「離セェ!!殺スゾテメェ!」
「ぐっ……だから話を聞けと……!」
長門と金剛の二人掛かりで何とか動きを封じているもののこのままではいずれ振り払われてしまう。
沈める事なくレフラを止めるにはどうにか説得しなければならないが、長門達の声に耳を傾けようともしない相手をどう落ち着かせるか、それが一番の問題であった。
「ヘーイレ級!一度クールになって話し合いまショウ」
「落ち着けレフラ、我々は敵では無い!」
「ウルセェ!邪魔スル奴ハ全テ敵ダ!離セェ!!」
二人がどれだけ呼び掛けようともレフラは応じようとはせず尚も暴れ続ける。
更にはフラヲの戦闘機と交戦していた爆撃機を戻し、二人に狙いを定めると次々に急降下爆撃を敢行し始めていた。
「不味い、一度離れるぞ金ぐぁっ!?」
「オォウッ!?」
長門達が爆撃を避ける為レフラから離れようとしたその時、押さえていた腕の力を緩めたその一瞬をついてレフラは素早く腰を捻りその勢いで両足をスクリューの様に回す事で足を掴んでいた長門と金剛を吹き飛ばしたのだ。
それぞれ別の方向へ吹き飛ばされた長門達は何とか受け身を取るがレフラは既に金剛の方へ走り出していた。
このままでは金剛が危ないが、長門が助けに行って間に合う距離でもない。
砲撃で止めようにも砲旋回が間に合わず、例え間に合ったとしても止められはしないだろう。
打つ手は無しと思われた長門は一か八かの賭けに打って出た。
「レフラっ!!話を聞かない悪い子とは遊んであげないって門長が言っていたぞぉっ!!」
傍から見れば子供に言い聞かせる時のようなちゃちな呼び掛けに感じるだろう。
その証拠にフラヲはおろか危機的状況であるはずの金剛ですら頭に疑問符を浮かべて長門の事を見ていた。
だがこの時、門長の中からレフラを見てきた長門には彼女が響達の様な駆逐艦の子と重なって見えていたのだ。
だからこその発言であったが果たしてレフラに届いたのかというと…………
「エッ!?…………ヤダ。トナガガ遊ンデクレナイナンテイヤダァァァッ!!!」
確りと届いたようでレフラは急いで爆撃機を全機着艦させるとすぐさま基地の方へと全速力で走り去って行った。
「「……………………」」
レフラの去った後、三人は結局ヴェールヌイ達が合流するまで同じ方向を見つめたまま一言も発する事は無かった。
「レ級flagshipは何処に…………って三人共どうしたんだい?」
「呉の所の……いや、何でもない。レ級flagshipなら無力化に成功した……筈だ。」
「そ、ソーネェ。無力化にはサクセスしたと思うデース」
「マァ、ソウナルノカシラ」
「え?どういう事……?」
揃いも揃って曖昧な返事をする三人にヴェールヌイも明石もさっぱり状況が掴めず首を傾げていると長門達に遅れて付いてきていた陸奥が途中合流したエリレと共にやって来た。
「フラヲッ!無理シチャ駄目ダッテ言ッタジャン!ドウシテソンナボロボロナノッ!!」
「ン、ムゥ……スマナイ」
「ねぇっ、今さっきレ級flagshipが基地の方へ走ってったけど大丈夫なの!?」
「うむ、これに関しては戻ってみなければ解らないが恐らくは大丈夫だろう」
長門は四人が来るまでに起きた事を順番に説明した。
事の顛末を聞き終えた四人は一様に気の抜けた顔をしていた。
「その気持ちは分かる。言った私ですらここまでなるとは思わなかったんだからな」
それを聞いたヴェールヌイは頭を抱えつつもその話を一旦置いておくことにしてフラヲ達の方に向き直り口を開いた。
「あ……うん、無事だったのなら良かった。それよりも、済まないがエリレとフラヲの二人は隠れていてくれないか?」
「エッ?ナンデ隠レルノ?」
「マア、当然ネ。良イワ、私達ハ海底カラ基地ヘ戻ッテルワ」
「本当に済まない……今海軍中に噂が広まると混乱を招く恐れがあるんだ」
そう言ってヴェールヌイ二人に頭を下げるがフラヲは気にする様子も無くエリレの手を取り基地の方へ振り返る。
そしてそのまま手の甲を振って見せながら海中へと潜っていった。
二人の姿が見えなくなってから三十分、遂に武蔵率いる呉第一鎮守府主力艦隊が長門達と合流を果たした。
「私は呉第一鎮守総旗艦、大和型戦艦二番艦武蔵だ」
「私は元舞鶴第八鎮守府所属の長門だ」
一歩前に出た武蔵がビシッと敬礼を向けて名乗る。
長門も同じように敬礼を返して名乗った。
挨拶を終えると武蔵は突然深く頭を下げ始めた。
「長門、そして基地の皆よ。今日まで明石を護ってくれて本当に有難うっ!」
「護ったなどと驕るつもりは無いさ。我々は支えあって無事に今日を迎える事が出来ただけさ」
「それでも貴艦等が居なければ明石とこうして再会を果たす事は出来なかっただろう。だから希望があれば何でも言ってくれ、最大限応えさせて貰おう」
武蔵はそう言って一度上げた頭を再び下げる。
他の呉所属艦娘達も一糸乱れぬ敬礼で応えたまま長門の言葉を一字一句聞き漏らさぬよう意識を集中させていた。
何かを要求するまで決して動かないという固い意志を帯びた彼女達の立ち姿に長門はどうしたものかと胸の前で腕を組み頭を悩ませる。
海軍の現状が分からず、自分達と繋がりを持つ事が武蔵達にどれだけのリスクが生じるか判断出来ない以上再度此処へ来る必要の出てくる頼みは出来ない。
とは言え、今この場で頼める事かある訳でもない。
そのような事を考えながら後ろの二人へ視線を移した時、長門は閃いた。
「そうだっ、少し前に南方前線基地が壊滅させられたのは知っているか?」
「あ、ああ。横須賀を通じて全体へ伝わっているが……それがどうしたというのだ?」
長門は確りと伝わってる事を確認しつつ陸奥を呼び寄せると陸奥の背後から肩を掴んで続けた。
「この陸奥を始めとする南方前線基地の生存者達を本土まで連れてってやって欲しいんだ」
「なっ!生存者が居たというのか!?」
「なんだ、そこまでは伝わってなかったのか?」
「う、うむ。実際に前線基地も見てきたが生存者など見込めない程に酷い有様だったからな」
事実門長が基地に来なければ陸奥も助かる事は無かっただろう。
南方前線基地跡地はそれ程までに壊滅的な状況であったのだ。
「そうか。だが実際にそこの提督を連れて我々を頼って来てくれた水雷戦隊と門長が連れて帰って来た陸奥達と共に暮らしてるのが現状だ。とはいえ、彼女達は己の責務を全うする為に本土へ戻ろうとしていてな。だが我々は海軍には余り顔を出せる様な立場ではないし、どうしようかと考えていたのだ」
「そうだったのか。確かに水雷戦隊と戦艦一人で提督を護りながら本土まで向かうのは至難の業であろうな。解った、我々が無事に彼女達を本土まで送り届けようじゃないか」
「ああ、宜しく頼む」
「皆さん、ありがとう」
陸奥が頭を下げる横で長門は右手を武蔵の前に差し出すと武蔵も不敵に笑って返事の代わりにその右手を強く握り返した。
「では一度我々の拠点へ来てくれ」
「うむ、承知した。全体に告げる!戦闘は終了だ!これより長門らの拠点へと上陸する。第一艦隊、第二艦隊、この武蔵に続けぇ!」
「ふっ、では行こう陸奥、金剛」
こうして全二十七隻は中部前線基地へと向かうのであった。
あー!スピンオフとか別作品を書きたいんじゃああ!!
フラヲ「ストックヲ増ヤシテカラナ」
はい……( ´'ω'` )