〜遊戯王やりたい〜……はっ!?もしかして今充実してるかも!!
突然の残留宣言にヴェールヌイ達宗田艦隊の注意が一点に集まる。
一瞬にして注目の的となった彼女は苦笑いを浮かべながら話を続ける。
「と言っても呉に戻りたくない訳じゃないですし、寧ろ戻りたいです。ただ……帰ってしまったらきっともう
「そうか。確かに気持ちは解らなくない」
「ヴェールヌイっ!まさかお前まで!?」
ヴェールヌイの発言に慌てて振り向く武蔵にヴェールヌイは、左手の甲を武蔵の前に出し否定の意を示す。
「大丈夫、私は割り切ってるさ。ただ、そうだね……こっちとしてもそんな中途半端な気持ちで戻ってこられても迷惑だ」
「なっ!?何を言ってるんだお前は!」
「武蔵さんは少し黙ってて。いいかい?今日を逃せば私達からは迎えに来ることは二度と無いし連絡手段も勿論ない。ま、手土産でも持って帰ってきたら歓迎会位は開いてあげようかとは思ってるけど……それでも残るんだね?
ヴェールヌイからの最終通告に対して明石は息を飲み込むと、真剣な眼差しで見つめ返して言った。
「解ってる。必ず大きな手土産を持って帰ってみせるわ」
「ふっ、期待しないで待ってるよ。皆には申し訳ない報告だ。どうやら彼女は工作艦違いだったらしい。よって本作戦は失敗、現時刻を持って明石捜索作戦を終了とする」
ヴェールヌイが、無線を手に取り艦隊に作戦失敗を告げる。
当然周囲からは落胆の声が上がるが近くに居る武蔵はヴェールヌイに異議を申し立てた。
「待てっ、艦隊旗艦は私だ!それに明石を失う事が我々にとってどれだけの影響を及ぼすか等今回の作戦がが物語っているだろう!!」
憤りに任せヴェールヌイに掴み掛かろうとする武蔵だったがその腕はこめかみに青筋を立てた門長によって尋常でない力で握り締められる。
「ぐぅっ!!?」
「おいおいこら駄肉よぉ〜?俺の目の前で少女に手を上げようたぁいい度胸じゃねぇかよ、ああ?」
「ゔぐぐぐ……き、貴様には関係ないだぁっ!?」
武蔵は抵抗しようとするも門長の握る力は更に増していき、流石の武蔵もその場に膝を着かざるを得ない程であった。
「謝れ、そうすればこの両腕だけで赦してやんよ」
「ぐぅっ……わ、わたしは……悪く……ぐぐぐ……ないっ!」
「ほう?良く言った!じゃあスクラップにっ──!」
「馬鹿門長ァ!!」
誰かが叫んだ直後、握り潰される寸前であった武蔵の腕が突然解放される。
門長が顔面蒼白になりながらも首から上だけを声のした方へ向けた。
するとそこには非常にお怒りな様子の響が仁王立ちで門長を睨みつけていた。
「あ…………えと……いやその……ちがくて……」
突如門長はしどろもどろになりながらも弁解しようと言葉を発するも全て無意味であった。
「門長、何でも暴力で解決しようとするのは悪い癖だ。直ぐに武蔵さんに謝るんだ」
「いや、けど俺はこいつからヴェールヌイを守っただけで……」
「謝る気が無いのかい?そんな悪い門長はき、
「悪かった駄肉……じゃなくて武蔵!すまん!マジですまんっ!!」
響が放った一言を皮切りに門長は意見を540度転換し武蔵へ土下座しながら謝罪し始めた。
呆気に取られる武蔵を他所に一連のやり取りを見ていた長門が響の頭を撫でながら響にそっと声を掛けた。
「なっ、言う事聞いてくれるだろ?」
「う、うん。でも……良いのかな?」
「ああいうのは誰かが手綱を握っててやらないと手が付けられなくなるからな。少々荷が重いかも知れんが響、これはお前にしか出来ない事だ。頼めるな?」
「……解った、頑張ってみるよ」
長門の期待に応えるように響は一つ頷くと、長門の側を離れ門長の隣へ立つ。
そして武蔵の方を向いて深々と頭を下げた。
「武蔵さん、門長が迷惑を掛けちゃって本当にごめんなさい」
「響っ!?いやいやこれは俺がやった事で響が謝る事じゃ──」
「門長も頭を下げるのっ」
響の一喝により、門長は借りてきた猫の様に元の姿勢へと戻った。
「武蔵さん、本当にごめんなさい。皆の修理資材はこっちで受け持つから、門長の事を許してやって欲しい」
「い、いや。こちらこそ取り乱して済まない。私の事は大丈夫だから二人共顔を上げてくれないか?」
深々と頭を下げる二人を前に、武蔵は気まずさを覚え顔を上げるように促す。
武蔵の一言で響と門長はゆっくりと顔を上げる。
「本当に大丈夫かい?やっぱりちゃんと直した方が良いと思うけど」
「だ、大丈夫だっ。元々攻めてきたのはこちら側だし、そこまでしてもらう訳には行かんよ」
と言って響の案を体良く断る武蔵だったが、本心はやはり深海棲艦と繋がりのある門長達の所で修理を頼むリスクを考えた結果の判断であった。
「そっか……」
「テメェ、なに響の仏の様な提案を蹴ってんだおいっ」
「門長っ!」
「ゔっ……」
門長が再び武蔵に突っかかろうとするが、響の一声で直ぐにその手を止める。
その様子を少し後ろで眺めていた長門は響の成長を微笑ましく思いながら響の隣に立ち、武蔵と向かい合う。
「済まないな武蔵。お前の立場もあるだろうから無理にとは言わんさ」
「ああ、そう言って貰えると助かる。それと……まぁ、代わりという訳じゃ無いんだが、明石の事を頼んでもいいか?本当なら無理にでも連れて帰りたい所なんだが、こやつが帰るつもりが無いのなら無理矢理連れ帰ってヘソを曲げられては本末転倒だからな」
武蔵は苦笑いを浮かべながら長門へと頼んだ。
長門もふっ、と笑うと自身の胸に拳を当てて応える。
「任せておけ。明石の事は必ず無事に送り届けると誓おう」
「ありがとう……よしっ、待たせたな!」
長門に明石の事を託した武蔵は自身の迷いを断ち切り、無線を繋いで艦隊に号令を掛け直す。
「本作戦は現時刻を持って終了とし、これより帰投を開始する!全艦抜錨っ!!」
「「了解!!」」
宗田艦隊は今度こそ西野を連れて中部前線基地を離れていく。
そんな武蔵達の後ろ姿を儚げに見つめる明石に対して長門は横から話し掛ける。
「本当にいいのか?今ならまだ間に合うぞ」
だか明石は首を横に振ってその選択肢を否定する。
「いいんです、どっちに進んでもきっとこの気持ちは無くなりませんから。だから私は自分の選んだ道を突き進む事にしました」
「そうか、ならば我々が口を出す事では無いな。改めて宜しくな明石」
「はい、こちらこそ宜しくお願いしますっ!」
明石が選んだ道は果たして何処に続いているのか。
それを知る者は誰一人として存在しない。
だが、例えどのような道が待っていようと彼女は決して後悔しないだろう。
長門には彼女の瞳からそれだけの決意を感じ取っていた。
「よし、そろそろ我々も戻るとするか」
「あっ!!」
武蔵達の見送りを終え、長門達が建物内へ戻ろうとした時、摩耶が唐突に声を上げた。
「どうした摩耶っ」
「摩耶さん?」
一同の注意が摩耶に集中する中、摩耶は気まずそうに頭を掻きながらつい声を上げてしまった事を後悔しつつ答える。
「あ、いや……昼の騒ぎで全員出てたからよ、夕食の準備がまだ出来てねぇんだ」
その一言によって真面目な空気が一転し、辺り一帯に笑いが溢れ出した。
「ぷっ……ちょ摩耶さん、なにも今言わなくても良いじゃないですかぁっ……ふふっ」
「お、思い出しちまったんだから仕方ねぇだろっ!?」
「ふふっ、だが確かにそれは大変な事態だな。皆で力を合わせて準備するとしよう」
「お前らなぁ!ば、ばかにしてんのかぁっ!?」
「あっはは!違うよ、皆摩耶さんに感謝してるんだよ〜
」
「あぁ?それと今笑われてる事に何の関係が……って竹!それに松もっ、一体何処に行ってたんだお前らは」
松と竹は門長を工廠まで曳航し終えると直ぐに工廠を離れていたのだ。
摩耶が何処に行ってたかを尋ねると竹はニンマリと笑いながら摩耶に向けてサムズアップをして見せた。
「んふふ〜、摩耶さんのお悩み解決だよぉ?」
「お悩み?」
「夕食の事だ」
今一つピンと来ない摩耶に松が情報を付け足す。
それにより二人がさっきの話を聞いていた事を思い出した摩耶は漸く気付いた。
「まさか、お前らが夕食を用意しといてくれたのか!?」
「そういうこと〜」
「時間は無かったから簡単な物だがな」
直後、歓声が沸き上がった。
「でかしたぞ松!竹!」
「おぉ、流石だな!」
「い、いや……大した事はしていない」
「えへへ〜、何たって摩耶さんの一番弟子だからねっ!」
照れ隠しにそっぽ向く松と誇らしげに胸を張る竹。
対照的な二人の姿に長門達も思わず笑みが零れる。
門長はそんな長門の横に立ち何気無く声を掛けた。
「やっぱり
「うむ、全くだ……ッておい!何を言わせるん……だ」
うっかり門長の意見に賛同してしまい、慌てて反論しようとするが時すでに遅し。
門長の隣で響が冷めた瞳で長門を見上げて居たのだ。
「え……えと、響?どうした?」
「……門長の言う通りやっぱり長門さんもロリコンという奴なのかい?」
響の強烈な言葉のストレートは流石の長門も片膝を着かざるを得ない程であった。
「くくく……門長、貴様はとんでもない事をしてくれたなぁ?」
「あぁ?先に響に吹き込んだのはテメェだろうが」
というのも先程門長が土下座している時に響と長門が話していたのを確りと聞いていたのだ。
だが長門は怯む事なく反論して見せた。
「あれはお前が暴走しない様に響に錨としての役目を任せただけだ」
「戯言を!止めたきゃテメェでやれ!響に背負わせんじゃねぇっ!」
「響なら出来ると信じたからこそ任せたのだ!な?響、分かってくれるだろう?」
「騙されるな響!あいつの中身はタダのロリコン戦艦だぞ!」
「それはお前もだろうが!響は私の事をそんな風に思ってないよな?」
「思ってるに決まってんだろうが!なぁ響?」
突然不毛な争いの真っ只中に巻き込まれた響は頭を抱えて俯いていたが、やがて我慢の限界が来たのか両腕を振り上げ大声で叫んだ。
「うるさーいっ!!!二人なんかきらいだァー!!!!」
そう言うと響は猛ダッシュで建物へと入っていってしまった。
「響っ!?」
「響ぃーっ!!」
一部始終を見ていた摩耶達も呆れた様に長門達へ一声掛けると食堂へ向かって行った。
そうして残された二人は自身の言動を恥じるとお互いに向き直り何も言わないまま、和解の握手が固く握られたのであった。
そしてその日の夜、響の部屋の前では長門と門長が二人仲良く並んで土下座するという奇妙な光景が見られという。
ひびきはとながにこうかがあることはながとにもこうかがあることをおぼえた。