された様な気がして。

 

「アカシサン?」

 

「い、いえ……」

 

でもそれは武蔵さんに限らず海軍全体の共通認識であり、それに疑問を覚えてしまった私はきっとヴェルの言う様に中途半端な気持ちだったのでしょう。

だから私はこの基地で答えを探していきたい、その先で海軍に背く事になったとしても私自身が納得出来る答えを。

 

「……そうですね。団長さん、いずれ見せつけてやりましょう。この世界の別の私やワフラさんに、艦娘と深海棲艦(わたしたち)は争い合うだけの存在じゃないって事を!」

 

「アカシサン…………ハイッ!ゼヒトモミセツケテヤリマショウ!」

 

そうして私と団長さんは固い握手を交わしました。

団長さんや港湾さん達の様な深海棲艦は話を聞いてる限りでもまだまだ少数派ですが、それでも基地の皆と団長さん達とならやり遂げられる。

確証も保証も有りませんがそれでも確かにそう思えた、そんな瞬間でした。

 

 




それぞれが少しずつ同じ方向を向き始めて来た所で第三章終了となります。

次回からは再び門長視点……となるかも知れませんねぇ?

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